ナッツ類ってちょうどいいよね

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なんだかんだでもうアジトらしい。先日の場所とは様子の違うそれに少しそわそわするものの、気球の中でけっこういろんな人と話していたので前回より気楽だった。
一番話しやすいのはお互いはじめましてで距離を探るわけではなく一から作ればいいシズクだ。もちろん他にも初めましての人はいるけれど(今日はいないけど)、彼女は同性であるからかなおの事ラクだった。それに少し天然なので打ち解けるのも容易かった。
そうしてシズクと話しているとフランクリンも一緒になり、そこにウボォーとノブナガが加わって、至極しょうもない話をしながら数十分の空中遊覧は終わった。

ウボォーとノブナガはあたしを完全に『サナ』と重ねているけれど、でも元々の気質なのかそこに重たさは感じなくて気楽である。フランクリンはほんのり距離を取ってくる感じだが、それはあたしの様子を見て不用意なことをしないよう気遣ってくれているのがわかるからそんなに苦しくない。
ただ、時折じとっとした目で見てくるシャルナークや、何かを探るような視線を寄越してくるフィンクス、フェイタン、マチがちょっときつい。マチのはどちらかというと心配している、といった感じなんだけど。

月餅トリオの目線からはなんだかどうにも仄暗いものを感じ取って正直ちょっと対処に困る。
それを背負えるのは、あたしではないのだ。




第58話
きょうもどこか欠けていて





「ついたぞ」
「はーい!」

声をかけられ気球を降りる。やっぱり以前案内されたものとはまったく違う建物だった。また別の仮宿なのだろうと気にせず受け止めて、二三深呼吸をする。すー、はー。
いったいどういった仕事を手伝わされるのか。心臓をバクバクさせながらも乗りかかった船、いやもう乗ってしまった気球だ。せっかちが出ているのか先陣を切って歩いていくウボォーとノブナガのすぐ後をついて歩く。本当はいちばん後ろをとぼとぼついて行きたかったのだけど、なんとなく今はこのふたりといるのが最善だと思った。


「ヨォ団長、帰ったぜー!」
「絵画代わりのサナもいるぜェ」
「お、お久しぶりです・・・」


バーン!と勢いよく扉を開けたウボォーギンに、じゃじゃーん!とでも言うようにあたしの肩を抱いて前へと押しやるノブナガ。
あたしは口元を軽く引き攣らせながらぎこちなく手を上げて挨拶をする。クロロの傍には本を読んでいたらしいボノレノフとパクノダがいた。


「ああ、おかえり。サナもよく来たな」



飯と酒は用意してあるからもう食っていいぞ、とクロロが声をかけると嬉しそうにウボォーは食事に向かって飛んでいきノブナガもそれに続く。後から入ってきたメンバー達も状況を察してぞろぞろとテーブルへ向かった。

あたしはまあそういう訳にもいかないので、ドキドキしながらクロロに近づく。さあなんて声をかけよう。そう思考を巡らせていると彼の方が先に口を開いた。




「・・・毛布の配布だ」
「えっ?」

突然耳に飛び込んできた言葉に脳の処理が追いつかず、反射的に聞き返すもクロロはなんでもないかのように落ち着いて繰り返す。


「毛布の配布だ。発展途上国にいるストリートチルドレンに毛布を配って回る。お前に頼もうとしていたのはそれだ」



毛布。



二度言われてようやく動き始めた脳みそが、捉えた言葉により一層混乱するのを感じる。あたしは何度も目をパチクリとした。も、毛布。ストリートチルドレン。配布。発展途上国。


理解しきれず流れていきそうになる言葉を無理やり留めて噛み砕く。えっと、つまり、それって。



「じ、慈善活動のほう!!!」
「・・・まあ、そうとも言うかもしれんな」


そう言われてあたしはまるで視界が開けるような気持ちになった。そっち・・・そっちか!!!慈善活動のほうか!!!そんなもん協力するわよいくらでも!!!!さすがクロロ、信じてたぜ!!!!!




「で、受けるのか受けないのか?」
「受けます受けます受けます!いくらでも!!!」

完全に予想していたものとはまったく違ったそれに返答できずにいると、急かされるように促されてあたしは思わず食い気味で返す。クロロはそれでも淡々としていて表情も特に動かさないまま、長い睫毛に縁取られた美しい瞳をこちらへやった。


「そうか、ならよかった。決行日は二週間後の水曜日、日没前だ。終了時間は特に決めていないが21時頃には撤退予定。詳しくはまた連絡するから改めて連絡先を教えてもらおうか」
「が、がってんしょうちですすみませんでした・・・!」


そしてあたしは土下座する勢いで頭を垂れながらクロロに電話番号とアドレスをお教えした。ほんとそんな素晴らしい活動ならまじ週三でもやる勢いです。よかった、人を救える上に絵画を守ってあたしのプライドまで守れてよかった・・・!!!


「内容自体も簡単だし今は特に出す指示もない。さて、オレたちも宴に参加するか」
「や、やったー!はーい!!」

連絡先の交換時は多少気まずかったものの、部屋中に充満する食事のいい匂いに腹の虫が鳴り出していたあたしはクロロにそう声をかけられて思わず飛び跳ねた。それを見た彼は少しだけ微笑む。なんだかそれを見ると小さく心臓が跳ねた。

あたしはぶるりと頭を降る。なんだとクロロが視線をよこしてきたがなんでもないと誤魔化して、あたし達もテーブルへと向かった。

既に宴は始まっていたがクモのメンバーは個性もバラバラなため、騒いでる連中としっぽり飲んでる面々に差があり途中参加でも特に気まずい思いはせずに済んだ。
パクノダがクロロに缶ビールを渡し、あたしにも何がいいか聞いてくれたので美味しそうな季節限定のチューハイをお願いした。お酒飲むのね、と少し面食らったような顔をしたパクノダはその後すぐにまた微笑んでくれてクロロと3人で乾杯をした。

そうしてると既にもう出来上がりつつあるウボォーとノブナガが絡んできたのであたしはそのまま流れるように引っ張っていかれた。その間際にパクノダがくれた酒のアテはどれもあたしが好きなものばかりで、偶然かもしれないけれど少しびっくりした。


































「で、仕事の方はどうなんだ?」


しばらくウボォーとノブナガととりとめもない話をしていたのだがいつの間にかふたりは潰れてしまい、仲良く並んでいびきをかき始めた。それに苦笑していると「飲み物足りてるか?」とこれまた美味しそうなチューハイを持ってフランクリンがやってきてくれたのでありがたく受け取り、そこから今度は彼と話すことになった。ちなみにいっしょにシズクとフェイタン、フィンクスもやってきて、今はその5人でだらだらとだべっている。
もうあらかた食べて飲んでお腹いっぱいになったあたし達は、それでもなんとなく口寂しさからアーモンドなどを軽くつまんだ。幻影旅団と世間話をするというのは、冷静に考えるととてもとても不思議である。まあ、感覚としてはしっくりきちゃってるんだけどさ。


「んー、まあぼちぼちですよ。わりと楽しんでます」
「けっこういろんな仕事やってるんだよね?手、足りててるの?歌手も便利屋もやるなんて大変そう」
「あ、万事屋のほうは一応ひとり従業員の男の子が住み込みで働いてくれてて。念獣も出せるしそんな苦労はしてないですよ〜」

大丈夫?と心配してくれるシズクにあたしは軽く返す。そう、キルアのおかげでだいぶ助かっているんだ。最近では依頼量が増えすぎてメール時点でお断り入れてもらってるやつも多いけれど。


「なんだ、男やとてるのか。危ないね」
「はは、男って言っても11歳の家出中のこどもだしそんな感じじゃないですよ」

なぜかジト目をフェイタンに向けられ、軽く笑い飛ばす。11歳のキルアくん、危ないわけがない。本当にあの子は優しくてまっすぐないい子だ。たとえあたしがマンガで読んで最初から彼のことを知っていなかったとしても、同じように思うだろう。キルアの言葉は、態度は、とても思いやりに溢れている。

そうやって少しキルアに思いを馳せていると(さっきメールして遅くなるとは言ったけど心配してないかなあ)、今度はフィンクスが口を開いた。

「それ盗賊のオレらが言うのもなんだが犯罪じゃねえか?話だけ聞くとお前がガキを誘拐して違法労働させてるようなもんだぞ」
「ハッ」

鋭いツッコミを入れられて思わずあたしは手で口を覆った。か、考えてもみなかった。たしかに、確かにこれは未成年拉致監禁とみなされてもおかしくないのでは・・・?!
言われてみれば16歳未満の子供を裏稼業で働かせている。これ完全にアウトでは。いやでもキルアもともと違法中の違法労働を家で強いられていたんだからそれと比べるとましだよね???えっ、そもそもどっちが悪いとかって比べていいものじゃない・・・?!?!?!



「あ、あたし、犯罪者なの・・・???」
「捕まらなければ罪人じゃないから大丈夫だよ。警察にサナは捕まえられないだろうし、安心していいよ」
「そ、それ今をときめく幻影旅団に言われるとなんかなんとも言えない気持ちになりますね・・・」
「そう?」

キョトン、とシズクは瞬きをしたのであたしは思わず苦笑するしかなかった。うーんたしかにそりゃ捕まらないだろうけど、そういう問題ではないような・・・。今までめっちゃいいことしてるつもりだったのでそう言われて初めて罪悪感を覚えた。いや、ぜんぜんキルアをゾルディック家に帰すつもりも放流する気もないけど、なんていうかやっぱこう、冷静になるとね・・・!


そうして少し悶々としていると話を変えるためかフランクリンが話しかけてくれた。


「そういえばもうしばらくライブはやらねえのか?大反響だったらしいが」
「あ、はい!ここから年末にかけてはテレビのほうが増えそうで」
「前入るの大変だたよ。次は関係者席用意するね」
「あ、みなさん来てくださってましたもんね・・・!!!ありがとうございました・・・!!!」


お礼をしながらもしライブでクラピカとクモが鉢合わせたらどうしようと考えると頭が痛くなった。シャレにならないぞ、と心の中で冷や汗をかく。いやあたしだって皆さんご招待させていただきたいんですけどね!!!


「それに年明けはハンター試験受けるからしばらくちょっと歌手の方の仕事はペースダウン予定でして」
「ああ、ライセンス取るのか」
「あると便利だもんね〜」

サナならヨユーだよ、頑張ってね。そんな言葉を受けながらあたしは引き続きぽりぽりとアーモンドを食べる。
こうやってクモに馴染んでしまっていいものなんだろうか。そして、キルアを住み込みで働かせ続けていいのだろうか。そもそもあの子、本当ならちゃんと保護されて学校で勉強とかするべきでは?だってまだ年齢的には小学生なんだよ??しょっちゅう忘れて頼っちゃってるけど。

そんなことを悶々と考えながら夜はどんどん深まりゆく。ふとクラピカはいま何をしているんだろうと思って、それ以上考えるともうキャパオーバーで吐きそうになったので慌ててとっくに炭酸の抜けたチューハイを流し込んだ。


窓から覗く月が遠い。



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