03

「わーーーーっ! 遊園地だ〜!!」

 翌日。南雲と待ち合わせ、連れて行かれた先は東京シュガーパークだった。駅に着いた瞬間にどこからか楽しい音楽や歓声が聞こえてくる。……遊園地なんて、いったいいつぶりだろう。

「嬉しい?」
「めちゃくちゃ嬉しいー! チケットありがとうね!!」
「どういたしまして〜」

 入場用ゲートに並んでいる間も気持ちがそわそわし、浮き足立ってしまう。そんな私を見て南雲は笑っているが、その瞳は穏やかだから嫌な気がしない。

「あ、見て南雲。あの子が持ってるぬいぐるみかわいい〜! 中で買えるのかなあ」
「君昨日あんなにぬいぐるみ取ったのにまだほしいの?」
「あはは。ぬいぐるみっていくら家にいても新しい子がほしくなっちゃうよね〜」

 そんなことを言っているうちに順番が来て、それぞれ入場検査を済ませていざ園内へ。入ると着ぐるみのキャラクター達が元気いっぱいにお出迎えをしてくれた。見た目も動きもかわいすぎてテンションが上がる。

「南雲南雲、シュガーちゃんと写真撮りたい!」
「はいはい。撮ってあげるよ」
「え!? 何言ってんの一緒に入るんだよ! すみませーん! ちょっと写真撮ってもらっていいですかー!?」
「はーい」

 スタッフさんにお願いして、シュガーちゃんと南雲と私で写真を撮ってもらう。私が渡したスマホを受け取ったスタッフさんが、「彼氏さんもう少し寄ってください〜!」と言ったので、そうか今の私たちって彼氏と彼女に見えてるのか! とハッとした。

「撮りますよ〜! はい、チーズ!」

 カシャッ。
 その言葉はわざわざ否定するようなものでもないけれど、黙っているにはうまく飲み込めない大きさだった。消化しきれずに胸に溜まった微妙な感情は、妙なドキドキに繋がってしまう。
 ありがとうございますとスタッフさんからスマホを受け取ると、「見せて〜」なんて言いながら南雲が私を後ろから抱きしめてきた。それに心臓がバクバクと暴れ始めて、一気に顔に熱が集まった。

「も、もう! 特訓はもうなくて大丈夫だから、スキンシップもしなくていいのっ!」
「え、でも君顔真っ赤だよ。まだ男に慣れてないでしょ」
「だけどっ、こんな風にしてたら付き合ってるって勘違いされちゃうよっ……!」
「別によくない? 誰も僕たちのことなんて知らないんだし、勘違いされても問題ないでしょ」

 そう言った南雲が私の手のひらを指先で絡め取った。当然のように繋がれた手に、抗議をしようと南雲を見上げる。しかし彼は思ったよりも優しく、……なんだかまるで愛おしいものでも見るような目をしていて、私はその瞳にすっかり魅入られて、言葉を見失ってしまった。

「どうかした?」
「〜〜〜ッ、なんでもない、」
「そう? じゃあ向こうの方行ってみようよ。あ、キッチンカーもけっこうあるね〜! クレープも美味しそう」
「……昨日食べたじゃん」
「昨日のも美味しかったよね〜」

 ……もしかして南雲って、私のこと。なんて一瞬思ったけれど、さすがにこんなモテる男が私みたいなちんちくりんを相手にするわけないし、と思い直す。そもそも南雲が私のことを好きだったとしたら、坂本くんに慣れる特訓なんてするわけないよなぁ。
 そう思った私は、考えてもわからないことを考えるのはやめて、せっかく来たんだから全力で楽しもうと気持ちを切り替えた。

「さーて! さっそくだしいろいろアトラクション乗ろ〜!! 」
「何から乗る?」
「やっぱりジェットコースター? ……あっでも南雲って三半規管が終わってるからムリかな」
「ジェットコースターならけっこう乗れるよ〜! 酔うタイプのやつはムリだけど」
「だいたい酔うタイプじゃない?」

 じゃあやめとこっか、と言ったけれど、せっかくだし乗ってみようよと彼はこの遊園地で一番目玉になっているローラーコースターの方へ向かっていく。ちょっと乗ってみたかったけど大丈夫なのかな〜、と思いながら私たちは待ち列に並び、コースターに乗って、そして。

「酔った〜」
「だから言ったじゃん、バカ!」

 乗り終わった直後からぐでーっと私に後ろからのしかかる南雲を軽く小突く。痛い〜という彼に、芝生エリアの木陰で休もっかと言い途中の自販機でドリンクを二本買った。そして南雲を隣に座らせて、それを飲むように言いながら私の分のペットボトルを頬や首筋に当ててやる。

「きもち〜〜〜」
「でしょ。全くもー、無理して乗らなくてよかったのに」
「あのタイプのジェットコースターならいけると思ったんだよね〜。まあでもちょっと休めばよくなるから。ごめんね〜」

 そう言いながら南雲は私にもたれ掛かってきた。いやこの身長差でそれ、逆にしんどくない? 絶対。そう思った私は少し考えた後、とりあえず提案してみた。

「よ……横になった方がいいなら、膝枕する……?」
「する!」
「うわっ」

 食い気味で答えた南雲はそう言って勢いよく私の太ももに頭を乗せてきた。そしてごろんと寝転がる。

「元気じゃん」
「そんなことないよ〜」

 そう言いながら仰向けになった南雲。気まずくて目をそらすと、やたらと長い足が目立って見えた。190cmの男が私の膝で寝てるの、すごい違和感があるな……なんて思っていると、南雲が口を開く。

「ここ、すごいいいな」
「何が?」
「木漏れ日がいい感じにキラキラしてて綺麗だよ」
「ほんと? ……ほんとだ」

 見上げると確かに青々とした葉っぱの隙間から宝石のようにキラキラした光が差し込んでいた。ぼうっと見つめていると風が吹いてざあっと木の葉が揺れる。その風は優しく私の頬も撫でた。
 ……落ち着く。

「ね、綺麗でしょ」

 すっかり見入ってしまっていたから、声をかけられて肩を跳ねさせた。なにびっくりしてんの、と南雲が笑う。
 彼の顔の上でも、差し込んだ光がチラチラと踊っている。……綺麗だ、と思った。

「どうしたの、そんなに見て」
「……南雲の顔も光ってて、綺麗」
「あはは。たまにちょっと眩しいよ」
「そうだよね。移動する?」
「んー……もうちょっとこうしてたいな」
「……うん」

 私もそう思ってた、と口から出そうになった言葉は飲み込んだ。言ってしまったら本当に、何かが変わる気がして。

「南雲、髪の毛サラサラだねえ」
「そう?」
「うん」

 思わずその黒髪を撫でると南雲は気持ちよさそうに目を細めた。……なんか、猫みたいだな、このひと。

「こうしてると南雲、おっきい猫ちゃんみたい」
「君に対してはけっこう犬っぽいと思うんだけど」
「そう?」
「そう」

 きもちー、と南雲が穏やかに言うからそのままその髪を指で梳き続ける。遊園地の中を満たす笑い声や愉快なBGM、それからさっき私たちが乗っていたジェットコースターから聞こえる悲鳴だとか……そういうの全てがぜんぶ遠くにいって、この世界に南雲と二人だけになったみたいな気分になる。

 ……あれ、私、なんで南雲とこんなことになってるんだっけな。
 そう思った時突然、遠かったはずの歓声が大きくなり、明るいブラスバンドの音が響き渡った。

「わ、お昼のパレードかな?」
「見に行こっか」

 南雲はそう言って勢いよく立ち上がり、ほら、と私に手を伸ばしてきた。少しだけ感じる照れを下唇を噛みながら隠してそれを掴む。そのままよいしょと引き上げられて立たせてもらうと、優しく私を見つめていた彼と目があった。
 ……こうしていると、さっきまで私の膝で転がっていた猫ちゃんのような姿とのギャップのせいか、めちゃくちゃかっこよく見えてしまう。

「…………」
「ん? どうしたの?」
「なっ……なんでもない」
「ふーん」

 南雲がにやにやと楽しそうに笑っているのは無視して、早くパレード見に行こうよ! と音楽がする方へ小走りで向かう。木陰から抜けて見た空は、やたらと高くて青かった。

 パレードではしゃいだ後はお昼ご飯を食べて、巨大迷路に入ったり絶叫病棟とかいうお化け屋敷に入ったりした。普通にクオリティが高くてビビる私に「殺し屋なのにこんなのが怖いの〜?」なんて笑う南雲を殴ったり、からかってきた仕返しがてら違うジェットコースターに乗ってまた南雲を酔わせたり。
 メリーゴーランドに乗って「僕これでも酔うかも〜」なんて言う南雲に「殺し屋なのに!?」って本気で心配になって、キッチンカーでドリンクを買って飲んで、結局クレープも食べて。笑って、ゲームをして、またぬいぐるみをゲットして、昼食も夕食も取って。
 楽しくて、楽しくて、……なんだか。本当に南雲と付き合ってるみたいな気がしているうちに。あっという間にもう日が落ち始めていた。

「……もう夜になっちゃう。帰りたくないなぁ」
「僕ともっと一緒にいたいってこと?」
「遊園地にいたいってこと!」
「ふーん」

 ……嘘だ。わたしはたぶん、南雲と二人っきりの今日が終わることが寂しい。
 昨日、南雲とリオンが現れて坂本くんと二人きりの時間がなくなったときですら惜しい思いはなかったのに、南雲と二人の時間がなくなるのは惜しい。

 JCCに帰ったところで明日からも普通の日常がある。明日からも私は、南雲とリオンと坂本くんと一緒に日々を過ごすだろう。……坂本くんとはそれでいいのに、それで十分なのに。
 南雲とは、どうしてこんなに。二人で、……いたいと。

「最後に観覧車に乗って帰ろうよ。ここ、夜景が綺麗みたいだよ」

 ぐるぐると考え込んでいたとき、南雲がそう言ったから、うんと頷く。途中でリオンと坂本くんへのお土産にお菓子も買って、私達は今日という日が終わることへ抵抗するかのように観覧車を目指した。

 観覧車乗り場にたどり着くとそこはすごい人だった。それに人気だなぁと思っていると、南雲はなぜか時間とゴンドラを指定した予約チケットを取り出してきたから酷く驚いた。最後に混雑で乗れなかったら嫌だなーと思って、と笑う南雲の周到さに目を見張る。



「観覧車では酔わないの、南雲」
「うーん、さすがに大丈夫だと思う」
「ほんとかなぁ」
「酔ったらまた膝枕してよ」
「この狭さじゃ逆にしんどいでしょ」

 通された丸い箱の中。ゆっくりと上がっていくゴンドラの中で、少し窮屈そうに座る南雲に目をやる。私の足にぶつからないように小さくなっている南雲は面白かったけどちょっと可哀想だった。

「足が長いのも大変だねぇ」
「そうなんだよね〜。そっち行ってもいい?」
「……それはそれで狭くない?」
「いいじゃん。ダメ?」
「…………ダメではない」
「じゃあお邪魔しよー」

 そう言って南雲が立ち上がったから私は横に詰めてスペースを開ける。ゴンドラがぐらりと揺れてそれにわっと声を上げると、大丈夫? と聞きながら南雲が左隣に腰掛けた。
 大丈夫、と答えたけれど、何が大丈夫なんだろうと思う。彼がこっちに来ることになってから、……いや、観覧車に二人きりになってからずっとドキドキしているというのに。

「おーちょっとずつ上がってきた。あ、ほら君がビビりすぎてお化け役の人を殴り殺しそうになってた絶叫病棟があるよ」
「えー右手に見えますのが南雲くんの三半規管をおしまいにしたローラーコースター、左手に見えますのが南雲くんの三半規管をおしまいにしたジェットコースター、そして真ん中に見えますのが南雲くんの三半規管をおしまいにしたメリーゴーランドです」
「あれ? 僕今日ずっとおしまいだった?」
「かなりおしまいだったね」

 わはは、と二人で笑い合う。……今日、楽しかったなあ。南雲はしょっちゅう乗り物酔いをしてたけど、それでも本当に楽しかった。今日一日を振り返りながらどんどん遠ざかっていく地面を見つめる。するとクレープ屋さんが目に入ったから声をかけた。

「あのクレープも美味しかったね」
「うん。あそこのドリンクも、お昼ご飯も夜ご飯も美味しかった」
「ね! お昼のパレードも楽しかったなあ……あれ? またパレードやってる?」

 少し離れたところで人だかりとライティングされたフロート車や着ぐるみ、ダンサーで成される列がゆっくりと移動し人だかりをわかしているのが見えた。観覧車の中にいるから音は聞こえないが、おそらくお昼のパレードと同じように楽器隊の演奏も行われているのだろう。
 指さしながら南雲に言うと、彼はそれを見ながら言った。

「あ、ほんとだ。パレードを見てからの方がよかったかな」
「でも光ってるのを上から見るのも綺麗だよ。……っていうか確かに、夜の遊園地って綺麗だね。あ、向こうの方もいいな」

 ライトアップされたコースターや光り輝く建造物、そして少し遠くを見るとビジネス街の夜景も見える。天気がよくてよかったなと思いながら昨日も見た月に目をやった。
 今日は満月になっている。

「昨日も楽しかったけど、今日も楽しかったな。四人でもまた遊園地に来たいな〜」
「そうだね。その時は夜のパレードもちゃんと見なきゃな」
「確かに〜!」

 絶対楽しいねー、と笑うと、南雲は少し間を置いた後静かに……でもはっきりと言った。

「まあでも……僕はまた、君と二人で来たいけどね」
「!」
「四人でも二人でも来たいよ。……君は?」
「…………あ、」

 そう言いながら左手を握られると、話をしているうちに落ち着いていたはずの心臓がまた暴れ始めた。
 うまく言葉を発せない私の顔を南雲は覗き込む。

「どう?」
「…………」
「嫌?」
「い、やじゃ……ないけど」
「よかった」

 南雲が笑う。嬉しそうに笑う。……優しい瞳で私を見る。それを見ると私は顔が熱くなって、胸がドキドキして、切なくて、わけがわからなくなった。
 南雲といると、楽しくなったり苦しくなったり落ち着いたり笑ったり、知らなかったいろんな感情が押し寄せてきて飲み込まれそうになる。そんな、どうしたらいいかわからなくてうまく言葉を発せない私に南雲が言う。

「ねえ、昨日坂本くんのこと名前で呼んでたじゃん」
「え? う、うん」
「僕のことも名前で呼んでみてよ」
「ええっ!?」

 急に何を言い出すんだと目を瞬く私を南雲は楽しそうに見つめている。穏やかだが有無を言わさない彼の表情に、私は顔を逸らした。

「む……むり、」
「なんで? 坂本くんで苦戦してたから僕で練習しておいた方がいいんじゃない?」
「南雲のことは呼び捨てで呼べてるじゃん」
「そうじゃなくて下の名前。あ、知らない?」
「知ってるに決まってるでしょ!」

 この長い付き合いの中で知らないわけないじゃん、と言うと、僕もいつも君のことを名前で呼んでるんだから君からもたまには呼ばれたくてさ〜と言う。
 南雲はニコニコ笑っているがその目にはかなりの圧を感じて、私は彼から逃げるように上体を逸らそうとした。しかしここは観覧車の中で、なに逃げてんの、と覗き込まれてしまったらどうすることもできない。

「……こ、こんなにめちゃくちゃ見られて、呼べるわけない」
「じゃあ見ないようにしとくね」
「そういう問題じゃない」

 目を閉じた南雲にそうツッコミを入れたが、彼は楽しそうなままだ。……ていうかこうしていると、改めて顔が整っているなと思う。影を落とす長いまつ毛も陶器のようにキメの細かい肌も薄くて潤った唇も、一度意識してしまったら眩しくてしかたない。
 どうしようかと固まっていたら、南雲が目を開いた。視線がかち合った瞬間また心臓が跳ねて、ドキドキして、顔が熱くなる。
 胸が苦しくて息の仕方すらわからない。そんな私に南雲は聞いた。

「……ねえ、まだ坂本くんが好き?」
「えっ……」
「君はまだ、坂本くんのことが好きなの?」
「ッ…………」

 南雲の黒曜石のような瞳に真っ直ぐに射抜かれると動けなくなる。私……私。私は、坂本くんのことが……。

 ​────本当に? と自分に問いかけた時だった。
 ……ひゅるるるる…………ばん! 突然の爆音と闇を裂くような鮮烈な光に体を跳ねさせる。……花火だ。

「びっ……くりしたぁ〜!」
「ちょっと思ってたより早く始まっちゃったなー」
「え、何?」
「なんでもないよー。綺麗だね」

 そう言ってる間にも花火はどんどん上がり続ける。暗いゴンドラの中がそれに合わせて明るく照らされた。何度も、何度も、何度も。

「……南雲、これ知ってたの? この時間に花火が上がって、観覧車から見えること」
「うん。一応ね〜」
「……だから観覧車の予約チケットなんて持ってたんだ」

 絶対にこれ、倍率すごいじゃん……と目の前で何度も上がる大輪の花を噛み締めながら改めて思う。南雲って、本当に、いつも優しい。……いつも優しくて、こんなに。この優しさは、一体。

「……他の女の子にもこんなに優しくしてるの」
「まさか。君だけだよ」
「ほんとかなぁ」
「ほんとだよ」
「ふぅん……」

 ぽす。私は南雲に自分の頭をもたれかからせるように身を預ける。そして繋がれていた指先を、ぎゅっと握り直した。

「ありがと。……よ、与市……くん」
「! ……うん。どういたしまして」

 南雲もこてんと私の方に倒れてきて、すり、と頭を頬ずりされた。花火の破裂音よりも、自分の心音がドクドクとうるさい。けれども南雲の体温と匂いに包まれて、落ち着く自分もいる。
 煌めく光が弾けるのを、私たちはただ黙って見守り続けた。言葉を紡ぐのも惜しいくらい、この空間が愛おしくてたまらなかった。ゴンドラがてっぺんを越して、下がっていくのが寂しくて悲しかった。ずっと南雲とこの空間で、手をつなぎながら花火を見ていたいと唇を噛んだ。

 ……これが恋かもなんて思ってしまう私は。坂本くんが好きだなんて言っておきながら、いま、南雲のことでいっぱいいっぱいになってしまっている私は、単純で現金で流されやすいのだろうか。あまりにも夢のような空間に酔っているだけで、ここから出たらやっぱり坂本くんがいいだなんて思ったりするのだろうか。
 でも……と思っていたら、南雲が優しい声で言う。

「……整理がついたら教えてよ。それまでは僕も言わないから」
「!」
「花火、綺麗だね。また見に来よう」
「…………うん」

 上がった後の光の屑すら夢みたいに美しかった。この日を私はきっと、一生忘れはしないだろう。
 観覧車が一周して、ゴンドラを降りたあとは下からも花火を見ながら歩いた。美しく咲く花火の横でぽかりと浮かぶ月は真円になっていて、昨日よりも、さっきよりも綺麗だった。昨日よりも、さっきよりも、愛おしかった。

 そのあと私たちは結局手を繋いだままJCCまで帰った。翌日リオンと坂本くんにお土産を渡したら、「私もつれていけよ!」とか「俺も行ってみたい」なんて言われたから、二週間後の日曜日に四人で一緒に行くことにした。

 ​─────けれどもそれは叶わなかった。
 その二日後の校外学習の後、リオンは行方不明になったのだ。