「なまえ、昨日夜抜け出したアルか?」
「えっ!?」
「眠過ぎて声かけなかったけどそんな音したネ」
歯磨きしているとまだ眠そうな神楽ちゃんが髪の毛をお団子に結わえながら話しかけてきた。なんとまあ、神楽ちゃんにバレていたとは。部屋に帰ってきたときなんの物音もなかったからみんな寝てると思ってた・・・。わたしは急いで口をゆすぐ。
「ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん、それは別にいいヨ。それよりどこ行ってたアルか?」
「えっと、眠れなくてちょっと夜風に当たりたくなって・・・」
「宿飛び出たアルか!?声かけてくれたら私も行ったのに。水臭いネ!!!!!」
そう言ってぷりぷり怒る神楽ちゃんは可愛らしい。わたしは苦笑しながらごめんごめんと謝った。そうしているとお妙ちゃんもやってくる。
「どうしたの?」
「アネゴ!なまえが昨日ひとりナイショで宿飛び出してたネ」
「あら。なまえちゃんがそんなことするなんて珍しい、何かあったの?」
そう尋ねられてわたしはハッとする。実は神楽ちゃんとお妙ちゃんだけでなく、また子ちゃんとさっちゃんも同室だったので昨日の女子トークでもなんにも話していないのだ。
幸いまた子ちゃんとさっちゃんはもう部屋を出ている。わたしは意を決して口を開いた。
「あ、あの・・・実は聞いてほしいことがあって」
第三話
「うん、なあに?」
「なんでも聞くアル!」
ふたりは笑顔を向けてくれた。わたしはそれを見てゴクリと唾を飲む。いろいろ言いたいことがあるけど、まず、まず最初に言うのは・・・。
「わ、わたし。実は、銀ちゃんのこと好きかもしれな・・・」
「「そっち?!」」
意を決して発した言葉はなんと途中で心底信じられないといった顔をした二人に遮られた。
「えっ!?」
「そっちかーい!」
「コラ神楽ちゃん。なまえちゃんが自分の気持ちに気づいたっていうのはものすごいことよ」
「まあそうだナ。こちとら一年のときから見守ってたしナ」
「長い道のりだったわねえ、どうやって気付けたのかしら」
「さすがにサドとマヨに同時に告白されたら鈍感ななまえでもいろいろ考え」
「待って待って待って待って!?!?!?」
感慨深げに話す二人についていけない。えっ・・・え!?何故?!っていうかふたりともなんでわたしがあの二人に告られたこと知ってるの?!?!?!っていうか一年のときから見守ってたって何?!?!?!
衝撃のあまり何からつっこめばいいのかわからなくなっているわたしを置いて神楽ちゃんとお妙ちゃんは話を進める。
「どうせなまえのことだからキープもできずとっととあのふたりを振ってやろうとするはずアル。アネゴ、どこでやるのがいいと思う?」
「そうねえ・・・今日はお土産買うだけだし時間も取れないだろうから帰ってからがいいと思うわ」
「ダナ。べたに体育館裏で引導を渡してやるのがいいかもナ」
「だから待って!?わたしを置いて行かないで!?!?!?」
どんどん進んでいく会話に焦るも、いつどこでふたりにごめんなさいするべきかも相談しようと思っていたので完全に思考を読まれている。そんなに!?ねえそんなにわかりやすいのわたし!?!?!?
「まあなまえは一昔前に流行った少女マンガのヒロインみてーなもんだから仕方ないアル」
「夢小説のヒロインって言わないところが優しいわね、神楽ちゃん」
「ねええええ!!!!!わたしを置いて話を進めないでよおおおおお!!!!!!!」
詳しく話を聞いたところ、土方くんと沖田くんがわたしのことをその・・・好き・・・お好きというのは3Zの中では定春ですら把握しているような周知の事実だったらしい。いや当の本人何も知らなかったんですけど・・・毎日今日は部活でなに作るんだろうとかしか考えてなかった・・・神楽ちゃんの食い意地、もう二度と馬鹿にできないわ・・・(ちなみに神楽ちゃんとお妙ちゃんとは部活がいっしょなためクラスが違った一年の頃から仲良くしている)。
そしてそこまで考えて最悪の想定に辿り着き、わたしはめちゃめちゃ焦りながらふたりに詰め寄った。
「えっちょっと待って、もしかしてわたしが銀ちゃんのこと好きなのもみんな知ってたりする!?わたしは知らなかったのに!?」
そんな当の本人蚊帳の外みたいな事態がふたつも発生していたらそれはもうとんでもないことだ死にたくなる。顔を青くしながら聞くと、ふたりはウーン・・・とちょっと考えてから口を開いた。
「サドとマヨは察してたと思うけど、たぶんアイツら以外は私とアネゴしか知らなかったと思うヨ。多分」
「私もそう思うわ。多分」
「た、多分なの・・・」
まあでも多分だとしても広まってないならマシなのか?いやいや・・・っていうかそれって。
「もしかして銀ちゃん気づいてたりする?」
「「ウーーーーーーン」」
「ねえちょっと!!!もしかしてバレてたりする!?」
「大丈夫ヨ。バレバレなくらいがかわいいって再放送の失恋ショコラティエで松潤も言ってたネ」
「フォローになってない!!!!!フォローになってないよ!?!?!?」
「まあ友達だからわかったけど先生だと気づけてないかもしれないし。でも確かにこれを機にサエコさんくらいアピールしてみてもいいかもね」
「無理だよ!?!?!?」
焦るわたしを置いてふたりは引き続きなんだかほのぼのと話を進める。ていうか、アピールってなに・・・アピール・・・???
それって銀ちゃんにアタックするってことだよね、さっちゃんみたいに(昨夜もいかに銀ちゃんのことが好きか語ってたけど)。
どうにもそんな自分がぴんとこなくて、うーんとわたしは首を傾げた。
「ていうかわたし銀ちゃんのこと好きって気づいたけど、これってイコール付き合いたいになるのかなあ・・・」
「「は?」」
「いや、なんていうか・・・・付き合うってよくわかんないっていうか・・・何するの?ハグとかキスとか?いや想像できない。それにキスとかも口と口くっつけて何が楽しいのって思っちゃう。ましてや銀ちゃんとなんてちょっと無理無理無理無理」
混乱していると目の前のふたりは同時に顔を見合わせて、そのあとハァーと長いため息をついた。
「やっぱりどこまでいってもなまえはなまえネ」
「先が思いやられるわね・・・」
「ちょっとちょっとちょっと!!!!!」
そんなこと言われたって、本当にわからないのだ。このどうしようもないドキドキが恋だとしても、わたしはいまの関係で十分幸せなのだから。
憧れだった坂田先生がいる高校に入れて授業を担当してもらって。なんだかんだで銀ちゃんなんて呼べるようになって、ついには担任を持ってもらって。
昨日なんて夜中にいっしょにいちごミルクを飲んだ。それだけで十分幸せなのに、これ以上何を願うというのか。
(あ、でも)
卒業して、会えなくなるのはちょっと嫌だな。
「いやしかし果たしてその程度の感情で好きだなんて思っていいものなのか・・・?」
「なまえー。戻ってこーい」
「好きって何・・・?ていうか土方くんと沖田くんはわたしのどこが・・・なぜ・・・聞くべき・・・?」
「振る相手にそれを聞くってなまえちゃんなかなかドSね」
「うーーーーーーん」
好き。好きかあ。よくわからないな、恋とか愛とか。銀ちゃんへのこの感情も実は『先生』への思慕の念かもしれないし。
なんて考えながら銀ちゃんの顔を頭に浮かべる。記憶の中の銀ちゃんはいつもだらしなくて、目が死んでいて、やる気がなくて。でもなぜかどうにも胸がくてしまうのだ。恋かあ。厄介だなあ。恋ってそんなややこしいものなのか。困った、自分の心情がわからない・・・国語のテストなら簡単なのに。
わたしはだんだん頭がパンクしそうになってきてため息をついた。あと家庭科部のみんなへのお土産どうしよう・・・ってこれ、現実逃避してる?