ハロー、忌々しき安寧の日々



満開だった桜も、4月が2週目を数えた辺りで完全に散って気温がぐんぐんと上昇するにつれて葉桜となった。
私は着慣れない半袖のブラウスとスーツのスカートを履いて西国分寺駅に降り立つ。改札を抜けてさっそく鞄にいれておいた水筒で水分補給。まだ5月も手前だというのに日差しが強い。高校生の時よりも温度が高いと感じるのは気のせいじゃない筈だ。10年経つと環境も変わる。

(…これが地球温暖化か…)

電車内の涼しさと外気温の差に身体がついていかない。首筋をハンドタオルで拭って気合を入れ直す。

(日傘持ってきてよかった)

水筒を仕舞い、かわりに取り出した折り畳みの黒い日傘。それを差して駅から出て、見慣れた道を歩く。あの当時とは違う…履き慣れないパンプスで目的地を目指した。



青道高校の吹奏楽部顧問から電話が掛かってきたのは、先週のことだった。ゴールデンウィークに入る前に一度、今後のスケジュールと指導に関する打ち合わせをしたいというお願い。断るわけにもいかず、ひとつ返事で来校する予定を入れた。
このことに関して…成宮は、かなり渋ったけれど、最終的には私の外出を許した。だいたい「無理しなくていいんだよ」なんて言われてしまうと逆に「行く」と意固地になってしまう。

一也が好きだと改めて思ったあの開幕戦。
私の想いを成宮が気付いているかどうか…それはなんともわからない。
そもそも高校生当時、私が一也のことを幼馴染としてではなくひとりの異性として本気で好きだったことを彼が知るはずもない。…まあ、小学生の時からいつも一也の後をついてまわって、更に彼を追って同じ高校に進学してる事実から察しているところはあるかもしれないけど。実際それで散々因縁つけられたわけだし。
だからと言って今の成宮は私に「一也が好きなのか」と問い詰めることはしない。時折試すように一也の名前を出すことはあるけれど、私はそれを軽く流してる。意識なんてしてない振りをしていた。



そんなことを考えているうちに、気づけば本日の目的地は目前だった。母校、青道高校。校門の前に立ち通い慣れた校舎を目にした瞬間、心が震えた。…懐かしい。帰ってきた。そんな想いが胸を占める。
ひとまず生徒用の昇降口を素通りして、職員や来客用の入り口から校舎の中に入った。
土曜日の午後ということもあり、校内は静かだ。体育館からバスケ部やバレー部の活気ある声が聞こえてくるぐらい。吹奏楽部は午前練だけだと聞いているので顧問は職員室にいるだろう。足は自然とそちらへ向かう。どこに何があるかを知っている場所は気が楽だった。無駄に緊張しなくて済むから。

私の感覚ではつい二ヶ月前、ここに音楽室の鍵を返しにきたのが最後だ。あの時のことを思い出し、職員室の扉の前で一度深呼吸。そして意を決して、ガラリと、その戸を開けた。

「失礼します」

少しばかり上擦った声。見慣れた景色が目の前に広がる。少し机の配置が変わった気もするが、それでも十年前と対して変わっていない部屋の雰囲気。学年ごとに先生達の机の島があり、右手奥には教頭先生の机と大きなホワイトボード、そして校長先生の部屋に続く扉。私があたりをキョロキョロと見回す前に「一ノ瀬!」と声を掛けられた。声の主を探せば窓際の席、山積みになった書類の間からひらひらと振られる手。吹奏楽部の顧問であり音楽教師の長尾先生だ。私は思わず笑顔になる。私の恩師。

「先生、お久しぶりです…!」

足早に先生の元へ。そして頭を下げた。すると長尾先生は「よお、元気そうだな」と眉尻を下げて微笑む。あの当時で五十代目前だったから今は定年に近い筈だ。目の前にした先生は、白髪も皺も増えた気がする。

「まあ座ってくれ」
「はい」

隣の席を指差され、私はその指示に従った。職員室には長尾先生の他に数人の先生がいるだけだ。見知った顔もいれば、若い先生もいる。だいたいが部活指導のための出勤なのだろう。空席が目立つ職員室。窓から差し込む午後の陽気にどこかのんびりとした空気が漂っていた。

「昨日も大活躍だったな」
「え?」
「お前の旦那」

乱雑な机を整理整頓する手を動かしながら(先生の机は私が学生の時もすごく汚かった)、先生が突然そんなことを言うものだから驚いた。旦那、と言う言葉にすぐにピンと来なかったけれど(あ、成宮のことか)と思考が繋がる。
長尾先生はあまりスポーツに興味ない人だった筈だ。けれど口ぶりから昨日成宮が出場した試合を見たのだろうか。私は「そうですね」と当たり障りのない返事をする。そんな私に先生は首を傾げた。

「いつもは嬉しそうに自分から話するのにどうしたんだ?」
「えっ、あ…はい…まあ…」
「それにお前いつも俺が一ノ瀬って呼ぶと「もう成宮ですよ」って訂正するだろ」
「………」
「なんだ喧嘩中か?」
「そういうわけでは…ないんですけど…」

歯切れの悪い回答。やはり油断をすると「以前の私」との溝が浮き彫りになる。しかし幸いなことに先生は「まあ色々あるわなぁ」とのんびりした様子だ。その話はそれきり流れた。気づかれないようにホッと息を吐いた。

「とりあえずこれが今年度のスケジュール」
「ありがとうございます」

手渡されたプリントに目を通す。東京都大会は九月の上旬だ。そして全国大会は十月。私の代はいつも支部大会の…都大会止まりだった。いまはどうなんだろう。でもそれをズバリ直球で聞けば不自然な空気になるのは目に見えているので聞けない。私は真剣にプリントに目を通す振りをしながら、どうしたものかと考えあぐねていた。

「野球部の応援がなぁ、ここが毎年悩みどころだよなぁ」
「そうですね」
「夏の予選の応援は行けて準決、決勝」
「はい」
「…今年も甲子園ってなったら地獄だぞ。まあ一緒に心中しようや」
「………はい」

その先生の口振りから察するに、野球部は少なくとも私が外部講師として勤めている期間に夏の甲子園出場を果たしているのだろう。先生は手に持っていたボールペンでトントンとリズムを刻みながら、スケジュールの十月あたりを指さした。

「問題は秋だ。全国大会と秋大の決勝の日程が被ってる。まあこればっかりはお互い勝ち進むのが前提だけどな」
「そうですね」
「とりあえず長くて十月まで。今年もよろしく頼む」
「はい」

現役の時は怖いばかりだった長尾先生が改まって私に頭を下げる。なんだか擽ったい。今は対等の立場にいるのだ、と改めて思い知らされるというか…大人になったんだなと思った。

それから今年のコンクールでの演奏曲を話し合い。いくつか曲の候補の案を出す。こればかりは各パートの力量もあるから一年生の実力を見てからだな、という先生の言葉に頷いた。まだ四月。これから化ける生徒もいるだろう。
それに先生は秋の全国大会の名前を出した。よっぽど期待していなければそんなことを口にしない人だということを私は知っている。今年はいいところまでいく。暗にそう言っていると悟った。
そしてひとまず私は、ゴールデンウィークの練習から顔を出すことが決定。今日の話し合いの議題は以上だった。そこで終了。

「じゃあ旦那にもよろしく言っといてくれ」
「はい。今日はありがとうございました」

長尾先生の締め括りの挨拶に対してそんな言葉と共に一礼して、私は職員室を出た。緊張の糸が途切れ、一気に脱力。大きく伸びをして、深呼吸を繰り返す。時計を見れば15時を過ぎていた。帰りに買い物でもしていこう。そんなことを考えながら、軽くなった肩をぐるぐる回して、校舎を出た。
そのまま、日傘を差して来た道を戻る。通い慣れた通学路。いつも重たい学生鞄を肩に掛けて歩いた思い出。ついこの間まで私は制服を着て、この道を歩いていた。それなのに今はカジュアルとはいえスーツ姿だ。

(……変われば、変わる)

もう何度その言葉を呟いたことか。
私は私だ。それは変わらない。でももう昔には戻れない。今の私は17歳じゃないんだ。
胸が苦しい。思わず足を止めた。

無理しなくていいんだよ

成宮は。
「今」の成宮は。
いつだって私に優しい。
信じられないような出来事が起きたというのにそれを受け入れて、私と一緒にこれからを歩もうとしてくれている。背中を押してくれる。

今の俺を見て

そう言って、真っ直ぐな瞳で私と向き合ってくれる。
でも結局それは彼の中に「27歳の私」がいるからだ。そうじゃなきゃ成宮は私に優しくなんかない。優しくなんかなかった。だから、


紗南は紗南のままでいい


いつだって。いつだって私の核には、一也の言葉がある。それは消せない。
たらりと首筋を伝った汗をまたハンドタオルで拭った。空を見上げる。日差しが鋭い。またひとつ、私の海馬は広い記憶の海からキラキラと光るものを拾い上げた。



あれは、新学期が始まって1ヶ月経った頃だったと思う。8月下旬の関東大会で金賞を貰ったものの全国大会には駒を進めることが出来なかった…所謂『ダメ金』で終わった2年の夏。
3年生の先輩方が9月の文化祭を最後に引退して、部長に選ばれた私はとにかく毎日必死だった。
私は、前に出て主張できるタイプではない。同じパートの優子のほうが場を明るくするしよっぽど部長向きだった。それなのに先輩達も長尾先生も私を部長に指名したのだ。
才能があるだけではない、努力することを知っている、と前部長から引き継ぎの時に言われた言葉が強く胸に響いた。だからこそ自分にも厳しく、周囲にも厳しくあろう。努力の部長であろう。そして努力するからには結果を求めようとしたんだ。
でもやっぱり空回った。
先輩達の抜けた穴は大きかった。
ついていけないと後輩達が裏で言っているのを聞いてしまった。

「…なんだよ、暗い顔して」

昼休み。声を掛けてきたのは珍しく一也の方からだった。クラスが違うので普段から顔を合わせることは少ないが、その日はたまたま廊下でばったり。私はその時、よっぽど暗い顔をしていたらしい。「ちょっと話すか」と一也が私の肩を叩いた。

「吹部も忙しそうだな」
「うん」
「夏は金賞だったんだろ?」
「うん。でも全国には行けなかった」
「……そりゃあ、次に向けて気合いもはいるよなぁ」

体育館横のベンチに二人で並んで腰を下ろした。一也の言葉にただ頷くだけの私。…一也がどこまで私の置かれている状況を知っているのか…それは知る由もなかったけれど、口振りからなんとなく噂程度には聞いているんだろう。野球のこと以外周囲のことを見ようとしない一也が私のことを気にしてくれている気がして嬉しい反面、なんだか自分の不甲斐ない部分を知られてしまった気がして恥ずかしかった。

「部長向いてないんだよね」
「……そうだな」

私の言葉に一也はしみじみと頷く。ちょっとショックだった。そりゃあ小さい頃から一也の後ろに隠れていたのは私だ。人見知りで前に出ることも苦手。人付き合いもそんなに得意じゃない。それはわかってる。でもそれを改めて一也に肯定されると落ち込む。

「でもさ、紗南は紗南のままでいいと思うよ。お前頑固だろ。一度決めたことはやり通す。……俺の応援したいから青道行くって言ってたけどさ」
「……うん」
「いまはそれだけじゃないんだろ?」
「………うん」
「楽しいんだろ、吹部。出来たんだろ?目標ってやつが」

隣に座る黒縁眼鏡のレンズ越しの一也の瞳が、私の視線を捉えて離さない。彼のいう通りだった。私がここ青道にきた動機はハッキリ言って不純なものだ。一也を応援する。その気持ちは今でも変わってない。だけどここで過ごす中で芽生えた感情。馬鹿みたいに早起きして、1日往復4時間も通学に充てて、遅くまで学校に残って練習。毎日クタクタだ。それでも青道に通う理由。原動力。
私は小さく頷いて、ゆっくりと口を開いた。

「うん。……いまのチームで、全国行きたい。私たちなら、いける気がする」
「じゃあ迷うなよ。部長のお前が揺らぐな」
「……うん」

一也の強い言葉が私の胸にじんわりと広がっていく。だけど当の本人は「ま、これはうちの部の前キャプテンの受売りなんだけどな」と妙に明るい声。どおりで一也らしくない言葉だと思った。私がクスクスと笑みを漏らせば、一也は「やっと笑った」と微笑む。

「俺も自分にはキャプテン向いてねぇって思ってるから、気持ちはわかる。でもお互いやるしかないよな」

俺はもう腹括ったぞ、と言われている気がした。

「お互い厄介な立場引き受けちゃったね」
「まあな。でも燃えんだろ?」
「…うん、青春って感じ」

私がそう言えば、一也はその大きな掌で私の頭を撫でる。肉刺だらけのそれ。思えば彼はよくこの行為をしてた。「お前の頭の形いいんだよなー」なんて軽口を叩きながら、爆発寸前の私の心臓のことなどお構いなし。
野球部も大変だと話に聞く。でもそれを一也は私には話さない。いつもそうだ。心配をかけたくないのか、…彼は私に弱味を見せない。

「一也も、しんどくなったら、私に話してね」
「そのうちな」

でも一番はそうならないことだろ、と。続けて正論が返ってくる。確かにその通りだ。でも一也に頼られないのは少し寂しかった。




(一也)

思い出は、そこで途切れる。
グロスを塗った唇が声にならない彼の名前を呟く。一度自覚してしまったらやはり駄目だ。何処にいても一也との思い出を拾ってしまう。開けてしまった奥底の箱。私の足は気づけば野球部のグラウンドの方へと向かっていた。

相変わらず活気のある声が響き渡る。OBの人達が腕を組んで現役達の練習試合を眺めながらあーでもないこーでもないと野球談議に花を咲かせていた。そんな中、ひとりスーツの女は目立つ。だいたい私は野球部を見にきたわけではないのだ。一也のことを思い出していてもたってもいられなくなってここに足を運んでしまったけれど、当然のことながら此処に彼はいない。いるわけがない。自分で自分の首を絞めている気がする。重い溜息が漏れた。

「帰ろう…」

パンプスのヒールを支点に、くるりと踵を返してグラウンドから背を向けたその時だった。

「紗南ちゃん?」

掛けられた声に顔を上げる。見慣れた顔。キリリとした瞳が驚いた様子でこちらを見つめている。

「…礼ちゃん…?」

視線の先。そこに立っていたのは野球部副部長の高島礼先生こと礼ちゃんだった。相変わらずその美貌は衰えていない。私は思わず見知った彼女に駆け寄った。

「久しぶり…!」
「長尾先生との打ち合わせ?」
「うん、さっき終わったところ」
「そうなの。今年もよろしくね」
「はい」

礼ちゃんとは一也と同じく中学一年生の頃からの付き合いで、それなりに仲が良かった。私はひとりっ子だから、歳上のお姉さんとして懐いていたのだ。
だから、つい、私は「私」のままで接してしまっていた。そのことに気づいてすぐに、あっ、と口元を掌で押さえる。
そんな私を見下ろす礼ちゃんの目がすっとを細まった。なんだか複雑そうな表情。

「…この間、御幸くんから珍しく連絡があってね」
「……一也が…?」
「そう。…とても信じられない話をされて…それから…紗南ちゃんのこと手助けしてやって欲しいって言われたの」
「………っ」
「どうしてそんなこと言うのかわからなかったけど、ようやく理解したわ」
「礼、ちゃん」
「貴方はあの頃の紗南ちゃんのままだもの」

そうして礼ちゃんは私をぎゅうっと抱きしめた。私はその途端、「此処」に来てからずっと押し殺していた感情が止めどなく溢れるのを感じる。ボロボロと大粒の涙が頬を伝って、れいちゃんのブラウスを汚した。けれどそんなことお構いなしに私は嗚咽を漏らしながらただ泣き続ける。ようやく「私」を見てくれる人が現れたのだ。
礼ちゃんのすべすべした掌が私の頭を撫でる。

「礼ちゃん、わたし…」
「うん」
「わたし…っ」

張り詰めていた糸がプツンと切れた。
吐露するのは「私」の心情。
目覚めたら10年後で私の隣に一也はいない。夢だった甲子園も私は知らない。みんなが歩んできた十年に「私」はいない。誰も彼もが「私」ではない「27歳の私」を見ている。誰も「私」を見てくれない。しゃくりあげながら言葉を紡いだ。
そんな私の悲痛な声に、礼ちゃんはただ耳を傾けるだけだった。そうして私の頭を撫でていた彼女の手が、今度は私の背中で優しくゆっくりとリズムを刻んだ。その心地よさに少しずつ少しずつ昂った感情が収まっていく。
側から見れば変な状況だろう。女子高生ならまだしも大人がふたり抱き合ってひとりは号泣。けれど礼ちゃんはそれでも私が落ち着くまで傍にいてくれた。
ようやく周囲の声が、試合中の掛け声や響めきが、バットが白球を叩きつける音が聞こえるようになった時。向かい合って立つ礼ちゃんは身体を少し離して、泣き腫らした私の顔を覗き込んだ。

「成宮くんは、」
「…なるみや…?」

礼ちゃんの口からその言葉が発せられて少し驚く。

「今の紗南ちゃんに優しい?」

その問いに考える間もなく小さく頷いた。優しい。それだけは間違いない。その答えに礼ちゃんは安堵したようだった。マスカラが塗られた長い睫毛を少し震わせて何回か瞬き。礼ちゃんのふっくらとした紅い唇がゆっくりと上下に開く。

「紗南ちゃん。酷なようだけど、「今」をきちんと見なきゃダメよ。貴女の傍にいてくれるのは成宮くんで、御幸くんじゃないの。過去は綺麗な思い出ばかりだろうけど、……でもやっぱり、振り返らずに歩き出さなくちゃ」

まるで礼ちゃんの言葉は、私の望むものは手に入らない、と。そう言っているようで。治っていた感情の波がまた私を襲った。

(なんで、礼ちゃんまで、そんなこと言うの…?)


結局みんな同じだ。
私に「今」を生きろと言うだけで、肝心な出来事を教えてくれない。なにがあったのか、みんなが口を噤んでる。
……だから、私も知らないフリをするんだ。

パンドラの筐の中身をすり替えた。
見たくない結末をその中に押し込んで、私はずっと大事にしまっていた一也との思い出を手にとり優しく優しく抱きしめる。


「そう、だよね。ごめんね、礼ちゃん。ありがとう。……頑張ってみるね」


充血した瞳で微笑んで見せれば、礼ちゃんはホッと安堵したようだった。こんなことで周囲が安心するならきっと「私」でも大丈夫。囁くような声。脳裏にじんわりと広がる。


誰も教えてくれないなら、私は「私」のまま「27歳の私」を生きるだけ。
一也のことが好きな「私」が、成宮の隣で生きるだけ。
だってそうしないと、胸を巣食う絶望に立ち向かえない。「私」は今を生きれない。


一也との思い出が、
一也への想いだけが、
いまの「私」にとって唯一の希望だから。