07

 
 青い風が心地よい甲板では、ちょうど魚群にあたったらしく山のように魚が釣れていた。
 バケツに入れるのも生簀に放り込むのも追いつかず、仕方なしにナマエがその場で捌いているところである。魚を空中に放って、落ちてくる頃には見事に捌かれている。その華麗な包丁さばきは半ば曲芸の域だが、この船ではそれができる人間が当たり前にもう一人いるので珍しくもなかった。
 ゾロは酒を持ち寄って肴にし、フランキーは口から放つ火炎放射で炙りにし、ルフィたちは水族館の海棲生物たちのように口を開けて我先にと刺身へ飛びついていた。

「いやー、麗しいですね」

 手すりに頬杖をついて甲板を見下ろしているサンジの隣、ズズズ〜! ととんでもない爆音を立ててティーカップを啜ったのはブルックであった。
 サンジと同じように甲板で楽しげに遊んでいるクルーたちを眺めている。
 ブルックの言葉にサンジが「あー……?」と上の空で反応する。潮風がタバコの煙をさらって先端だけが赤く燃えていた。

「ナマエさん。最近、上陸のときの格好が華やかになった気がします。ヨホホ」
「ああ…おれが言った。好きなやつ着ろって」
「おやっ、サンジさんが?」
「ん」
「へ。へえ、そうだったんですか。ヨホ、ヨホホホ……」

 会話はそこで途切れた。
 ブルックは「えっ!? そっ、それって……!?」と一人でドキドキしてしまって喋れなくなり、サンジは相変わらず上の空だったからだ。ブルックがチラチラと興味津々で寄越している視線を完全にスルーし、サンジの頭は別の悩みでいっぱいだった。

「おかしいわね」

 それはナミが夕食後のダイニングテーブルで帳簿をつけている時だった。
 食器の片付けをしていたサンジは「ナミさんどしたの?」と盲導犬のような優しさと従順さでカウンター越しに彼女に声をかけた。
 ナミは帳簿からちらりと視線をあげ、呑気に皿を拭いているサンジをじっと見つめ……フム、と口を開いた。

「最近、出費が増えてるのよ」
「え? 出費?」
「そう。買出し用に渡してる財布あるでしょ? 減りがすこーーし早いのよね」
「買出しの……そりゃ単純にクルーが一人増えたせいじゃねェのか?」
「いいえ。一人当たりの金額も増えてる」
「あー…前の島、物価高かったっけかな……ごめんよナミさん。その辺り、気をつけるよ」
「本当に少しだし別に良いわよ。マ、いざとなったらチョッパーに大道芸でもさせて稼ぐわ」
「たくましいナミさんも素敵だァ」

 このように字面だけを見れば、いたって冷静に言葉を交わしていたように思われるが。
 サンジの美しい弧を描いたままの口元はむしろ不自然で、うすら青ざめた顔には細かい汗が滲んでいた。極めつけにナミの言葉の度に「ギクッ」「ドキッ」「ビクッ」といったオノマトペを盛大に出していたので筒抜けだった。

 指摘された内容に、サンジは大いに心当たりがあった。
 航行に支障がない程度が大前提だが、実はこっそりと食糧の消費を増やしていたのだ。それは金に几帳面なナミが計算してようやく気づくくらいの本当に微々たるもので、一品多く作ったり、使う食材を一種類足してみたり…そうやってひっそりと積み重ねてできた産物だった。
 犯行動機は、買出しに少しでも長く時間を使うため。

 少額だしナミも別にいいと言ってくれたが、これは私情をまじえた使い込み。気付かれてしまった以上、知らぬ存ぜぬでこれまで通りを貫くわけにもいかない。この船の経理を担ってくれている女神に対する明確な不義理は、サンジにとって人一倍罪悪感を伴うことだった。
 こんなことはすぐやめて、ナミに素直にごめんなさいをするべきだ。
 でも、でも。

「なんて言って誘えばいいんだよ……ほかにねェだろ、おれと、島、歩く用事なんて……」

 甲板でクルーと笑い合っているナマエを見つめ、サンジは苦い顔で独りごちる。
 潮風にも容易に負けてしまうか細い声だった。

 丈の長いスカートも、ピンヒールも、可愛らしいシルエットのトップスも。ナマエはサンジの隣なら着てくれるようになった。上陸の時の、買出しの時だけの息抜きだ。
 サンジはナミやロビンにするような芝居掛かったエスコートはしないけど、ナマエが転んだらいつでも支えられる位置にいる。重いものをさりげなく持って、人通りが多い道では壁側を彼女に譲る。
 そうしていつもナマエが市場巡りに夢中でいられるようにしてやった。

 そういう横顔が好きだったから。特等席だと思っていた。
 サンジにとっての買出しとは、これを一番近くで眺められる特権つきの仕事なのだ。

 しかし。
 次の島のログは6日間らしい。ということは買出しは最終日かその前日だ。
 ということは、だ。

 あと数時間で島に着くのに。
 あと数時間後にあの子の隣に居座るための言い訳がない。

 まさかログが長い島を恨む日が来るなんて!

 しかも、今日の彼女は、丈の長いスカートでもなければ、ピンヒールでもない。可愛らしいシルエットのトップスも着ていない。パンツスタイルにチャンキーヒールの歩きやすいショートブーツ。いざとなったら走り出せるくらいスポーティで機能的で……でもまあお気に入りの服ではある様子。
 つまりサンジを連れず、一人で出かける用事があるのだ。

 幸い、その用事の些細は知っている。
 ナマエは島名物の競りに参加したいのだそうだ。鮮魚・野菜・肉類とさまざまな種類がある中で、今月はお魚月間。その日水揚げされた鮮魚たちや交易船で朝イチで運ばれてきた特別な品が日替わりで市場にひしめくらしい。世界中の食材を調理するという夢を掲げるナマエには、願ってもない機会なのである。
 数日前、彼女の大ファンであるニュース・クーが持ってきた新聞を読んだナマエは、新聞に挟まったローカルニュースの誌面でこれを知って「きゃーっ」と歓喜の声をあげた。

「ぜっ、絶対行く!!」

 と、一番近くにいたという理由だけでゾロを叩き起こしてニコニコキラキラ大騒ぎしていた。
 だからサンジも知っている。
 でも誘われていない。

 それもそのはず、これまで一人で海を渡ってコック修行をしてきた彼女にとっては単独行動がデフォルトなのだ。どこそこに行きたいから着いてきて! といちいち他人に頼み込むという頭がほぼない。一人で行くなら一人で行って困らないだけの準備と対策をし、目的を果たして満喫するための計画を立てる。

 おそらくボディガードも要らないのだろう。この野蛮な海でキズモノにならずに何年も冒険してきたのだ。危ない誘いには決して乗ってこなかったし、犯罪の気配がする場所にも近寄らなかったということだ。それだけで優れた危機管理能力が備わっている証明になる。
 では荷物持ち。腕が2本から4本になって、持ち帰れる荷物の上限が増えれば喜ぶだろうか。しかし万が一ここで「え? いやいいよー、大丈夫!」と明るく断られてしまったら、もう2度とこの手は使えない。2度とだ。それに健康な腕を持っている人間は他にもいる。「荷物持ち? じゃあ…」と別の誰かをご指名されてしまったらサンジはボロ雑巾のようになってしまうだろう。

 となれば、サンジに残された道は、「おれも一緒に行きたい」と素直に個人的感情を伝えることだけ……。

「…………はぁーーー……」

 28回目の同じ結論。心をすり抜けていく臆病風も28回目。
 それが言えたらどんなにか。
 サンジは頭が切れるがゆえ、あらゆる可能性を考えてこうして詰んでいた。

 それもこれも、ナマエという女が完全自立型の乙女であるせいだった。
 
「アッ、アッ…、ワタシ、用事思い出しちゃいましたーッ」

 ブルックはカップとソーサーをガチャガチャ言わせて中身を全部こぼし、ありもしない用事をでっちあげて退散した。そして物陰に避難し、「ほッ、微笑ましい……ッ」と剥き出しの皓歯を食いしばる。死後50年、光も差さない暗黒の海に独りぽっちだった彼には、この若者のキラメキは赤道直下で受ける太陽光線のようでちょっと耐えられる代物ではなかったのだ。

「じゃあ行ってくるね〜!」

 サンジの苦悩も虚しく、ナマエが件の島へ降り立ったのはきっかり3時間後だった。


***


「ただいま……」

 夕方頃。ナマエは予想に反してションボリ顔で帰ってきた。
 サンジは自分用に作った海鮮パスタを食べる手を止め、よろよろとダイニングテーブルの席に着いた彼女を眺める。
 ナマエは買い出し用の軽くて丈夫で保冷機能つきのリュックを胸の前で抱きしめる。リュックは彼女の腕の中でぺちゃんと押しつぶされた。

「おかえり。なんだ、辛気臭ェツラして……競りはどうした? 戦利品は? 行ってきたんだろ?」
「うん……」

 ナマエはおもむろにリュックの口を開けて中身をあさった。
 案の定リュックはスカスカで、朝の意気込みと成果が見合っていない。
 財布でも忘れたのか? とサンジが不思議に思っていると、出てきたのはひとつのお弁当箱だった。ナマエはカポ、とふたを開けて彼にも見えるよう、テーブルの中央に差し出す。
 中身は魚のソテーであった。冷めているが、じゅうぶん美味しそうだ。
 サンジはパスタの皿を横にずらしてそれを見、そして二度ぱちぱちと瞬く。

「おー……まえの料理じゃないな?」
「わかるの?」
「そら見りゃわかるよ」
「そう……」
「でもテイクアウトにしちゃあ、うーん、ずいぶん……容器が家庭的だな?」
「テイクアウトっていうか、その……はあーー…ちょっとサンジ聞いてよもぉ〜〜……」

 ナマエは唸りながらテーブルにがっくりとこうべを垂れた。
 何か悩ましいことがあったらしい。
 どんな悩ましいことがあったかと言えば。




 上陸したナマエは港のすぐそばに設けられた魚市場に来ていた。
 競りが始まる時間まで、活気づいた市場をナマエはウキウキ散策した。
一目見ただけで鮮度と質の良さが分かる品々は圧巻。それでいて値は破格だ。
 このお値段でこれが!? と何度も手が伸びかけたが、このあとに控える目的の競りを思い出してなんとかぐっとこらえる、の連続であった。
 ナマエはリュックの外ポケットから広告の切り抜きを取り出して広げる。
 今回の彼女の最大の目的は“春夏秋冬・お魚さんパック”だ。
 これはハルカジキ・ナツマダイ・アキアンコウ・フユカレイをまとめて競り落とせるお得パックである。
 4種類である分、値段は吊り上がるが、どれもこのあたりの海でしか獲れないといわれる種類の魚だった。ナマエは己にとって未知の食材であるこれを狙っていた。
 なので金の無駄遣いはできないし、競り落とせた時のことを考えて荷物も増やせない。
 競り落とした暁には、この魚たちをメインに滞在期間中はサニー号でレシピ開発に励む算段である。
 長年のコック業で市場での買い付けにも競りにも覚えはある。
 絶対勝ち取る!! と闘志をたぎらせて臨んだ、のだが。

「はいっ、じゃあちょうど預かった! 兄ちゃん、毎度あり!」
「あい、どーもねー」
「あ、あれえ……」

 ナマエの目の前でお魚さんパックはまったくの別人に競り落とされていった。会計と品物の引き渡しはサクサクと進み、すでに次の競りが開始されている。
 後方からぶつかってきた体格の良いおばちゃんに彼女が押しつぶされている間に。
 ずいぶんあっさりと、大本命の競りは終了してしまった。
 もちろんおばちゃんはわざとじゃなかったし、単なる事故と不運の結果だったのだが……かといってそう簡単にはあきらめきれず。

「あっ、あの!!」

 ナマエは人ごみに消えていこうとした男の背を何とか追いかけて声をかけた。
 お魚さんパックを競り落とした彼は「ん?」とのんびり振り返り、なんだろう、という顔でナマエを見下ろした。

「さ、さっきの魚……1尾だけでも、譲ってもらえませんか?」
「あー…競りの?」
「はい……」

 偉大なる航路は原則不可逆だ。記録指針の導きにそって進む、一方通行の旅路である。
 しかもいま彼女が乗り込んでいる船は海賊王を志すキャプテンが率いる海賊船。四皇・白ひげのようにナワバリの島々の永久指針を駆使して航海をするタチでもない。
 ここで逃したらもう出会えない。目の前の彼がいま手にしている魚は、彼女にとってはまさしく一期一会の食材なのだ。

「この魚が欲しいの?」
「はい……言い値で買いますから……!」
「うーん…おれも店をやってるからねえ……」
「無理を言っているのは承知なのですが……何卒、なにとぞ……」
「きみ、コック?」
「はい」
「ふーーん…………」

 男は首筋をぽりぽりかいて、ナマエを見下ろしてなにやら思案する。
 ナマエは頭の中で自分が差し出せる交渉材料をかき集めるが大したものは浮かばず、男の出方を窺うばかりだ。幸い邪悪な顔はしていない。何を考えているかわからないけれど、どうか、どうか……。

「マ、店をやってるっていってもうちは小さい店でさ、常連が来るかどうかって感じで…とにかくいつも閑古鳥なんだ」
「? はぁ……」
「今日も一応仕入れはしたけど、どうせ今日も暇だろうね。……だからさ、せっかくだしゲームしようよ」
「ゲーム……?」
「そう。調味料当てゲーム。おれが料理を作るから、きみはそれ食べて、料理に使った調味料を全部当てて。当てられたらコイツら、好きな数だけ譲ったげる」

 どう? と台車に積まれた魚入りの木箱をコンコンとノックする。ナマエの眉がぴくりと動く。

「当てたら、好きな数だけ……?」
「そ。やる?」
「お兄さん。その言葉、違えませんね?」
「うん」
「やります!」

 調味料を当てるだけで! と食いついたナマエに男は「いいねえ」と笑って、競り人からつい先ほど受け取った納品書の裏にサラサラとペンを走らせ、簡単な地図を書き始めた。

「おれはこの島でとれるもの、売ってるものしか使わない。とことん地産地消なんだ。だから島のマーケットを見て回るといいかもね」
「わかりました」
「15時においで。待ってる」

 ピラリと差し出されたそれを受け取り、ナマエは大きく頷いた。
 男はガラガラと台車を押して今度こそ人混みに消えていった。
 ナマエは受け取った地図に目を落とし、しめた! と拳を握る。調味料を当てるなんて簡単なゲームだろう。まかないからのレシピ再現なんて、これまでいくらでもやってきた。
 一時は危ぶまれたが、なんとかお目当ての魚たちも手に入りそうだと、ナマエはルンルンと滞在期間中の下見を兼ねてマーケットを巡り、約束の時間に男の店へ向かった。
 そして。

「残念でした」
「えっ!?」

 ハルカジキのソテーを食べ、ゲームに負けた。
 ギョッと目を丸くするナマエに、男はのんびりと「足りないよ」とにこにこ笑ってそう言った。

「う、うそ、」
「嘘じゃない。でもいい線いってた。惜しかったね」
「そんな……」
「きみ、ここにはいつまで滞在するの? 見ない顔だ、旅の人だよね」
「……船舶料理人、です」
「そっか。今日が上陸初日?」
「はい…ログが溜まったら出航予定です」
「んー、じゃあ6日間か……」

 カウンターの中にいる男は、カウンター席で顔を曇らせるナマエの顔を眺める。
 男が言っていた通り、店はガラガラだった。ナマエ以外の客と言えば、日当たりの良い席で髭を蓄えたおじいさんが新聞を読んでいるだけである。メインストリートから一本通りを外れているせいもあるだろうが、店の表に営業中の看板ひとつ出てないところを見ると集客努力が足りないことも大きいだろう。

「明日もやる?」
「えっ」
「魚は4種類あるし。今日はハルカジキだったから、明日はナツマダイにしようか」
「ま、まだチャンスあるんですか!?」
「うん。ハルカジキもまだ冷凍してる分があるしね。勝てれば約束通り譲ってもいい」
「あ…ありがとうございます……!」
「でも簡単には勝たせないよ。つまんないからね」
「望むところです!」
「あはは、んじゃ今日の残りはお土産に包んであげる。せいぜい“お勉強”するといいよ」
「なっ……、」

 柔らかい雰囲気と口調とは裏腹に、男は好戦的にべっと舌を出して彼女を挑発した。ナマエの皿を下げて厨房の奥へ引っ込んでいった。
 程なくして、男がお弁当箱を手に戻ってくる。

「きみはなにちゃん?」
「……ナマエです」
「ナマエちゃんね。おれピート。はいどうぞ」
「ありがとうございます…」
「また明日、同じ時間に。弁当箱、ちゃんと返しにきてね」
「……はい…」

 ナマエは大人しくお弁当箱を受取り、ピートの店を出たのだった。




「というわけ」

 話し終えたナマエは深く長いため息をついたあと、スッと席を立った。「当てられなかったの、めちゃくちゃ悔しかったぁー……」とぼやきながら、件のお弁当箱を片手に厨房へ入る。料理を温めなおすつもりらしい。
 サンジは無言で……正しく言えば絶句して、その姿を目で追った。
 お、おい。待て。なんだその謎の男は。

「あー……で、なんだ? お前は明日もその勝負を受けに行くってのか?」
「うん。魚ほしいからね」
「そいつ、変なヤツじゃないのか? 大丈夫かよ」
「変……ではないと思うよ…? 全然、見た目も普通の人。こんないきなりの交渉にも乗ってくれたし、むしろいい人じゃない?」
「ふぅん……」

 サンジはもう少し詮索したかったが、ウザがられる境界線を考えて諦めた。とやかく何かを言える立場にいないのは痛いほど分かっているし。ひとまず彼女の危機管理能力を信じることにした。

「……調味料くらい、お前の舌なら簡単に言い当てられそうなもんなのにな」
「なんだろうね、島特産のスパイスがあるのかも」

 料理をフライパンで温めなおすとふわりと香りが立ちのぼった。その香りの良さに、サンジは思わずパスタを食べる手を止めて厨房を振り返る。

「いいにおいだなァ。……な、おれにも一口くれよ」
「だめ」
「なんでだよ」
「私の勝負だから。ひとりで考えたい」
「別にアドバイスなんかしねェって」
「とにかくダメ!」

 ナマエは頑なにNOを突きつけた。言い当てられなかったのが相当悔しかったようだ。
 サンジはしぶしぶ引き下がる。再び席に着いてノートを広げて分析にいそしむ彼女のつむじを眺め、サンジはパスタの皿に残った鷹の爪の輪っかをフォークの先で手持無沙汰にいじっていた。

「……ナマエ、作ったらなんか食うか? それだけじゃ腹ふくれないだろ」
「わ、助かります……」
「おれのも使った調味料当ててもらおうかね」
「ふふ、ヨユーよ」
「同じ厨房使ってりゃそりゃそうだろ」
「あはは」

 サンジが料理をつくる傍らで、ナマエは厨房の戸棚にストックしているスパイスをいくつか取り出して風味や香りを確認していた。が、どれもいまいちしっくりこないのか、首を傾げて難しい顔をしている。その横顔は真剣で、サンジはそれを盗み見て「なんか楽しそうでいいなー」と思う。
 サンジには、料理にひたむきな彼女がいつだって輝いて見えるのだ。