67
こんのすけと合流して約十分。やっと使い古しの服や防具、装飾品の処理が終わったとのことで、ゴミ捨て用の四次元葛籠を回収する。
縁側に並べてあった新しい衣装は一応全てなくなっていた。全員が全員着替えたかどうかは分からないが、せっかく提供したのだ。無駄にはならないと思いたい。みんな、ちゃんとした服に着替えてくれてるといいなあ。
葛籠を抱え、さあ帰ろうと小さな狐に声をかける。これで最後。ほんとのほんとに最後。ああ、長い午後だった……。当分の間はここに来たくない。神様とも接触したくない。私の精神力はすごい勢いでごりっごりすり減った。一週間くらいノータッチで休ませてくれ。
帰る間際、何かの拍子で一人の付喪神と目が合った。呪いがうんたらとつっかかってきた黒い長髪の神様だ。その身に纏う外套や和装には汚れも破れもなく、渋々だった割にちゃんとお召し替えをしてくれたようである。よろしい。
「な、なんだよ」
目を逸らす前に噛み付かれてしまい、「ううん、別に。服、似合ってるね」と、とりあえず社交辞令を言ってみた。するっとこの場を切り抜けたいなあ、と思ってのことだ。ご機嫌取りまでは狙っていない。というか、言っておいてなんだが怒られ──。
「なっ、なな、お前に言われたって嬉しくねえよ!」
案の定、長髪の付喪神はムスッとした表情を崩し、くわっと目を見開く。
「あー、ごめん」
わたわたと体を揺らし、ツーンとそっぽを向いた神様へ、いち早く謝る。かるーく。
やっぱりそうだよなあ。たとえお世辞とはいえ、嫌いな人間に褒められても癇に障るだけだよなあ。この神様、けっこう私の事嫌いみたいだから、私が何言っても何やっても気に食わないんだろうなあ。……はあ。
「似合う」なんて言わなきゃよかった。スルー安定だったんだ。
これ以上関わらないほうがいい。そっとしておこう。そう考えて、踵を返す。
「……調子狂うぜ。ったく」
背後からそんな声が聞こえたが、また変に話しかけて刺激してもいけないので、気にしないことにした。
「主様、どうかお気を悪くせず……和泉守兼定は照れているのですよ」
こんのすけが小声で言い添えてくれるも、私にはそれが信じられない。塩対応された私を気遣ってのことだろう。
こんちゃん、そんなに気配りしなくてもいいんだよ。自分が嫌われてることは重々わかってるから。
「はあ? だっ、誰が照れて」
「さあ、離れへ戻りましょう。外は寒うございます。夜風に当たり過ぎて風邪でも召されては大変です」
言うなり、小さな狐は手提げ提灯の棒を咥え、さっと私の前を歩き出す。反論を繰り出した長髪の神様を盛大に無視して。
……スルー安定だとは思ったけど、それは私に限った話で、こんのすけはきちんと返事をしてあげた方がいいんじゃないかな。このまま帰って大丈夫なの?
「おい、ちょっと待て!」
引き止めるそれは、犬が吠えるようだった。
こんのすけについて行きつつ、わあわあ喚いている付喪神を一瞥する。彼は縁側のふちのギリギリに立ち、片手で側柱を掴み体を前のめりにさせていた。……あれ、靴を履いていたら追いかけてきてたんじゃないだろうか。
「こんちゃん、あの神様、待てって言ってるけど」
地団駄でも踏みそうな勢いの刀剣男士を放っておいてよいものか。ほんの少し心配になり、小さな狐に話しかける。
一度歩みを止めた管狐は、棒を咥えたまま微かに首を横に振った。そしてまた、小さな四肢を動かし、離れに向かって進んでゆく。
気にせず構うな。ということでいいのかな。
なんかすっきりしないけど、あの神様に関わらなくていいのなら、ぜひそうしたい。さすがにもううんざりだ。
ああ、疲れた。お風呂に入って早く横になろう。
「俺は! 全然! 照れてなんかねえからな!」
背中に飛んでくる否定の叫び。その矛先は、私? こんのすけ? どっちなんだろう。
「勘違いするなよ!」
またもや、大声。……なんか、必死だなあ。照れているって思われてそんなに不愉快なんだろうか。もしくは、こんのすけの言葉が案外図星で、実は本当に照れてたり? 今怒鳴ってるのも照れ隠しとか。……そうだったらちょっとは可愛げがあるのかも。ツンデレ? ツンギレ? ものは考えようだねえ。
考えあぐねる私をよそに、提灯に照らされた狐の顔は、綻んでいて。尻尾は愉しげにぶんぶん振られており、いつになく機嫌良さそうに見えた。
……いや、これは。うーん、面白がっているのかもしれないな。こんのすけってば、あの神様をまたからかったんだ。
よくやるなあ、と呆れる私の心など露知らず、小さな狐は意気揚々と提灯を揺らすのであった。