雪解け - なんとはなしに

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 その夜、いつもより長めにお風呂に入り、いつもより早く眠りに落ちた。
 寒さが堪える季節になってきたため、最近はこんのすけと一緒に寝ている。小さな狐は布団に毛が付くから……って遠慮するけど、それは持参のコロコロ(百均もの)で解決するので問題なし。それに、毎日ブラッシングしているせいか、落ちる毛は少ない。
 ふかふかの布団に、ほこほこのこんのすけ。素晴らしい組み合わせである。
 夢見のなかった睡眠は深く、夜中、一回も目が覚めなかった。朝起きた時に「もう朝?」と驚いたものだ。やはり、心身ともに疲れていたのだろう。いやはや、昨日は濃密な一日だった。体感的には、刀剣の一斉手入れを行った日よりもどぎつい一日だったように思う。しばらくはノー神様でお願いしたい。
 朝の肌寒さに身を震わせながら着替え、ぱぱっと作った朝ご飯を食べ、冷たい水にひいひい言いながら皿洗いをする。そうして、ルーチンワークの始まりだ。
 夏は五時起きの十時就寝だったけれど、最近は日の出に合わせて六時半起き。気温が上がってこないと外に出るのも億劫で、畑仕事も十時くらいから始めている。逆に、夏場は朝の涼しいうち──それこそ、八時や九時にはほっかむりを被って外に出ていたものだ。十一月に入り、今やすっかり冬時間である。
 さあ、平和な一日を送ろう。昨日はちょっと(かなり)イレギュラーだったけど、今日からはまた「普段通り」になるはず。平穏な日常こそ、私の求めるもの。
 そう思いながら戸口を開け、外に出てみると。
「あれっ」
 驚きのままに声が出る。
 草が枯れ、寂しい配色となってきた秋の庭──いつもの風景に、いつもと違うものが混ざっていた。
 監視役とは別に、刀剣男士が六、七人、広い庭に点々と散らばっている。ほー、これは珍しい。亀吉がこっちに来ようとすると、何人かドタバタ御殿から出て来るのだが……ああいう時のような慌ただしさはなさそうだった。
「おや」
 こんのすけもいつもとの違いに気付いたようで、可愛らしく小首を傾げ、「ふむ」としばし考え込む。
「なんだろう。散歩かな?」
 見張りを増やしたのかとも考えたが、それにしてはこちらへの関心が薄そうだ。彼らはちらりと私に目をやったけれど、すぐに各々の世界に戻ってしまった。
 秋桜を眺める神様、空を仰ぐ神様、遠くの山並みを見晴らす神様、ぶらぶらと歩いている神様──それぞれ、気ままによろしくやっている。私が出てきたからといって御殿に帰ったり、威嚇してきたりするような付喪神はいなかった。……良いことなんだろうけど、なんか複雑だなあ。
 ギロッ! って睨んで、警戒心むき出しにして、「人間が出てきたから帰ろう」って嫌味な態度を取るくらいがあいつららしい気がするのに。……うーん。
「そのようですね。あの方たちもようやく、散歩ができるほど心に余裕が出てきたのかもしれません」
「へえ。それは良いことだ。ずっと引きこもってるよりは、お日様の光を浴びた方がいいよ」
 さりとて、本日は曇りであるが。まあ、秋の天気は移ろいやすいので、そのうち晴れ間が訪れるかもしれないだろう。
 人間(わたし)のことなんか忘れて、楽しく自由に過ごせばいい。気持ちにゆとりがあるのとないのとでは、生活の質がずいぶん変わってくるものだ。
「さ、畑に行こう。今日はこんちゃんのほりほりが輝く日だよー」
 庭に点在している神々を見渡し、手に持った鍬を握り直す。本日の畑仕事のメインは、収穫期を過ぎた秋の作物の処分。
 地中深くに降ろされた根はなかなか頑固で、私が引き抜くだけじゃあ全てを取り去らえない。こんのすけの四足で掘り出してもらうのだ。獣ならではの技が光る。
「はい。お任せあれ」
 力強く頷いた小さな狐は、それはもう誇らしげに胸を張っていた。

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