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翌日の木曜。昨夜に引き続き空は曇っていて、寒かった。外に出るのも水仕事をするのも億劫だったけれど、やらないわけにはいかず。
寒い寒いと何度もぼやきながら、午前中にこんのすけと庭の花の植え替えをした。枯れた秋の花々を処分して新たに植えたのは、水仙、福寿草、アネモネ、チューリップ、アリッサム、スノーフレーク──……などなど。どれも冬咲きと春咲きの花だ。まだ芽すら出ていないが、開花が待ち遠しい。こうやって今後の楽しみが一つずつ増えていくのは良いことである。
そうそう、御殿の向こう側で土いじりをしている途中、赤目の神様とポニーテールの神様が通りかかった。二人は散歩をしていたみたいで、邪魔しちゃ悪いと思ってそっとしておいたのに……なんかずーっと周りをうろうろしててさあ。終いにはポニーテールの子に声をかけられてちゃって。
げっ、何なの? あーあーまた接触事故か……と、ほんのちょっぴり怨めしくなってしまうも、なんだかんだ赤目の神様に「寒い中待たせて悪かった」、って謝れたのでよし。昨日ポニーテールの子は謝らなくていい、って言ってたけど、やっぱり申し訳ないからきちんと謝っておきたかったんだ。
……ただ、謝ったら謝ったで「待った」「待ってない」のやり取りになってしまい。
「待ってないし」
「え、待ってたんでしょ?」
「待ってない」
「でも、待ってたんだよね。暗くなってからずっと」
「だーかーら、待ってないって。何言ってんの」
「ええー? んー、だって、待ってたってそっちの子が」
「っ、安定……!」
眦をキッと吊り上げ、鋭い眼差しを隣へ向ける赤目の神様。ありゃ、バラしちゃまずかったか? とヒヤリとしたが、ポニーテールの付喪神は「隠すことじゃないでしょ」と明るく笑う。口論が始まったり、陰険な雰囲気になったりはしなかった。ふう。
赤目の神様はむすっとした面持ちで腕を組み、「なんなの、もー」とぶつぶつ呟いている。そんな彼の爪はまだら模様じゃなくなっていて。
綺麗に彩られた指先を褒めれば、彼は照れたのかほんのり頬を染めた。眉間に皺が寄っていたけれど、怒っている感じではなさそう。一応、私の賛辞を受け取ってくれた──のだと思いたい。
黒髪に赤い瞳、黒いコートに赤いマフラー、黒のブーツ……見込み通り、この子の爪には赤が似合う。私の美的感覚もなかなかのもんじゃないか、と一人で満足してしまった。ちなみに、塗るのはポニーテールの神様が手伝ったらしい。二人は仲良しなんだなあ。
「やっぱり赤、似合うね」
率直な感想を伝えてみると、「当たり前じゃん」と返されてしまった。薄い唇が放った声はぶっきらぼうで、目線がぷいっと逸らされる。それで、顔の赤みは三割増し。これは……照れ隠し、でいいのかな? どうだろう。毛嫌いしてる人間に褒められて、照れるもんなのかねえ。微妙だなー。
爪をいじりだした赤目の神様の横では、ポニーテールの子が「良かったね」と顔を綻ばせている。「別に何も良くないし。ていうか、安定は余計な事言わずに黙っといてよ」と咎められても、彼の目元は優しく緩んだままだった。
──あれ、そういえば。
二人を見つめる私に、ふっと疑問がわき立った。
「ねえ、なんで待ったのに『待ってない』って言ったの?」
彼らの会話の切れ目を狙い、「待たされた事実をどうして隠していたのか」を聞いてみる。赤目の刀剣男士は「理由なんかないよ」と顔を背けた。続けて、「ただの気まぐれだし」と溢す。
なんとなく「ただの気まぐれ」には思えなくて、「いやいやそんなことはないでしょうよ。何かあるんじゃないの?」と少し粘れば、それが功を奏したのか、沖田総司の元愛刀は渋々口を開いた。
「だってあんた、すぐ謝るじゃん。そーいうの、鬱陶しいんだよね」
「えっ」
鬱陶しい。
その言葉は巨岩となって私の脳みそにヒットする。ズコーン、と。
……鬱陶しいか。あー、そうだね、世の中には過剰な詫び言を嫌う人(あの子は神様だけど)もいるもんね。でも、私そんなにごめんごめん言ってなくない? 言ってる? うーん、自分では気付いてないだけ? や、だって悪い事したら謝るじゃん普通。あっ、その場しのぎで「ごめん」って言う時もあるかも……それがダメなのか。鬱陶しいのか。
ああ、聞くんじゃなかった。
心の内でガーンとショックを受ける私をよそに、ポニーテールの神様が赤目の付喪神の服の袖を引っ張った。
「もう、どうしてそういう言い方するの? 謝らせたくなかっただけのくせに。気を遣ったんだよね?」
ん?
「はあ? ちーがーいーまーすー」
え?
「嘘ばっかり。素直じゃないんだから」
どっち!?
あの子、私に気を遣って嘘ついてた? いや、「違う」って言ってるよねえ……でも、ポニーテールの神様は「素直じゃない」って言ってて、じゃあ「違う」っていうのも嘘で、やっぱり気を遣ってくれたってこと? どうなの? だーっ、考えるのがめんどくさい。
「主様、お気になさらず。おそらく大和守安定の言う通りでしょうから」
黙って二人を眺める私の足元で、小さな狐が屈託なく笑う。ひとまず「うん」と頷いてみるも、何やら気持ちはサッパリしない。こんのすけとポニーテールの子が言ったことは本当なのかどうか──よく分からなくて困ってしまった。