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気疲れした午前が過ぎ、お昼は簡単に焼きそばで済ませた。こんのすけはなんでも「美味しい」と言って食べてくれる。朝に作った油揚げ入りのお味噌汁に至っては二杯もおかわりをして、犬みたいに鼻の穴を膨らませ喜んでいた。料理を振る舞う側としてはとても嬉しい。
熱いお茶を飲んでまったり休憩をした後、日が照ってきたので縁側に出てひたすら縫い物。集中した甲斐あってやっと仮縫いが終わった。サイズ合わせもいい感じだし、あとはミシンで仕上げるだけだ。こんのすけに贈る服の完成は近い。
風は凪ぎ、日差しが温かく、おやつをつまみながらうとうとーっとしていたら、こんのすけがお昼寝を勧めてきた。お言葉に甘えることにして、縁側の一番日当たりの良い場所へ枕とブランケットをセット。
小さな狐を抱きかかえるようにして眠り、ふと目覚めれば……いつの間にか腕の中に亀吉が増えていた。少し驚いたけど、可愛い来訪者に心安らぎそのまま二度寝。
「主様、主様」
空が茜色に染まった頃にこんのすけに起こされる。──妙な夢を見ていた。山と森と湖のある場所、私はたくさんの動物に囲まれていて、どんな猛獣も手懐けていた。ライオン、虎、キリン、猫、ゴリラ……あらゆる獣をもふもふと、もふもふ、もふもふ、もふもふ……すごく癒やされたなあ。
「ううー、変な夢見た。色んな動物の、毛を……もふもふ」
寝ぼけ眼をこすりながら呂律の回らぬ舌を動かせば、小さな狐が「おや」と上擦った声をあげた。
「そうでしたか。……ふむ。主様は此度の午睡中、ずっと私の腹を揉まれておりました」
「まじで?」
「ええ、『まじ』にございます」
こんのすけの腹を揉んだからあんな夢を見たのか、あんな夢を見たからこんのすけの腹を揉んだのか──どちらが先にせよ、関連性がありそうだ。
腹を揉んだのが先か、夢を見たのが先か。ん? どこかでこれに似た文言を聞いたことがあるような……ああ、思い出した。「卵が先か鶏が先か」っていうの。いやー、何やら哲学的だなあ。
……で、どっちが先だったんだろう。
目覚めたばかりでエンジン不調な頭を使い、ぐるぐると考えてみるも、亀吉の大あくびを見てどうでもよくなった。ふわあ、あくびが移る。
亀吉を結界の外まで送りに行けば、私たちに気付いたのか付喪神がお迎えに来た。亀吉の友人である橙色の髪の神様と、そのお兄さんの藤色の髪の神様だ。
お二人とも表情は穏やかで、整ったご尊顔には微笑みすら浮かんでいる。最近は亀吉が私の所に居てもだーれもわあわあ言わないもんねえ。なんだか、頑固親父に交際を認められた彼氏の気分。
ふさふさ尻尾の亀にさよならの挨拶をしていると、ご友人が私の顔を見てくすりと笑った。
「ほっぺた、跡がついてるよ」
「え」
言われて、さっと頬に手をやる。線状の凹みが二つ三つほど指の腹に触れた。足元のこんのすけも「渓谷ができておりますなあ」と私を見上げており、恥ずかしくなる。
しまった。私、寝起きだ。
離れを出る前に鏡で顔の確認をしておけばよかったなあと後悔した。いやでもただの昼寝でそこまでしなくとも──。
「寝癖もついているね」
金の鎧の眩しいお兄様が目を細める。なんだこの連続攻撃。そういうところ見なくていいから。気付かなくていいから。
「えっ、嘘。どこ?」
かあーっと頬に熱が集まってきた。しゅ、羞恥心が。
「主様、前髪にございます。左目の上の辺り」
こんのすけの声に合わせて頭をぽんぽんと触る。はあ、なんとまあ素晴らしい寝癖。ちょっとの昼寝でこうなるなんて、いったい私はどんな寝相をしてたんだ。
「こんちゃん、知ってたならもっと早く教えといてよー」
「申し訳ありません。御髪の乱れた主様もお可愛らしいと思いまして」
「どこが! もお、全然直んない」
撫で付けても押さえ付けても、頑固なのかぴょーんと跳ねて戻ってしまう。こりゃあ水で濡らすか寝癖直しスプレーをかけるしかないな。
結界の向こう、生温かく口元を緩めているお二方。いよいよ恥ずかしくなった私は付喪神から視線を逸らし、「まあ今まで寝てたからねー、しょうがないねー」とお茶を濁す。幸い、それ以上何も突っ込まれなかった。
これでよだれの跡や目やにがあるとでも言われていたら、私は夕焼け空よりも顔を赤くしていただろう。