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どこかしら賑やかだった木曜とは打って変わり、こんのすけのいない金曜はひっそりとしていた。
一人で畑の整備をし、庭中を駆け回って大急ぎで水やりをし、刀剣男士との接触を避けるべく離れに閉じこもり──前回、ひなたぼっこがてら縫い物をしていたら付喪神に呼び出されてしまったので、縁側に出るのもやめた。完全なヒッキーだ。
ちょっかいを出されず、神様たちが視界に入らないのは良い。しかし、ずっと引き篭もっていると暇だった。時間がもったいなくて、なんとか有意義な一日を作れないかと裏庭や台所の掃除も考えてはみたが、なんとなく気が乗らず。結局、自堕落な一日になってしまった。またぐうたらしてしまったと後々悔やんでも、一日の始めには戻れない。
夜。二度目の一日出張から帰ってきたこんのすけを大喜びで迎え、夕飯、風呂、就寝。かわいい管狐を抱き枕に、ぐっすり眠れた。動物ってどうしてこんなにあったかいんだろう。ああ、今回はもふもふな夢は見なかった。
翌朝の土曜、怠惰な一日の次は、待ちに待った週末。そう、月に一度の外泊である。土曜の昼から日曜の夜まで、自分の時代に戻ってのんびりできるのだ。
付喪神のいない世界は気分的にすごく楽。あいつらの気配なんて微塵もないし、あいつらのことを考えなくてもいい。縮こまっていた羽を存分に伸ばせる。こんのすけと離れるのは寂しいけど、開放感に溢れていた。家族に会えるのも単純に嬉しいしね。
「じゃあね、こんちゃん。行ってくるよ」
「ええ、行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
ゲートの前で小さな狐とお別れをしていると、方言のキツイ刀剣男士が「なんじゃ、出かけるがか?」と声をかけてきた。一泊二日で自宅に帰ることを告げれば、「つまらんのう」などと眉根を寄せる。なんだろう。
観察対象がいなくなって面白くないのか、出かけられると何か困ることでもあるのか。
密かに考察する私へ、彼は「おまんの時代の珍しい機械を土産にくれんか」と、謎にお土産をねだってきて。「金欠だから難しいよ」と返すと、彼はまたもや「つまらんのう」と言って口をへの字にした。解せぬ。
まあ、そんなことがありつつも外泊へは予定通り出発できた。やはり実家は良い。母さんが毎食準備してくれるし、お袋の味を楽しめるし、家事をしなくてもいいし、だらだらできるし……ああでも、きちんとやることはやったよ。
初めて使うに等しいミシンに四苦八苦したけど、こんのすけの服は完成。銀行で旅費の振り込みもして、口座もちょっといじった。おばあちゃんとおじいちゃんにも旅行の日程を細かく書いた紙を渡せたし、体調が良いことも確認したし。
御歳七十を越えるしわくちゃの祖父祖母は、今も畑仕事をバリバリ続けているみたい。母の車から降りた私を、泥だらけの鍬を片手に出迎えてくれた。元気な姿を見れて安心だ。けれど、持病もあるし歳も歳だから無理はしないで欲しい。
「じゃ、行ってくる。また帰るから。旅行の準備、ちゃんとしといてね」
「はいはい、分かってるって。仕事がんばりなさいよ」
「はーい」
月に一度の外泊はあっという間に終わってしまう。私がただの人間に戻れる時間は短い。名残惜しすぎて目がうるうるしそうになるが、ぐっと堪えて政府の車へ乗り込む。銀行印オッケー、こんのすけの服オッケー……忘れ物はない。今回はおばあちゃんがくれたお土産(漬物)もある。食べるのが楽しみだ。
お土産といえば、土佐弁の神様にと、部屋にあったダンシングフラワーを持ち帰ってみた。それは私が子供の頃両親に買ってもらった物で、もう誰も使わないし、私自身特別思い入れがないからいいかなーと、あの刀剣男士にあげることにしたのである。いや、本当はお土産なんて用意しないつもりだったんだけど、帰ってブーイングされたら嫌──というか面倒で。もうお供え物だよね。「これあげるからそっとしといて」みたいな。
自動で揺れる花が彼にとって「珍しい機械」でなければ、「いらない」と言われてしまうかもしれない。でも、土産がなかったらなかったで不貞腐れそう。ないよりはマシ……だと信じたい。もし本丸に戻って何か言われたら、「ごめんこんなものしかなかった」と謝ろう。何の変哲のないおもちゃで申し訳ないが、精密機器を買う余裕はない。旅費の支払いを終えた今、私のお財布事情は厳しいのだ。
ニコちゃんマークの顔があるダンシングフラワー。斉藤さんのお許しを得られたので、純和風な職場にも気兼ねなく持ち込める。この流れで掃除機もいいかもう一度聞いてみたけど、NGだって。なんでだ! うーん、持ち込み可否の基準がわからない。大きさの問題? 用途の問題? さっぱりである。
「そのうち秋も終わりますね」
「ですね。どんどん寒くなっていって、朝起きるのが辛いです」
「おや、寒いのは苦手ですか」
「うーん……どうでしょう。苦手なのかもしれません」
カーテンの閉められた高級車の中で斉藤さんと世間話をし、お決まりのオフィスに到着。まだ時計の針は六時を回っていない。本丸に戻るのは七時を予定しているので、あと一時間は余裕がある。
というのも、今日はこの後、斉藤さんからお話があるのだ。仕事がらみの、ね。