雪解け - なんとはなしに

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 変わってしまった自分を再認識して、自己嫌悪して、ちょっとだけ前向きになれて、それで終わりかと思いきやそうではなく。
 なんと、出陣? の話が来ました。私に。……私に。
 いや、それがね、どうも最近敵さんの勢いが強まったみたいで、時の政府は猫の手でも借りたい状況だそうな。うちからも誰か出陣できればいいんだけど、そうはいかない事情がある。
 そりゃ、友好そうな付喪神にお願いしてみてもいいかな、という考えも浮かんだよ。でもやっぱり、あの子たちとの約束を大事にしたかった。それに、せっかく傷が治って自由になったんだから、あいつらにはもう少しゆっくり休んでて欲しい。
 斉藤さん的にも、「刀剣男士たちがせっかく警戒を解き始めている今、出陣要請をするのは賢明でない」ということで、敵を倒せる力が微妙にある(これ初耳)私が駆り出されるそうです。
 過ぐる秋の日、斉藤さんがポロッと溢した「代替措置」というのは、私が戦場に出ることだったらしい。なんじゃそりゃ。
「話が違う!」「生命の危機!」って焦ったんだけども、斉藤さんの説明を受けながら仮想の敵と一戦交えてみれば、わりといけたんだなこれが。一番弱い敵が相手だったしね。
 私が今回お試しで戦ったのは、角の生えた蛇の骨(短刀)、下半身が四足で蜘蛛っぽい骨(脇差)。
 初めて見た敵のお姿は、妖怪のようだった。ホログラム? で他のも見せてもらったけど、ありゃやばい。勝てる気がまるでしない。大太刀とか槍とか赤子も泣き出すレベルだ。あんなのと戦ってきた神様たちってすごい。
「さて、どうします? やるかやらないかはあなた次第です」
 ひと通りのレクチャーが終わり、斉藤さんは受けるも断るも私の自由だと言った。強制でないあたり、時の政府はホワイトだなあと思う。
 今日のところは本丸に戻って、こんのすけと相談を……なんて考える私に、斉藤さんはじーっと、じいーっと、やけに圧力のある視線を向けていて。これは、とっとと返事しろって事なんだろうなと察する。
 今の私はタダ飯食いといっても過言じゃないんだから、ちょっとでも貢献したいよねえ。絶対無理です案件じゃなさそうだし、危険手当が跳ね上がるみたいだし、役立たずなりの後ろめたさもあったし。それにほら、神様たちの力を借りずに自分でなんとかできるって、すごいじゃん。ある意味自立?
 色々天秤にかけて悩み、無茶さえしなければ自分にもできそうかなー、と。結局オッケーしちゃいました。
「……勝手に決めちゃって、こんちゃん、怒らないといいんですけどね」
 腹をくくって「やる」と答えながらも、相棒に一言もなく決めてしまったことが心苦しい。罪悪感が溜息となって漏れ、斉藤さんが「大丈夫ですよ」と励ましてくれた。
「こんのすけの役目はあくまでも審神者の補佐。物事の決定権はあなた自身にありますので、あまり気にしなくていいと思います。あの管狐も己の責務は理解しているはずです。あなたの決定に従い、最大限のサポートをしてくれるでしょう」
 そう慰められ、気分がちょっぴり上向きになる。あの子に話した後の反応が怖いけど、まあ、なんとかなるさ。斉藤さんが言ったように、なんだかんだ私の力になってくれるよ、たぶん。
 何はともあれ、こうして私の仕事が一つ増えた。今後の予定としては、明後日の火曜日に斉藤さんからの特別講義を受け、仮想の敵さんと何度か模擬戦。水曜空けて木曜に模擬戦だけして、力の最終調整。週末ゆっくり休んで、来週の火曜に初陣。と、こんな感じだ。
 初日は一周、次からは私の疲労度に合わせて一日二、三周くらい、のスケジュール。出陣日はこんのすけの居る火木になった。
 赴く戦場は固定で、最も難易度が低いとされている戊辰戦争の終わり。函館で戦死した土方歳三の歴史を守るため、幕末へ飛ぶ。……SF過ぎて想像がつかない。
 斉藤さんの見立てによると、私の力量は最弱クラスの短刀と脇差を倒せる程度なんだって。よっわ。
 あ、肝心の倒し方はね、強めに張った結界に敵さんがぶつかってくるのを待つだけ。簡単なんだけど、使う力の性質が違うようなので、通常より負担がかかってしまい力の消費量が多いんだとか。
 実際、用意された敵さんを五体ほど消したところで体が若干だるくなった。消費した力は寝れば自然回復するため、よく眠れば問題ないとのこと。あと、たくさんご飯を食べろと言われた。食べることは好きなので、任せてほしい。
「刀剣男士も自分たちの存在意義は重々解っているでしょう。あなたの出陣に触発され、戦をしたいと申し出てくるものもいるかもしれません」
 爽やかな声で、いやにニンマリと口角を上げた斉藤さん。
 この人はそれを狙っているのかもしれないと、直感的に感じた。やっぱ私の担当官は策略家だわ。裏で無数の糸を引いてそう。
 ただ、まあ……もしも刀剣男士の方から──ううん、私が約束を交わした子たちが「出陣する」って言ってくれたなら。「約束なんてもういい」って言ってくれたなら。
 その時は、勇気を出して神様たちを頼ってみよう。ちゃんと話し合い、彼らに不満が出ないよう決まり事を作って──協力し合うのだ。
「今日は早めに寝てくださいね。では、また火曜日に」
 あくびを噛み殺してメタリックな台座に乗る。燃費の悪い力を使ったせいで眠い。今ならぐっすり寝付けそうだ。
「はい。よろしくお願いします」
 バッグを抱え直して軽くお辞儀をすれば、斉藤さんが装置のボタンをポチッと押す。こんなことになっちゃってこんちゃん驚くだろうなあ、と思うと共に、白い光で視界が染まった。

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