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疲れた。すっごく疲れた。
かるーい挨拶くらいから交流を開始しようと思ってたのに、これだもんなあ。付き纏いに訳あり不審者……なかなかハイレベルな接触ではなかろうか。中身が詰まり過ぎて弾ける寸前だ。今日はノルマ達成ってことにして、午後はゆっくりしよう。天気も悪くなってきてるしね。
疲弊感に溜息をつきながら、のろのろと離れに向かう。途中、御殿から甲高い騒ぎ声? が聞こえてきて、そちらを向くなり縁側付近がドタバタし始めた。板張りの長い廊下を背丈の低い子たちが慌ただしく走っており、誰かに通せんぼされている。……あ、捕まった。ひい、ふう、みい……全部で四人か。
「やだっ、放してよ!」
「降ーろーせ!」
あらら、これは──うーん。
じたじたもがいている幼い姿をぼーっと眺めていると、ずらっと並ぶ襖障子のうちの一つが高速で開かれる。
現れたのは水色の髪の刀剣男士。彼はあれよあれよという間に子供の見た目の付喪神(で、いいんだよね)を追い立て、一人残らず屋内に戻していった。
そうして、曇り空の下、縁側は再び静けさを取り戻す。
今のはなんだったんだろう。鬼ごっこにしてはみんな笑ってなくて、どちらかというとピリピリしてて……楽しそうじゃなかったよなあ。わーわー反抗する声もあったし、暴れてる子もいたし……んー、喧嘩じゃなかったらいいんだけど。仲間割れは勘弁。
それはそうと、さっきの小さい子たち、激走しながらこっちを見てたよね。スカートはいてた子は指もさしてきてた。「あいつ、おったどー!」みたいな。
うーむ。あの子たち、私に何か用事でもあった、とか?
ちょっとばかし気になった。しかし、近くに仔細を聞ける神様は居ないし、わざわざ確認しに行くほど関心があるわけでもない。
……うん。まあ、いいか。帰ろ。
知らぬうちに止まっていた足を動かす。足元でカサカサ、ガサガサ音がして、俯くと色とりどりの落ち葉が目に入った。こんなに枯れ葉が積もっているとは。ここしばらく土いじりばかりしていたからか。
前進する度、乾いた足音が鳴る。それは私に暮秋を告げる音。
日が経ち、気付けば銀杏や柿の木はすっかり禿げてしまっていた。楓はまだ赤々と燃えているが、十二月になればそれも落ちるだろう。
そろそろ庭掃除もやらないとなあ。集めた葉はまた焚き火で焼くか。焼き芋もできてハッピーだ。明日──は、こんちゃん居るし、よっしゃやろう。やるなら昼前か夕方? 午後は斉藤さんと出陣の打ち合わせがあるもんね。どっちの時間がいいかなー。
明日の予定を立てつつ岐路を進み、離れまで一本道となったところで、池の側に佇む刀剣男士を発見する。
がっしりとした体の線。後ろからでも分かる盛り上がった筋肉。
歩けば歩くほど、距離が縮まれば縮まるほど、視界に映るマッチョさが強調される。……なんという筋肉。むっきむきだ。
その付喪神があまりにもイイ体をしていたもんだから、通りすがりについじろじろと見つめてしまった。上腕二頭筋だっけ? すごい。うわ、胸も逞しい。寒そうな格好なのは置いといて、どこもかしこも鍛え上げられてるなあ。
「どうしました? そんなに見つめて。穴が空いてしまいそうデスよ」
筋肉干渉をする一方、何事もなくそこを通過しようとしていた私に声がかかる。やばい、見過ぎたか。下を向いてせかせか歩いていれば──いやでも、目が吸い寄せられるとんでも筋肉だったもんで……ねえ?
彼と関わる気はなかったのだが、話しかけられては仕方ない。
「え、あ、ごめん。いやー、筋肉すごいなって思って」
素直に答えると、神様は少し笑って「ああ、そうでしたか」と自身の上腕に目をやった。私の視線を辿ったのだろう。
「ふむ……筋肉、ね。アナタ、上ばかり見ていましたが……ワタシは下もすごいデスよ?」
「へ?」
言葉の趣旨が分からず、ぽかんとする私。
太く骨張った手が下半身へ緩やかに移動する。スカート? 袴? の裾を摘んだ彼は、穏やかな笑みを湛えたままそっと腕を引いた。すると、当然のことながら布地がするすると捲れてゆく。
あの穿きもの、スカートや袴の類かと思っていたのだけれど、そうではないらしい。風呂上がりにバスタオルを腰に巻くような感じで──んん? でも上の服と繋がってるなら違うよね? あ、大きくスリットの入ったスカートかもしれないのか。ワンピース的な。
いいや、それよりも。
黒の布地から覗く雄々しい大腿部。そしてそれを包むニーハイ。筋肉隆々の男がニーハイ。ニーハイを履いておる。えっブーツ? ニーハイブーツ?
「……わあ」
自ずと感嘆の吐息が漏れた。
屈強な肉体を持つ男がニーハイブーツ。……こりゃあ、凄まじい組み合わせだ。滅多にお目にかかれないというか初めて見た。ネットやテレビですらこんな絵面に出会った事ないのに。二次元は別で。
驚きと不思議な感心で絶対領域をまじまじと凝視してしまう。
「huhuhu……脱ぎまショウか?」
「え!?」
ハッとするが否や、ぴらり、と更にはぐられる布。かなり際どい所が曝され、ついじょうろで顔を隠してしまった。
これ以上はいけない。その、あそこが……パンツが、局部が。いやなんか見せられてるけど、見せられてるけど見てはいけないっ……!
「おやおや? 初心(うぶ)デスねえ」
「ちが、そういうんじゃなくて、見ない方がいいかなーって」
「いえ、見ても良いのデスよ」
「や、見ないよ!」
「遠慮なさらず」
あれ? 最近こういうやり取りを誰かとしたような。あー、眼鏡の神様だ。
ザッ。地を踏みしめる音がして心臓が跳ねる。あの神様、一歩一歩近付いてきているようだ。どうしよう、まだ結界の外なのに。私のテリトリーまであと少し遠い……逃げられるか?
「ほら、じょうろをどけてください」
「えーっやだよ! 見えちゃうよ!?」
気が動転して、わたわたと声を荒げてしまう。着衣のうえで尻をふりふりされてもまあ冷静でいられたが、いくらなんでも股間はアカン。デンジャラスで由々しき事態である。
「見せようとしているのデスから、見えるのは当然デス」
「いや、やめてよちょっと!」
足音はどんどん迫ってきていて、全力で首を横に振って拒絶するのに彼は止まらない。じょうろガードをした状態で後ろに下がってはみるが、距離が開く感覚はなかった。
ズボン越しのケツは見れるけど、局部は見れない。見たくない。たとえ下着をつけていようとも。
これはもう、失礼無礼うんぬんではなく逃走してもよいだろう。そう判断し、駆け足の準備をする。
と、どこからともなく誰かの雄叫びが聞こえた。