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「あああああコンセントー!」
哀れな声をあげてしまう。驚いたのかびくりと背を伸ばす狐を横目に、私はこたつ布団に頭を突っ込んだ。そして仰天する。
「えっ、えーっ!? 電気ないのについてる! コードレス? 充電式? 何これー!」
そう。なんとヒーターが熱していた。コードもなく、スイッチを入れてもないのに。
「はあ? どうなってんのお!?」
べたべたとヒーターを触ってみる。温度調整のつまみはあるけど、他には何もなかった。コード差込口も、スイッチらしきものも、なーんにも。
「さ、審神者どの、何か問題でも」
「問題あるっていうかないっていうか、分かんない!」
半ばパニック。布団越しに狐へ答え、更にこたつの調査をする。車の下で修理作業に勤しむ職人さんのような体勢で。
「えええええセンサーでついたり消えたりするじゃん! うっそ!」
ヒーターから体を引くと電源(?)が落ち、ヒーターに体を接近させると電源(?)が入る。人感センサーも搭載されてるのか! へえー、だからスイッチがないの? ちょっと近未来過ぎない? コードレスにセンサー式……離れ(うち)にも欲しいんだけど!
「うわああ、すごい。いーなーこれ」
感激してこたつへの出入りを繰り返す。足だけ入れてみたり、手をヒーターにかざしてみたり、首まですっぽり潜ってみたり。
「すごーい!」
髪がぼさぼさになるのも構わずはしゃぎ、手足を広げて寝そべった。胸元まで被るこたつ布団の重みが心地よい。手の甲に当たる絨毯の手触りはふわふわでさらさら。ヒーターの放つ熱で、下半身がじんわり温まってくる。
「んー……あったかいー……」
至福の境地。離れの火鉢も趣があって好きだが、冬はやっぱりこたつが一番だ。
無限大の安らぎにぐでーっと脱力。この身全てをこたつに預けてしまいたい。ああ、目が閉じそう。
「あうう、審神者どのぉ」
悦に浸る私に降ってきたのは、狐の粘っこい声だった。寝転んだまま首だけ捻り、そちらを見やる。困りきったような顔した狐が、部屋の隅でもどかしそうに足踏みしていた。可愛い前脚が右、左、右、左、と、畳をたしたししている。
悪かったなあ。ハイテクこたつに夢中になって、この子を置いてけぼりにしちゃってたわ。
「ごめん一人で騒いじゃって。これがこたつだよ」
謝ると、狐がへっぴり腰で歩きだす。髭をピンと張って私の元まで来たその子は、鼻を膨らませてこたつ布団の匂いを嗅いだ。えらく熱心に。
「ふんふん……ほお」
匂いで何が分かるのか。動物の本能? こんのすけも初めて見る食材や料理はすんごくクンクンするもんねえ。
「入ってみる? あったかいし気持ち良いよー。お隣どうぞ」
こたつ布団を持ち上げ右側を空ける。私のお誘いに、狐は「ひええ」と耳を伏せた。その反応にちょっぴり悲しくなりながらも、辛抱強く待ってみる。この子、逃げはしないし、「嫌」とも言わなかったから。私とこたつをしきりに見比べているあたり、考え込んでいるようにも見えた。
待つ。待つ。ひたすら待つ。──狐の耳がひょこりと動いた。
「よ、よろしいのでしょうか?」
「もちろん!」
「わわっ……あの、では、お言葉に甘えて」
っしゃあ! 私の勝ち!
勝ち負けなんかないのに、胸の中でガッツポーズ。テンション爆上がりだ。
「うんうん、いらっしゃーい」
幸せいっぱい。表情筋がゆるっゆる。私のほっぺた溶けてるかも。
「し、失礼致します」
私が作る洞穴のようなそこへ、後ろ歩きで入ってくる狐。引けた腰が可笑しく、でも可愛い。恐る恐るといったところか。
バック駐車が終わったのでそうっと布団を掛けてやれば、狐の顔だけこたつの外に出る形になった。めっちゃくちゃかわいい。癒やし。結界分の距離が歯痒いんだけど、どうしてくれよう。
「どう? どう? あったかくない?」
仰向けから腹這いになり、絨毯に両肘をついて狐に問う。
「はい。尻尾の方は温かいような……」
狐はスフィンクス座りで私を仰ぎ見、耳や鼻をぴくぴくさせた。
「でしょ? 時間が経ったらもっと温もるよ」
「おお、そうなのですか」
「うん」
並んで寝そべるこたつは極楽そのもの。右隣の狐が気になる私は、新しい友達を見つけた時のようにわくわくそわそわしていた。
「ね、君の名前は? こんちゃんは『お供の狐』って言ってたけど、それが名前?」
「わ、わたくしの名ですか? ええ、はい、名というより通称になりますが」
「ふうん……ちゃんとしたのはないの? 『こんじろう』とか『こんざぶろう』とか」
「こっ──! い、いえいえ! わたくしはしがないただのキツネ。鳴狐のお付のキツネでございます」
「お付の狐? うーん、名前ないのかー。……なんて呼んだらいい?」
「へっ? わたくしを、ですか?」
「うん、私に呼ばれるのが嫌じゃなかったら」
「嫌などとは! 少々驚いたまででして」
「ほんとに?」
「はい。ええと、わたくしの呼び名ですが、『お供』であったり『お付』であったり、様々ですなあ。鳴狐には『キツネ』と呼ばれております」
「へえ、そのまんまなんだね。じゃあさあ、『お供ちゃん』て呼んでもいい?」
「へあっ、お、おお、『お供ちゃん』……!」
「あ、嫌だった?」
「滅相もありませぬ! ど、どうぞ『お供ちゃん』と」
「わあ、ありがとう。よろしく、お供ちゃん」
「は、はい。わたくしの方こそ、よよ、よろしくお願い致します」
伏せからお座りになり、深々と頭を下げるお供の狐。だらしない格好でいる私とは違って礼儀正しい子だ。
「はあ……何やら胸がくすぐったいような」
再度私に目の焦点を当てたお供の狐は、亀のように首を竦めてそう言った。面映さが伝わってくる。私までむずむずしてきた。けれど、ほわほわもする。
「へへへ、私もだよー」
こうやって話せることが嬉しい。受け入れられることが嬉しい。
お供の狐はまだ少し戸惑っているようだが、それでも応えてくれた。「よろしくお願い致します」と。
だからきっとね、私とこの子は仲良くなれるなって──なんとなく思うんだ。たとえ時間がかかっても。
次のステップに移れるのはいつだろう。と、胸の躍る未来に想いを馳せた瞬間。
「おお、鳴狐!」
お供の狐がぱっと顔を輝かせた。