03
時の政府のお膝元、異空間に存在する「本丸」という場所で「審神者」として働くこととなった私。来るべき○月×日に向け、着々と準備をしていった。
マンションの解約や実家への引っ越し、住所変更手続き……エトセトラエトセトラ。マンション解約は急だったので違約金が発生したが、これから頂戴する金額を思えばちっちゃいもんだった。
ひとまず実家に身を落ち着けた頃、私宛にでっかい茶封筒が届いた。斉藤さんからだ。どうやら私の任地が決定したようで、そのお知らせだった。それがまたきな臭かったんだけどね。
私の職場となる本丸はワケありのようで、非常に荒れ果てているらしい。土地も、その地に住まう付喪神たちも。
「審神者」一人につき、一つの本丸。本来、新人審神者はできたてホヤホヤの新しい本丸に据え置かれ、一振りの刀剣男士と一緒に審神者生活を始めるそうなのだけれど、どうも私は少し違った道を歩まされるらしい。
審神者が居なくなった本丸に行って、たくさんの付喪神が居る状態でのスタート。最初から仲間が多いなんてプラスに聞こえるが、詳細が記された書面を読めば読むほど、マイナスからのスタートにしか思えなかった。
なんでも、前任の審神者が無茶をしまくったとかで、そこの刀剣男士は心身ともにボロボロの状態なんだとさ。私はそこの盛り返しを任されるみたい。
……ねえちょっと斉藤さん、しょっぱなハードモードって何ですか。こちとら初心者だよ。もっと考えてよド畜生。難易度高いんじゃないかこれ。
綺麗にパソコン打ちされた文章には、「年齢的にも能力的にも性格的にも適任者があなたしかいなかった」とか、「政府はあなたに期待をしている」とか、「危険手当が付くので給料が上がる」とか、都合のいい言葉が並べられていた。くっ、なんじゃそりゃ! 給料上がるのは嬉しいですけれども! 「危険手当」が出るほど危ないんかい!
添付されていたDVDに私の任地である本丸の様子が映し出されていたが、これがまたひどいのなんの。天気悪いわなんか空気淀んでるわ例の武家屋敷は半壊してるわ──ドン引きました。
一瞬、この話をなかったことにしたいと思いもしたが、一度引き受けたからにはやるしかないだろう。できるか、できないかは置いといて。できなかったらソッコー退職願出そう。うん。
とりあえず斉藤さんに「職場マジ不安。変更もしくは手厚いサポートよろしくです」的な電話をしてみたが、上手いこと言いくるめられました。「政府もできないことをやれとは命じません。きっとあなたになら成し遂げられます」ってさ。うーん、信じて……いいのかこれ。
まあでも、そんな、公的機関である政府様が命にかかわるような無謀な命令なんて下しませんよねー。政府様ですもん、人一人命くらい大事に守ってくれますよねー。信じるよ。信じてるから、もし何かあった時はすぐにお迎えに来てくださいほんと。
なんとも言えない気持ちで資料を読み漁り、情報収集に耽った数日間。暗雲立ち込めてそうな先行きが心配になり、モヤモヤとしていたが、その度になんとか心の切り替えをして乗り越えた。
結局、考えても仕方ないのだ。もう決まっていることなのだから。
これまでの人生、大抵どうにかなっていたじゃないか。きっとなんとかなるものさ。
うだうだ懊悩するよりかは、楽しく過ごせたほうが良い。出勤初日までの間は、家族旅行に出かけたり、漫画に囲まれてぐうたらしたり、残された日々を楽しもう。うむ。
そう思い、娯楽に充実した毎日を送りつつ、暇な時は就業規則や要綱などのお勉強をし、時々分からないことを斉藤さんに確認して──。
ついに、○月×日がやって来た。