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こんのすけと堅く抱き交わした後、斉藤さんに電話をかけ現状報告を行った。とは言っても、優秀な補助役狐が既に事の顛末を知らせていてくれたので、私が伝えたことといえば自身の無事くらいである。
「お気楽そうに見えて割りと堅実なあなたが、まさかあんな無茶をするとは思いませんでした」と斉藤さんに笑われ、バツが悪いながらも「自分の力量を弁えていなかったせいです」「一人くらいなら治せるかなーって挑戦してみただけだったんです」と苦しい言い訳をした。斉藤さんや時の政府のお偉方に厳しく叱られることはなかったが、やはり力に頼り過ぎた手入れはもうしないように、と厳重注意を受けた。
ただ、絶対禁止ではないとのことで、緊急時や資材が不足している時等に限っては良いそうだ。もちろん力を使い過ぎないよう、さじ加減をしながらではあるけれど。それが難しいんだよねえ。どうも今回、私は手伝い札に力を引っ張られてコントロールができなかったみたいだし。ああ、今回使った手伝い札、不良品でもなんでもなかったんだって。ただ単に私の力量不足。
「今回の手入れは、あなただけの力では成功しなかったでしょうね」と、斉藤さんにやんわり警告された。こんのすけも言っていたけど、手入れに関する私の力は大したものじゃなくて、資材と手伝い札が補助的な働きをしてくれたおかげで全ての刀剣男士が治せたのだと。……灰色の髪の子の太腿を自分の力だけで治せてしまったもんだから、私は少々調子に乗っていたのかもしれない。
ちなみに、手入れ部屋に持って行ったざるいっぱいの手伝い札と、葛籠から出し廊下に積み上げていた資材は刀剣男士の糧となって消えてしまったらしい。
……はあ、所詮まだまだひよっこ審神者なんだなー。そりゃ経験年数数ヶ月なんだから仕方ないかもしれないけど、新人なりに雇用主の役に立ちたいっていうか給料分の働きはしたいっていうか、安定した人材になりたいっていうか……うー、ベテランまで遠いわ。こればっかりは毎日精進するしかないよねえ。審神者の修行ってどこでどうやりゃいいんだろ。
とりあえず、怪我の功名ではあれど全刀剣を全快させることができたため、あの子たちが下手こいて負傷さえしなけりゃしばらく手入れは必要ないだろう(と信じたい)。鞭を鳴らして付喪神たちを戦場に駆り立てる予定もないし。
いやもし刀剣男士のうちの誰かが協力してくれるっていうなら甘えますぜ? 給料減額、ボーナスカット防止の望みは捨て切っておりませんぞ。家族旅行のためにも私にはお金が必要なんじゃい。あー臨時収入とかないかな。付喪神はいいから舞い降りろ福の神。
ええと、ま、いろいろ話し合ったけど、最終的に「力のみを使う手入れを行う際は、事前にこんのすけか斉藤さんにきちんと相談する」、ということで本件の対策はまとまった。要は行き当たりばったりで自力手入れすんな、ってこと。
灰色の髪の子の太腿の傷を治した時(これは不慮の出来事だよね)も、黒髪の子の「お願い」をきこうとした時も、思い返せばちょっと情動的になり過ぎていたかもしれない。二十越えたいい大人なんだから、もっと冷静にきちんと考えて──でも、私も心ある生き物だし? 人(神様だけど)相手の仕事って、どうしても感情が伴っちゃうからさー。うーん。
心の端で反省したり悩んでみたりしながら話を進め、電話の終わりに斉藤さんから今後についてのアドバイスをもらった。
「まずは刀剣男士の出方を窺い、友好的なものがいれば出陣要請をしてみてもいいかもしれません。無理そうであれば……減給は免れませんが、諦めるしかありませんね。あなたの命が最優先ですし、歴史修正主義者との戦局に関してはまだこちら側が優勢を保てていますので。……そこに居る刀剣男士は、みな人を忌避しております。今回の手入れで少しは心を許してくれていれば良いのですが……しかし、結局は気長に距離を縮めていくしかないのかもしれません。あまり気を張らず、頑張って下さいね」
胡散臭さの欠片もない、なんとも真面目でまともな助言に少々驚いたが、ありがたく受け取っておくことにした。
新人審神者な私の担当官である斉藤さんは、腹黒そうだけど根は良い人(と信じたい)で、心強い味方なんだよね。敵には絶対回したくないタイプだけど。ははっ。……いやマジで。
「ありがとうございます。焦らずぼちぼちやっていきますね。せっかくお手入れできたのに、ジカンソコーグンとの戦いには貢献できるか分からなくてほんっと申し訳ないです。斉藤さんに皺寄せがあったらすみません。また困ったら連絡させてもらいます」
真摯なアドバイスと励ましの言葉に礼を言い、通話終了ボタンに指を近づければ。
「ふふ。いえ、お気になさらず。時間遡行軍の討伐においては代替措置もありますので」
「? えっそれ、な」
「では、失礼致します」
「え、ちょ斉藤さ」
……ツーッ、ツーッ。
くっそ切りやがった! なに代替措置って。それ前も匂わせてきたヤツじゃないの? なんか重大そうな、私にとって有益そうな情報っぽくない? いやそれは教えろ教えとけよ斉藤この野郎嫌がらせかっ。
思わずリダイヤルしそうになったが、斉藤さんだって忙しいはず。そう再々私だけのために時間を使わせるのはよくないだろう。「代替措置」が何かはかなり気になるけれど、火急の要件というわけではない。……また次の機会に聞いてみよう。答えてくれる可能性は低いかもしれないが。
あー気になる。すっきりしない。
携帯を握り締めていた手を緩め、私は力なく溜息をついた。