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なんで、どうして、こんなことに。
なぜ私はこんなメに遭わなきゃならないのか。
そんなに私は悪いことをしてしまったのだろうか。そりゃあ、彼らを治す動機はいささか不純だった。でも情け心がないわけじゃなかったし、慈悲だって確かにあった。痛々しい怪我をなんとかしたいという思いは彼らにとって有害で、私は彼らを治さない方が良かったのだろうか。
そんなに私は悪者なのだろうか。重犯罪を犯したわけでも、非道徳的な行為をしたわけでもないのに、なぜ? なぜ、ここまで嫌われる? 私が鬼や悪魔に等しいような人格破綻者だからとでもいうのか。
ううん、そんなことない。私はあの子たちに嫌がらせなんてしてないし、鬼畜生でも羅刹でもない普通の人間だ。普通の家庭に生まれて普通に育って、今まで普通に生きてきた。そんなことはない、はず。
そんなことはないはずだけど、でも、じゃあ、なんでここまで嫌われるの? それはやっぱり、私に問題があるから? ……そうかもしれない。そうだったらどうしよう。
とんでもなく自分がおぞましい生き物なのではないかと疑ってしまう。自分で自分を否定してしまう。
私はそんなに、ヤなやつなのか。こんなに忌諱されるくらい。
それとも、前の審神者と同じ「人間」ってだけでこんな態度をとられてる? こんなに嫌われてる? 私が人じゃなかったら、あんな態度を取られたりはしなかったのだろうか。
なんだろう。なんでだろう。わかんないけど、もう、本当に──。
辛い。悲しい。むかつくし、ひどく悔しい。自分も嫌で、あいつらも嫌だ。
ここの刀剣男士は前の審神者に受けた仕打ちのせいで人間不信になっている、って知っていたから、回復した付喪神にもある程度厳しい態度をとられても仕方はないと思っていたし、そうなる可能性は十分にあるとも予想していた。最悪、総攻撃を受けるかもしれないとすら考えていた。
言ってみれば、これは起こるべくして起こった出来事なのだろう。
でも、いざこうなってみて辛いのはどうして?
気構えが不十分だったのか。私の心が弱かったのか。
あんな夢を見たからいけなかったのか。関係が良くなるのではと僅かでも期待してしまったのがいけなかったのか。
一人くらい自分と向き合ってくれる神様がいるんじゃないかと、夢見た私が馬鹿だった。
半ば事故のようなものとはいえ、三日も意識を失ってしまうほどに力を使い、全ての刀の傷を癒しても、そんなの私の自己満足だったのだ。お願いをきいてあげなきゃ、応えてあげなきゃ、なんて、取るに足らない私の勝手な思いで、あいつらには知る好のないことなのだ。
これだけやったんだから少しは受け入れてくれるでしょ。なんて、知らず知らずのうちに心のどこかで思い上がっていたのだろう。
だから今、こんなに辛くて落胆してるんだ。ほとほと愚かな自分に嫌気が差す。
最初から交流のあった黒髪の子だって、今あんな態度をとってみせている。所詮、あの子も……あの子も青色の髪の子も灰色の髪の子も、あちら側なのだ。……そんなの、分かっていたはずだったのに。
この数ヶ月、大したことはしてないが、それでも日々何かを積み重ねてきたつもりだった。辛抱強く待っていたつもりだった。
あの三人の風当たりが少しずつ、微弱ながらも和らいできたのは、その成果かもしれないと。自分ではそう思っていたのに。こんのすけだってそう言ってくれていたのに。それはやっぱり思い過ごしで、私のはなはだしい独りよがりだったのだ。
振り出しに戻った? それとも何をやっても無駄? 何もしないでもだめ、何かをしてもだめ、どうしろというんだ。
こんなに憎まれて、恨まれて、蔑まれて。どこか小馬鹿にされているような気すらする。
もう嫌だ。投げ出したい。家に帰りたい。辞めたい。
心が痛くて、涙が止まらない。
刀を振るわれても、辛辣な言葉を投げられても、怒鳴られても、無視されても、冷たい眼差しを向けられても、全部飲み込んで、耐えてきたっていうのに。
どんなに理不尽だと感じても、どんなに前途多難でも、泣きも怒りもせず、なんとかなるでしょ、と流してきたのに。
こんのすけがいるから大丈夫。何があってもやっていけると、前を向いていたというのに。
涙が出たのは初めてで、そして今、この仕事を初めて本気で辞めたいと思ってしまった。どうしたらいいのか分からない。心の中がぐじゃぐじゃだ。
あちらの数が多くなった、というのも精神的なダメージを受けた要因なのだろう。直面してみてよく分かった。多勢に無勢とは、こんなにも辛いことだったのか。
三人と五十人とは全然違う。だいたい、二十数年生きてきた中で、こんなに大勢から一挙に嫌われる経験なんてなかった。それも、殺意を抱かれるほどに強い嫌悪感を向けられることなんて。
私が彼らに直接何かをしてこうなったのなら分かる。でもそうじゃない。そうじゃないでしょう。
あいつらにひどいことをしたのは前の審神者で、私じゃない。私じゃないよ。私じゃないのに。
あんたたちのされたことはすごく酷いものだったんだろう。ここまで人間不信になって、トラウマになっちゃうくらいなんだから。そこは不憫に思うし、できることがあるなら力になりたい。
でもそのトラウマは無関係の私を傷つけてもいいものなの? 私はどこまで我慢して耐えればいいの?
今までずっと、「しょうがないから」「人間不信だから」と受け流してきたけど、もう、無理だ。
「こんちゃん」
とめどなく流れる熱い涙をそのままに、小さな狐の名を呼ぶ。彼はしゃがんで泣き続ける私に声をかけることなく、私の斜め前に静かに座っていた。
顔を覆っていた両腕をずらせば、視線が合う。二つの黒い瞳は痛々しい物を見る目をしていた。私を哀れんでいるのかもしれない。それもそうか、私は今、すごく惨めだ。
この胸に渦巻く激情。こんのすけには言えないと思った。だってこの子はあいつらと面識があって、というか、昔の仲間なのだ。そして、こんのすけはあの子たちを気にかけているし、あの子たちを嫌っていない。
一言でも吐いてしまえば、私は勢い任せで付喪神らを口汚く罵ってしまうだろう。それをこんのすけに聞かせて困らせたくはないし、これ以上醜い自分を晒したくもない。
「夢ってね、誰かに言っちゃうと正夢にはならないんだよ」
自ずと口元がひしゃげ、歪な笑みをつくる。自嘲だった。鏡はないけど、自分がひどくゆがんだ表情をしていることは分かる。
傍らの小さな狐はただただ悲しそうに眉間に皺を寄せるだけで、何も言わなかった。