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刀剣男士の許可を得られたので、ただちに片付けに取りかかる。こういうのはちゃちゃっとやってしまうのが吉だ。早く綺麗な部屋にして式神を喚び出したいし、とっとと包丁直してもらって自分のテリトリーに戻りたいし。ここに長居しても碌な事にならないだろう。
離れからゴミ捨て用の四次元葛籠を持ってきて、きったない畳やボッロボロの障子襖を次々にポイしていく。これ、爽快感があって地味に楽しいんだよね。大きい物がひゅーんと葛籠に吸い込まれていく光景は、何度見ても面白くて摩訶不思議。ドラえもんのひみつ道具みたい。
畳を持ち上げたり、襖を外したりと中々な力仕事であったが、こんのすけの差配のもと全て一人でやり遂げた。刀剣男士? 手伝っちゃくれませんよ。こっちを観察してるだけですよ。へっ。まあ、あいつらに力を貸してもらおうとは思わないし、頼んだところでどうせ協力なんかしてもらえないんだろうけどね。
私の監視にと集まった付喪神たちは、この前みたいに大勢ではない。だいたい十五人ちょいくらいで、廊下や隣の座敷をうろついたり、こっちを眺めてきたりしている。ずっと同じ神様が見張りについているわけではなく、短い間隔で適当に入れ替わりをしているようだ。
数分じーっと私を見て、退場、次の刀剣男士にチェンジ。んで、私の観察をして退場、更に次の刀剣男士にチェンジ。……なんだか動物園の猿にでもなった気分。見せもんじゃないってのに。
なんとも言えない居心地の悪さを感じつつ、黙々と作業する。そんな中、こんのすけが「手伝う気がないのであれば、もっと離れた所へ下がってくれませんか。邪魔ですよ」と付喪神たちを追い立てていてヒヤリとした。私の行く先に佇む神様へ向かい、背を丸めて四肢を踏ん張る小さな狐は──獣が敵を威嚇するかのようで。
「図体ばかりが大きくとも、役に立たなければでくの坊ですなあ」「おなご一人に肉体労働をさせるとは、情けのうございますなあ」と、こんのすけは事あるごとにちょくちょく神様ディスった。こんちゃんどうしちゃったのなんでそうチクチクしてんの。あんまりあいつらの気を立たせるようなことは言ったらあきまへんでえ!
気を揉みながら小さな狐と神々のやり取りを見守り、時に「こんちゃん、しっ! だめだよ」と嗜めてみる。こんのすけがいつあいつらの逆鱗に触れ刀を抜かれないかと気が気でなかったが、そんな殺伐とした事態にはならなかった。
色々と嫌味のような事を口にしていた小さな狐に対し、付喪神たちは渋い顔をする一方、手を出そうとはしなかった。苦笑いをしたり、「厳しいことを言うなあ」と頭を掻くものもいて、決して物騒な空気は流れなかったのだ。こんのすけの些細な悪態は甘受されているようであり、それどころか一部ではどことなく和やかな印象も受けた。やはり、古くからの知り合いだからか。
こんのすけとあいつらの目に見えぬ繋がりを感じ、昔なじみと仲良さそうで良かったなと思う反面、一抹の寂しさを覚える。……やきもち、なのかもしれない。先の細い針で突かれたような胸の痛みは、つまらない疎外感が原因か。
きっと、刀剣男士はこんのすけを攻撃したり、傷付けたりはしないのだろうなあ。
心の奥でそう悟り、少しだけほっとした。小さな狐の「安全」が確固たるものとなるのは良いことである。可愛いあの子に危害が及ぶ可能性が低ければ低いほど、安心だ。
じろじろ観察されながら若草色の畳を敷き詰め、新品の障子襖の取り付けも問題なく終えた。ついでに、用無しとなった盛り塩も撤去。その頃には汚臭はすっかり消え失せて、代わりにイ草の濃い香りが部屋いっぱいに広がっていた。この青臭さがすごく好き。思わずたくさん深呼吸をしてしまった。
最後の仕上げで傷ついた柱や梁、土壁の修復を行う。春の離れの掃除、夏の御殿の大掃除の締めと同様、私の力と資材を混ぜて部屋全体に行き渡らせればあら不思議。瞬く間にどこもかしこも新築同然になります。原理がほんっとちんぷんかんぷんだけど、すごいよねえ。これ現代でも使えないかな。
謎に包まれた修復を施した際、周囲から「おお」「すげえ」という声がいくつかあがって、その時ばかりはあいつらへのむかつきも忘れちょっとだけ得意になってしまった。どうよどうよ。すごいでしょ? ここだけじゃなくて他の場所も私とこんのすけでピカピカにしたんだぜー。
刀剣男士たちの反応がちょっとだけ面白くて、ついついあいつらを盗み見してしまう。仏頂面は崩れ、目を丸くするだけでなく口が半開きになっている神様も少数いた。
この間の手入れで元気になった付喪神の表情といえば、怒りや憎しみ、拒絶に真顔ばっかりだったけど、へえ、こんな顔もするんだなあ──……あ、やば。目が合っちゃった。
チラ見のつもりだったのに、何の拍子かきょろきょろと室内を覗き見ている金髪の神様とかっちり視線が交わう。かと思えば瞬時に目を逸らされた。私に驚いているところを見られて嫌だったのか、恥ずかしいのか、彼はほのかに頬を染め、どこかバツが悪そうにむうと唇を尖らせる。
おやまあ、人間らしい形相だこと。神様ってのはもっと無感情で、淡白で、無の境地にいるようなモンだと思ってた。彼らと出会ってからというもの、私の中の神様像がどんどん変わってゆく。……刀剣男士以外の神様もこんな感じで人間臭いのかな?
ぼんやりと考え、金髪の付喪神から目を離す。そういえば今の神様も片目が隠れてなかった? 眼帯の人と鶯色の頭の人とは反対の左目だったっけ。途中まで編み込んだ髪を耳の辺りで一つ縛りにして、おしゃれな髪型してたなあ。汚れてるけどヘアゴムに可愛いぽんぽん付いてたよね。
「主様」
ぼうっと突っ立っていた私へ声が掛かり、目線を下ろす。小さな狐の朱く縁取られた口が機嫌良さそうに弧を描いていた。
「お見事にございます」
「ふっふーん」
褒めてくれたこんのすけへ意気揚々と笑顔を返し、エッヘンと腰に手をやる。年甲斐もないがたまにはいいだろう。
「掃除と、建物の修復に関しましては一流ですな」
「え、ちょっとなにそれ」
得意満面な顔から一転。聞き捨てならない言葉に眉を顰めてみれば、管狐は小さな肩を震わせてころころと笑った。
「もー、こんちゃん! ひっどーい」
「いえ、申し訳ありません。悪気はなかったのですが」
「ええ? そうなの? ……いやそれはそれで傷付くんだけど!」
「ほらほら主様、油を売っている暇はありませぬ。式神を喚びますよ。さあ、式札を」
「えーっ、んもお」
からかわれて、流されて。
ポケットから取り出した式札へ促されるままに力を送ってみれば、白い光が生まれ出た。それはみるみるうちに形を変え、はっきりと具現化していく。
喚び出した式神は、小さな小さな人の姿をしていた。