雪解け - なんとはなしに

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 離れに戻り、台所や畳間の行灯に火を燈す。電灯のように白く煌々としてはいないが、明かりとしての機能は十分だ。オレンジ色の暖かくて優しい光は見ていてほっとする。我が家の夜に、もはや蝋燭は欠かせない。
「葛籠、葛籠っと……あ、こんちゃん提灯ありがとう」
「いえ。これしきの事、造作もありません」
 四次元葛籠を畳間の奥から出してくると、上がり框に手下げ提灯が置いてあった。こんのすけが土間の棚から引っ張り出してくれたようだ。
「中身入ってないよね? 小さいのでいい?」
「はい」
 ミニサイズの提灯にはミニサイズの蝋燭を。
 蝋燭を仕舞ってある箱を探り、手頃な大きさのものを掴む。それを蝋燭立てに取り付け、火をつけた。そっと火袋を広げれば、古めかしい照明器具の完成だ。
「こんちゃん、これほんとに持つの? 熱いんじゃない? 火傷したらいけないし」
「心配ご無用。棒が長めですので、しっかりと横に咥えれば問題ありません」
 言うなり、こんのすけは手下げ提灯の棒をさっと咥え、戸口へ歩いていってしまった。これはもう、放さないだろうな。私に持ち手を譲る気はないらしい。前々から知ってはいたが、頑固な狐である。
「ええー、大丈夫? うーん……熱かったらすぐ替わってよ。あんまり揺らさないようにね」
 蝋燭は深めに挿したのでそうそう倒れたりはしないと思うが──それでも少々不安だった。危なそうであれば無理やりにでも持つのを替わろう。私の力で癒えるとはいえ、こんのすけが火傷なんてしたら大変だ。
「あ、そうだ」
 小さな狐を追おうとして、不意に思い立つ。
「ちょっと待ってね……」
 御殿へ出向く前に、念のために斉藤さんにメールをしておこう。どうせ後で政府宛てに日報を送るから、要らないかもしれないけど……。
 作務衣のポケットから携帯を取り出し、ぱぱっと文章を作っていく。「刀剣男士に新しい服を配る事になった。支給品を使わせてもらう」という旨を、簡潔かつ丁寧に書いて送信した。こういうちょっとした連絡というか報告というか、実は割りとこまめにしていたりする。胡散臭さを感じながらも、なんだかんだ私は斉藤さんを信頼しているのだ。
「ごめん、今行く」
 送信画面が消えるのを待って、携帯をポケットへ戻す。手下げ提灯を携えたこんのすけは、開きっぱなしの戸口の手前でじっと待機してくれていた。
「よいしょ」
 両手で抱えた葛籠はそれなりに大きな見た目をしているが、全然重くない。こんなに軽いのに色々な物が無限に出せるなんて──ほんと、不思議で便利な未来の入れ物だこと。
 ちなみに、手入れ部屋の片付けに使ったゴミ捨て用の葛籠は御殿に置いたままにしてある。付喪神たちが今着ている服は汚れ過ぎでボロボロで、どうやっても再利用できそうにない。更衣後の血みどろの衣類は、神々の了承のもと、葛籠に放り込んで破棄することになっているのだ。
 こんのすけの後に続いて離れを出れば、晩秋の冷気が体を包む。吐く息はうっすら白い。厚めの作務衣の下にヒートテックを着ていても、身震いするような寒さを感じた。
 ……冬は近い。来月はもう十二月で、再来月には年が明ける。時の流れの速さに、心の底で僅かばかり驚いた。
 提灯の情緒ある明かりに導かれ、池をぐるっと回り込む。遠くでポチャンと水音が鳴り、また尾黒が跳ねているのだろうかと音のした方を一瞥したが、闇のせいで何も見えなかった。
『して欲しい事とか、望みとか……あんまりない』
 黒い宙をぼうっと眺めていると、どういう弾みか己の発した言葉が頭の中でリピートされる。
 ──あの答えで良かったのかなあ。
 歩みを進めながら自分の胸に訊いてみても、やっぱり正解は分からない。
 いくら私が考えたところで解が求まらないのは、当然かつ仕様がない事なのだろう。私の正直な気持ちが良いものか悪いものか、望む答えと成り得たのか……それを判断するのは、他でもないあいつらなのだ。

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