小話 - なんとはなしに

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「離れに居る人間って、どんな方なんでしょうね」
 粟田口の短刀が勢揃いする奥座敷で、五虎退はぽつりと呟く。それはこれまでに幾度も話題となったものだった。
 彼を始めとする粟田口派の短刀は、人による害を恐れた一期一振の指示によって、様々な縛りを設けられていた。外歩きはもちろん、縁側に出ることや、格子戸から顔を覗かせることすら禁じられていた。要するに、離れに住まう女と一切の接触を絶たれているのである。
 秋田藤四郎が所在不明となった件もあり、一期一振の憂き心は弟らもようよう存じてはいた。が、ここまで過保護にされ、守られ続けるのはどうかと反発心を抱く刀もいる。幼い容姿をしていても、皆自立し、自我を持った付喪なのだ。決して、庇護されるだけの存在ではない。
「小夜ちゃんは怖くないって言ってたよね」
 乱藤四郎はぷっくりとした唇の端を人差し指で押さえながら、考え込むように首を傾ける。
 離れの人間と関われない分、情報を得るには他の刀剣男士に聞いて回るしかない。ただ、誰に尋ねてもそう悪い答えは返ってこず、短刀たちはそれが不思議だった。姦人でもなく、先の審神者のような人間とも違うのであれば、なぜ自分たちは隠されたままなのだろう、と。
「はい。鯰尾兄さんに聞いても、濁されてしまいます……」
 今年の春先にやって来たという新たな審神者。自分達を治した人間。
 彼女は先日、料理包丁の手入れで御殿を訪れていたというが、来訪中特に争うような音はなく、誰かが暴れている気配もなく。兄たる脇差、骨喰藤四郎によると、女は用事が済むなり離れへ帰っていったらしい。また、岩融の試すような問いに対し、「何も望まない」「好きなことをして自由に過ごせ」と返答したとも、短刀たちは小耳に挟んでいた。
 浮かない顔で俯いた前田藤四郎に続き、平野藤四郎は「そうですね」と同調する。
「にっかりさんから、今居る審神者は呪いも言霊も使えないと聞きました。審神者であることを除けば、ただの百姓や町娘のよう……だそうです」
 おずおずと口を開いた五虎退。
「ああ、畑で農作業ばっかりしてるんだっけ」
 風の噂を思い出す信濃藤四郎。
「野菜ばいっぱい作ってどげんするとね? 商売か?」
 金銭絡みであれば、と目を光らせる博多藤四郎。
「いや、商売は違うだろう」
 冷静なツッコミを入れる薬研藤四郎。
「人妻かなー? 独り身かなー? 俺は一番そこが気になる! 人妻だったら、優しい人間かもしれないぞ。人妻は頭撫でてくれるし、お菓子くれるし、最高だよね」
 ずっと昔の主が囲っていた妻室らを想起しながら頬を緩める包丁藤四郎。
「人妻かどうかは知らないけど、庭でお花を育ててて、池で鯉も飼ってるんだって」
 いつぞや耳にしたことを口にする乱藤四郎。
 御殿の奥で繰り広げられる会話はどんどん膨らみ、離れの人間に関するデータが短刀らの中で共有される。されど、それらは全て人づてに聞いたこと。いまいち確信を持てず、そして、イメージもわかない。
「悪い奴、だと思うか?」
「……分からないし、分かるわけねえよ」
 後藤藤四郎が柱にもたれ掛かって兄弟へ問い掛けると、厚藤四郎が先んじて返事をする。双方、不満や鬱憤をしこたま溜め込んでいた。
「一回見ただけで、話したこともないんだ。いち兄、当分は俺たちを外に出す気ないぜ。そのうち百年くらい経っちまうんじゃないか」
 やや不機嫌そうな声音に、皺の寄った眉根。彼は先日、座敷を抜け出す最中に兄に見つかり、叱責されていたのである。
 直接的な見聞きを禁じられ、新たな審神者の資性を己の思考で判断できないもどかしさ。籠の鳥のような生活。隔離された暮らしは一月経とうとしており、何もかもがストレスに繋がっていた。
 現状に飽き足らない短刀らではあったが、兄の心をないがしろにしたいわけではない。求める自由と兄への情は常に相反していて、両立しないのだ。
「秋田のことがあったから、いち兄がああなるのも仕方ないのかな……」
「俺たちを思って、っつうのは解っちゃいるさ。だからといっていつまでもこのままなのはちょっと」
「考え物だよな」
「……はい」
 ちらほらと共感の声があがり、時を待たずして静けさが生じる。各々、複雑な胸懐のもと物思いに耽っていた。

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