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審神者の補佐にと、政府が使わす管狐のこんのすけ。普段は主人に付き従っているのだが、その日、女は実家に帰っており、本丸を不在にしていた。
主が留守ということで、こんのすけは女に代わって畑や庭の見回りに精を出す。人の体は持たずとも、草むしりや害虫の駆除くらいであれば彼にもできる。行く先々で出会う刀剣男士に挨拶をしながら、小さな狐は黄色と白の尻尾を振って本丸内を巡るのであった。
「おはようございます、大包平。よい朝ですね」
「ああ。いい天気だな。今日は一日晴れそうだ。……おい、髭に泥がついてるぞ」
「おや、そうですか。畑で少々土いじりをしましたので」
「一人で、いや一匹でか?」
「ええ。主様のご不在中、花や作物に何かあってはいけません故。では、失礼」
怪訝そうな顔の付喪神を残し、巡回に戻るこんのすけ。そんな彼のもとに、来訪者が現れた。
「やあ、こんのすけ。少し聞きたいことがあるんだけど、今いいかな?」
爽やかな笑顔で小さな狐を呼び止めたのは、白菊のごとき美青年、亀甲貞宗だった。
*
「君のご主人様は今日も居ないんだね」
「はい。ですが、夜にはお戻りになられますよ」
「へえ、そうなんだ。どこに行っているんだい?」
「ご実家です。ご家族にお会いになられるのはもちろん、今回は所用がお有りだと伺っております。──それで、話とは? 主様の故郷やお身内についてですか?」
「いいや、違うよ。じゃあ、本題に移ろうか。ふふっ」
「……何やら邪な笑みですね」
「邪ってひどいなあ! そんなことないのに」
「おや、これは失敬。妙に禍々しい気配を感じた気が」
「意地悪だね。ぼくはいつだって純粋無垢だよ。……ねえ、君はしょっちゅうあの人に頬を抓られたりしているの?」
「? いいえ。冗談が過ぎた時や、主様にとって不都合が生じた時のみにございます。乱暴を働くような方ではありません故」
「だいたいどのくらいの頻度?」
「ふむ……そうですね、月に一度あるかないかでしょうか」
「……少ないな」
「少なくて良いのです。お叱りが多いのは恥ずべき事ですし、私も主人の不興はそうそう買いたくありませんので」
「はー、なるほどお。ぼくにも分かるよ。構っては欲しいけど、本気で怒らせたり、不機嫌にさせたくはないよね。それはそうと、あの人のお仕置きは痛むのかい?」
「全く」
「だろうね。君、全然辛そうな顔をしていなかったから」
「ええ、辛さなど微塵もありません。我が主は痛くないようにと、必ず手加減をして下さいます。罰になっていない罰ですね。もちろん、主様のお心はしかと汲み取り、己の行動を振り返りはしますが」
「いいなあ、愛があるんだね」
「愛。……愛かはわかりませんが、恐れ多くも大事にしていただいております。私は果報者です」
「……羨ましいよ。ぼくたちは前の審神者に愛されなかったし、今の審神者にも必要とされてない」
「亀甲貞宗……」
「ごめん、湿っぽくなっちゃったね。聞き流してくれないかな。で、お仕置きの種類を教えてよ。この前は頬を抓られていたけど、他には何かないのかい?」
「仕置の種類? ううむ、そうですね……頬を摘んで伸ばされたり、額を指一つで押されたり、腹をくすぐられたりでしょうか。ああ、稀に尾の付け根をとんとんとされることも──」
「なんだって!?」
「ど、どうしたのです、急に大声なぞ」
「尻叩き……尻叩きじゃないか!」
「いえ、叩くというより」
「尻叩きっ!」
「ですから違うと──亀甲、これ亀甲貞宗。そう興奮するものでは」
「ああ、すごいっ……そんなことをされるなんて。ぼくもそのうち」
「いけません。邪です。禍々しいです。念の為に言っておきますが、間違っても主様にそのようなお願いをしてはなりませんよ」
「うんうん、わかってるよ! 自然にそうなるようにするさ!」
ひゅるり、と秋の終わりの北風が縁側を吹き抜ける。身も心も薄ら寒くなった管狐は、「ああ、だめだこいつは」と、小さな胸で嘆くのであった。