小話 - なんとはなしに

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 和泉守兼定による一悶着を経て、なんだかんだと着替えを済ませた刀剣男士。三日月宗近と共に夜空を眺めていた女は、全員の更衣が終わるや否や葛籠を持って離れに戻っていった。
 彼女が一日の疲れを風呂で癒している間、明かりのない暗い御殿で始められたのは厳かな討議。最も広い座敷に、六十もの付喪神が集うていた。本日女を間近で見て、女の人となりを知ったうえでの談合である。
 主な話し合いの議題は二つ。
 離れの人間は危険か安全か。今後の対応をどうしていくか。
 どちらも様々な意見が出たが、害の有無に関しては、「無」という答えでほぼまとまった。
 女を囲む結界、そして女が式神を喚ぶ際に使った力から禍々しさは感じられず、前任の審神者と比較しても霊力はかなり低い。万が一に彼女が攻撃を仕掛けてきたとしても、容易に対処できるだろう。また、女は神々にさして興味がなさそうであり、若干よそよそしくはあれど、そこに敵愾心は窺えなかった。
 危うげな執着や激情的な横暴さもなく、和泉守兼定の煽りを歯牙にもかけない。こんのすけとのやり取りを見る限り温厚で、よく笑う。刀剣男士らは人柄も含めて女の危険性を推し測り、それは決して高くないと、改めて判断した。
 では、今後の対応は? 自分達に何も望まず、好きに過ごせと言った女と、これからどう接していくのか。
 討議は長時間に及び、主張や見解は多岐にわたった。
 あの人間ならば歩み寄っても大丈夫なのではないか。
 気を許すのは早計であり、まだ様子を見た方がよいのではないか。
 悪い人間ではなさそうだが、今従うのは如何なものか。
 早々に「主」の座へ就いてもらわないか。
 相互理解へ意欲的な神と、依然警戒している神と、その中間と。グループはおおよそ三つに別れていて、その割合は、和解へ意欲的なものが半数、不信を緩めぬ神が十ほど、残りは中間。と、こんなものであった。女と直接関わったことのない短刀らは、自身の気持ちを考えあぐねているようであり、中間ともなんとも言えないが。
 女が風呂から上がり、寝る準備を済ませた頃も意見は飛び交い続け、あっという間に時が進む。二時間を過ぎればもう、同じ流れの繰り返しであった。
「そろそろ静まらんか。子らの考えはようわかった」
 堂々巡りの膠着状態。一向に収まらない場に辟易とし、徐に口を開いたものがいる。全ての刀剣の祖、小烏丸だ。
「各々、好きにすれば良いだけのこと。これだけ多くの神が寄り合えば、そう易々と一枚岩にはなれぬものよ。まとまるわけもなかろう。逐一統一した行動をとるというのは、骨が折れるし難儀よなあ」
 小さな唇から長い長い息が吐かれる。騒然としていた座敷は、水を打ったように静まり返っていた。
「話しかけるも自由、避けるも自由。ただし、突拍子のない行動は避けよ。拒絶するにも、受け入れるにも、な」
 声音に仄かな鋭さを含ませた小烏丸の隣で、獅子王が顎に手をやり、「ううん」と、悩みを表すように呻く。
「突拍子のない行動、っつっても……」
「そうだのう。例えば、一期一振。憎しみに駆られ、勢いで斬り殺してしまわぬように。そして、へし切長谷部。主を求める欲に溺れ、過剰に尻尾を振らぬように」
 名を呼ばれた二振りに、小烏丸の忠告がチクリと刺さる。どちらも心当たりがあるのか、一期一振とへし切長谷部はバツが悪そうに目を伏せた。
「……そうよのお。主と定めるにしろ、追い出すにしろ、重要なことはまた話し合えばよい。我らの心が動く刻が来れば」
 どこ吹く風の父なる刀がさらりと締めるが、誰も異論を唱えない。誰も彼もがこのまま弁舌を振るったとして、平行線をたどるだけ。冗長な討議で疲れの色を滲ませていた神々は、薄々そう思っていたのである。
 それぞれが好きに動きつつ、突出した行動を慎む。小烏丸の出した妥協案は現時点では一番良く、言い方を変えれば差し障りがなかった。つまり、無難な落とし所なのだ。
「機が熟すまではみんな程良く勝手にやろうね、ってことでいいのかな?」
「ほ、程良く勝手に? 兄者、もう少し言い様が……」
 のんびりとした口調の髭切。そんな兄へ生真面目な視線を注ぐ膝丸。ピリピリしていた座敷の空気がゆるゆる和らぎ、お開きムードが漂いだす。
 そこに、日本号の声が低く響いた。
「見張りはどうする」

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