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刀剣男士は皆、忠義に厚い。彼らは時の政府との盟約に従い、自身を顕現した人間を「主」と定め、敬意と親愛を持って仕える。
風の凪いだ秋の庭。夜影に包まれている二口もそうだった。──かつては。
現世に降ろされて間もない頃、巴形薙刀もへし切長谷部も、先の審神者の良き臣下であろうとしていた。しかし、無情な男は彼らに何の興味も示さず、ぞんざいに扱うばかり。血も涙もない非道な命を気まぐれに下し、歯向かうものなら容赦なく言霊を振るう。
疲弊した神々に反発心が芽生えた頃、先の審神者は追い打ちをかけるように辛辣な台詞を贈った。
「お前たちの主人になったつもりはない」「主と思われても困る」と。
感情のこもらぬそれに、へし切長谷部を含む付喪神らは失意のどん底に落とされた。
いつかは愛してもらえる。いつかは大切にしてもらえる。いつかは解り合える。
心を憎しみに染めながらも、そんな希望を捨て切れなかった刀剣男士への最後の一撃。以降、へし切長谷部も巴形薙刀も、男を「主」と呼ばなくなった。先の審神者に拘らなくなった。意志に沿おうとも、理解しようとも思わなくなった。彼らの中の一番が、「主」から「仲間」に変わったのである。
──であるが、ここ数日でそれも変化しつつあった。今のへし切長谷部が良い例だ。
*
「俺は戻る。手が要るようになれば声をかけろ」
虫も鳴かず、無風の庭は静かで、薙刀の淡々とした声が際立つ。へし切長谷部は驚きに目を見張り、絶句した。彼はそんなことを言われるとは夢にも思っていなかったのだ。
何故人の持ち物を探しているのか、探し出してどうするのか、あれやこれやと根掘り葉掘り聞かれ、最悪の場合邪魔をされるかもしれない。苦い気分で考えていた打刀だったが、そうはならなくて。
「最良の結果を出せるとよいな」
巴形薙刀は淡白なまでに身を引いた。へし切長谷部の旨意を悟った彼は、その想いを尊重したのであった。
──ただ、毎回そうするとは限らない。巴形薙刀は巴形薙刀で、離れの人間に興味を持っていた。彼女と管狐の関係を、心密かに羨んでいた。
瞠目しているへし切長谷部を見下ろしたまま、梅紫の眼がうっすらと細まる。
「次は俺にも役があると嬉しい。手柄の独り占めは狡いぞ」
「なっ」
薙刀の一言にカッとなる打刀。腹の内を全て読まれていたことを察知し、恥ずかしいやら不愉快やら。
「それと」
ほんのりと頬を赤らめたへし切長谷部へ、次なる言葉が放たれる。
「もし、あの人間が我らの主になったその時は」
たっぷりと間が置かれ、水色に彩られた唇がゆっくりと動いた。
「──譲れ」
「断る!」
本丸の夜に咆哮が響く。遠くの山々に反射し、木霊さえ聞こえてきそうな大声だった。だが、泥のように眠っている人の子の耳に届くはずもなく、彼女はすうすうと寝息を立てて、腕の中の管狐に頬を寄せるのであった。