小話 - なんとはなしに

02


 刀剣男士の話、人間の話、天候に太陽の話。他愛ない会話の中、髭切と膝丸は女を事細かに観察していた。瞬きの数や瞳の些細な動き、上がり下がりする口角、眉の形や角度……今日の彼女の表情は、神無月の頃とは違ってまことに豊かだ。
「ねえ、君は好き? 日光浴」
「──え、ああ、うん。好きかな。太陽の光ってあったかくてぽかぽかするし」
 またもや話題を振られ、審神者は微かな驚きに目をぱちくりさせる。
「……日光浴、するのか?」
「んー、最近はしてないけど、春と秋はいっぱいしたよ」
 眉根が寄り、黒の眼玉が記憶をたぐるように斜め上を向いた。彼女の脳裏には、蝶の遊ぶのどかな春の庭や、蜻蛉で賑やかな秋の庭の風景が、そして、縁側で日向にまどろむこんのすけの姿が浮かんでいた。
「ありゃ、夏は?」
「夏はだめ。暑くて暑くてもう──逆に日陰に逃げ込んでた」
 白い喉を通って出てきた声は苦い。頭に呼び起こしていた映像が、真夏の灼熱に切り替わったからだ。眉間の皺を深くした女の顔は、ひどく不味い食べ物を口にしたのではないかと思うくらい、歪んだものになった。
「人は暑さに弱いんだな」
「みんながみんなじゃなくて、個人差はあると思うけどね。暑いの平気な人もいれば苦手な人もいるし」
 顰めっ面がぱっと変わって穏やかになる。先程までの渋みを感じさせない、あっけらかんとした声音。
「ふうん、面白いなあ。君はどうなの? 暑さは苦手?」
「えー? 暑さ? うーん、苦手ってわけじゃ……」
 歯切れの悪い言葉を綴った女は、再び眉を曇らせ口を閉ざす。
「では得意なのか」
「いや得意でもないっていうか……人並み?」
 俯いた彼女は小さく唸り、首をひねった。自身のことであるというのに、可笑しくも疑問系である。
「人並み」
「人並み」
「……人並みと言うが、君は『人』だろう」
「あー、そういう意味じゃなくて、『平凡』っていうか『普通』っていうか」
「よく分からないけど、苦手でも得意でもないんだね」
「そうそう」
 延々と続くお喋り。源氏の重宝は人の子の纏う雰囲気や態度の変化に心づく。先月までの女は大抵にこやかな顔を貼り付け、会話を長引かせないような当たり障りのない返事をすることが多かった。立ち話の際も、「畑仕事が」「家事が」「仕事の話が」と、何かにつけて去ってしまう。それが常だった。
 いつぞや審神者は、「時の政府が負の介入をしてくるならば、刀剣男士は自分が守る」と啖呵を切った。熱のこもった宣言を受け、髭切はある暖かな日曜日に彼女へ話しかけた。「君が僕らを守れなかったとしても、僕は君を恨まないと思うよ」「結果どうこうじゃなくて、僕も他の刀も、守ろうとしてくれてる君の気持ちが嬉しいんじゃないかなあ」と。神が人の想いに応えたその時すら、女は心を隠すようにして曖昧に笑っていた。
 しかし、今日はそうではない。しばしば外を気にしながらも、彼女はなんだかんだ兄弟の話に付き合っている。愛想笑いはしていない。適当な返しもしない。結界の内側から悩む様子や困った様子を見せ、時にうっすらと微笑み、髭切や膝丸の話に興味を示しさえもする。
 そんな人間との会話は思いの外楽しく、髭切も膝丸もついあれやこれやと問いかけてしまっていて。自分たちの発言で顔色を変える彼女を見るのは、兄弟にとって不思議と心地よかった。仲間内での談話も好きだが、この人間と取り留めのない話をするのも悪くない。
 彼らがそう気付いたのは、陸奥守吉行の大声が響き渡る少し前のこと。
「今度は日光浴の方法を教えて欲しいなあ。んー……実地指導で」
 話が日光浴に戻り、髭切は遠回しに約束を取り付けようとする。またこんな機会があれば良いと思ったのだ。
「実地? えー、やだよ、今寒いもん。もう十二月じゃん」
 だがまあ、良くも悪くも神々へ素を出し始めた女はスパッと断った。少々残念がっていた兄弟の胸中など、露とも知らずに。

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