06
※聚楽第ネタバレあり
十二月に入ったばかりの、ある冬の日。縁側に南泉一文字と山姥切長義が横並びで座っている。「横並び」ではあるが、彼らの間には心の距離を現すかのようなスペースが空いていた。大きな西瓜が三つ置けそうなほどの。
「にゃー……動きなし」
「動きがないなら黙っていろ」
「はあ……よりによってお前と見張りなんて、にゃ」
「それはこっちの台詞だ」
今日、二振りは見張り当番だった。離れの人間に心を許しつつある彼らはまだ監視を止めてはおらず、しかしそれは惰性で続いているといっても過言ではない。日本号や明石国行は面倒がってサボることもあり、巴形薙刀やへし切長谷部は「見張り」の名目で審神者について回り、小烏丸や三日月は仲間との談笑に時間を費やし──まともに女を見張る刀は、今はもう少なかった。
「お前、よくそんな真面目に見張れるな」
くわあ、と、大きなあくびをする南泉一文字。二本の八重歯が丸見えで、小鳥をひと呑みできそうだ。
「真面目にやるのは当たり前だろう。なんのための『見張り』か分かってるのかな? 猫殺しくん」
山姥切長義が馬鹿にしたように言う。どこか険悪な雰囲気が浮遊し始めた。双方憮然とした表情になっている。
「うるせえ。分かってるっつーの。けど今更、怪しい動きなんか──あいつ、悪い奴じゃなさそうだし」
「全部まやかしだったらどうする。この本丸も、傷のない俺たちも」
目を厳しく吊り上げし彼の脳裏に流れるのは、泥を噛むよりも辛い記憶だった。
「オレたち付喪神に幻を見せるような力、ないだろ。あの審神者に」
南泉一文字もまた、嫌な思い出に顔を顰めた。
「本当にそうか?」
瞳の蒼玉が冷たく光る。猫の呪いを受けた打刀は口を噤み、何も言えなくなった。
「……俺は、もう聚楽第の時みたいなのはごめんだ」
──特命調査、聚楽第。長期化した戦いの理由を審神者に求めた政府が命じた特別な任務。刀剣男士は放棄された世界の調査に赴き、審神者はその指揮を執った。任に就いた幾多の本丸は監査官の評定を受け、結果に応じた報酬を授与される。
「あー、誰かさんはあの男に変な術を掛けられて、まんまと騙されてたもんにゃあ」
先の審神者の時代、この本丸が任務に臨んだ際の評定は「優」。戦闘回数や撃破数に申し分はなかったものの、刀剣たちは手入れもされずに傷だらけのまま出陣を強いられていた。結果だけを言えば何の不都合もない。彼らはその実力をもって課題をクリアしたのだから。
問題だったのは、先の審神者が監査官たる山姥切長義を、ひいては時の政府を欺いたことだ。
その頃、既に本丸は穢れ切っており、男は監査官へ幻術を使う。山姥切長義の目には山紫水明の地が映っていた。顕現していた男士たちは審神者や本丸について話せないよう言霊で縛られ、更には男の担当官も関与。おぞましい本丸の実情は完璧に隠蔽された。
監査官だった彼が全てを知ったのは、報酬としてここへやって来た日だ。
「きったない空と枯れた山を見て、『ここは美しい本丸だ』とか言ってたの、誰だったっけにゃー?」
「う、煩い! 次は正しく見極める」
山姥切長義が声を荒げる。すると、彼の後ろで襖障子がすうっと開いた。振り向く二口が見たのは、姿勢良く立つ日向正宗。
「そうだね」
猫を斬ったとされる刀と、山姥を斬ったとされる刀。その間まで歩いてきた短刀は、座ることなく遠くへ目をやった。
「今度は、うまくやらないと」
独り言か、山姥切長義へ言ったのか。日向正宗は少しぼんやりとして、花に水をやる審神者を静かに眺めていた。
冬はまだ、始まったばかりである。