06
「あの審神者を合戦場に? 刀剣男士じゃなくてか」
「はい、審神者単独で。緊急時に備え、こんのすけも同行させますが」
「刀剣男士はどうした」
「つい先日ご報告した通り、彼の地の刀剣男士は未だにひどく人を嫌っています。時間遡行軍討伐の協力が得られません」
「だからと言って審神者一人を戦地にやるのは」
「おや。単独で戦場へ赴き、時間遡行軍を滅する審神者は少数ながらいますよね? 太刀を振るう者、霊力で一掃する者、神器を用いる者──どちらの本丸の方でしたっけ」
「あいつらは例外だろう。人間のくせに化け物みたいなヤツばっかりだからな。だがお前の担当している審神者はそうじゃない。穢れ限定の浄化と結界の展開が少しできるだけだ」
「その浄化と結界を扱う素質を見込まれたがため、彼女は決して新人向きではないあの本丸に振り分けられたのでしょう」
「それは、──……でもな、あれの霊力自体は並で、審神者としての能力も秀でているわけじゃない。破魔の力だって弱いだろう」
「ええ、ごもっともです。けれど、霊力を使った物の修復はお上手ですよ。彼女はあばら屋同然だった離れと御殿を完璧に直してみせました。大工も顔負けです。ふふ」
「おい冗談はやめろ斉藤。家造りであいつらが倒せるか。だいたい、時間遡行軍を討つのは刀剣男士の役目。審神者の仕事は刀剣に宿った付喪神を目覚めさせて、いい感じに従わせることだろうが」
「存じております」
「審神者は戦闘要員じゃない。まあ、時々妙な力を持ったイレギュラーなヤツが出てくるがな。上も利用できそうなもんは利用してるみたいだが、それはそれでどうしたものか……」
「使えるものは使う。良いことではありませんか。歴史修正主義者の戦力を大幅に狩れる審神者に関しては、政府も戦地入りを許可していますでしょう」
「……そうだな」
「では、よろしいということで」
「!? 待て、ちょっと待て。よくない。あの審神者はだめだ、破魔の力が弱過ぎる。お前犬死させる気か?」
「いいえ、犬死なんてとんでもない。審神者は政府の大切な人材です。無駄死などさせるつもりはありませんよ。出陣していただくといっても、維新の──函館や会津です。あの辺りの敵であれば彼女にも何体か消せますし、負傷の可能性もまずないはず」
「維新? 確かにあそこの弱っちいヤツなら消せるかもしれないが──あんな雑魚を消したってほとんどプラスには」
「問題ありません。戦果を求めての事ではないですから」
「はあ?」
「ふふ」
「……笑ってないで説明しろ。お前、また何か悪知恵を働かせてるな」
「悪知恵とはひどい言い様ですね。私、傷付きました」
「ハッ、こんなことで傷付くようなタマか。お前の心臓毛だらけだろう」
「お褒めいただき光栄です」
「褒めてない! ああもう、いいから話せ」
「すみません、おふざけが過ぎました。先ほど仰られたように、彼女の破魔の力は弱く大した戦力にはならない。しかしそれは重要ではないのです。私が彼女を合戦場に出したいのは、刀剣男士に揺さぶりをかけるため」
「揺さぶり?」
「はい。刀剣男士の代わりに審神者が戦う。──これには、人嫌いの彼らも何か感じるものがあると思いませんか? 例えば、『自分たちが出陣しないせいで審神者が戦に駆り出される』後ろめたさ、『本来の役割を果たせていない』罪悪感、『政府の命で戦地へ送られる審神者』への憐れみ、等など。うまくいけば彼女を健気に思い、警戒を解く刀剣男士も現れるかもしれません」
「……」
「もちろん、全ての刀剣男士の動揺を誘う事は無理でしょう。彼女が戦地に出て、逆に好都合だとほくそ笑む刀剣男士もいるかもしれません。まあでも、私の目論見通りにいかずとも、どうせ彼らの人への評価は落ちに落ちています。これ以上悪くはならないかと」
「……ふーむ」
「函館や会津であれば危険性も少ない。彼女を失う事もありません。もしもの時はこんのすけに緊急ゲートを開かせます。いかがですか?」
「あー、なんというか、お前らしい考えだな」
「それはどうも」
「褒めてない。……が、やってみてもいいかもしれん。あそこの刀剣男士の人間嫌いは筋金入りだ。目覚めてまだ一ヶ月も経たない今、あの審神者がいくら呼び掛けても距離は縮まらないだろう。間接的にじわじわやっていくのが賢明なのかもな」
「はい。私もそう思いまして」
「……よし。時は維新、合戦場は函館。会津はだめだ。検非違使が出たらまずい。出陣頻度は、そうだな──週に二、三回。必ず供にこんのすけを付けろ。あと、実戦前に仮想の敵と何度か訓練させておけ。あまりにも審神者が体調を崩すようならすぐに中止だ」
「わかりました」
「で、一番肝心なのは本人の意思だが……その辺はどうだ」
「ふふ、ご安心を。きっと引き受けてくれます」
「おい、強要はするなよ」
「強要なんて、そんな事はしません。あくまで彼女の判断に任せますよ」
「……はあ。頼んだぞ、まったく。……そうだ、こんのすけにはいつ言うんだ?」
「ああ、こんのすけですか。あれには事前に知らせるつもりはありません」
「はあ?」
「言えば、あの管狐は必ず反対するでしょう。彼女に相当入れ込んでいますからね。思うように事が進まなくなるのは避けたい所存です」
「お前なあ……」
「いいじゃないですか。サポート役にこちらの思惑を全て伝えないといけないという義務や規則はありませんし」
「……はあ、好きにしろ。面倒事は起こすなよ」
「はい。──そうそう、こんのすけですけど、今後彼女と少し引き離そうかと思っています。仲睦まじいのは良いことですが、互いが依存し過ぎるのはよくありません。刀剣男士の入る隙がなくなってしまう」
「ん? あー……それは一理あるな」
「週に二、三度、状態管理の名目で半日ほどこんのすけを政府に呼び戻す予定です。ただ、こんのすけの不在時に何か起きてはいけませんので、刀剣男士の様子がもう少し落ち着いてから──そうですね、殺意が消えた頃にでも、と考えています」
「ふーむ。一人の時間を作るのか。こんのすけがいない間、あの審神者も刀剣男士にもっと目を向けてくれればいいんだが」
「ええ、そうですね。先の一件で彼女はすっかり刀剣男士に苦手意識を持ってしまったようで……まあ、これまでよく耐えた方ですけど」
「そうだなあ……難しいケースだから仕方がないのかもしれないが、万事順調ってわけにはいかないものだな」
「はい、本当に。しかし、諦めるにはまだまだ早い。私は大団円に向けてせいぜい裏工作に励みますよ」
「ふっ、程々にしとけよ。あの審神者の出陣については上に伝えておく」
「ありがとうございます。では、私はこれで」
「ああ、ご苦労。たまにはゆっくり休め」
「お気遣いどうも。……失礼します」