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 今まで感じたことのない芯から沸き立つ熱さで息が出来ない程の苦しみに耐え続けて二日が経過し、飲まず食わずのまま間もなく三日目へ突入しようとしていた。両腕を後ろ手に縛られたまま、床に横たわられたまま放置をされては、自身の熱く荒い息遣いだけが倉庫の中で延々と響いている。しかし、当初に比べ効果が薄れてきているという事は、二回目の投与までそう時間はないという事でもあり、次第に抜けてきた体に力が入るようになった今がある意味では脱出のチャンスであると踏んだ。なんとか腕を使わずとも上体を起こすところまでに調子を取り戻し、右足に力を込めてその場へとゆっくり立ち上がる。すると、どこからか聞き覚えのある地面を擦るような足音が聞こえ咄嗟に辺りを見回すと、暗闇の中に潜み背後に回ったガタイのいいカレッジラグランを着たボーイに後ろから蹴り倒され、再び砂埃の上に転がってはその衝撃で絞り出すような唸りを上げた。

「いってえな、クソ…! 取引相手くらい大事にしろよっ」
「これが俺の仕事なんだ。悪いな」

 まるでゴミのように蹴りながら転がされ、砂まみれになった体を丸めて止む事なく降りかかるその痛みに必死に耐えていた。すると、壊れた屋根から吹き抜けた月の光がすっかり汚くなった自身を明るく照らして、ついに十数時間ぶりに闇の中からぽつりぽつりと落とされた、マルベッコーを掛けた低い声を耳にして思わず目を細めた。

「…調子はどうだい。ヨリくん」
「…いいもクソもあるかよ。強いて言えば、人生の中でダントツに最悪な気分だ」
「そうかぁ、なるほど。二日も持つのか。薬としてはまずまずの効果アリ、って事だね」

 突っ伏していた顔を顎から掬い上げられ、がっちりと至近距離でぶつかるねっとりとした視線に反吐が出た。もう片方の手には半日前に射し込まれたばかりの注射器が握られ、予告されていた通り、どうやら二本目の投与がこれから始まるらしい。

「依存性がないというところがまた欠点なのだけど。まぁ、気軽に楽しめるおクスリって事で売り出せば儲かるかな」
「……へっ。ンなもん、死んじまったら結局必要ねぇだろ」
「ふむ。まぁ、それもそうか」

 細く伸びた月の光に照らされた小さな注射器の輝きに魅了されている彼の瞳がぎろりとこちらに向くと、カレッジラグランのボーイが首根っこを掴み上げてはそのままぐりぐりと地面に顔をねじ込むように押し潰された。背中を踏み付ける足の衝撃とじゃりじゃりと音を立て砂と共に擦れる額、彼方此方で傷付き四散する痛みが頭の中でもがんがんと響いては苦しませていた。

「…あぁ、そうだ。今日はもう一人、お客さんがいるんだよ。君、ちょっと連れてきてくれる?」
「うーっす」

 意味深な言い方で指示をする傍ら、後ろに立っていたもう一人のイカスカジャンを着たボーイが面倒臭そうに後頭部を掻き毟りながら、自分と同じような状態の何処かで見たことのあるボーイの拘束された体を思い切り蹴飛ばしては、自身の真横にまでごろごろと転がされていた。

「なっ…お前!」
「あ、ははは…やっほー」

 それは確かに、数日前に仕事とも言えないような今回の依頼を紹介してきた情報屋の知人だった。同じように後ろ手に腕を縛られて、ずれたボーダービーニーを被っては情けなく眉尻を下げながらへらへらと笑っている彼が、一体どういう理由でこんな状態に陥っているのかは分からなかった。

「なんでここにいんだよ。消えろっつったろ」
「そりゃ、まぁ…えと、その…心配になっちゃって」
「はぁ? 余計なお世話だ、バカ」

 えへへへ、と苦笑する彼に深く溜息を吐く。とどのつまり、どういう風の吹き回しか、普段ならば何が起きてもお構いなしのくせに今回に限っては余計な事を仕出かしてくれたらしい。
 養護施設を出てスリで飯を食べ始めた頃から付き合いのある彼は、ある意味裏の街で生き抜く術を一から教えてくれた先輩のような存在だった。まだ若く何も知らないままがむしゃらに一人で生きていたあの頃、年下であるにも関わらず、ずっと薄暗い路地の中で生きてきた彼の豊富な処世術の知識量には感服したものだった。
 ただしこの男、どこかの誰かさん同様、暴力沙汰に滅法弱い。力のあるなしではなく喧嘩に対するセンスがとにかく低く、それに伴って運動能力も低ければ向上心もない。ただひたすら逃げる事だけに力を入れていて、その能力だけは他に負けない程に非常に秀でていた(これだけは身につけておいた方がいいと半ば無理矢理に教えられた)。
 友人とも言えず、師弟関係とも言えない、言葉にならない曖昧な関係のまま長い年月が経過したものの、今では仕事の仲介をしてもらう相手として浅く狭い関係を築いていた。だからこそ、我関せずを一貫してきた彼がここまで自分に対し、体を張ってまでわざわざ面倒事に巻き込まれてきた事に驚きを隠せなかった(結局、役には立たなかったが)。

「良かったね、彼も一緒なら少しは寂しさも紛れるだろう」
「へっ…残念だったな。ンなアホ面、いねぇ方がまだマシだ」
「うわ…酷いなぁ。なんだかんだ長い付き合いなの、に…う、わぁ!」

 今にもずり落ちそうなボーダービーニーがゆらゆらと揺れる中、三つの大きな影が二人を覆って、再び両脇からうつ伏せに押し付けられた首元に細い先端が突き刺さる感覚にかっと目を開いた。逃げようと身を捩らせるも逞しい褐色の腕がそれを許さず、逸る気持ちだけが焦燥してただただ口先だけの文句が垂れ流されていく。

「くっそ…離せよ! ふざけんな、バカヤロー!」
「はーい、大人しくしてね。すぐ済むからさ」
「…ち、くしょっ…!」

 もがけばもがく程に強くなる逞しい腕とあまりの空腹による意識の混濁で抵抗する力も次第に薄れていく。どうやら、矛先はまず自分の方にへと向いているらしい。隣りで喚く知人が必死でやめろと訴える声ががんがんと響いて、もうこれから先は当たり前の世界にさえも戻れないのだと悟った。

「頼むから、それだけはやめてくれよ! くっそ…お前もなんとか言え!」
「うるっさいなぁ。君もすぐヨリくんと同じ快感を味わわせてあげるから。ワガママ言わないでもう少し待っていなさい」
「…だとよ」
「この、ばかやろ…諦めんなっ! 死んじまったらそこで終わりなんだぞ、ヨリ!」

 首元に先端がぷすりと刺さる感覚を帯びる。数ヶ月前に打たれた時の事がふとフラッシュバックして、またあの夜が繰り返される日々がこれから続くのかと思うと、満たされていたはずの心が今にも一瞬で空っぽに消え失せようとしていた。

「…なぁ、何か聞こえないか?」
「は? 何か、って…」

 今まさに注射器で薬を押し込まれようとしていたその時、どこからか鈍いエンジン音が聞こえてきているのに気付く。初めは単に外を走っている単車だろうと誰しもが思っていた。しかし、その怒涛の噴出音は次第に強くなっていき、それはやがて真後ろから直接ぶち当たってくる程の近さで鳴り響き始めていた。

「ちょ、嘘…うわ、あっぶねぇ!」

 その衝撃は、知人と自分を拘束していた二人のボーイが咄嗟に手を離す程に凄まじく、その場にいる者全てがあんぐりと口を開けていた。呆然とした中でボロボロだった薄い壁を突き破るように飛び込んできたのは、誰がどう見ても明らかに変哲もないただの古いスクーターだったのだから。直後、そのスクーターは止まる事を知らず、一直線にこちらへ真っ直ぐに向かっては物凄いスピードで走ってくるのが遠くの方で見えた。ようやく縛られた腕以外は自由になったものの、すぐにその場から離れられる状態ではなく、隣りと互いに見合わせながら無言の意思疎通で強く頷き合い、そして力の限りに前方へと叫び続けた。

「ストップ、ストップ! ほんと無理だから、ストップー!」
「早く止まれ、バカッー!」

 途端、身の捩れるようなブレーキをかける鋭い音が辺りをどよめかせ、目の前ぎりぎりにまで到達した時にようやくその場に留まったのだった。
 こんなにも好き勝手大暴れしたにも関わらず、エゾッコメッシュの鍔の陰からこちらを見下ろすその表情は酷く冷静極まりない。エンジンを切り、大人しくなったスクーターから降りて地面に足を付けると、じりじりと目の前に近寄ってくる彼をただただ呆然とした表情で見遣る事しか出来なかった。

「…マ、マゴ…だよ、な?」
「え、嘘。なんか雰囲気ちょっと違くない?」
「……この、バカヨリ!」
「いってぇ!」

 しゃがみ込んだ幼馴染を目の前にし、明らかに普段とは違う冷たい雰囲気に怖じ気付いていると、唐突に指先で弾かれ小さな痛みが額に帯びた。いきなり何すんだ、の文句の一つくらい吐いてやろうと思った。しかし、その時点でぽろぽろと涙を流し始めた彼にそんな冗談のような台詞など吐けるはずもなく、何故だか一言、気付かないうちに、なんかごめんと訳も分からず小さく謝る事しか出来なかった。

「っ…よが、良かった…。も、手遅れかと、思っ」
「勝手に殺すな!」
「ううぅうぅっ〜」

 子供のように泣き崩れる幼馴染にどうも調子が狂わされ、その隣りで何故だか苦笑している知人に妙に腹が立ったので、無理矢理体勢を変えながらその体を足で蹴り倒してやった。
 一体何故、自分がどういう状況でここにいるのかを無関係である彼が知っているのかは分からなかったが、ここを抜け出すには場が混乱している今がチャンスなのかも知れない。とにかく腕を縛っている縄を外さない限りは不自由で堪らない、そう思い、どうにかして解放してもらおうと訴えようとしたその時、幼馴染の体が黒い影の中へと溶けて消えた。すぐさま頭の中で危険信号が高らかに鳴り響き、すぐにここから逃げるように警告をする間もなくその腕は掴み上げられ、あっという間にカレッジラグランを着たボーイの太い腕に首を締め上げられてしまった。

「う、わ、わわっ、苦しっ」
「テメ、このっ…おい、やめろ! コイツには手ぇ出さねぇって約束だろうが!」
「先に約束破ったのはそっちでしょ? ちっとも大人しくしてないんだから。あぁ、ほら…さっきの騒動のせいで一本無駄に…」
「っく…今だ、リン! やれ!」
「はぁ? 」

 幼馴染が動けないながらに高らかと謎の合図を発した瞬間、どこからか何かの起動音がピッと小さく聞こえて、倉庫の外で白煙と共に何かが空高く飛び上がっていくのを見た。

「何だよ、あれ…」
「んー…なんだろな」
「お前らってほんとバトルしてないのな。あの大きさと飛んだ高さ、形と色は明らかにスペシャルの…あれ?」

 全く見当をつける事の出来ない、あまりにバトル経験のなさすぎるこちら側の会話にイカスカジャンを着たボーイが呆れた口調で答えようとしたものが今まさに、この場に空から急転直下してきているところだった。これから起こるであろう事態を予測した全員の顔が真っ青になり、しかしただ一人、幼馴染だけはげらげらと声を上げて笑いながら空を見上げていたものだからがんがんと響く頭が更に痛みを増した気がした。
 今度こそ、さすがに逃げられない。そう思った瞬間、縛られていた腕が突然解放されて思わず後ろを振り向くと、そこには小さなハサミを持った看板娘がにっこりと笑いながらしゃがみ込んでいた。

「よ、幼女! 何でお前まで…」
「マゴにいだけじゃ、ちょっと頼りないでしょ?」
「は? あぁ、まぁ。そりゃそうだけど」
「えへへ…お迎えに来たよ、ヨリちん」
「あ、俺のもついでにお願いします。幼女さん」

 看板娘が器用に二人の固い縄を切り落としている最中、倉庫内を掻き回すようなトルネードが中心へと落ち、辺り一面に唸るようなライトグリーンのインクに塗れてはこの場にいるボーイ全員を襲った。その隙にようやく自由になった体を即座に立ち上げ、思わぬ事態に幼馴染を拘束した腕を緩めていたカレッジラグランのボーイの腹を脇から殴っては、その衝撃で解放された彼の体を咄嗟に引き寄せ有無を言わさず肩に担いだ。言う程間を空けていた訳ではなかったが、酷く久しくも感じるその馴染みある匂いに乾いた心が酷く潤されていった気がした。

「ヨ、ヨリ! ちょっと、降ろし」
「ちゃっちゃと逃げるなら今のうち、だろ!」
「わ、わわっ、ちょ、待てよ! 俺を置いていくな!」
「おい、お前ら! これ見ても、ンな卑怯な事出来るってのかよ」

 腰に抱き着いてくる知人を引き摺りながら、ようやく外へ抜ける扉の目前まで辿り着いたその時、ドスの効いたカレッジラグランのボーイの低い声が三人の背中へと突き刺さった直後、後ろを振り向いた先には想像していなかった事態が目の前に広がっていた。

「リ、リン!」

 そこにはマルベッコーを掛けたボーイに腕を掴み上げられ、首元に注射器の針を向けられている看板娘が涙目になりながら必死に助けを訴え、恐怖で何も声が出ないのか、ふるふると震えながらただただ瞳に涙を浮かべていた。

「ま、まごにっ…う、ひうっ」
「なっ…や、やめろ! その子だけは…リンにだけは手を出さないでくれ!」
「おい待て! 早まんな、マゴ!」

 肩に担がれたままの幼馴染が必死の形相で暴れては地面へと降り立ち、今にも看板娘の元へと駆け出しそうだったその腕を掴んでは、冷静になれないまま頑なに手を放すよう訴える彼との繋がりを離さないように力の入らない手をぎゅっと握り締めるだけで精一杯だった。

「いくらでも俺が実験台になってやる! だから、頼む…!」
「…だ、そうだけど。ヨリくん?」
「クッソ! ンな事、俺が許すと思うなよ…!」

 前へ飛び出したところで相手の思う壺であり、身を差し出したところで看板娘が助かる保証など一つもない上、このままでは一番恐れていた事態が最悪起こりかねない。ここは慎重に対応するべきだと、ごくりと息を呑みながら互いの様子を伺っていたその時。

「…こ、今度は何だぁ?」
「なんだか、とてもデジャヴだねぇ」

 つい数分前と同じような展開を感じさせる、ぶるぶると唸りを上げるエンジン音が再び壁の向こうから突き抜けて聞こえていた。しかし先程とは明らかに相違しているのは、うるさく地にも響いているその激しい音が決して一つではないという事で。そして更に、同じエンジン音にしては大分物騒なくらいに荒々しさが目立っている。

「ふむ…何かちょっと嫌な予感が…ぶぼべっ!」
「リ、リーダー!」

 突如として壁を突き破っては目の前に現れたのは、ごく最近確かに見覚えのある姿且つ明らかに知り合いである自分よりも遙かに若いインクリングだった。目で捉えられない程の速さで横から顔を殴られたマルベッコーのボーイは、そのまま吹っ飛んだ勢いでガラクタの山の中へと頭から突っ込み、それを呆然と立ち尽くし眺めていた二人も、意外すぎる危険人物の登場に慌てて応戦するも、彼女と比べてスローモーションのようにも見える遅すぎる拳をひらりひらり避けられては、あれよあれよと言う間に片腕を掴まれ一本背負いを食らわされると次々と地面へと突っ伏されていった。

「んふっふ〜。そんなんじゃあ、ヨージンボーのひとつも出来やしねぇっつーの」

 まるで一瞬の出来事のようだった。流れるように小さな体に薙ぎ倒されていく大きな体は声を上げる間もなく地へと落ちていく。
ホッコリーの缶バッチが付いたボンボンニットを被り、だぼだぼのジップアップグリーンと真っ赤なヌバックブーツを履いた、あまりに勇ましく舞うように暗がりの中心で暴れ回っていたこんがり肌のガールはまさしく、最近になって知り合ったばかりの幼馴染の友人に間違いなかった。

「準備運動にもならんぜよ、わっはっはっはー!」
「焼きイカちゃん! 焼きイカちゃんだー! わーい!」
「驚かせてごめんな、ケガはねぇけ?」
「うん、なーい!」

 普段のおちゃらけた姿とはあまりにも違い過ぎるスタイルのギャップに何も言葉が出てこない。どうやら幼馴染の方は彼女の真の姿を見た事があるのか、打って変わってその素晴らしいパフォーマンスに気楽にも拍手を送っていた。

「くっそ…ガールだからって、手抜いてやってりゃいい気になりやがって!」
「っ! おい、危ねぇぞこんがりニット! 後ろ見ろ、うし、ろ…」

 倒れていたはずのイカスカジャンのボーイが頭を振りながら体勢を立て直し、落ちていた古いバールのようなものを手にして、看板娘ときゃっきゃとお気楽に騒いでいるこんがりニットに背後から殴りかかろうとしていた。慌てて抜かしていた腰を無理矢理立ち上げて応戦しようと試みた時、幼馴染が腕を掴んで引き止めてきたので何事かと文句を言おうと振り向いた直後、背後で耳が痛くなる程のうるさいエンジン音の正体がようやく露わになったのだった。

「な、何だ…?」
「ちょっとヤバそう。動かない方が、い…」
「何さらしとんじゃボケェ! おんどりゃしばくぞオラァ!」
「なっ、あ、う、ちょ、待…いでぇええっー!」

 厳つい二台の黒いバイクに跨った、白のイカライダーと黒のイカライダーを着こなしているいかにも俺達ヤンキーですといったこれまた若いやんちゃなボーイ二人が、危なく轢いてしまうのではないかと寧ろ轢かれかけた彼を心配になってしまう程に、イカスカジャンのボーイへとそのバイクが勢い良く突っ込んでいった。
 とは言え、スピードはそこまで出している訳ではなかった為、追突されたボーイ自身の体も屈強であったおかげか、どうやら命は四散しなかったようであるものの、ガラクタの山に吹っ飛ばされては目を回している彼を遠くから眺めつつ、思わず同情してしまったばっかりに両手のひらを合わせてそっと祈りを捧げておいた。

「なかなか惨い事するなぁ…」
「いくらなんでも、なかなかあそこまでする人いないぞ? 若さってやばいよな、やっぱ」
「…いいか、お前ら。何があっても、アイツらだけは敵に回すなよ」

 へたれ込んだままのいつの日かは若かったはずの三十代三人が今まさに、知り合ったばかりであったはずの二人を含め、がっちりと頷き合っては何故だか意気投合してしまった瞬間であった。
 一方、腕を組みながら仁王立ちをしている黒のイカライダーボーイと、その後ろでにこにこと黒く笑っている白のイカライダーボーイ、そして明らかにその集大成である大ボスのこんがりニットがその場を収集しながら、未だ息絶えたままの三人をけらけらと笑いながらしっかりと一つに纏め上げていた。

「…アネさんに手出そうなんて百億万年早いんだよ、クソが」
「思わずはっちゃきこいちまったべ。焼きイカちゃんってば急に飛び出してっちまうんだからよぉ」
「ンハハハ、メンゴメンゴ。あ、おっちゃーん! 大丈夫け〜! 無事かー!?」
「えぇ、まぁ…あの人達と比べれば遥かに」

 どうやらこんがりニットの友達(ただの友達とは言い切れない関係のような気がしてならない)らしい、その柄の悪い二人のイカライダーボーイはまだまだ物足りないのか、腕を回し腰を回し果てには暇だったのか組み手という名のウォーミングアップまで始まってしまった。一体何が起こっているのかさっぱり分からないままに幼馴染と顔を見合わせていると、ぱたぱたと看板娘と一緒に駆け寄ってきたこんがりニットがにやりと笑いながら腰を抜かした二人へ手を差し伸べたのだった。

「よーっし、ちゃっちゃと片付けて帰っぺ!」




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