店に到着した途端にまず問い詰めたのは勿論、待合室のような場所でソファーに腰を下ろしながら煙草を吸って寛いでいたダビデだった。突然胸倉を掴んで怒鳴りつけたからかさすがの彼も驚きを隠せなかったようで、どうしてここがバレたのかやら誰から聞いたんだやらの質問が飛び交うもそれを完全に無視し、二人の居場所を力ずくで聞き出しては部屋のある場所へと案内させた。その道中で頭を小突きながら聞いた話の中で分かったのは、この店は所謂水商売を主とした経営方針ではないという事、あくまでも悩み相談の相手として客の話を聞くだけを前提に二人を従事させる約束している事。たとえ何かあったのしても非常用の呼び出しボタンを持たせていると豪語していたが、それでも拭いきれない悪い予感は結果として的中してしまったのだった。
 店長に無理を言って鍵を開けてもらった扉の先には一瞬目を疑うような光景が広がっていて、今にも知らない客のボーイに襲われている幼馴染ともう一人、隣りで同じく驚いた表情を浮かべたサファリハットのボーイの相方がベッドの上に沈まされている現状に口よりも体が咄嗟に動き、そのまま殴りかかりそうになったところで周囲に止められ血が上った頭を冷やすのにしばらく時間がかかった。
 数人の店員に抑えつけられ身動きが取れなくなった客のボーイは慌てる素振りを見せることもなく、それどころか店に警察が到着して連行されていく最中ににやりの口角を上げてこちらを見据えては一言、さも楽しげに溢した言葉に一度沈下した熱が再び怒りと共に込み上げてきたのだった。

「夢が叶ったよ。欲を言えば、もっと堪能したかったな」

 いつまでも余裕を保つ苛立たしい声と厭らしい笑顔、別れ際に意識が朦朧としていた幼馴染へと目線を送り、トキワくんまたね、と呟いた彼の正体を思い出したのはその姿が視界から消えた後だった。

(まさか…アイツ!)

 自分の知る限りでは、幼馴染の本名を知っているのは指で数える程の存在しかいないはずだった。この世にもういないもう一人の幼馴染、つい最近まで一緒に暮らしていた看板娘とその異父姉妹、そして幼い頃に世話になっていた養護施設の人々、そして過去に一度、幼馴染本人が偶然名を明かしていた人物、それが彼であり二度と顔も合わせたくないと思っていたボーイだった。
 幼い頃、一人公園にいた幼馴染に自然と近付き最終的に力ずくで連れ去ろうとしたボーイの顔と声は今でもよく覚えていて、歳を重ねているとはいえその記憶と完全に合致した時、心のどこかで恐れていたはずの事態が今起きてしまったのだと酷く後悔ばかりが胸の奥にずっしりとのしかかっていた。

「本当にごめんね。ヒナタくんをお願いできるかな」
「…あぁ。今はアンタも自分の事だけ心配してろ、無理して気を遣う必要はない」
「うん。ありがとう、マサキくん」

 あまりの恐怖と精神的、肉体的疲労で部屋に入った時には既に意識を飛ばしていたサファリハットのボーイの相方は、幼馴染に庇われるような形で抱き込まれた状態で発見されていて、二人とも身体の至るところに汚れはあれど命に関わるような暴力を受けてはおらず、ただ強引に足を開かれそうになったショックは大きかったようで彼を守るように腕に力を込めていた幼馴染もそれは変わらなかった。
 勿論仕事を紹介した仲介屋のダビデに対しても言いたい事は腐る程あったものの、今はとにかく二人の療養を優先したい気持ちが強く、掛けられた声を無視して一人で歩けると強く主張する幼馴染の言葉さえも無視して腕を引きながら早々と店の外へと出た。あまりに薄着過ぎるので着ていたホタプラントパーカーを肩に掛けてやり、申し訳なさそうに頭を下げつつ大人しくバイクのタンデムシートに足を跨ぎ、恐る恐る腰に腕を回してきては耳元で弱々しい声を落としていた。

「…ごめん、なさい」
「何でお前が謝るんだよ」
「心配、かけちゃったから」
「ンなの、今に始まった事じゃねえだろ」

 恐らく言葉にせずとも自身からだだ漏れている怒りを感じていたらしい彼が背にぴたりと身を寄せると、じわじわと伝わるその体温で少なからず暴れた鼓動が落ち着きを見せ始め、相変わらず正直過ぎる自身に溜息を吐きながら手首を回しエンジンを唸らせた。
 すっかり暗くなり始めていた夜空の下で靡く冷たい風を纏いながら互いにひたすら無言を貫いたまま、店へ帰るまでの道のりを背中に微かな冷たい何かを感じながらただただ長い道のりを静かにかけ抜けてゆく。一瞬、小さく吐き出された息に交じる声で反射的に振り向きそうになったものの、歯を食いしばっては気付かない振りをした。

「おら、着いたぞ」

 無事に帰る場所へと辿り着いたら連絡を取り合おうと約束をしていた為、停めたバイクに跨いだままズボンのポケットに突っ込んでいた携帯電話を取り出して、サファリハットのボーイ宛に一言メッセージを添えては一通のメールを送る。するとほとんど待たずして返信が来たので確認をしてみると、その内容は至極簡素なもので、たった一行、「到着。後日また連絡する」とだけ記されておりそのまま画面を戻さずに電源ボタンを押した。
 決して幼馴染に対して怒っている訳ではない。今もなお腹の奥底で沸き立つ怒りの対象は全て自分自身とあの客のボーイにだけ向けられているもので、バイトの一環だとダビデを信じ責任を持って仕事を請けた二人に罪はない。ただ、いくら守秘義務だと言い付けられていたとはいえ、恋人でもある自分に対しても隠していた事に関しては少々納得はいかなかった部分があったのは事実で、それでも今回の事で一番辛い気持ちでいるのは仲介先に裏切られたダビデでもルール違反の客に騙された店長でもなく、客に嵌められて酷い仕打ちを受けた二人であり傷付いた彼らを責めるべきではなかった。

「歩けるか」
「怪我とかしてる訳じゃないもん。歩けるよ」
「…そういう問題じゃねえっての」

 ベッドに拘束されていた幼馴染はサファリハットのボーイの相方を守るようにうつ伏せになって蹲っていた。ガール用にしてはやけにサイズがぴったりの黒いベビードールを身に纏い、押しかけるように部屋へと突入したこちらの存在を確認しては震えていた灰色の瞳がゆっくりと落ち着きを取り戻し、手錠が外れ自由に動けるようになると意識のない彼を心配そうに優しく手を握っていた。

(自分だって、いっぱいいっぱいのくせに)

 ただでさえ、過去にも同じく酷い事をしようとしてきた相手だったというのに、いつかまたこんな日が来るかも知れないと不安を常に募らせていたのに。それでも結局、自分の力が及ばないばかりに再び怖い思いをさせてしまった現状をただただ悔やむ事しか出来ず、玄関の鍵を開けブラックビーンズを脱ぎ捨てたその先で聞こえないように小さく溜息を吐いた、その直後だった。

「っ…ま、マゴ!」

 今夜ばかりは何も言わず側にいてあげようと思い振り向いたその先、番台の前で蹲る幼馴染に慌てて手を伸ばし、いつにも増して細いその身体をすぐに引き寄せた。すっかりその場に座り込んでしまい俯く彼の目元にはぽろぽろと零れ落ちる程に浮かんだ涙が次々と床へと染み込んで消えていく。

「どうした、どっか痛ぇ、の…か…」

 怪我はしていないと言えどもしかしたらやはり何処か不調があったのかも知れない、そう思い何度も繰り返し背中を擦っているとようやく顔を上げた幼馴染が口を開いたかと思えば、ゆっくりと寄り添うように胸の中へと顔を埋め、着ていたロッケンベルグTブラックに深く皺が出来るくらいにぎゅっと握り締めていた。

「こ、怖…かった」
「っ…!」
「すごく、怖くて、俺ッ…どう、しよ…!」

 こんなにも弱々しく、震えた声を必死に振り絞っては押し殺していた気持ちを吐き出す幼馴染の姿を見たのはいつ以来だっただろう。肩からはらりと落ちたホタプラントパーカー、そして視界に広がる普段では絶対に見られないような露出の多い格好と、その黒に降り掛かった白い跡を見る度に悔しさで歯を食いしばるような思いだった。とにかく全てを綺麗にしてやりたい、その一心で優しく頭を撫でては委ねてきた身体を横に抱き上げて、無抵抗の彼をそのまま風呂場へと連れて行った。
 眠るように静けさが広がる脱衣所、安っぽい光に照らされた浴場の下で二人、身包みを全て剥いだ状態で薄い湯気の中ひたひたと流れ落ちるシャワーの湯で冷えた身体を清めていく。木の風呂椅子に腰掛けどこか放心した様子の幼馴染の背中を流してあげようと声を掛けるも、その返事も力なくはっきりしないものだった。
 ほとんど言葉を交わさないまま濡れた髪をさっとタオルで拭き取り、今夜は大人しく休ませ冷静になった頃に話を聞こう、そう思っていた矢先にようやく口を開いた幼馴染と顔を合わせると、そこには何か言いづらそうに口ごもり視線を落とす彼が恐る恐る腕を掴んでいた。

「な、なんだよ」
「あ、あの…ね。お願いが、あって」

 互いにぎくしゃくとした態度のままじっと視線を向けると、頬を赤らめ舌足らずに一言、抱いて欲しいと眉尻を下げながら消えてしまいそうな声で続けた彼のその言葉に思わず自身の耳を疑った。

「お、前ッ…何、言って」
「ご、ごめん。やっぱり、駄目…だよね。聞かなかった事に、し…」

 持っていた風呂桶が古いタイルの上で音を立てながら跳ね、流れきっていなかった泡の絨毯へと幼馴染の薄い身体を優しく押し倒した。そして、ひやりとした冷たさにひゃんと高い声が飛び出したその口を塞ぐようにそっと唇を重ね、数秒間、まるで何時間とも思えた長いようで短い浮つきからようやく覚めた時、未だ釈然としない彼の耳元で今の今まで吐き出さずに我慢していた言葉を堪らず溢したのだった。

「…どこまで、されたんだ」
「それ、は…」
「もう二度と、こんな事、起こらないようにって…今度こそ、手を離さねぇって決めてたのに…俺は、やっぱり俺じゃ…!」

 彼の前でだけは情けない部分は見せないと決めていたはずなのに、一度溢れたら止まる事を知らない弱さが次々と露呈され、悔しさばかりを熱く胸の奥で募らせてはじわじわと歪む視界を力任せに腕で拭った。しかし幼馴染はそんな自分を咎めるどころか、そっと手の平を頬へと寄せ目を細め、ゆっくりと体を起こし伝う涙を掬い上げながら静かに声を塞いだ。

「っ…、マゴ…」
「…ごめん。でも今回だって俺の甘さが招いた事だし、それに、何があったとしても俺は、ヨリの隣りにいたい、からっ…」

 駄目ですか、と啜り上げた彼を見下ろして気付けば我を忘れてその体を掻き抱いていた。背に腕を回し首元へ顔をぐりぐりと埋めると、自然と頭を撫でてくれる見えない温もりが胸を刺すような痛みをゆっくりと溶かしてくれて、ただひたすらに愛おしい思いにもう一度触れるだけの口付けをした。

「怖く、ねぇのか」
「…もう平気。正直な所、今は一人になる方がよっぽど怖いんだ。いい大人がさ、だっさいよね」
「お前がイカしてた時なんてあったかよ」
「あはは、それは言えてる…っ、ん」

 守っているつもりが実は自分のほうが守られていたのだと実感する彼の強さに歯を食いしばりながら、噛み付くように胸元へと吸いつき微かな跡を残してはそのまま腕、手の平、腹から足の付け根にかけて口付けを落とし、次第に頬が赤くなってゆく彼の体を反転させて、うつ伏せになったところで臀部を揉みしだきながらそっとその後孔を指先で触れた。

「ここ…無理矢理されたんだな」
「あっ…う、少し、だけ…」
「待ってろ。ナカ、綺麗にしてやっから」

 傷付けないよう慎重に人差し指、重ねて中指を一緒に奥へと沈ませて、深くまで侵入するにつれてびくびくと震える彼に声を掛けながら、底に残っていた白濁を掻き出した。少量と言えどだらりと太腿を伝い流れていくそれに腸が煮えくり返りそうになり、後孔を両手で押し広げては自分でも無意識のままに顔を押し付けていた。

「ちょ、ちょっと…ッ! ん、やぁっ」

 舌先で周りを舐めとった後、更にはその中へと伸ばしながらじゅるじゅると吸い付くと、その度に甲高い声を上げる彼を他所に気が済むまで穿り、満足した頃には互いに息が切れてはいたものの、見下ろした先にはしっかりと勃っている自身が今か今かと言わんばかりに太く反り上がっていた。

「ひっ! う、こんな、おっきいの入んな…ぁっ」
「…慌てんな。ゆっくり、ゆっくりでいい」
「は、うぅっ…ぁ、ん、あぁあっ! あ、つ…!」

 床にぐったりと伏せていた幼馴染の腕を掴み上げ、座っていた自身の下部を跨がせてはひたりと陰茎の先が彼の後孔から沈んでいく感覚に身体が熱くなっていくのが分かった。既に解れている中はいとも容易く侵入を許し、腰を突き上げごつごつと壁にぶつかる度に甘い声が何度も落ちると、段々自らも腰を動かしてはその快感を受け入れ始めていた。

「は、ぁん! よ、りぃ…っ、ぁ、やっ、あぁ! ひ、あぅ」

 膝を付き背が弓なりになっていく幼馴染の両手首を掴んで引っ張り寄せ、仰け反るように顔を上げるあられのない姿に鼓動は一層激しく高まってゆく。すると蕩けた灰色の瞳がくらりと俯き、胸の中へと身を預けた彼が汗ばむ声で囁いた言葉にどくりと胸の奥が高鳴った。

「っ、も…もっと、もっと…ヨリで、いっぱいにしてっ…」
「ん、っく…言われ、なくともッ、全部俺が塗り返してやるよ!」
「ひ、んぅ! ぁ、んあぁっ! は、ひぁ、あ、つ…い、ひうぅっ!」

 振り絞るように掠れたその声が未だ震えたままである事に気付き、どこかまだぽっかりと空いたままの穴を埋め尽くしたくて、腕を背中に回しては隙間無くぎゅっとその細い身を抱き締めた。それに応えるのように首元へ顔を埋め後ろへ腕を通した彼の熱い息がふわふわと浮かび、何度も繰り返し突き上げる腰の動きを止める事はもう出来なかった。

「は、ぁっ、より、よ、りっ…」
「ほら、見てみろ…これ。お前の髪…」
「あっ…」

 顔の脇にだらりと垂れた長めの髪の先が彼特有の群青色ではなく濃い深緑に染まっていて、それを見てようやく固い表情が解れて綻ぶ彼につられて微笑んでは上体を起こし、凭れたままの彼に今にも破裂しそうな程に膨れ上がる陰茎で肉壁を擦り上げながら奥へと捩じ込んでゆく。

「ひゃ、ぁうっ! らめっ、も…俺、イッちゃ…ぁ、やぁん! だめぇ!」
「は、ぁっ…く、ナカ、出すぞッ…! いいなッ」
「は、うぅっ、全部、ちょ、だいっ…このまま、はや、くっ…ぁ、やっ、あぁあんっ!」

 甲高い声を抑える余裕も与えずに揺れる臀部へと突き付けて、ぴちゃぴちゃと厭らしい水音が立つ中で必死に肩を掴む幼馴染を更に強く抱き締めては、奥底から急激に沸き立った熱が全身を駆け巡り、陰茎から勢い良く溢れ出しては激流のように彼の中を一瞬で満たしていった。熱の篭もる風呂場の中で果たした身体は錘のように重みを増して、微かに揺れる視界に映る朧気に見えた幼馴染は、どこか安心したように静かに意識を手放していて、そんな彼の身体を支えつつ繋がりも解かないままおもむろにもう一度触れるだけの口付けをした。




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