「おい、答えろよ…。お前は一体誰の女なんだ…!!」
「世界中の女の子の女に決まってるじゃない!!!」
「ふざけんな、じゃあ俺も女になる」
「は?早くなれよ」
「おうなってやるよ、見てろよ……、全人類がふり向くような女になってやるからよォ……」
M「なあ、見てて面白いんだが止めなきゃだめか?」
R「止めてやってくれ」
H「めっちゃ面白…」
「お願いがあるんだけれど」
「聞きませんよ」
「え、聞いてくれないの」
「なんで聞かなきゃならないんです」
「えー、友達だから?」
「友達だったんですか?僕ら」
「違うの?」
「違いますよ」
「じゃあ、私たちは何なの…?」
「え……えっと、同僚…ってやつですよ」
「そうなのか……」
「ええ、そうです。同僚です。そうなんですよ。僕たち、同僚なんですよ」
「そんな念押ししなくても」
昔住んでいたアパートは、管理人の趣味でミモザが植えてあったのだが、それが花になることは一度もなかった。水をやらなかったのだ。それでも毎年、ミモザを植えていく背中があった。
ピーコックグリーンの扉がいくつも並ぶ建物の中に、メローネは当時、全部に入れるものだと思っていた。今はそう思ってはいないが、できなくはない。
隣には、女がひとりで住んでいた。普段は日中は外に出て夕方帰ってくるパターンのなかで、時々、深夜になって、物音をあまり立てないようにしずしずと歩きながら生白い手で買い物袋を持って帰ってきた。
彼女の部屋からは時折、小さな音楽が聞こえた。ロックだったりクラシックだったりまちまちだった。母はそれを耳ざわりに思っていたが、セックスに夢中になるとわざとらしくボリュームをあげられたことにも気づかなかった。メローネはクローゼットの中で目をつぶり、音楽を聴いた。その時、メローネは隣室で、女の隣に座ってイギリスのロックバンドの音楽を聴いているような気分になっていた。すこし性的な歌詞がつけられる音楽がメローネは好きだった。
クローゼットが開く音がする。鈍い光と、ほこりっぽい臭い、薄暗い影がメローネの顔をかぶさってくる。目を開ける。三日前から入り浸っている男が、太くてざらざらした腕を伸ばしていた。
音量が一段階大きくあげられた。
ショパンのエチュード第3番が、薄い壁に押し付けられた頭の中に響いた。
母と義父を殺した日、メローネは実は隣人の女も殺そうと思っていた。彼女は家におらず、近くのスーパーで働いていた。両親の死はメローネが殺してから一週間以上放置され、近隣住民の通報によって発覚した。ラジオからは子どものことは取りあげないニュースが終わり、音楽番組が始まった。
番組進行のDJが気持ちよく笑いながら結婚報告をする。彼女が好きな曲をかけたいと思います、と男は言った。女がよく聞いていた音楽が、GaGaと途切れながら流れ始めた。