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アンドロイドの銀鼠は生きているといえるか?

「鼠は、余り……、得意ではないの、あと、こおろぎとか」

蟲も、小さな生き物も、すべて苦手だと、慎重になって告げる彼女の眼は、金属的な灰色で、クロロはそこに生き物の本能的に発生する生きた感触を感じられず、好奇心が疼きだす。いったい、彼女は生きているのか、死んでいるのか……。
本当に知的好奇心、或いは子供の時分から持つただの純粋な好奇心から、確かめずにはいられなかったのだろう。



クロロの下に敷かれたカフカが脅える顔をしているのをみて、"カフカ"というのは少しだけ「生きているな」と思う。額にくちびるを寄せる。ひんやりしているように感じる。大きな掌でほおを包み込む。ひんやりしている。ゆるやかに、ほおの輪郭から、頤の終わりのところ、耳の繋がり、それから頸に手を向けてほおのときと同じように包み込む。とくん、とくんと冷静な小さな音が皮膚を伝ってクロロに伝えてくる。生きている。漠然とカフカの生を感じた。
クロロは実った好奇心が漸く開花されたようにふっと笑うと、ぬるい息を感じたカフカがすこし怪訝そうにしかめた。

「生きているんだな」
「当たり前だわ」

湖畔の、しずけさ。これがカフカの声にはあった。
クロロはそれを眼をつむって堪能する。翳った面差しは感応的になって、ゆるやかな快楽を得ているかの如く、しみじみと音楽を聴くような姿勢ではなかったが、気分的にはレコードから流れる味わいのある音楽をつぶさに聴いているようだった。だがこれ以上の言葉を紡ぐ心算はないらしかった。惜しみながら眼を開ける。クロロは目許をなぞりながら金属的なグレイの色のことをしばしば考えると、クロロのなかで合致した、事象に相応しいような形容が見つかった。
くちびるが不敵にたわむ。それを見て、カフカは躰の下で硬直する。クロロは、とっておきの秘密をママに打ち明けるように、甘露のような響きで、「アンドロイドの銀鼠のようだよ。」とつぶやいた。


アンドロイドに生を与えるか否か

201910/06

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