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深海魚の瞳

紺瑠璃の瞳がマチを見ていた。深い海の底に落ちた硝子球が、ついには海の色を映したような、そんな色だった。
「ねえマチちゃん」眼の持ち主が云う。
「深海魚についてお話がしたいの」
深海にいるときは夜いろの瞳をぎろぎろと浮き立たせながら、陸に上がれば醜く生ずるその姿を、マチは視界に納める。
言葉は持っていない。色は赤が多い。躰は兎に角異形だ。眼に機能を持たせないものが多い。臭いは多分ない。嗅覚より視覚か、膚に伝わるものに頼るのが多い。深海への愛をさまざまな言葉で語りつくす彼女は静かに笑う。
「だから私の眼を、深海魚の景色を見れるようにしたの」
その眼はマチを、人間を映さない。

201910/08

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