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陽だまりの告解

人が生まれるとき、そのとき地上には魂が一つ死ぬのだという。
魂は死ぬと同時に、どこかランダムで魂は生まれる。死んだ魂は神様のひざ元に送られ、生まれる魂は神様のひざ元から離れなければならない。だから人間は、生まれた時から神様に愛されている。

それを暴論だといったのは、私より二つ三つ年下の青年だった。金髪だった。青みがかったスーツをぱりりと着こなす男だった。名前を聞いたことはなかったが、豚のもも肉のような名前だった気がする。
「暴論というには、いささか暴論的よ。根拠は」
「まず、神はいない」
男は、自分が支配者であるかのように両手を広げふんわりと何かを抱えるようなジェスチャーで、それから首を横に振ってみせた。大理石のような白皙の肌に、緊張感のある堀の深い面差しは、数年前に見たミケランジェロの彫刻のように美しかった。
「イタリア人あるまじき言動ね」
「神がいないことが?」
「女の言葉をすぐに否定するところ」
「あんたを女と見たと知ったら、俺は消されちまうぜ」
呆れを含んだ笑みをかみ殺すようにして、男は暖炉のように温かい日差しに目をすがめる。
「消されやしないよ」
「いいや、するさ。あんたは神のものなんだ」
「神はいないといったのに?」
「それでも神はいるんだろう?」
「いたらいいなって程度よ」
そうか、と……。男はいくつか安堵したように見えた。目じりが少しだけ緩む横顔は、こちらの干渉を許さないようなやわらかな殻で拒まれているように感じる。思わずの反論さえ、まるで父母がするような口ぶりでなだめるのだ。あるいは、告解がすべて許された許されざる者のような。
男とはしばらく、魂と神の話をした。 議論は宗教的な話ではなく、いわゆる死生観の話だった。男は最初現れた時のように、いくつか返事が遅くなり、やがてふらりと行方知れずとなったように姿を消した。私は森の中で途方に暮れたような、ひとりぼっちになった感覚をしばらく味わう。テーブルの上に外側が黒く塗られたコーヒーカップが二つ、少し離れて隣り合うように並んでいた。近くで見かけたアンティーク市で衝動買いしたそれは、普段は棚の中にしまいっぱなしだったことを思い出す。うっすらとカップの底にコーヒーが残って、光が斜めに流れこむ。じんわりと湯気のように染み込む穏やかな日差しはどこかの教会で感じた身をゆだねるような気持にさせる。それから私は、客人の分と、自分の分のカップを手に取った。


あとがき

逆トリたかったできなかった。

202006/29

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