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最高にハッピーでくだらない話

持ち手と匙の間にくびれのある銀のスプーンを買った日、私は今日が幸せな日だと信じて疑わなかった。例えば、泥の水をかぶったりしないし、雲は白く細くたなびいて、青い色の空が広がっている。家は幾何学模様を描いて並び立ち、知っているものだけを知っている子どもの声がして、遠い図書館では、閉館の時間からずっといるおじいちゃんがいる。当たり前に続くような平穏で、何物も壊すことをしない日常が、私のために続くのだと思っていた。


泥には被ったし、犬には吠えられた。生意気なクソガキにはまるで猫を見つけたようにつつかれ、言葉でののしられた。赤毛を下品だと告げる婦人を三人見つけたし、閉館の時間から痴呆をわずらったおじいちゃんにもう空いてますよと言ってくれる人はいない。


「災難続きなの、このところ、ずっとずっと」
ええ、ずっと。
頭に来てしまうほど、気がくるってしまうほど。
「それはどうしてだと思う」
「どうしようもない、あらがいようのない、そう、理不尽な不幸が私の人生にあるからね」
「そんな風に決めつけてしまっていいの?」
「そういうものだから、仕方ないのよ」
「では、あなたの人生は不幸なんだね」

郭嘉はそう言って、人とはかけ離れた、はかなく、美しい顔に苦笑を敷いた。淡い青をともした花びらのように青白く、そして琥珀色のまなざしは知性にきらめく。郭嘉は、その横顔で、いつも幾何学の陣を描くことに熱中していた。

「ねえ、郭嘉」
「なんだい」
「私たち、いつの間にこんな大人になっちゃったのかしら」
「大人? 大人のつもりだったのか」
「そうね、社会的に大人に守られなくなったら、もう大人だもの」
「そうだね」

苦笑する。鼻にかすめる、ラベンダーの花と、それ以上に甘く酔いしれそうな甘酒の匂いがする。昼間から酒を飲む美青年は、まだ理性が繋がれているのに、雰囲気は生ぬるい泥の中に落としてしまいたいと甘ったるく寄りかかるようなものだった。
「明日は、ガーベラを買うことにするわ」
「そう」
「そうして幸福が訪れなかったら――そうね。私はやっぱり、不幸なの」
自信たっぷりに宣言すると、私のことが呆れてしまったように微苦笑した。

202101/23

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