時は遡り、六月二日。宮城県インターハイ予選二日目。
「櫻井と牛島が?」
「………うん」
今日の試合も終わり、残すところ明日の決勝戦のみ。学校で解散した俺はいつもの様に岩ちゃんと帰路へついていた。そこで話すのは、今日の試合の反省と明日のこと。そして、今日の烏野との試合が終わった後に俺が目撃したあの光景だった。
「まさか。笑えねぇ冗談はよせよ。
……お前の見間違いとかじゃないのか?」
「俺が、あの二人を見間違えるわけないじゃん」
見間違いだといいな、なんて自分が一番思っている。でも、俺は確かに律ちゃんと牛島が向かい合って至近距離にいるのを見たのだ。律ちゃんが階段に立ってたから二人の間に身長差もさほどなく、近い距離に顔を寄せている男女を見たら………。誰だって、キスしているように見えるだろう。
ああもう。何で、よりによってアイツなんだ。よりによって今日だったんだ。
「……明日の試合は、心配しなくてもちゃんとする。そこまで落ちぶれてもないし、やわでもないよ」
「でも、「俺は大丈夫だから」
『大丈夫』なんて、どの口が言えるんだか。岩ちゃんだって不安そうな顔で俺を見ている。
烏野の後の四回戦だって、自分が思っていた以上に苦戦したのに。サーブトスをあげる時とか試合中のふとした瞬間に頭の中をあの光景がチラついて、普段通りしているつもりでも全然うまくいかなかった。試合は無事に勝つことができたけれど、みんなにはバレバレだった。何があったのかなんて聞かれても、話せるはずもないのに。
「……ダメだね。律ちゃんが居ないと何もできないなんて」
今まで、こんな俺じゃなかったのに。中学の時だって、中野先輩と律ちゃんに何があろうと、俺のせいであんな事になろうと、自分のことだけに一生懸命だったのに。
探し続けた三年間以上に苦しいことなんてないと思っていた。それなのに今は、律ちゃんのことを考えるのが苦しい。
律ちゃんのことが好きだ。でも俺の心の中では彼女を大切にしたいという気持ちと裏腹に、滅茶苦茶にしたいという気持ちが渦巻いている。次律ちゃんに会った時、自分が何をしでかすかわからないのが怖い。律ちゃんをまた傷つけてしまうのではないか、と考えてしまうのが怖い。
律ちゃんとバレー、どちらが一番好きかなんてくだらない話をするつもりはない。だけど、律ちゃんの一番が山下さんでは無くなった今、彼女の一番は一体誰なんだろう。そう考えて、俺だったらいいなと思っていた。でも、ひょっとしたら牛島かもしれないと思ってしまった。
「……そのお前の変化は、悪いことだと思わねぇよ」
「え?」
「櫻井のこと、ちゃんと大切に考えるようになったってことだろ。良いことじゃねぇか」
岩ちゃんの発言にポカンとして、少し笑った。
ちゃんと見えていて、いつだって心の中にいる。そう思えば、確かに近くにいたのに全く見えていなかったあの頃と比べるといいのかもしれないけれど。
「岩ちゃんは相変わらず短絡的だねぇ。俺はその思考回路が心配になるよ」
「ぶち殺すぞ」
「怖ぁい!」
キャイキャイと話してるうちに家に着いた。
「それじゃ、また明日」
「おう」
岩ちゃんみたいに『また明日』って気軽に言える距離に彼女が居れば良かったのに。そうだったのなら俺は、何がなんでも彼女を隣に置いておけた。ずっと近くに居ることが出来た。
どうして牛島《アイツ》と一緒にいたの。
何を二人で話していたの。
どうして、俺に何も教えてくれなかったの。
俺が牛島を敵視している事は律ちゃんも知っている筈なのに、俺は二人がそういう関係だという事どころか顔見知りだということすら知らなかった。
「……なんか、裏切られた気分」
心の底で渦巻いていたドス黒い感情が、溢れて空へ溶けた。
そして迎えた決勝戦。
「今日こそ凹ましてやるから覚悟しなよ、ウシワカちゃん」
「その呼び方をやめろ及川」
何度もこの舞台でネットを挟んで顔を合わせて、そしていつだって俺は牛島《コイツ》に阻まれていた。
県内トップクラスの成績でも、セッターとしてどんなに優秀でも、彼のチームには一度も勝てた試しがない。圧倒的な力の前では、どんな努力をしたって無駄なのか。そんな筈は無いと思い続けても、結果に出すことはできない。
そして、今回も。
力強い彼のスパイクが決まり、試合終了の笛が鳴った。
「……まあ、勝利までの過程なんて関係ないよね。
コートにボールを落とした方が負け。そういうルールだ」
「………」
寡黙で、勝ったというのに表情一つ変えやしない牛島《コイツ》のことが憎らしくて堪らない。周りとはかけ離れた実力に、冷静な顔。まるで、律ちゃんみたいだ。
そう思ってしまって、でも顔に出ないだけで牛島もバレーが好きなんだとわかるから余計に腹立たしい。
なんで、お前なんだ。俺だって。
そんな気持ちを押し込んで、息を吐き出した。
「……ひとつだけ、全然関係ないこと聞くけど」
「?」
「牛島は、律ちゃん……櫻井律とどういう関係なの」
「?」
「昨日、二人で話してたよね」
「、お前に話す必要があるか?」
「いいから、答えろ」
返答次第では、俺はもう一生こいつを恨み、憎み続けるんだろうななんて思った。
牛若ちゃんは少し間を開けて、いつものように坦々と言った。
「櫻井とは、ただの友人だ」
「っ、お前は、ただの友人なんかにあんなことするのか!?」
ただの友人が、あんな至近距離で話すわけがない。異性の間に純粋な友情なんて有りはしない。俺はそれをよく知っている。俺にとっては普通のことでも、いつの間にかその異性への好意は愛情へと変化するのだ。周りだって、俺だってそうだった。
「及川、お前はいったい……「もういい!」
背中を向けて、今度こそと歩き出す。
『及川は、櫻井さんが自分以外の男とキスとかセックスとかするの見ても平気?』
『平気、じゃないかな……律ちゃんの事、誰よりも好きだし』
ようやく、本当の意味でマッキーとの会話を理解した。
全然平気じゃないよ。腸が沸繰り返そうなくらい腹が立って、ムカついてしょうがない。
いや、それ以上に今は、悲しくてしょうがない。
俺が律ちゃんを一番だと思うくらい、俺も律ちゃんにとって特別になりたかった。
でも、手に入らないというのなら。もういっそのこと……
「……徹、さっきの子って」
「気にしなくていいよ。
でも、もうそんな雰囲気もなくなっちゃったね。帰ろっか」
「え?う、うん……」
きっと俺がどんなにうまく隠そうとしたって、彼女はもう俺の心の一番大切な場所に居座り離れない。でも、彼女にとって俺がそうではないというのなら、無理やりにでも忘れてしまおうと思った。
諦めてしまおう。この恋心が一生消えてくれないとしても、もう俺は良い子で律ちゃんを待ち続けることなんて出来ない。誰よりも近い距離にいたいし、俺だけが彼女の全てを知りたい。そう見返りを求めるようになってしまった俺は、もう無邪気に彼女を追いかけてられない。
いつか膨れ上がったこの気持ちが薄れてしまうことを願って、彼女の手を取った。仲が良かったクラスメイトの女の子に告白されて、いつもの断り文句で振ろうと思っていたけれど律ちゃんと牛島の顔が思い浮かんで、付き合うことに決めた。
手を繋いだり甘い言葉を囁いたり恋人らしく振る舞って、今まで律ちゃんとそうなりたいと思っていた場所に触れさせた。
そうしたのは律ちゃんの方が先だった筈なのに、何であんな顔をしたのか。
一瞬の驚いた表情の後、彼女は何かを堪えるように目を閉じて眉間に皺を寄せて走り去っていった。
俺は律ちゃんに幸せになってほしい。その隣が俺であったら良いのに、そう思い続けてきたけれどもう無理だ。いつだって君を傷つけているのは俺で、もう俺は隣で幸せそうに笑う彼女を想像できなくなってしまった。
どうか、俺の手の届かないところで幸せになってくれ。
世界で一番、大切な人よ。
* * *
「潔子さん、少し、いいですか……」
「、どうしたの?律、顔色悪いよ」
保健室行く?そう声を掛けてくれた潔子に大丈夫だと言って自分の席に座って後ろの席の潔子の方を向いた。
日曜は休みだったからなんとか持ち直せるかなと思っていたけれど、私が思っていた以上に及川の事が好きだったみたいで、女の子と及川のキスシーンを思い出してはぽっかりと心に穴が開いたかのように虚無になっていた。
「………実は、失恋しまして」
「え?」
「私、及川の事好きだったんだ……」
「え!?ちょっと待って何があったの!?」
土曜にあったことを話すと、なんとも言えないような表情で。それでも潔子は優しく机に突っ伏した私の頭を撫でてくれた。バレー部に入部するか悩んでいた時も何も言わずに待っていてくれたし、その優しさに何度救われたことか。
「でも、律がそんななるなんて思わなかった。恋愛に関してもドライなんだとばかり」
「私も、それ自分で思った」
一番バレーに一生懸命だった中学時代も、ここまで沈むことなんてなかったというのに。病院で烏養さんと話した時くらい泣いたというわけではないけれど、なんとなくスッキリしない。
「……でも、逆にあそこまで見せつけられて吹っ切れたところもあって。これでバレーに集中できる」
「大丈夫?無理してない?」
「平気。さっき武田先生から、昼休みに職員室来るようにって呼ばれたから、多分ユース合宿の詳細が来たんだと思う」
「……律、」
「大丈夫。心配しないで。次に及川に会った時、私はもう平気だって見せつけてやるんだ」
もう、及川がいなくても大丈夫って。立ち直る事ができたんだよってプレーで証明したい。二人がいれば何だってできると思っていたあの頃とは違うんだと。
時間も何もかも足りないけれど、絶対。
「私は、律の味方だからね」
「うん、ありがとう。マネージャーとか、任せっぱなしになることもあると思うけど。潔子も何かあったら絶対教えてね」
「うん」
昼休み。勧誘に行くと言う潔子を見送って職員室に来た私は、武田先生と一緒に送られてきた書類に目を通していた。
今年の夏、来月下旬から八月にかけてロンドンオリンピックが行われる。それの選考合宿は終わっているらしいけれど、その前にある調整合宿に特別に参加させてもらえるようだ。とはいえ、本当に顔合わせのようなものだから練習に打ち込むことは無いのだろうけれど。
「スケジュールは大丈夫そうですが、テストの直後なので勉強はしっかりとしておいてくださいね」
「補習になったら強制送還になりかねないですしね」
「はは、そうですね。東京遠征の二日前までと言うことなので、櫻井さんは現地集合の方が楽だと思うのですが」
「はい」
その辺は適当にホテルを取るしかないか。知り合い…例えば親戚の家に泊まれれば費用は浮くけれど、そこまで迷惑をかけるわけにもいかない。一人だし、適当にビジネスホテルを探してみなければ。
それから細かいスケジュール調整や先生方への確認、進路の話を少しだけして職員室を出た。烏野を卒業したらどうするか。なりたいものもやるべきこともハッキリした今、進学先に迷いはなかった。
手元に残った封筒を握りしめて、ふう。と息を吐く。
「……よし」
目指すところは決まってる。後は進むだけだ。
教室に戻ると、勧誘から潔子が帰ってきていた。
「おつかれ。どうだった?」
「スケジュールとかの打ち合わせと進路の話してきた。十九歳以上の合宿だから、テスト最終日の次の日からなんだって」
「うわ、頑張って」
「ありがと。そっちは?勧誘どうだった?」
そう聞くと、潔子は嬉しそうに微笑んだ。
「一人少しだけ興味持ってくれた子がいたから、今日の放課後顔合わせに連れてくるね」
「よかった。私も行った方がいい?」
「いや、私が行くから律は準備進めておいて?」
「わかった」
一年生の女の子だと話す潔子はとても嬉しそうに笑っていた。その子が実際に入部してくれるかどうかはわからないけれど、その気にさせるのはきっと私たち次第だ。私がマネージャーをすることに決めた日のことをふと思い出して、まぁ大丈夫だろうと思い返した。
「あの!ちょっといいかな!」
部活を始める前に潔子が連れてきた女の子に視線が集まる。
「新しい人見つかったんスね!!」
「日向は知ってたの?」
「俺、清水先輩と昼休みに会って、一年で部活してない人とか調べたんで!」
「なるほど。お手柄」
うへへ、と喜ぶ日向から視線を移して女の子を見る。
「えっと、新しいマネージャーとして仮入部の………」
「やっ、谷地仁花です!!!」
金髪を星型のゴムで少し髪を結んでいる小柄な女の子。
皆は彼女に興味津々なようだ。潔子がお昼に言っていた通り、ひとまずは仮入部で委員会前に顔見せに来てもらっただけとのことで、こういうスポーツ会系のノリについていけてないような子で、ガチガチに固まっている。
「仁花ちゃん、こっちがもう一人のマネージャーの櫻井律」
「はじめまして。三年の櫻井です。よろしくね」
「ヒャッ、ハイ!!」
手を差し伸べてはみたものの、何故か私まで怖がっている気がする。まあ、心境の変化はあったもののそこまで感情が顔に出るわけでもないし。
集団行動に慣れていないとか、コミュニケーションが苦手とかなら、仲良くなるのは時間かかりそうだと思っていたけれど、翌日の放課後にはすっかり日向と仲良くなっているようだった。
こそっと体育館へ入ってきた仁花ちゃんに真っ先に気づいた日向が声をかけて、小テストの点数で喜んでいた。
「…日向のコミュニケーション能力の高さよ。もう仲良くなってる……」
「音駒のセッターとも最初から知り合いだったよな…」
それからすぐに練習が始まった。今日から見学に仁花ちゃんがいるからと、体育館で練習のサポートに潔子が入り、バレーやチームに関して教えることになっている。部室や他の雑用はなるべく私が回るようにしている。
洗濯を終えて体育館へ戻ると、ボールが叩かれる音とみんなの声が響き合う。インターハイ予選の後から気合の入り具合が違い、いつもより力が入っている気がする。あの試合から、皆少しずつ前を向き始めて徐々にチームが変わりつつある。
「あ、律おつかれ。ビブスありがとう」
「ん。仁花ちゃんあんまり慣れないでしょ」
「はい。でも、勉強になります!」
まだ表情は硬いものの、なんとか少しずつ興味は持ってくれているようだ。
「律!」
「呼ばれたから行ってくる。何かあったら潔子か私に聞いて」
「は、はい」
繋心さんの方に向かうと、丁度隣に武田先生が立っていた。今度のユース合宿の話をしていたみたいで、私の今の練習状態について少し話をしたいのだと。
「律、明日から練習混ざるか?」
「え、いいの?」
「合宿行くまでに少しでもボール触っといた方が良いだろ。
お前の一番の持ち味だけでも、磨いておかねぇとな。
先生とも話したが、そこまで時間もあるわけじゃねぇしな」
「はい。試合形式の練習にはどうしても加わることはできないとは思うんですが……櫻井さんの進路がバレー関係というのであれば、女子に移籍する事もと職員室で話があったもので」
「…私としてはマネージャーから離れるつもりは無いですけど。
でも、練習に参加は嬉しいです。ありがとうございます」
「それでは、明後日あたりからという事で。移籍は無しと伝えておきますね!」
「はい、お願いします」
翌日六月十日。急遽扇西高校との練習試合結果はストレートで勝利し、今日の練習を終わった。試合内容は悪くなかったけれど、予選や本戦で勝つとなると、対戦相手のレベルが違いすぎるのが少しキツい。
……そう言えば、今日は岩泉の誕生日だと思い出した。あれから及川は勿論岩泉とも連絡をとっていない。
『……ああ、私。及川の事、好きだったんだ』
『櫻井、お前……』
『本当にいつもいつも……。っ私は、気づくのが遅いなぁ』
『………』
『うかいさんの、言う通りだ………』
決して、泣いたわけじゃない。それでも、今までずっと自分には何もできないと。頑張らないといけないと、アンテナを色んなところに張っていたはずなのに。
本当に、ポンコツだ。私は。
『……お前は、凄いやつだよ』
『、……岩泉?』
『何で、こうもうまくいかないんだろうな………お前らは』
『本当にね。でも………いいや』
『あん?』
『私は及川に迷惑かけてばっかりだし、これからもいい友人でいられるのなら………いい。
及川徹が幸せなら、それでいい』
日向と仁花ちゃんが騒いでる声を聞きながら今日の後片付けをしていると、影山に声をかけられた。
「櫻井さんって、ユース合宿行くんスよね?
今、練習とか何してますか」
「基本は体力作り。三年間ブランクあるし、筋トレと走り込み中心にやってる。
高校生は、自分が思ってるより子どもで体もできてないから、ジムとか行ってやりすぎると体壊すし、怪我って再発しやすいらしいし」
「成る程……食事とかは?プロテインとか、サプリとか」
「プロテインはホエイ飲んでるよ。栄養はご飯で取りたいからサプリはビタミン剤だけかな。
……にしても、影山が聞いてくるの珍しいね」
こういった会話は中学の時に若利や聖臣としかしたことがなかったから、少し新鮮だ。影山がバレーの道を一生進み続けることは想像していたから驚きはないけれど。
「そうっすか?でも、櫻井さんは一番身近にいる凄い人なので、色々聞いておいて損はないかと」
「、」
天才セッターだと周りから評価されている影山にそんなことを言われるなんて思ってもいなかった。
彼はずっとバレーに一直線で、将来はプロの選手になると昔から決めていたんだと思う。だからこそ中学ですれ違いが起きたし、それは影山と金田一君達のどっちが悪いなんてことはないと思う。気持ちの違いも、意見の相違も、当たり前だ。
だから、今の影山を特別視せずにライバルとして接する日向がいてくれてよかったと思うし、今の烏野があるからこそ影山はこうしてバレーを続けていられるんだろうなぁと思った。
私には、そんな人がいなかったから。
「……聞くのは良いことだけど、影山もやり過ぎない様に。
貴方は、私みたいになっちゃダメだよ」
「!、気を付けます」
影山のことは少し苦手だった。何があろうとバレーに一直線で、少し私に似ているから。でも、中学からの唯一の後輩だし嫌いにはなれない。今は、同じチームで真っ先にアドバイスをもらいに来るこの後輩を、マネージャーとしてサポートしたいと思っている。
部活後。女子更衣室で着替えていると、入部届を握りしめて眉間に皺を寄せている仁花ちゃんが目に入った。
「…何か迷ってる?」
潔子と私は目を合わせて、少しだけ踏み出してみようかと声をかけることにした。詳しく話を聞けば仁花ちゃんは根っからの文化系らしく、親の影響もあってデザインや美術に興味があるらしい。本当にスポーツとは無縁の生活だったのだろう。
「……ちなみにだけど、元々私はスポーツしてたけどバレーもマネージャーも未経験だったよ。
…何だって始める前から好きって事無いじゃない?
何かを始めるのに【揺るぎない意志】とか【崇高な動機】なんて無くていい。成り行きで始めたものが少しずつ大事なものになっていったりする。
スタートに必要なのはチョコっとの好奇心くらいだよ」
「私は元々選手としてやってたけど、怪我して。
また選手に戻ってくるとは思わなかったけど、私のバレーを好きだって言ってくれた人に胸張って会いたいだけ。
仁花ちゃんが迷ってる理由を深く追求する気もないけれど、後悔しない道を選んでほしい」
仁花ちゃんはまた考え込むように視線を逸らしたけれど、私と目を合わせて言った。
「櫻井先輩は、後悔してますか?その、昔のこと……」
「勿論。でも、だからこそ諦めたくないって、後悔したくないって思った。復帰の時両親に反対されたんだけど、もう自分の気持ち言葉にするしか私にできることなんてなかったし」
「ちなみにだけど、私のチョコっとの好奇心は律だよ。
誘ってくれたのは澤村だったけど、律が熱中してたバレーに興味あったから……
仁花ちゃんは知らないかもしれないけど、律って最初の頃凄いやさぐれてたんだから。ほら、写真」
潔子がケータイの画像を見せると、仁花ちゃんは固まってしまった。入学当初は制服の着方は問題なくとも、髪はインナーカラーを入れていたし、ピアスも開いていた。教頭先生に注意された時は成績で黙らせていたけれど。
「え、引いた?」
「いえ全然!かっこいいですよ!!」
自分たちが一年生の頃を思い出して少しだけ笑った。
着替え終わり更衣室を出ると、騒いでいる菅原達が目に入る。
「日本代表!!に!!ウシワカ!!」
「!」
「ってことは、今年のオリンピック……」
「出るかはわからないけど、選手として選ばれたってことか」
性別は違えどかつて同じ立ち位置に居たというのに、もうここまで差が開いてしまっている。
「こいつが東北で唯一の代表か…
俺達は春高でこいつを倒さないといけないワケだ…」
「負けてらんないね」
それから、どんな心境の変化があったのか翌日仁花ちゃんはマネージャーとして正式に入部することが決まった。
「ハイ」
潔子に渡されたジャージを嬉しそうに広げる仁花ちゃんに、こちらまで嬉しくなる。
「せーのっ」
「ようこそ!!烏野高校排球部へ!!!」
「よっ宜しくお願いシャス!!」
「よし、東京遠征までもう少し!あとはテストを残すのみ」
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