「は?ナンパ??」
「いや、そこまですごまなくても……」
 試合も終わり、本予選に駒を進めた私たちは学校に戻った。帰り際、ギャラリーに荷物の確認に行った潔子が戻ってくるのが遅かった理由を聞けば、他校生に絡まれたとのこと。最終的に日向に助けてもらったと言っているけれど、どうなっていたことやら。
「多分、最終予選に出場する人たちだと思う」
「世も末だね」
 潔子は大丈夫だと言うけれど、それなら尚更次の大会は注意したほうがいいかもしれない。
 一次予選を突破して、次は十月に行われる決定戦だとみんな気合を入れている。そうして夏休みも終わりを告げたものの、日中は夏の暑さがとどまることを知らなかった。
「おっ生還影山!どうだったよ!?」
 日も暮れて暗くなってきた頃、青城に偵察に行っていた影山が戻ってきた。私も一緒に話を聞こうと日向と影山に近寄ると、影山は突然「俺は一生、及川さんに勝てないのかもしれない」と言い出した。
「何言ってんだふざけんな!!何見たんだ!」
 影山の話では、青城では大学生との練習試合を行なっていたらしく、その中に及川は一人で混ざったのだと。そこで及川は、初対面の相手に完璧な百%のトスを上げていたとのこと。

「誰からも、どんな奴からも百%を引き出すなんてたとえ時間をかけたってできるとは限らない。
 でも及川さんは、例えあの人を嫌ってる奴とかすげぇクセのある選手とかでさえきっと自在に使いこなす」
「………そのスゲー大王様に改めてビビっちゃったのかよ影山クンは」
「あぁ、スゲービビった」
 ビビったと言う影山は、ニッと笑っていた。心底嬉しそうに。
 才能がある影山にとって及川は、尊敬して止まない先輩であり倒すべき強敵。超えるべき目標《かべ》。及川は影山のことをクソ生意気な後輩だと言っていたけれど、バレーに関しての評価は高い。中学の事があったから心配だとは思うけれど、それでも及川は何があっても走り続けることを辞めないと知っている。
「その及川さんの三年間全部を詰め込んでんのが今の青城で、春校はそれと戦える唯一のチャンスだ。
 チームとして絶対に勝つ」
 天才という、努力をなかった事にするかのような言葉は嫌い。
 私のことを知らないくせに。掛けてきた時間を、血の滲むような努力を知らないくせに。そう強く思う。
 でも、天才だと思う影山や若利も努力はしているのだ。そう考えると、私が嫌いだと思う天才ってどういう選手なんだろう。

 八月末の土曜、この日は遠征で音駒高校へ練習に来ていた。夏の間に行われる遠征も今回と十月の代表決定戦前に行われるので最後。次に会うのは、春高本戦……東京体育館だ。
「ヘイツッキー!!
 今日もブロック跳んでくれ!ヘイヘーイ!!」
 体育館に入って早々。いきなり木兎に絡まれる月島が、普通にお辞儀をして「お願いします」と言ったことに、殆ど全員が驚いていた。もちろん、木兎自身も。
「月島、何か変わりました?」
 赤葦君が駆け寄って来るが、私にも特に心当たりは無い。曖昧な返事しかできなかったけれど、嬉しい誤算ではあった。

『自分より圧倒的に上な相手のスパイクを、止める方法はあるんですか』

 繋心さんに自ら聞きにきたときいて、月島はバレーに本気でハマろうと、好きになろうとしているのかななんて思った。
「変わったのは一目瞭然なんだけど………どこで変わったのか聞かれると、前回の夏合宿で変えられたんじゃない?」
「はぁ………最初あんなに冷めてたのに」
「赤葦君は人のこと言えないと思う」
「む、失礼ですよ。それに櫻井さんに言われたくはないです」

 この夏でみんなの大きな変化に驚きつつも、それでもまだ足りないとばかりに練習のみ。
 月島は鉄朗を参考にしつつブロックの腕を磨いているみたいだった。鉄朗は私が知る同年代の選手でもブロックがうまいし、スパイカーとしては非常に厄介だけどその分参考にもなる。
 月島は、大抵のことは並くらいにできる。でも、その長身でミドルブロッカーなのだから、守備では少しでも活躍して欲しいところだ。
 九月に入り、十月に三日かけて行われる決定戦まであと少し。
 少し肌寒くなってきたのを感じながら、最後の遠征を終えた。
「ヘイヘイツッキー!
 お前ぜってーウシワカに勝って来いよ!!」
「…なんでですか…」
「だって俺は今ツッキーに圧勝中だから、ツッキーがウシワカに圧勝したら俺はウシワカに圧々勝じゃん!!」
「スミマセン、ちょっと意味が」
「そしたら俺最強ー!わはははは!」
 いつも木兎は変わんないなぁと思いつつその様子を見ていた。
 前に若利について木兎と話したら、以前大会で戦ったことがあったのだと話していた。木兎も十分凄いスパイカーだけど、実力も名声も若利には敵わない。この先どちらもバレーを続けるし、戦う機会は何度もあるだろうからと再戦を楽しみにしていた。
「………次会うのは東京体育館だ」
「そうね」
 ずっと鉄朗とゴミ捨て場の決戦をしたいと話していたから、それを今度こそ。お互いの恩師を思い浮かべると、鉄朗と私は同じ気持ちみたいで、熱量が若干周りとは違っていた。
 親孝行ではないけれど、バレーに深くハマるきっかけを作ってくれた人だ。見せたいと、いつだって思っているよ。
「………ねぇ、鉄朗って私のこと天才だって思う?」
 どうしたんだ急にって、本当にその通りだと思う。でも、今聞かないわけにはいかなかった。試合が近くなるということは、及川に会うことになるのと近くなるわけだから。
「思ったことならあるよ」
「………」
「今だって時々思うことはあるけど、そういうのってそこまで重く考えなくてもいいんじゃね?」
「、」
「重く考えすぎんのは律の悪い癖だ。昔色々あったんだろ?
 天才とか秀才とか、才能があるかどうか。確かにいつだって壁は現れるわけだし、超えて行かなきゃなんねぇ。でも、そういうの関係なしにお前の力でなぎ倒していくのがお前だろ。
 天才とか言われても、気にすんな。自分はそれだけ言ってもらえるようになるまで積み重ねてきたんだって胸張ってろ。昔からお前を知ってる奴は、ちゃんとその辺知ってるだろ」
 でも……知っていると思っていた相手に言われてしまった。及川に。一番言って欲しくなかった相手に。
「少なくとも、俺はこの遠征で嫌というほど知ったしな」
 正解はわからなかったけれど、鉄朗なりの考えで励まそうとしてくれている事だけはわかった。たしかに、試合を見ている人全員が私の努力を知っているわけが無い。
「マネージャーの仕事もして、ペナルティに参加して、俺らの自主練にも付き合って……寧ろ働きすぎなんじゃねぇかって思うよ」
「だって、私には時間がないから。それだけしないと……」
「それを実行できんのが、凄いことだって言ってるんだよ。
 お前が最初に動き出して背中叩いてくれたから、他の奴もやる気になってくれたんだろ」
「そう、なのかな」
「そうだろ。お前がかっこいいことも、お前の事を想っているのも、始めて会った時から変わんねぇ。
 
 ……これからも、俺の憧れであってくれよ」
 そう言って笑った鉄朗は眩しくて、本当に彼には助けてもらってばかりだと思った。
「うん、ありがとう」
 彼となら幸せになれるのかもしれない。
 ここまで想ってくれている鉄朗だから。それでも私は、
 そう考えて、吹っ切れた。

 次会う時、どんな顔でいられるかはわからないけれど、全てが終わった時、及川と話したい。
 自分の気持ちを正直に伝えて、それで本心を語り合いたい。
 今が最低なら、時間が経って会えなくなる前に決着つけたい。そしたら、きっと本気で泣けると思うから。
 だから、それまでは試合に集中しておこう。隠すのは、慣れてる。


「うお〜キタ〜!仙台市体育館再びっ」
 今日から春校バレー宮城県代表決定戦で、男子十六チーム、女子十六チームと多くの学校が仙台市体育館に集結している。夏のインターハイよりかは少ないけれど、あれは県内全ての高校が複数の体育館に分かれて試合をしていたから何気に女子と同じ会場というのは珍しかったりもする。
「絶対リベンジッ」
 空気は緊張のせいかピリピリしているようでもあり、どこか落ち着いた自信があるようにも見える。日向はどちらでもないのか、うおおおおと叫び声を上げながら入口に向かって走り、影山もそれを追いかけていた。初日から元気だなと思いながら入り口に走って行った日向がぶつかったのは、初戦の相手である条善寺高校の人達。その中のひとりがこちらに気がついてにこやかな笑顔で手を振っていた。
「メガネちゃーん!今日こそ番号教えてねーっ」
 にこやかに手を振る一人の選手に、潔子の方を見れば目を逸らしていた。この前ナンパされたと話していたけれど。
「……アイツか」
「気にしないでいいから」
 その言葉で西谷と田中が走り出すが、向こうのマネージャーさんが出てきて空中で止まっていた。
「今のがインターハイベスト四か…」
「…当たり前だけど、全員来てんだな。ここに」
 私達が今まで対戦してきた強豪校と、これから倒す強豪校が集結している。そう考えたら少し気が重くなってこの三日間を勝ち抜いてやると意気込んでいたけれど、館内に入ってサクサクと走り出す日向達を見て少し笑えた。
「テンション高いなー」
「お陰で冷静になるわー」
「って、二人先に行かせちゃダメでしょうが。荷物置くとこはいつもの場所急いで取りに行って、私は日向と飛影山追いかけてくる」
「後で連絡する」
「ありがとう潔子」
 エナメルを背負ったままどんどん先に進む二人を追いかけていった。でも、意気込んで力が入っていたから、少しだけ落ち着いたかもしれない。試合でもそこまで緊張することはないのにここまで気にかけているのは、きっとこれが最後だからというだけではない。

「テンション上がんのはわかるけど、気をつけなさい」
「スミマセン…」
 二人を捕獲した後潔子からメールを貰えたのでチームに合流しようとすると、日向がトイレに行きたいと答えたので先に影山だけ向かわせた。
「櫻井先輩も行っててよかったのに………」
「だって日向、迷子になりそうだし」
「ンガッ!?また子ども扱い…!」
 鉄朗には日向に甘いと言われたけれど、目が離せないだけだ。誰よりもバレーを始めるのが遅くてセンスもあるとは言えない。それなのにいつだってみんなの先を走ってくれるから。だから、凄いと一目置いている。
「私、そこで飲み物買ってくるから」
「…櫻井先輩、トイレをなめないでくださいね。俺、知ってるんですよ。トイレは危険人物と遭遇する場所である事……!」
「そんな事言ってる暇があるなら、一秒でも早く戻ってきて」
 慎重にトイレに向かう日向を見送って自分用の水を買った。
 夏合宿中一番長く練習したのは鉄朗だと思う。木兎と赤葦君も一緒だったけれど、ジャンプサーブの練習も付き合ってたし。ブロックも飛んでもらった。それでも日向の成長が嬉しくて、最初の頃と比べて大きく変わった事を考えて嬉しくなる。
 なんか、短かったなと思いながらそろそろ戻ってくるだろうと思ってトイレの前に見に行くことにした。すると、変な人だかりが出来ていることに気付いて視線を向けて、固まった。
「………は?」
「櫻井先輩!」
 どうやら先ほど日向が言ったことは本当らしく、男子トイレの前には日向、及川、岩泉、そして若利までもが集まっていた。
 そこにいる日向が私の名前を呼んだものだから、こちらにも視線が集まるのはもっともで、コソコソと話し声も聞こえる。同じ会場にいるから顔は合わせるだろうと思っていたけれど、何も全員と一度に合わせる必要も無いでしょうに。
 バチッと及川と目があったけれど、ふいと逸らされてしまった。それに少しだけ寂しさを感じていると、真っ先に若利が話しかけてきた。
「……櫻井は烏野だったのか」
「、言ってなかったっけ」
 インターハイ予選で会った時、マネージャーだと言ったけど高校までは話してなかった気がする。日向が道で会ったと言っていたけれど、若利は烏野をどこまで知っているのだろう。
「電話、したのか?」
「うん、した。その節はどうも」
「!そうか……良かった」
 良かった?と少し不思議に思いつつも、夏にユースの合宿に参加したと話した。
「で、凹んで帰ってきたよ」
「……」
「若利にキッカケを貰ったのは感謝してる。困らせられたけど、ちゃんと進めたから良かったとも思ってる。
 『私のバレーが好きだ』って言ってくれた人に背中を押されて復帰したけど、三年のブランクあったらやっぱりキツいし、まだまだ足りないものだらけだって思った。
 
 だから、また勉強させてもらう」

 今までずっと見てきたから。若利のバレーを参考にしているのは、今やってる左打ちだけじゃない。
 横の髪を耳にかけながらピアス《かせ》を外したのだと示すと、若利は表情を変えることなく「そうか」と言って及川と岩泉を見た。
「…お前達には高校最後の大会か。健闘を祈る」
「ホンッット腹立つッ!!」
「全国行くんだからまだ最後じゃねぇんだよ」
「……?全国へ行ける代表枠は一つだが?」
 若利はどうしてあんな、炎に灯油を注ぐ言い方をするんだろう。及川と岩泉がもう、因縁やらでとんでもないことになってる。
「かっ勝つのは烏野で…ヒィッ」
 日向も反論しようとしたけれど、三年のプレッシャーに押されて何も言えなくなる。そこで日向の後ろから伊達工の青根君が来るものだから、因縁のライバル校が全員集合してしまった。

「誰だろうと受けて立つ」

 そう言い残して歩いて行った若利の後ろ姿に、アイツを倒さないと春高には行けないと気合が入る。いい感じに抜けた空気が、引き締まった気がした。
 パンッと両手で顔を叩いて、気持ちをリセットする。私は選手ではないけれど、春高に行きたい気持ちは変わらないから。
 及川と岩泉の方を振り向いてもう一度視線を合わせた。
 大丈夫よ。私はどこでだってやっていける。どこでも飛べる。

「……負けないよ」
「!」

 だから、全部終わったら、決着がついたら話をしよう。

    *    *    *

「お前、そこまで嫌われてると思わねぇけど」
「ぐっ……!」
 櫻井達に背を向けてチームに合流する際及川に話しかけた。
 牛若と櫻井が話しているのをこれでもかという程睨み付けていたし、諦めきれてもいないのだろう。本当に、めんどくせぇ奴らだなと心底思う。
 前に二人が次にあった時を考えてはいたけれど、櫻井が及川を避けているのではなく及川が櫻井を避けている。その状況を不思議に思った。
「……でも、もう期待して落とされるのも嫌だ」
「………」
 そう言いつつも寂しそうな顔をする及川に俺は押し黙った。櫻井はあの時、及川のことを好きだったんだと言っていた。少し呆然として呟いた言葉に俺は目を輝かせたけれど、その後の櫻井はいつもの全てを押し殺した表情に戻っていたから俺は何も言えずに帰ると言った背中を見送った。お前らは、お互いを大切に思っているはずなのにお互いの幸せを考えて気持ちを言わないつもりでいるのか。もう一生このままで、別の誰かと結ばれるのだろか。
 櫻井が選手に復帰する決断をしたときに背中を押したやつが及川だったらどれだけ良かったかと思いつつ、話していた櫻井を思い出した。
 
 こんなことになるくらいなら、少し前までの方がよっぽど良かった。

    *    *    *

 第一試合前。ギャラリーでは各学校の応援に足を運んだ人で埋め尽くされていた。
「ウチは三試合目だっけ」
「おう、Aコートで伊達工の後だな」
 試合のトーナメント表を見ていると、ギャラリーからワッと歓声が上がり、下を見ると優勝候補筆頭である白鳥沢、及川率いる青城がコートに入っていた。
「おっ、Cコートは女王来たな」
「女王?」
「知らない?
 もう何年も連続で女子の代表やってる、新山女子高校だよ。
 櫻井に中学の時推薦来てたんだよな」
「まぁ………」
 堂々とコートに入る新山女子に視線を向けていると、かつての同級生でありミドルブロッカーだった幸が見えた。彼女はまだバレーを続けていたのかと視線だけ向けていると、田中が下に向けて手を挙げた。それによって、選手がこちらに注目をし、田中はたじろいでいたけれど、その視線が私にも向いていることに気がついた。
「見てるよ」
 呟きが聞こえたはずもないけれど、幸は驚いた後コクリとうなづいたのを見て少し安心した。
 
 試合まで外でボールを使ってアップをしていると、前の試合を見に行っていた山口と日向が戻ってきて、コートに向かう。
 初戦の相手は、条善寺高校。私と仁花ちゃんはギャラリーで滝ノ上さんと試合を見ていた。
 条善寺はインターハイ予選ベスト四で、とにかく次の動きが読めない騒がしいチーム。二年生主体で、三年生の選手は引退している様だ。
 向こうのリズムがなかなか読めなくもあるけれど、それはこちらも同じ。だからこれは短期決戦で大胆に行ったほうがいい。攻撃力が高くても、土台がしっかりしていないと意味が無いのだから、バレーボールの基本通りに繋げて撃てばいい。
「俺、前から思ってたけど年齢詐欺は東峰より澤村だと思うんだよね……高校生に見えねぇ」
「でもこの前、バスケ部の主将さんと昼ご飯争奪戦になった時に勢い余って非常ベル鳴らして、先生に怒られてましたよ」
「なんだソレなんか安心」
 烏養さんや遠征の時のマネージャーに言われてきたけれど、そこまで澤村って大人でもないよなぁと普段生活していて思う。
 試合は進んで同点。どんなポジションの人でも攻撃したくて、飛び込んでくるからわかりにくい。考えてブロックに動く月島あたりは凄くやりづらいだろう。
「結果的に相手ブロックを惑わしてるワケだけど…それより、打ちたくなったから打つっていう自由度がすげぇわ。それを可能にするメンタルもな」
「怖いものなしというか、快感を得るための犠牲を恐れてない感じですよね」
 でも、攻撃ばかりではちゃんとした試合にならない。
「……勝負事で、本当に楽しむためには強さがいる」
「!」
「全員のびのびとプレーしていて、まさに楽しむバレーをしている。
 そのために彼らは強くなったのか、楽しんでいたら強くなったのかは知らないけれど。でもこれがこのチームの良さなら、逆に悪さも目立つなと思って」
「……条善寺の、悪さ?」
 仁花ちゃんにうなづいて試合を見る。影山がすぐに反応してブロックに飛んだが、ボールが当たったのは顔面だった。審判が試合を止めて、潔子がすぐさまティッシュを持って影山に近寄っていく。
「仁花ちゃんも下に行ってて。マネージャーは潔子が継続するから」
「わ、わかりました!」
 影山と交代で菅原が入るけれど、少しして日向も交代させられた。
「あれ、日向交代?」
「きっと、影山無しでの攻撃で日向は出さない方がいいと繋心さんが判断したと思います。
 日向は元々身体能力と影山との速攻で試合に出ていたので…夏に学んだことはありますが、この試合はまだ優勢なので新技披露にはあまりにも速すぎるでしょうし」
「………まぁ、これから上に行くとしたら新しいことはとっておいた方が身のためだよな」
 影山は仁花ちゃんに連れられて医務室に連行されたかな、と少し意識を逸らした時、滝ノ上さんに言われた。
「それにしても……
 りっちゃんて、本当に烏養さんの事が好きだよな」
「?」
「さっきの『楽しむためには、強さがいる』って話。
 昔、烏養監督に言われたこと思い出した」
 滝ノ上さんの言葉に、私のバレーの原点は烏養さんだからと思い返した。烏養さんが言ってた新しい速攻の使い道。それの有効活用方も探さなくてはいけない。
 途中影山がコートに戻ってきて、仁花ちゃんもギャラリーに戻ってきた。
「影山君は大丈夫でした!」
「おお、みたいだな。
 でもまだメンバーは変えずに行くっぽいな」
「菅原達も練習は重ねてきましたし……」
 東京遠征で学んで習得したシンクロ攻撃も決まり、マッチポイント。最後は条善寺もシンクロ攻撃をしたけれど、それは決まらず第一セット終了となった。
「条善寺もシンクロ攻撃できんのか!?」
「いや、途中の連携の無さを見た具合だと完璧見様見真似です。
 打ちたくなったから打つようにやりたくなったからやった」
 第二セット開始。影山が鼻血から復活して日向も入り、二人はテンションが上がっている。これは初っ端からダメだなと思って、澤村の名前を叫んだ。
 澤村はこちらを向いてこくりとうなづきながら苦笑いした。
 思っていたとおり最初の新速攻はミスしたが、澤村がしっかりカバーする。
「凄い反応!」
「ていうか今のは読んでたっぽいな」
「エ!?」
「影山と日向が入ってくる時、やたらテンション高かったから。力みすぎて絶対ミスるって思ってたんだよ」
 柔軟な条善寺のプレーに引っ張られつつあったものの、澤村のプレーで安定感を取り戻し、着々と点差を広げていく。でも、タイムアウトが終わると、条善寺の顔つきは変わっており、対応もしっかりとされる様になった。
「前に青葉城西にも、こういう対応されたんだよな…
 仕方ないが、日向のスパイクはまだ軽いからな」
「でも、今と前では大きく違いますよ。
 誰とでも、どんなボールでも操れるようになる、です」
 日向をノーマークにしたが、日向は空いているところにしっかり決める。ボールコントロールが出来ている。そして木兎にならったフェイントも決まり、マッチポイント。
 最後は、条善寺がシンクロ攻撃をミスして試合が終わった。
「仁花ちゃん下に行こうか。
 滝ノ上さんありがとうございました」
「おう、また次も頑張れよ」
 お辞儀をして選手と合流すると、ハイタッチをして迎える。
 その時丁度隣のコートでの試合が終わったみたいで、次の相手が和久谷南高校に決まった。



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