代表決定戦二日目。
 今日は連戦だけど、今日勝ち抜けば決勝だ。
 アップも終わりギャラリーで仁花ちゃんと準備をしていると、来たのは嶋田さんだった。
「お一人ですか?」
「今日は滝ノ上が仕事。午後なら行けるかもって言ってたけど「オォーッテンションアガる!」
 嶋田さんより一際大きい女性の声がしたので振り向くと、田中のお姉さんの冴子さんが来ていた。
「こういうの血が騒ぐよねーっ」
「こんにちは!!」
「どうも」
 嶋田さんは初対面だったようで、疑問符を飛ばしていた。それを見た冴子さんは軽いノリで自己紹介をする。
 そうこうしているうちに試合開始の笛が鳴った
「サァー二日目…生き残れよォ〜…!!」
 初っ端から日向と飛雄の速攻を使うものの、和久南はあまり驚いておらず落ち着いていた。
 和久谷南は音駒や青城の様に自分たちのプレースタイルを確立し、此方の出方に対して臨機応変に対応してくるので武器を沢山扱うものの点が思うように入らないと言うのは中々のストレスになる。
「あの速攻の一発目に相手が驚かないってのは初めてだな…」
「ですね。インターハイ予選から観る側も増えましたし、研究されているとかでしょうか」
 チームワークというか、練習の積み重ねという感じがする程の熟練感を出す和久南。それだけではなく技術もあり、ブロッカーの嫌な手の位置にボールをぶつけてブロックアウトを取ってくる。いいようにブロッカーを使われて月島は顔歪めそうだ。
「ずっとこのペースだな…離されはしないけどリードはさせてくんねー!」
「、?櫻井先輩どうかしましたか?」
「いや………宇内さんに似てるなって」
「!」
「宇内さん?って??」
「ショーヨーが憧れてる小さな巨人?」
「冴子さん、知ってるんですか?」
 思わぬ人物が正解を言い当てたので不思議に思い問うと、「だってアタシソイツと同級生だもん」と言い放った。まさかこんな身近になんて思ったけれど、田中は家が近いんだっけ。それなら冴子さんも烏野に通っていたって不思議じゃ無い。

 バレー選手としては決して大きくない体で、それでも強者と互角に戦う空中戦でのテクニック。私はそこまで器用ではないからスパイクの際は力で押し込みがちだけど、日向や宇内さん、中島君の様に一瞬の判断で攻撃の手段を変えると言うのは凄いことだと思う。
 日向の攻撃も決まるけれど、日向の方に必ずブロックが一人は着くお陰でエースの旭のスパイクの方が決まる。
「ギャアッまた拾った!」
「見てる方もしんどい」
「今日一番長いラリーだな!獲った方に流れが来るぞ…!」
 どちらのチームも一歩も引かずにラリーは続き、攻撃に慣れてきたのか澤村がブロックアウトも拾う。西谷が繋げて最後にフォローに入ったところで漸くネットイン。
「いよーーっし!!……って、アレ……?」

 コートには、寝そべったまま動かない澤村がいた。

「………っ、は」
 試合が‪一時‬中断し、選手が澤村に注目する。ギャラリーにもその不安が伝わり、ざわざわと声が上がる。
 私はそんな騒めきすら届かないかの様に、ギャラリーの手摺りに捕まったまま動けずにいた。

 『疲れた。身体中が痛い。動けない。』
 『肩上がらないし、立ち上がれない。』

「、櫻井先輩?」

 『あーあ、女帝って、そんなもんなんですね。』

「おいおいりっちゃん、大丈夫か?」
「何、律ちゃんどうしたの」

 背中を冷や汗が伝って、その感覚に体が震える。
 汗が止まらないほど熱い身体と体育館の冷たい床が気持ち良いはずなのに。私はそれを最悪だと感じていた。
 その時の……あの瞬間を思い出して。
 倒れた澤村にかつての自分が重なって、目の前が歪んだ。

 嫌だ。私は、まだ………「律ちゃん」

 私を呼んだその声に顔を起こすと、グイッと腕を引かれた後身体を抱きしめられた。

「おい、かわ………?」

    *    *    *

「?なんだ?」
「接触した」
 二日目の試合は若干遅めの時間にあるからと会場に到着した俺たちは、試合の準備をしつつ始まったばかりの烏野対和久谷南の試合を見ていた。次の試合に勝てば、この試合の勝者と戦う事になるのだから。
「ラストボール返した直後、五番のボーズ君と主将君が激突。
 結構な勢いで顔打った様に見えたけど……、」
 岩ちゃんに話しながらふと烏野のギャラリーに居る櫻井さんを見ると、言葉を失うほど顔色を悪くしていた。

「ーーーッ」
「おい、及川!」

 行かなきゃ。
 律ちゃんが助けてって言ってる。
 
 この前のことなんて頭からなくなったかの様に荷物を放り出して真っ直ぐに走った。
 人混みを掻き分けて、縺れそうになる足を動かして。
 近くで見ると本当に顔を青白くして、少しだけ肩が震えているのがわかった。「律ちゃん」と名前を呼ぶと、驚愕したかの様に目を丸くして俺を見る。

 ホント、何でだろうね。
 あんなに君を傷つけて、敵チームの主将とマネージャーで。それなのに、俺は。
 昔、センターコートで倒れ込んだまま動かない彼女を見た時を思い出す。

『俺、何にも気付いていなかった』
『俺が一番、律ちゃんの隣にいたはずなのに……!』

 春に再開した時だって、試合を見るのはキツイって。それでも俺たちが居たから大丈夫だったなんて言ってくれた。
 震えている身体を引き寄せて力強く抱きしめて落ち着かせようとする。
 ずっと後悔していた。あの日、岩ちゃんに手を引かれるまで動けなかったことを。俺の前で涙を流せない律ちゃんに何も話しかけることなく背を向けたことを。

 何もできなかった自分に一番腹を立てていたのは、自分自身だ。いつだって律ちゃんを傷つける俺自身が許せない。

「……澤村君は大丈夫みたいだから、落ち着いて」
 許せないけれど、彼女の中に少しでも俺を刻み付けるために俺は彼女を傷つける。自分本位で、自分勝手で………でもそれくらい律ちゃんのことが好きだ。
 俺は律ちゃんの一番にはなれない。
 それでも、律ちゃんを一番よく知っているのは俺だ。それだけは、絶対に譲らない。
 抱き締める力を強くすると、体の震えが止まっているのがわかった。ゆっくり身体を離して顔を見ると、顔色は良く無いものの目を丸くして俺を見る律ちゃんが居る。
 ああ、大丈夫みたいだ。
 そう思ってもうこの場から去ろうとすると、律ちゃんが俺の手を取った。

「あなたは、私をどうしたいの………?」
「、」
「ねぇ、徹………っ」
 久々に名前を呼ばれた。しかも、こんな人前で。それだけ律ちゃんも気が動転しているのか、俺の手を離さない。
 何て答えるべきか迷った。守りたいとか、側にいたいとか、幸せにしたいとか。沢山考えていることはあるけれど、それを口に出せなくしたのは自分だから。

「……さあね」

 繋いでいた手を解いて、背中を向ける。
 震える彼女の体温も匂いも残っているのに寂しく感じて、なんとなく泣きたくなった。
「、おい及川!お前何考えてるんだ……!?」
「岩ちゃん、」
「そんな中途半端に櫻井に近づくなら、何で手放したりしたんだよ!」
「それは……」
「お前が櫻井を振り回してるって自覚してるんだろ!?」
 だって。もうこれは条件反射みたいなものだ。
「……確かに俺は櫻井さんに酷いこと言って突き放した。
 だけど、彼女が震えているのを前にして動けない自分ではいたくなかったんだ」
「お前………」

 世界で一番大切だから、幸せになってほしい。
 俺にはそれができないから、手放した。
 でも、そんな彼女が目の前で何かに怯えているのなら。周りに誰もいないというのなら。俺が一番に抱きしめてあげたい。
 一人でいる彼女を見てきたから、大丈夫だって。俺が居るって教えてあげたくなる。

    *    *    *

「あの、櫻井先輩」
「ごめん仁花ちゃん。下行って、澤村を医務室に連れてって」
 情けない。
 トラウマなんてとっくに克服したと思っていたのに、まだ直っていなかったなんて。及川がいなきゃ、立ち直れないなんて。
 困惑しながらも従ってくれた仁花ちゃんを見送ってコートに視線を落とした。するとやりとりを見守っていた嶋田さんが口を開いた。
「さっきの、青城の及川だろ……?りっちゃん、知り合いだったん?」
「中学同じで、同級生なので」
「彼氏かと思ったわ」
 そうだったらいいのに。なんて私も冴子さんに心の中で同意した。
 及川の考えていることが分からない。嫌われていたと思えばいつの間にか仲良くなっていて、裏切られて……助けられた。
 体の震えも気持ち悪さも及川に抱きしめられたらすぐに落ち着いてしまった。力強く抱きしめられるのが心地良くて、鼻をかすめる及川の匂いに落ち着く。

 本当に、いやになるな。
 及川無しじゃ生きていけないかもしれない。

 繋心さんは澤村に付いて医務室に向かう様で、そのまま退場した澤村に代わってコートに入ったのは縁下だった。
「へぇ、なんか意外。
 パッと見気が弱そうだけどな縁下」
「まさか!」
 少し不安そうに言う嶋田さんを冴子さんは笑い飛ばした。
「ウチに来てる時の様子じゃ、どっからどう見ても二年の首領は縁下だよ」
「最近は一年にも影響出てますし、澤村も頼ってますしね」
「ん?アレ、副主将って菅原だったよな?」
「菅原は一緒になって騒ぐので」
 私が烏養さんに呼ばれて初めてみんなの練習を観に行った時、縁下はとても辛そうにしていた。
 本気で楽しむには強さが要る。強さを作るためには、練習しかない。才能なんて神様の気まぐれで与えられる様なものだから凡人はセンスを磨くしかないのだ。
 でも、その練習だってキツイ。嫌になる人も嫌いな人もいて、続けたくなくなる気持ちもわかる。それでも私はその先に楽しいが待っていると知っているから欠かすことはないけれど。
 縁下はしっかりやってくれるから、大丈夫。

 烏野がリードしているものの、相性が悪く油断はできないし澤村が抜けたこの状況の中でセットを落とすのは精神的にもクる。それに、澤村抜きでフルセットの試合をするのはキツいものがある。
 山口はジャンプフローターするがネットインし、セットポイントになった。そこで、山口はジャンプフローターを辞めて普通にサーブをした。
「あれ?今度はジャンプして打つヤツじゃないんだ?」
「………」
 隣で見ていた嶋田さんが何か言いたげな顔をした。この人は山口にジャンプフローターサーブを教えている師匠だから、今のサーブの選択には思うところがあるらしい。
 なんとか繋げて旭が決めて第一セット終了。
 それと同時に、下から繋心さんの大きな怒る声が聞こえてきた。
「やまぐち「あっあのーっ!わかってます!
 多分、自分で一番、わかってます」
 縁下が山口を庇うのを見て、呟いた。
「……私は、サーブはバレーで唯一個人で得点を決められるから好きです。
 でもそれは、決まらなければ試合を終わらせてしまう可能性だってある。それが怖いって思うことは全然普通ですけどね」
「………だろうな。守りに入ることが一概に悪いわけじゃないと思う。
 結果、今は烏野の得点になったわけだし。でも、今の忠にとって他の連中と同じ様に戦うための武器は唯一サーブ。
 それから逃げたら、何も残らない」
 大きな変化じゃなくてもいいのに。
 夏に月島がそうだった様に、山口も少しずつ成長していければいいななって思った。それでも山口は同学年の三人と自分を比べて、すぐ隣で、同じコートで戦いたいと望んだのだろう。
 それから試合は続き、第二セットは和久南がとった。やはり澤村がいないだけで守備にボロが出て、そこを狙われる。いつも上がるボールが上がらないとなると攻撃にも繋げられない。
 また中島君にブロックアウトをされるが、日向は持ち前の反射神経と運動神経でボールを拾った。
「日向の動きがスムーズ!!」
「東京でフライングは毎日何本もしてましたからね」
 烏野が流れに乗るが、向こうも負けてない。
「いっそ全部フッ飛ばして来るならわかりやすいのに、強いの真っ直ぐスパーン!!とかも打って来んだもん。腹立つ」
「あのブロックアウト、もう少しなんとかしないと苦しいな」
「律ちゃんはあれ拾える?」
 冴子さんから声をかけられ、コートに視線を移して少し考える。
「西谷と、あと二人のスパイカーがストレートを取ってくれるなら、クロスを少し後ろに下がってから護ります。それなら中島君の選択肢はブロックアウトだけになるので、ボールが横に飛ぶと日向がさっきみたいに拾うので、後ろなら下がってる分届きます。
 影山に返すのがベストですけど、セッター練習してる西谷に繋げれば攻撃まで行けますね」
「なるほどねぇ……!お、丁度縁下が動いた!」
 日向も東京で学んだことをしっかり活かすことが出来ているので、この状況に対処している。点数もやっと追いついて、最初の繋ぐバレーが出来ている。
「んぐ〜!やっぱレシーブ良いな和久南…!!」
「長い試合はやっぱりキツイですね」
 どれだけスパイクを打っても徹底して拾うから、余計動き回っている烏野も披露が見える。次第に焦りに出てくるが、縁下は締めてくれる。

「日向ァ!!バタバタしないっ良いジャンプは!?」
「良い助走から!!」
 最後の攻撃が決まり、烏野が勝った。
 冴子さんと嶋田さんにお辞儀をして下に降りると、丁度仁花ちゃんと澤村がいた。
「大丈夫だよ、いやマジでね。痛み止めも効いてるし、かなり休んだからむしろ試合前より元気。
 次の試合は人一倍働くから」
 縁下に話しかける澤村に心底ほっとして、漸く体に力が入っていたのだと実感した。
「律、大丈夫?」
「……うん、ありがとう」
 潔子は私が見えていたのか、そっと背中を撫でてくれた。
 劣等感や嫌悪感からくるトラウマは完全に克服したと思っていたけれど、結局私があの日のことを忘れることなんてある筈が無い。それが少し痛く感じると同時に仕方ないかと笑える。

「律」
「?」
 澤村は少しだけ言い淀んだけれど、まっすぐと言った。
「……『熱い体に感じる体育館の冷たい床が嫌い』ってヤツ、俺もそうだって思ったよ」
「!」
「最悪だった。
 だから、もう二度と繰り返さねぇ様にするからな」
「…私も、床に倒れる澤村と自分の姿が重なって、怖かった」
「おう、悪い。心配かけた」
「……次、活躍してもらうから」
「おう!まかせろ!」
 そう言って笑った澤村に安心して、私は拳を突き合わせた。

 ギャラリーに登り補給食を食べながら伊達工と青城の試合を見ていると、伊達工の元バレー部の三年生が来ていた。
「あの…一セット目は青城でした」
「アッ烏野ッ…!!」
「ど、どうも、ちわす…」
 青城は一人一人が落ち着いてプレーしているし、流石の熟練感。それに、サーブを初めとしてスキルもアップしている。
 それに比べて伊達工は、セッターの子が体格のいい一年生らしいが、動きが素人らしくてチームとしてまだまだ未熟な気もする。
 伊達工か青城か。次の相手の様子を見ているけれど、私はやっぱり青城に上がってきてもらいたい。夏のインターハイ予選の敗退もあるけれど、私たちが春高に行くには及川達を倒さなければいけない。
 ………及川と岩泉の三年間を終わらせて、私達が優勝しなくちゃいけない。
「相変わらずの鉄壁具合だけど、青城はどこまで崩れてくれるかな……」
「やっぱり青城の方が1枚上手って感じなんスかね…」
「伊達工の方はまだバタバタするもんな〜」
「大型セッター、ハマッたら凄い武器なんだろうけどな…」
 そのまま試合を見続けるものの、青城マッチポイント。それを黄金川くんがツーのモーションから強打で点を取る。
「……今のは、及川が気を遣った」
「は?」
「岩泉は今のブロックと身長の差が結構あるから、ブロックに捕まらないよう及川がネットから離したから取られたんだよ」
 熱気で熱くなる試合を黙々と見ていると、やはり先ほどと同じ。今現在県内最強の鉄壁と、青城のエース岩泉。
 及川は岩泉にいつも通りのトスを上げて、岩泉は黄金川くんの腕のド真ん中を抜いた。
「あの三枚ブロック相手に真っ向勝負…」
「悔しいけどかっこいいぜ…」
 岩泉のスパイクが決勝点となり、次の相手は青城になった。
 
 サブアリーナでアップを取っているのをサポートしながら見ているが、やはり今までと空気の重さが違う。
「な…なんだか皆さんピリピリしてます…?」
「前回…青葉城西には全力出しきって、それでも負けたから」
「律、清水も」と澤村と繋心さん、武田先生に呼ばれて向かうと、次の事で話し合いをしていた。繋心さんが少し緊張した面持ちで話し出す。
「先生にも言ったんだが、次の青城戦のベンチマネージャーを律に変えて欲しい」
「!」
 その言葉に少し反応し、潔子と目を合わせた後繋心さんに視線を戻す。
「それってー……」
「清水がダメな訳じゃないんだ。選手のサポートもしっかりやってくれるし、スコアも助かってるけど、次はあの青城だ。
 律の言葉と意見がいる。
 色々思うところはあると思うが、頼む」
「………でも、「わかりました」
 私が繋心さんに返事をする前に、潔子が承諾をした。
「何で。私より、潔子の方がマネージャーとして向いてる。
 それに、先にこの部に入ったのは潔子だ」
「先とか後とか、関係ない。それに、私はずっといつかこうなるってわかってた。
 私は澤村に誘われて少しの好奇心だけで足を踏み入れたけれど、律は違ったでしょう?私だって、勝ちたいのは同じだから、少しでも勝率を上げるために律がベンチに入った方がいい」
「………」
「及川君のこと、一番知ってるのは律でしょう?
 勝つために律が必要だって言う烏養さんの気持ち、わかる」
 潔子の言葉は多分ここにいるメンバー全員が思っていることで、正論なんだと思う。だけど、私がいるせいで潔子の居場所を奪う気がした。
「………律は、青城に…及川君に勝って、やるべき事があるんでしょ?迷わないでよ」
「!………本当に、いいの?」
「勿論」
 スッパリ即答した潔子に微笑んで、繋心さんを見据える。
「決まりだな」
 きっと、潔子は言葉通りわかっていたんだ。
 多く語らずとも察してくれて、今までずっと気にさせていたのは私のせい。親友だからこそ、私の変化に気がついたんだと思う。
 高校に入って初めて再開したあの練習試合も、インターハイ予選の後から及川と私の関係が擦れたのも。
 私が及川徹の事が誰よりも好きで、仕方がないということを。

 試合前のアップ中、ボール拾いをしていると岩泉に声をかけられた。
「今回はお前がベンチ入るんだってな」
「うん」
「これでも、烏野とやるのは楽しみにしてたからな。
 お前の事はあるけど、烏野には負けねぇ」
「………私も、楽しみにしてたよ。
 こうして岩泉と……及川とコートに立つことを」
「フン………アイツには何か言わなくていいのか?」
 アイツと言われて視線を移すと、影山をからかっている及川が見えた。
「いや、いいよ」

 ……及川のことも岩泉のことも好き。大切だと思ってる。
 でも今は、このチームで勝ちたい。
 ピーッと笛が鳴り、ボールを片付けてベンチの方へ行く。

「…あ〜〜〜まぁ、ぶっちゃけ、お前らは青城と相性が悪い!
 ああいう、ザ・柔軟性&安定感!ってチームとはな。
 でも、越えて行くしかねぇ。あの敗北を、越えて来い」
「うおっしゃあああ!」
 試合前の緊張の中、ベンチで試合を見ることになるなんて思ってもいなかったな、なんて思い返す。ギャラリーの方を見ると潔子と仁花ちゃんが見えた。

「律、大丈夫か」
「………平気」

 今は、このチームで勝ちたい。どのチームより長くコートに立つ彼らを見ていたい。

 さぁ、決戦だ。



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