青城との練習試合の次の日。いつものように潔子と体育館に向かうと、長い間見ていなかった烏野の守護神こと西谷が部活に復帰していた。
「あ!!潔子さあ〜〜ん!!律さあ〜ん!
 貴女達に会いに来ました!!!」
 そう叫びながらこちらに突進してくる西谷に、潔子は容赦なく平手打ちをかました。綺麗なスイングと共に乾いた音が響いて、相変わらず西谷は猪突猛進だと思いながら、叩かれながらも嬉しそうにしている彼を見る。
 怒る潔子を宥めつつ東峰《エース》の事について話している選手達に興味を移した。
 二年のスーパーリベロ、西谷の部活復帰は及川に指定された烏野の弱いところを少なからず補えはしたものの、まだ足りないものだらけだ。
 絶対的なエースと専門的な指導者の不在。
 宮城県は他と比べても高校男子バレーのレベルが高く、県内の強豪校は部員の層も厚くセンスのある選手も多い。正直今の烏野は部員が少ないので、試合回数が多くなるにつれて増える選手の負担も心配だ。
 どれだけ長くコートに立っていたい、どのチームよりも多く試合がしたいと思っていても今の状況では難しいところがある。

 それから、武田先生の頑張りによりゴールデンウィーク合宿の最終日に烏野が強豪だった時代の宿敵である、東京都立音駒高校と練習試合をすることが決まり、今までより一層気持ちが入るようになった。
 まだ春だから、じゃない。夏はすぐそこに迫ってきていることを感じられる。
 そんなある日、練習中に武田先生が指導者を連れてきた。

「紹介します!今日からコーチをお願いする、烏養君です!」
 男性にしては長い金髪をヘアバンドで全て後ろに流した目つきが悪くてガタイのいい彼は、繋心さんだった。
 前監督である烏養一繋さんのお孫さんだと武田先生が説明する中で、私は繋心さんに話しかけた。
「久しぶり、です。繋心さん」
「律!何でお前ここに……って、そういや烏野でマネージャーするって言ってたな」
「繋心さんがコーチ引き受けてくれるとは思わなかった。
 嬉しいです」
「それにしてもお前………いや、なんでもねぇ。
 最後に会ったのは中学の頃か?大きくなったなぁ」
「何それ」

「……櫻井が、見たことないくらいの笑顔で話している」
「ま、まさか付き合っているとか」
「ファッッッ!?!?」
「清水!ちょっとアレ、何あれ!」
「いや、知らないけど。
 でも…多分、律がバレーやめた時に一緒にいてくれた人じゃないかな。ほら、ピアスが」
「ほんとだ。お揃いかな」
 私と繋心さんの様子を見てざわついている部員のことはいざ知らず。頭を撫でる繋心さんの手を振り払わずに話していると、武田先生が会話に入ってきた。
「烏養君と櫻井さんは面識があったんですか?」
「まぁ、コイツはちっさい頃から爺さんとこにバレーしに通ってたしな。俺が高一の時初対面だから、丁度烏野にいた頃もよく会ってたな」
 少し昔の話をしたい気もするけれど「そんな時間はねぇ」と繋心さんは表情を変えた。
 今の選手の実力を見るために、町内会にいる繋心さんの同級生や先輩など烏野OB[#「OB」は縦中横]のバレー経験者と急遽練習試合が決まった。潔子が武田先生と練習試合の準備をすると言うので、私は練習を手伝っていた。
「律。お前は試合の時俺の隣で見て、意見出してくれ。先生が言ってたけど、指導者がいない時はお前が見てたんだろ?」
「見てたと言っても少しだけですよ?ついこの前、トラウマを克服し始めたばかりだし……でも、了解です」
「おう、助かる。あと、その中途半端な敬語ヤメロ」
「え、いや、一応生徒ですし」
「お前はいいんだよお前は」
 私がバレーを辞めてから、繋心さんとは入院した烏養さんのお見舞いの時に一度だけ会った事がある。
 その頃はまだマネージャーをする前だったから、バレーに対する劣等感やトラウマを話した。マネージャーを始めたことはちゃんと連絡していたけれど、選手だった頃の私を知っているからか、何も聞かないでいてくれている。
 強面な外見からは考えられないほど人のことを思いやる心があって、本当にこの人は素敵だ。
「……繋心さんが来てくれてよかった」
「何だそれ」
「きっと、繋心さんは今の烏野のこと好きになるよ」
 きっと、けれど絶対にそうだと確信した。疑問符を浮かべる繋心さんに、私は練習の手伝いをしつつ選手の紹介をした。

「悪いなお前ら、急に来てもらって!」
 十八時になり、繋心さんの元チームメイトや先輩、烏野OB[#「OB」は縦中横]の方が続々と体育館へとやってきた。
 在学時代を思い出してかそれぞれが体育館を眺めている中で、「あ!!!」と声が響く。
「もしかして、りっちゃん!?うわっ懐かしいな!!」
「あの頃はこんなちっちゃかったのに、大きくなったなぁ」
「お久しぶりです」
 繋心さんと同級生の滝ノ上さんと嶋田さんは私のことを覚えていたみたいで、すぐさま気づいて近寄ってきた。
「懐かしいな〜!よく繋心にひっついて練習してたよな」
 烏養さんが監督をしていた頃、私は暇な時練習を見させてもらっていたのだ。その頃休憩時間に繋心さんにトスを上げてもらおうとしていたことを今でも覚えているけれど、今思えばかなり恥ずかしい。
「でも、てっきり凄い選手になるだろうなって思ってたのに、マネージャーなんだね」
「………」
「…お前らその話はいいから、さっさと準備しろよ」
 サッと間に入ってきた繋心さんの一言で、嶋田さんと滝ノ上さんは「ゲッ、セコムが来た」「相変わらずの溺愛っぷり」と茶化して柔軟をしようと開いたスペースに歩いていった。
「あー…悪りぃな、律。あの二人も悪気があったわけじゃないんだが」
「わかってる。大丈夫。
 ……選手だった私しかみんなの中には残ってなくて、『何でここに』『バレーしないの?』って。言われすぎてもう慣れたけど、みんなには今の私と昔の私、どう見えているのかな」
 聞かれるたびに思う、私にはバレーしか無かったんだと。だからこそバレーをしていない私に違和感があって、聞いてしまうんだろうと。
「どうもこうもねぇよ、お前はお前だ。好きなことして好きなように生きろ」
「……うん」



 途中いざこざがあったものの無事に練習試合は終わり、繋心さんは来て正解だったという様に笑顔を見せていた。やっぱり好きになったと私はそれを心の中で喜んだ。
 東峰と西谷と菅原にあった不協和音も、日向の【囮】としての劣等感も、なんとか解消できた様で少しずつではあるけれどチームとして纏まってきた。
 でも成長するにつれてまた新たな問題点や改善点が出てくるのは当たり前のことで、この先を見据えて考え直さなければいけないこともある。
 それを乗り越えてより一層強くなるためにも、ひたすら練習をして強くならなければ。
「四日後には音駒と練習試合。それが終わればすぐにインターハイ予選がやってくる。
 時間がないが、お前らは穴だらけだ。勝つためにやることは一つ……練習、練習、練習だ。ゲロ吐いてもボールは拾え」
 五月二日、合宿がスタートした。
 選手が練習をしている間、私は繋心さんのサポートを。潔子は選手のサポートと役割分担を決めて仕事を回している。前までは交互にしていたけれど、繋心さんが来てからは私がなるべく体育館に入るようにと言われて今の形になってしまった。私よりも先にマネージャーになったのは潔子だからそういうのは、と思ったけれど潔子はそこまで気にしていないから皆のことよろしくねと笑っていた。そのため、練習終わりが近づいてくると潔子は武田先生と晩御飯を作るために先に合宿所へ向かう。
「それでは、体育館の戸締りなどお願いしますね、櫻井さん」
「はい。予定通り十九時頃には終わらせて向かいます」
 武田先生と潔子を見送って、練習に戻る。
 サーブ練習をしている皆にボールを拾いながら視線をやると、同じようにコートを見つめる繋心さんが目に入った。
 武田先生が言うには、ずっとコーチとして指導してほしいと声をかけ続けていて、音駒の名前を出したらやっと足を運んでくれたのだと言っていたけれど、烏養さんにとってもそうである様に繋心さんにとっても音駒は特別なのかなと思うところがある。私としては昔は昔、今は今として考えているので因縁の相手だと言われてもあまりピンときていないのだけど。
「繋心さん、音駒ってどんな学校?」
「あん?何だいきなり」
「実際見たことないから、知っておいて損はないかと思って。
 それに、繋心さんがそんな顔するのも珍しいから」
「そんな顔ってどんな顔だ……」
「心配と期待が混じったような中途半端な顔?」
 繋心さんは面食らったように一瞬ポカンとして、頭をかきながらポツポツと話した。
「…俺が高校の時、最後に全国で会おうって話した奴が音駒でコーチしてるかもしれないんだと。
 じじいの時からの因縁で、練習試合は何度もやってたのに実際やった公式戦は無い。次は、次はって言いながらも繋がりが希薄になってここまで来ちまった。
 だから、今回を逃したくないのかもな。
 宮城も東京も激戦区だが、決して烏野も音駒も強くねぇわけじゃねぇと思う。それでも、上に行くことを考えたらどうしても劣ってしまうんかな……」
「………大丈夫」
 足元に転がってきたボールを拾って、少しバウンドさせる。影山が私を見たのを確認して、コートの方に足を向けた。
「上しか見てない選手を支えるのが私達の仕事でしょう。
 ちゃんと前見て走ってくれるよ」
 選手だった頃の自分にはわからないことが今はたくさんある。それでも、自分たちの目的のためにも頑張らないといけない。
 少しだけスペースを開けてもらった影山の隣からコートを眺める。
 本当に、羨ましいなぁと少し笑って、サーブトスを上げた。

「うおおおっ初めて来たっ」
「なんか出そう」
 予定通り練習を切り上げてから片付けと戸締りをして合宿所まで歩いてきた。今日から合宿最終日まで選手はここで寝泊りをする。ギャーギャー騒いでいる二年二人を菅原が黙らせる声を聞いて、扱いに慣れてきたよなぁとテーブルに皿を出しながら思った。
「じゃ、先生頼むな。俺はちょっと律と清水送ってくるから」
「わかりました。二人ともまた明日もよろしくお願いします」
「はい」
「お疲れ様です」
 繋心さんが運転する車に乗り込んで、家が近い潔子から先に送ってもらう。去年は徒歩で帰ったと話す潔子にそれはダメだろと反応したのは繋心さんだった。それから、夜だけ車で送ることが決まった。
 潔子を家まで送り届けてからは雑談をしながら私の家まで向かう。車内には小さいボリュームで流れるラジオの音と、相変わらずバレーの話しかしない私たちの声だけが響いていた。

「ん、着いた」
「……コンビニ?何か買うの」
「まあな」
 財布だけ持って車を降りる繋心さんについて私も車を降りた。それからお菓子や飲み物のおすすめを話しながら籠に商品を放り込む繋心さんについて回る。コンビニ商品はスーパーで買うより高いけれど、コンビニオリジナルのものを見るのは好きだ。まぁ、大抵のものはパッケージが違うだけで製造元はほとんど同じだったりするのだけど。パンとか特に。
 そうして少しの間店内を歩き回り、会計を済ませて出たところで繋心さんは私に向き合った。
「ほらよ、退院祝い」
「エッ」
 普段何食べてるとか、どうしてるとか話しているだけだったのに、コンビニ袋から缶コーヒーだけを取り出して残りを私に差し出した。中にはペットボトルのスポーツ飲料と少しのお菓子が入っていて、私がおすすめしたものを入れてると思ったら奢る気だったらしい。
「そんな、受け取れない。悪いよ」
「いいんだよ、受け取れ」
 グイグイと袋を押し付けられるもののそれに触れることなく突き返す。いくらかそうしていると、お前は本当に変なところで頑固だなと呆れられた。
「……俺はジジイみてぇにお前の入院中頻繁に会いに行けなかったしな。一回退院後に会ったが、ずっと心配はしてたんだよ。
 今日、練習中久々にサーブ打つお前見て、本当に良かったって思った。心の底から安心した。
 これ言ったら困るかもしんねぇけど、お前は俺にとって今も昔も変わらない大事な後輩で、スゲェ選手だ。
 ぶっちゃけ年の離れた妹扱いだってしてる自覚はある。
 だから世話くらいやかせろよ、律」
 ニッと笑いながら楽しそうに話す繋心さんに弱い私は、渋々その想いの詰まったコンビニ袋を受け取った。
「……嬉しくて、泣きそう」
「こんくらいで泣くなよ」
「うん……ありがとう。私、繋心さんのそういうところすごい好き」

 そして次の日、合宿二日目。
 今日はランニングからのスタートだったのだが、いつまでたっても選手が全員帰ってこない。私は繋心さんに様子を見てきてくれと言われ、ランニングついでにみんなを探していた。
 途中会った月島や縁下に事情を聞き、「日向は私が探すから先に戻って練習しててと」伝える。スマホは持ってきてるし、何かあれば繋心さんから連絡を入れると話していたので大丈夫だろう。ルートから大きく外れたのかな、と思いながら商店街から住宅地へと足を伸ばそうとした時だった。
 
「オネーサン、この辺の人?」
 スマホを確認しつつ走っていたら、身長が高く特徴的な髪型の赤いジャージに黒いTシャツを着た男の子が話しかけてきた。見たことないジャージだ、と思いプリントされていた文字に目を通して動きを止める。
「……Nekoma volleyball.C」
「え?」
「音駒高校の、選手の人?」
「ああ、ハイ。えっと、」
「あ、烏野高校バレー部でマネージャーをしている櫻井律です。
 ゴールデンウィーク最終日に練習試合組んでますよね」
「マネージャー?櫻井律が……って、悪い。
 俺は音駒で主将をしてる黒尾鉄朗。タメだから敬語とか無しでよろしく」
「あ、うん。それで、どうしたの」
 身長が高くて、どこか威圧感がある。ガタイいいな、ミドルブロッカーなのかな。それともスパイカー?そう考えながら挙動を見ていると、ポケットから取り出したスマホを差し出された。
「この辺でこんな奴、見かけなかった?」
「……つまり、迷子」
「俺じゃなくてこいつがね!」
 そこにはゲームをしている少年が映っていた。金髪と言っても、頭頂部から毛先にかけてグラデーションがかった所謂《いわゆる》、髪色がプリンになった子。
「悪いけど、見てない……私もチームメイトの後輩がランニング中ルートから外れたらしくて探してて」
「俺は連絡手段あるんだけど、土地勘ないから全然わかんなくてさ」
「それなら、教えて貰えば案内する。どうせこの辺回らなきゃいけないし」
「マジ?助かるわ。昼から練習試合なんだよね」
「へぇ……」
 黒尾の話によると、ゴールデンウィーク中は宮城県内の学校と練習試合をして回っているのだと言うから、知っている範囲で話をしながら歩いていると「というか」と話を遮られた。
「櫻井って、選手だったよな。最近見なくなったけど」
 知っていたのかと思ったけれど、先ほど名前しか言わなかったのに同級生だと返されたと気づいた。
「……うん、まぁ」
「あ、悪い。聞いちゃダメだったか?
 俺、中学の時一度だけお前の試合見たことがあって…ファンつったらアレだけど、まぁ、うん。
 好きなんだよ。お前のバレーが」
「えっ」
「何だよ、えって……」
「いや、面と向かってそんなこと言われたのなんて……」
 
 及川くらいしか、いなかったから。
 
 だから、赤の他人で及川以外にもそんなことを思う人がいるなんて思っていなかったから驚いた。
「さっきも一目見てわかった。
 何があったか知らねぇけど、本当に会えて良かった」
 少し照れ臭そうに話す黒尾に、こっちも思わず照れてしまう。
 何というか、岩泉や繋心さんとはまた違ったタイプの男前がきた感じだ。
 それから私たちは、途中ですれ違った小学生が話していた「しゃがんでゲームをしている金パツ赤ジャージの不良」という声に反応して空き地の方に歩いていった。
「あっ居た……研磨!」
 どうやら日向も一緒にいたらしく、黒尾が探していた子がこちらに駆け寄ってくる。
「サンキュな、櫻井。助かった」
「私も、色々話せて楽しかったし……嬉しかった」
「!」
「バレー辞めて結構経ってるのに、私のバレー好きって言ってくれる人、いるなんて思ってなかった。
 練習試合、楽しみにしてる」
「……おう、またな」

    *    *    *

「……ったく。勝手にフラフラすんな」
「ごめん」
 ようやく見つけた幼なじみは喋っていた少年に手を振った。全く良い気なものだ。烏野総合運動公園までの道を戻ろうとした時、さすがに申し訳なかったのか研磨が控えめに話しかけてきた。
「クロ、さっき一緒にいた人って櫻井律?」
「おう。いや〜まさか会えると思ってなかったわ。迷子になってくれてありがとう研磨」
 それに、別にもう怒っているわけじゃ無いぞ。そう言えば研磨は、だろうね。とだけ言った。そこまでテンション高くなっていたのがわかりやすかったか。
「いや、あの人も烏野なら少なからず遠征最終日には会うことになるでしょ」
「そうだけど、やっぱ二人で話してみたかったし」
 宮城に遠征に行くと聞いて、久しく見ていない彼女の出身地だと頭に思い浮かんだ。
 初めて見たあの一戦で彼女を知り、雑誌やニュースなんかで見かけるたびにその記事を追っていた。だが、中学最後の試合を最後にそれからパッタリと聞かなくなったものだから、何かあったのかと思うと同時に心配していた。
 会えるわけがないけれど、それでもひょっとしたらと思わずにはいられない。会えたら超ラッキー。宮城に行けるだけでも、彼女に少しでも近づけるならいいかとだけ思っていた。
「何があったかとかは聞けなかったけど、マネージャーしてるってことは本格的に離れたわけではなさそうだし。
 はぁ〜〜〜楽しみ」
 前からコーチや監督に烏野は因縁の相手だと聞いていたし、最終日にそれが待っていると聞いてらしくもなく楽しみにしていたけれど、嬉しいハプニングだ。
「……クロって、本当に昔から櫻井さんのこと好きだよね」
「まあな」
[#改段]
 おまけ
 

 ゴールデンウィークになって毎日部活ができるようになり、二日目。部室に来るやいなや、花巻が俺のところに駆け寄ってきた。
「おい岩泉!!!櫻井さんて本当に彼氏いねぇの!?」
「何だよいきなり……知らねぇけどいねぇんじゃねぇの」
「昨日夜二十一時くらいに、コンビニ前で櫻井さん見たぞ。
 なんか、大学生っぽい?大人とイチャイチャしてた」
 その言葉に飲んでいたスポドリを吹いた。
 え、櫻井が?と思考を回す。あいつに限って……いや、だがなんだかんだモテていたし年上と付き合っていても。
「……とりあえず、それ。及川に絶対言うなよ」
「言えるか!流石に言えねぇ!!」
 及川は先に体育館へ向かっていたからよかったものの、これを知ったらどうなることか。
 俺としては中学の頃から二人を見守っているし、及川の周囲とは違う櫻井への対応に上手く行ってくれないかとヤキモキしながら応援しているところだ。だからここで櫻井に恋人ができるなんて本人には悪いがあって欲しくない。いや、だが櫻井には幸せになってほしいしな……なんて悶々としていた。
「何、岩ちゃんさっきから変な顔して」
「テメェのせいだボケ」
「えっ!?俺なんかした!?!?
 ま、まさか昨日の放課後一年生の可愛い子に貰ったクッキーを岩ちゃんの前で食べたこと気にして………!?」



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