「うおおお!!
本物のスカイツリーだー!!!」
一月四日、春高前日。早朝烏野高校に集合した私達は、武田先生の運転の元東京へと来ていた。
明日から試合、しかも初の全国大会という大舞台。それにもかかわらず緊張していない人はしていないみたいで、特に日向と西谷と田中は夏合宿の時からスカイツリーの話をしていたからテンションが高い。
「まずは宿に荷物を置いてから猫又先生の紹介でお借りできた体育館で軽く調整だ。
わかってると思うが、宿で騒ぐんじゃねぇぞ」
「…ウィッス。」
テンションが高いからこそ、澤村はチームを纏めるのに苦労しそうだと思っていたけれど、そうでもない様で。
宿に到着してからも走り出す三人を視線で止めていた。
「……澤村はいつか視線で人を殺せそう」
「櫻井何言ってんの?」
宿は都会で想像する立派なホテルなどではなくどこにでもありそうな民宿で、私たち以外には宿泊者がいないみたいだった。それから事前に決められていた部屋割りのもと荷物を運び、またバスと路面電車に乗って体育館へと向かった。
「オーイ取れるボールだろ」
「……何かここ、酸素薄くない?」
やはりというべきなのか、練習中小さなミスが目立つ。元々緊張しいな旭や山口は特に、先ほどはしゃいでいた日向も思う様に体が動かせない様だった。
「…心臓小さ組が本領発揮してやがるな」
「日向君は緊張を大分飼い慣らしたかと思っていましたが、さすがに初の全国大会となると仕方ないですね」
繋心さんと武田先生がそう話しているのを聞きながら、隣で仁花ちゃんの背中をさすっている潔子に目をやる。選手もそうだけど、サポートをする先生とマネージャーもどこか気負っているみたいだ。
「仁花ちゃん、まず呼吸しよう」
「ありがとうございます清水先輩。
……櫻井先輩は全然緊張とかないですね」
「まぁ、中学の時はよく来てたしね」
「影山も何だかんだ中学の時は成績が振るわなかったから、この中で全国の経験があるのは律だけだもんな」
それでも、私はそこまで試合とかで緊張もしたことがないし。こういう事言ったらまた何か反感を買いそうだから言わないけれど、戦う場所がどこだろうと自分にできることを精一杯するだけだ。
夕方になり宿に戻ると、夕食の後にミーティングをした。その際繋心さんから滝ノ上さんに作っていただいたという今までのファインプレーを纏めた動画を全員で見た。
自分にはこういう事ができるから大丈夫だと思い込むことは大切だし、いい感じに緊張も解れてきたかなと少し安心した。
「あ、律。背中」
「ん?」
「!!!!?!?」
お風呂に入りに行こうと潔子に言われ、三人で先ほどの動画について話している時だった。突然声をかけられ、すぐに仁花ちゃんの息を飲む声が聞こえたけれど背中。……背中。
「それが噂のキスマークでは?」
「エッ」
「ひゃーっっ!!」
つけられたとは知っていたけれど残っていたとは。背中は自分で確認できないし、あいつ絶対確信犯だな。なんて思いながらどこ?なんて聞くと数カ所ついているみたいだった。私が寝落ちた後にも付けたのか、今度仕返ししてやろうと決心する。
「おめでとう」
「うるさい」
「で、どうだった?」
「黙秘」
「はわわわわ………!」
「仁花ちゃん落ち着こう」
恋愛の話になると途端にからかう様になった潔子から視線を逸らす。仁花ちゃんは真っ赤になって話に加わることはないけれど、ここまであけすけだと想像してしまうよなと何となくすまない気持ちになる。それからいじられつつもお風呂に入り、湯船に浸かっている時だった。
「あの!清水先輩は夏でも制服には黒タイツですよね!?暑くないんですか!?」
「ああ……」
「…すみません人様の服装に意見など…走ってきます!!」
「チョット!?」
「仁花ちゃん落ち着こう?」
潔子が黒タイツだったり下は必ずジャージだったりという話は私も一年の頃に聞いたことがある。
「…私、脚に傷が多くてさ。
なんとなく隠してるうちにタイツに慣れちゃって」
「?傷…?」
「昔、陸上のハードルやってたんだけど私人一倍コケてさ。
腕とかはそうでもないんだけど脚が結構跡残っちゃって…」
「まぁ、体に残った傷は気にするよね」
私も手術痕は残っているわけだし、それ以外にも擦りむいたり打撲だったりで痣みたいに残っているものはある。
徹に気にならなくなるまで、なんて言われたしそこまで気にするものじゃないと思いたいけれど、それでも自分の体を見る度にあの頃を思い出す。
……ああ、だからこれからは俺が、なのか。やっと納得した。情事の時はそこまで考える余裕がなかったけれど、徹にとってもアレは苦い思い出で、だからいい思い出で塗りつぶして笑い話にしてしまいたいんだ。
「ハードル…!かっこいい!じゃあ勲章の傷ですね!!」
仁花ちゃんが言ったことに私たちはポカンとしてしまって、でも、そう言われるとなんか。
「……!!スミマセンッ。傷が勲章て、戦場か!!」
言ったことを後悔しているかの様な仁花ちゃんだったけれど、潔子も私と同じ気持ちの様で顔を見合わせて笑った。
「ふふ、何だろ。なんかそれ、すごい嬉しい」
「頑張った証拠、みたいになるのかな……」
「中学の陸上部は大所帯で。私は話すのも得意じゃないし特別に親しい後輩が出来たこともなくて。
烏野でバレー部に入ってからは同級生に律が居るけど一つ下にマネージャーは居なかったから、こんな風に話したのは仁花ちゃんが初めてだ。
そしてもう残り少ない」
湯船から上がった潔子は、それでも楽しみだと言うかのように少し笑いながら言った。
「初戦勝って、明日の夜またこのお風呂に入りに来よう」
「ハイ……!」
「………勿論」
一月五日、東京体育館。全日本バレーボール高等学校選手権大会、通称【春の高校バレー】。高校バレーボールの大会の中でも最も注目度の高い大会である。
初日の今日は参加校男女合わせて約八十チーム全てが揃い、開会式の後トーナメントの初戦が始まる。使用する体育館は二つで、コートは六面。その為、観客は勿論選手やバレーボール協会の関係者、記者もいて会場はとても賑わっている。
「来たあぁ〜〜!小さな巨人が戦った舞台!」
「お前の言う小さな巨人の頃の会場はこっちじゃなくて代々木の方だろ」
「ハイ黙って!雰囲気!雰囲気が大事なのだから!!」
春高で小さな巨人と呼ばれ活躍する宇内さんを見てバレーを始めた日向からしたら、春高はよっぽど思い入れの深い大会なのかもしれない。
「相変わらずテンション高ぇな〜〜
本物のスカイツリーは見れたのかな??おのぼりカラス」
そう声をかけてきたのは鉄朗で、夏合宿以来だとメンバー内でも久しぶりだと笑い合っていた。
「よう、律」
「ん」
片手をポケットに突っ込んだまま笑いかける鉄朗が上げた手を叩く。久しぶりだと言葉を交わして、やっぱりこいつはいい友人でいたいと思った。
「どうだい?調子は」
「普通。私より、鉄朗の方が緊張してるんじゃない?」
「いんや?そうでもねぇよ」
「そう?……まぁ、初日だ。ちゃんと勝ってね」
私たちも勝つから。
私たちの師の為にも、勝ち上がらないと悲願は達成できない。そう、簡単な道でもないけれど、だからこそここまで強く願っているのだ。
開会式に向かう選手と別れギャラリーからその様子を見守る。当たり前だけどいつもの体育館よりも大きくて広い分天井も高くて照明も立派だ。
「………」
女子の選手に視線をやると、中学の頃戦ったことのある子が目に入った。開会式も滞りなく終わり、一斉に移動が始まる。
春高バレー、開幕。
「えっ電車止まってる!?」
地下鉄にて移動する際、乗る予定だった電車が何らかの影響で運転見合わせになっているみたいだった。
時間がない中でどれだけアップできるかは重要なことなのに、と不安になっていると武田先生が落ち着いた声で話し出した。
「ハイ皆さん落ち着きましょう。バスでのルートを確認済です。
多少徒歩が多くなりますが、アップには良いでしょう」
それにホッとして、さすがは先生だと体育館へ向かった。
いつもの会場ではない分不安も緊張も大きくなるだろうし、体育館の床も仙台市体育館よりしっかりしている。だからこそアップはとにかく体を動かすことが優先で、コートランやサーブレシーブをメインに行っていた。会場には嶋田さんがいて、繋心さんに試合経過を伝えてくれているらしい。
「そろそろ行こう。思ったより試合の進みが早いみたいだ」
観客が多い分試合会場に場所はなく、初日の今日は試合の数も多いのでアップは中々できない。移動ばかりになるのは大変だなと思うけれど、選手は電車に乗ってる時が一番緊張しているのかもしれないと思った。
それから会場に到着して着替えている際「シューズがない」と騒ぎ出したのは日向だった。
駅で一瞬目を話した際取り違えられたらしいとのことだったけれど、袋にケータイを入れていたから場所はわかった。
「私、行ってきます」
そう言ったのは潔子で、だったら私が、と仁花ちゃんが言ったものの私は潔子が行くって言うなら潔子でいいよ。と言った。
「私、足にも体力にも自信があるの。走ることなら律にだって負けない。私はすぐに戻ってくるし律もいるけど、心細いよね。
だから、慣れてね」
来年は一人だよ。と、言葉にしなくても伝わったみたいだ。
一年生の頃から二年の秋、私が入るまで一人でこのチームをマネージャーとして支えてきたのが潔子だけだからこそ、選手とマネージャーのあり方は顕著にわかっているのかもしれない。チームの一員で、同じ学校の生徒だけど、選手ではない。同じところで戦っているけれど、そうじゃないんだ。
「試合開始までには戻ってくる」
「すまん清水、頼んだ」
「…無理かもしれないけど心配しないで待ってて」
「潔子、」
「律が練習中みんなにアドバイスとか出したり、仁花ちゃんがポスター作ったりするのいいなってずっと思ってたの。
だから、私も得意なことでサポートする。任せて」
潔子にしかできないことで、ずっと支えてもらっていたのに。そう思いつつ勢いよく駆け出していく潔子の背中を見送った。
「ベンチマネージャーどうすっか。律、入るか?」
「………いや、今回は仁花ちゃん入ろうか」
「!?」
繋心さんと話していると途端に話を振られ、仁花ちゃんは固まってしまった。
繋心さんと武田先生も少し驚いているみたいだけど、私たちがいなくなる前に伝えることは全部伝えておきたい。
「私は県予選で青城の時入ったしね。できる?」
「………やります!」
「うん、えらい」
もし無理そうなら、とは思ったけれど仁花ちゃんは緊張した面持ちで、それでもグッと拳に力を入れて答えた。
「谷地さん入るの!?嬉しい!!」
「清水先輩と櫻井先輩はどうしたよ」
「イエッ!そういう事ではなく!!」
スコアブックの書き方は随分前に教えたし、繋心さんと武田先生の隣で堂々としているといいよ、なんて話していると仁花ちゃんに真っ先に気づいたのは日向だった。
「谷地さんは俺の先生なんで!いえ、櫻井先輩もですけど!!
でも、同級生がベンチにいるのは嬉しいです!」
「!!」
「……だってよ」
ぽんっと軽く背中を押すと、仁花ちゃんから緊張が抜けたのがわかった。
「ひ、日向……!私も戦えるから!勝とうね!!」
「おう!」
仁花ちゃんにとって日向は真っ先に声をかけてくれて仲良くなった選手だからなのか、二人して笑顔で笑っていた。
「クッソ……!なぜ二年はマネがいないんだ!?」
「はは。……男子の部活で女子マネ一人は寂しいみたいだから、可愛がってあげてね」
「!ハイッ!!」
潔子を見ていたから、知っている。だから、頼んだよ先輩と田中に声をかけた。
公式ウォームアップが始まったが日向はシューズが無いのでレシーブに専念していた。
いつもの体育館と違うというのは、かなりやり辛いと思う。
「影山、焦らないようにね」
「?はい」
高い天井に設置された会場を満遍なく照らす照明は眩しく、サーブレシーブの距離感が掴めなかったりする。
「うぅ〜!やっぱ緊張すると中々手が温まんねーな!」
「手袋いりますか」
「いや大丈夫。大前緊張とかしねぇの?」
「します。今はしてません」
「何だよ」
「ここは、通過点スから」
菅原にあっさりと答える影山に、コイツには心配とか、もう不要だよねなんて安心した。
それから公式ウォームアップが終わり私がコートの外に移動した時丁度潔子が帰ってきた。潔子はコートにいる仁花ちゃんに日向のシューズが入った袋を投げ入れ、澤村達に拳を掲げていた。私もそれに乗っかって潔子に手を振って前を向く。
第一試合、神奈川県代表の椿原学園との試合だ。
神奈川代表ということは生川高校をやぶってきているという事。全国大会なのだから私たちと同じ様に、もしくはそれ以上の激闘の末勝ち上がってきた学校しかいない。強い学校しかいないのが当たり前だけど、私たちもそこに入ってる。大丈夫。
そういう思いで見守っていた。
バレーは試合中、ボールを持てない競技。一瞬で繋ぎ、三回のトスで相手に叩き落とすことで点が入る。だから、ほとんどボールが空間にあることで空間認識能力が必要不可欠とされる。
だからこそ、いくら影山が緊張していないとはいえ慣れない体育館ではいつもの精密なトスは序盤崩れるだろうと思っていた。
まぁ、それをすぐに修正すると言って完璧に治せるところが影山の凄いところだと思うのだけど。
序盤開いていた点差は山口のサーブで詰めて、影山と日向の速攻からいつもの烏野らしさを取り戻した。
「………」
今の烏野で全国の舞台を経験してきたのは私だけだって先程繋心さんは言っていた。でも、今の私はマネージャーであって選手ではない。影山みたいに何らかの理由で才能が埋もれ世間に知られていない選手は沢山いる。だから、歯痒くて仕方ない。
このチームには教えてもらってばかりだ。
日向と影山を筆頭に進化し続ける彼らを見ていると、自身の無力さを痛感する。
全国だからなのかな、肌がひりつく感じ、何もせずとも緊張が走り体が強張る感覚に選手だった頃を思い出す。
ああ、腹が立つ。
第一試合は、セットカウント二対零で勝利した。
トラブルや初戦ということで多少のバタつきはあったものの上出来だ。礼をする選手に拍手を送り、クールダウンの準備をしつつ迎える。
「仁花ちゃんお疲れさま」
「清水先輩ご無事で……!」
「律が入るかなって思ってたけど、ベンチに仁花ちゃんが居てびっくりした。どうだった?初の公式戦、横で見るのは」
「近かったっス……!」
「私と同じこと言ってる」
でも、いい経験になったと良かったと笑った。
今日は初戦だけで明日はシード校と対戦になるから会場に用は無いけれど、折角午前中に終わって時間もあるからとお昼を食べて各自試合観戦をするという流れになった。高知県代表の清川と音駒の試合を見て、時間があるから澤村と潔子に断って女子の試合を見に下りる。
「あれ、櫻井?」
「!お久しぶりです霧島監督」
音駒の隣で行っていた石川代表金井高と山口代表高来の試合がフルでやっていたのでそっちを見ていると、夏のユース合宿でお世話になった全日本女子の霧島監督とコーチが居た。
「どう?調子は」
「普通です」
「そういえば宮城の男子代表は烏野…櫻井がいるところか」
「はい。初戦さっき勝ちました」
「おめでとう」
トレーニングコーチは色々見て回っていたら監督がいたから話しかけたのだと、体調や最近のメニューの話をしてまた別の方へ歩いて行った。監督と二人で話すのはコンタクトを取った電話と合宿初日だけだからそれなりに緊張する。
でも、そこまで会話もなく流れている試合を見ていた。
「……櫻井さ、合宿の時必死だって言ってたじゃん?
自分と同じ世代の子がこうして活躍しているのを見ると辛くはないかい?」
静かに、それでも強い口調で話し始めた監督に視線を向けると、薄く笑っていて。それが何だか試されているみたいに感じて嫌だと思った。
「辛いとかは、特に……でも、そうですね。
多分、怒っているんだと思います」
「怒ってる?」
「……あの頃の事は良い形で終息したし、これから自分は前に進めるって、もっと飛べるって思っています。
それは私を支えてくれた家族や友人、チームメイトなど大切な人がいたからで……その人たちに胸を張れる自分でありたい。強くありたいと思います。だからこそ、心の何処かに居座っている病院で泣く私に怒っているんです」
腹が立つ。腹が立つ。って、ずっと前から。
烏野が進化する度に、勝ち上がる度に嬉しい気持ちと同じくらい怒りが湧いてくる。女子の試合を見ていたら尚更強くそう感じる。
「だって………この子達より……今バレーをしている人達より、私の方が絶対に強い」
「!」
「負けたくない。強くありたい思いでそう考えて、だから自分に怒っているんです」
他者が上だと認めたくない。特別でいたい。夏に復帰すると決める前から、そんな熱がずっと胸の内に燻っているのだ。
「私は、バレーを辞めていない。いつもより高い壁に当たっただけ。………でも、それを証明することは私にはできない」
「………」
人生に絶望して、自分にもチームにも失望した日。あれほど泣いた日は無いってくらい、悲しくて、悔しくて怒りが湧いた。一度でもバレーを辞めたと認めてしまった事に、怒る日が来るなんて思わなかった。
「だから、いつか絶対。
エースは櫻井しかいないって、貴女に言わせてみせます」
もう私は輝くことに迷わないと決めた。誰か一人の特別じゃなくてみんなに胸を張れる、自分自身が一番だと自信を持って言えるくらいかっこいい自分になりたい。いつだって本気で、自分が一番特別なのだと。
「………うん」
監督は笑っていて、私はその瞳にようやく自分がなりたい姿を見つけた気がして笑った。
その後、監督と別れた私はギリギリまで一人で試合を見た。この感情をそのまま、練習や試合で出すために落とし込まないといけないと。だから、梟谷の試合も見る予定だったけれど女子の方をずっと見ていた。
* * *
「だって………この子達より……今バレーをしている人達より、私の方が絶対に強い」
「!」
「負けたくない。強くありたい思いでそう考えて、だから自分に怒っているんです。
私は、バレーを辞めていない。いつもより高い壁に当たっただけ。………でも、それを証明することは私にはできない」
「………」
「だから、いつか絶対。
エースは櫻井しかいないって、貴女に言わせてみせます」
そう言い切った櫻井を思い出して、自然と笑みが溢れた。
「あれ、霧島監督。いらしてたんですか」
「お久しぶりです雲雀田監督」
「?なんか上機嫌ですね」
「あは、わかります?」
今までのバレー人生で、沢山の選手に出会ってきた。
誰が一番とか考えたこともなくて、ただ勝ちたいという思いで指導してきた。だからこそ、櫻井がそう言うとは思わなかった。
「………ありがとうございます。雲雀田監督」
「?」
『櫻井さんは将来のことどう考えているの?』
櫻井は覚えていなかったみたいだけれど、彼女との初対面を思い出して絶対この子は私が育てたいと思っていたのだ。
だから、高校の大会で彼女を探した際居なかったことに落胆した。本気だったんだと。北川第一中学校に連絡を取ると、櫻井自身は部活を退部していたとのこと。最後の試合が終わって自動的に卒業する時引退となる前に退部。状況は変わらないだろうけれど、意味としては全然違った。
それでも、私は彼女を諦めきれなかった。
「数年前に名刺を預けたじゃないですか」
「ああ、牛島がユース招集に決まった時」
だから彼女がバレーに戻ってきてくれるのならと名刺を預けた。知らない番号から電話がかかってくるのをどれほど待ったことか、きっと誰も知らない。
中学の時点で一目置かれていた彼女は全然本気じゃなかったのだと今実感した。昔に伴わなかった気持ちや熱が入っていて、強くそう思う。
「……櫻井は、まだ伸びる」
* * *
「あ!律遅い!!」
「ごめん、ちょっと迷った」
ダンボール持つよ、バスに運ぶ。と選手に持たせるわけにはいかないと縁下と変わる。
「長かったですね。すごい試合だったんですか?」
「ううん?全然」
「?」
だって、私の方が上手いから。
腹が立つ。弱い自分にも、色んな人に迷惑をかける自分にも。
そして何よりも、自分が一番だと思いながら烏野が最高だと思っている自分に。
「……私、こんなに自分がひどい人間だとは思わなかった
感謝しないと」
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