「オイヨイヨイ、おのぼりカラスさんじゃねぇの。
 良かったね。はるばる来たのにすぐ帰る事になんなくて」
「そんなにはるばるじゃねぇし!」
 帰り際。会場近くでバスを待っていると、鉄朗を筆頭に音駒の面々が話しかけてきた。試合の様子や調子等を話しているのを見ると、明後日をとても楽しみにしている事がわかる。

「律さ、さっき俺らの試合終わった後コート近くにいたよな」
 さっき、とは霧島監督と話していた時の事か。音駒のベンチと反対側だったけれど、見つけていたのかと少し驚く。何か話でもあった?なんて聞かれたけれど特には。と返した。
「ソウデスカ……」
「クロ、櫻井さん見つけてソワソワしてたから」
「研磨ァ!」
 耳打ちする様にそう言った孤爪くんはニヤリと笑っていて、私は何となくいたたまれない気持ちになった。こういうところでなんとなく『そうなんだろうな』と感じてしまうから。
「別に!ちょっとだけ期待しただけだし」
「何の期待だよ」
「でも櫻井さん、女の人と話してたよね?
 明らかにクロと話しに降りてきた感じではなかったよね。
 自分から話しかけようとしてわざわざ遠回りしたくせに」
「、見てたの?」
「エッ、あ……ごめんなさい?」
「え?おう。………え、なんかマズかった??」
「いや、そうじゃないんだけど」
 明らかにほっとした二人は、姿を見ただけで何を話したのかまでは聞いていないみたいだ。まぁ、知られても全然構わないけれど。日本代表のエースになるという宣言は本気。それでもなんとなく、気恥ずかしい気持ちはあったわけだし。
「じゃあ、明日も生き残ってネ」
「そっちこそだろ」
 開催地代表とはいえ全国大会で、音駒も近くに泊まっているらしい。お互い笑顔で手を振って別れたものの、気持ちは明日に向いていた。だからこそ、気が重くなる。
 ……検査入院している烏養さんがここまで見に来ることは、できないみたいだ。

「あれ」
「!」
 宿に到着すると、隣のホテルに同じ宮城県代表の新山女子の選手が入っていく面々が見えた。
「律、」
「………幸」
 話しかけてきたのは北川第一から新山女子に行った元同級生、ミドルブロッカーの春川幸だった。春高予選の時に目は合ったものの話す機会は無かったし、本人も私に負けず劣らず無口な性格なのでまさか話しかけてくるとは思わなかった。
「隣だったんだね、宿」
「うん。調整?」
「シードは明日からだからね」
 昔から高い方だったけれどより身長が伸びていて、どこか気迫も感じられる。さっき霧島監督に話したけれど、それでも私の方が、と考えてしまう。
「幸?行くよ」
 幸は声をかけられてそちらに顔を向けたけれど足は動かず、軽く頷いた後私に再度声をかけた。
「ん。………後で、時間取れる?」
「え、」
「話したいから、夜にここで」
「あ、うん」
 同じチームメイトに呼ばれて幸は走って行ったけれど、今更話すことも何もないだろうに。なんてポカンとしたまま、とりあえず私も宿に向かった。

 夕食を食べてスマホを開くと知らないアドレスからメールが届いており、幸は華から連絡先は聞いていた事と夜の時間帯が記されていた。私はそれに今から外に出ると返信してジャージを羽織って外に出た。いくら東京と言えど、冬は日が沈むのは早いし宮城ほどではないけれど寒い。何となしにその場でぼうっとしていると、ベンチコートを着た幸が出てきた。
「待った?」
「全然。それで、話って何?」
「……とりあえず謝らせて。
 中学の時、同級生の誰より長く同じコートに立っていたのに何もしなくてごめん」
 終わった事なのにまだ思い詰めていたのかなんてどこか他人行儀に思ってしまう。自分で綺麗に終息したと思っていたそれは、まだ当時のチームメイトに根強く残っているみたいだった。
「………もういいのに。
 寧ろ、まだそれ言うのかって思うくらいだよ」
 そう言うと、幸はやっぱりとでも言うかの様な微妙な表情をした。
「うん……そう言うと思った。
 華に律とちゃんと話したって聞いてたからさ。梓さんに背中押されたんでしょ?
 梓さんと律がそんなに仲が良いと思ってなかったから」
 新山女子に進学してすぐ、部活中に聞かれたんだと話した。「ところで櫻井は?」と。それにひたすら困惑して、二年の秋からあったことを大まかに話して「バレーは辞めた」のだと言ったらしい。確かに夏にそんなことを話していた。
「律がバレー辞めたって話した時の梓さんの顔が忘れられなくて。
 同じポジションで一つ下なのにエースという肩書を取られていた筈で、それで衝突したこともあったのに梓さんがずっと待っていたのは律だったんだなって」
「……」
「これからは、もう絶対あんな事無いから。せめて私の目の届くところでは、私達のエースを傷つけさせはしない。
 でも、戦うときは倒す」
「………うん」
「ごめんね、大会中なのに突然。でも、次に会ったら話すって決めてたんだ。
 うざったいかもしれないけど、決意表明みたいな感じ」
「そう………でも、一つ訂正」
 幸が、一緒に戦ってきたチームメイトが私のことをエースだと認めてくれていたとは思わなかった。それほどまでにあの頃は自分も周りも、どうでもいいと感じていた。でも、今は違う。
 
「私はバレーを辞めていない。ただ、高い壁に当たっただけだから。………私も、今度こそちゃんとしたエースになるよ」

 幸は少しだけ目を見開いたかと思うと、嬉しそうにしながらも少しだけ複雑そうに頷いた。
 幸と別れてから宿に戻ると、丁度電話中の繋心さんがいた。
「ふー………」
「烏養さん、来られないって?」
「うお!?って何だよ律かよ!」
「ごめん」
 やっぱり、調子があまり良くないみたいで現地には来れないそうだ。
 春高三日目、明日を勝ち抜けば音駒と当たる。
「じじいのことはあんま心配しなくていいぞ」
「うん……でも、見に来て欲しかったな」
 私がいる間にゴミ捨て場の決戦ができるのはこれが最後だ。昔の因縁だと、ずっと話を聞いてきたから尚更強く思う。一番の師匠だから、見せたいと思って何が悪い。昔の因縁でも今皆も音駒を倒したがっているんだから。
 明日の相手は、夏のインターハイ準優勝である兵庫県代表稲荷崎高校。今まで強敵とは何度も戦ってきたけれど、はっきり言うとチームのレベルとしては白鳥沢より上だ。
 影山がユース合宿で会った宮侑君とその双子の治君。そして、木兎と同じく全国五本指に入るウィングスパイカーの尾白アラン君。他にも強い選手がいて、というか強くない選手なんて対戦相手にいない。
 日向と影山は前向きに考えているようだったけれど、それでも不安がどうしても勝ってしまう。
「……私たちが、不安そうな顔したら駄目だね」
「ハイッ」
 白鳥沢にだって勝てた。今まで私たちはずっと挑戦者で、それは今も変わらない。することは、何も変わらないはずだ。
 ビデオを見ながらのミーティングは長時間にもかかわらず、明日に向けて気が引き締まる様に全員集中していた。

 そして始まった稲荷崎との試合は、開始早々白熱していた。
 強豪相手でも勝つ事を意識する以前に、自分ができる様になりたい事を試す日向もそれを支える周りも良い空気だと思う。
 稲荷崎は全国大会に慣れているだけはあり攻撃も守備もミスは少ない。そして若干嫌になるのが、吹奏楽と観客による応援。
 サーブは何度も反復練習して精度を上げる。それは、自分のリズムを作り一番やりやすい形を決めると言うことでもある。だからこそ、テンションを下げるブーイングも勝手にリズムを作られる応援も効かない人には効かないけれど、選手としては嫌になる。
「冴子さんかっこいい……!」
「ですね!!」
 冴子さんが所属する和太鼓のメンバーと応援に来てくれた事に気付き、そちらを一瞥して呟いた。
 リズムを作らずとも稲荷崎の吹奏楽を邪魔できるし、何より応援というのは選手にとってありがたいものだ。
 稲荷崎の実力は正直烏野より上かもしれない。でも、それで諦める私達ではないし、依然として燃えるのが烏野だ。
 それでも宮侑君と治くんが日向と影山の速攻をやって見せたあたりから、少しだけ空気が変わり始めた気がした。
「………大丈夫かな」
「?」
 仁花ちゃんがソワソワしていると思ったら、日向が心配とのこと。影山にとってそうだと思うけれど、仁花ちゃんにとっても日向はどこか特別だと感じることが多い。
「自分よりずっと大きな相手と戦う日向にとって、影山君との速攻は文字通り必殺技で自信もあるはずで……それを目の前で決められて、自分のは止められて。心折れそう」
「………そんなこと、ないんじゃないかな」
「?」
「日向と影山はこれからずっとバレーをしていくわけでしょ?
 でも、それはずっと味方でいるわけでは無い筈なんだよ」
 進路は他人に左右されるものでもないし進む道は人によって違う。私がバレーの選手になると決めた事も、徹がアルゼンチンに行くと決めた事も。皆が烏野に来る事に決めたのも自分の意思だ。
「影山あっての日向っていうのが今の見解だとは思うけれど、この先日向は影山以外のセットアップも体験するだろうし。
 だから、宮侑君もあの速攻ができる、影山じゃなくてもあの速攻が使えるってことは日向にとって良いことだと思うよ」
「………将来の、可能性」
「日向がそこまで考えてると思わないし、将来より目先の相手でいっぱいいっぱいだとは思うけど。自分の得意な事を相手がしていたら負けられないって燃えるのが日向だと思う」
 それこそ日向は元からバネもスピードもあるしブロッカーではなくスパイカーとして攻撃の要になれると思う。
 この先彼らがどんな道を選ぶかはわからないけれど、全員見ている場所は変わらないはずだ。

「………本当、楽しみでしょうがないよ」

 スパイクもレシーブもブロックも、全部できない。それは伸び代しかないという事で、上手くなるためには、勝つためにはとひたすら模索し挑戦する事だ。
 これぞ考える事を辞めないに直結してくると思う。日向に技術が加わったら、将来彼はどんなバレーを見せてくれるのだろう。

 試合は進み、普段より田中の調子が上がるのが遅い気がしたものの第一セットは烏野が取った。そして始まった第二セットは序盤から中々点差が縮められずにいた。
「櫻井先輩も、サーブではエースを狙ってましたよね」
「………ああ、夏合宿か」
 梟谷との試合で、確かに木兎を狙った事を思い出した。
「でも、木兎を狙ったのはアイツの調子が上がると厄介だし、そもそもファーストタッチがエースだと最後の攻撃にまともに混ざれないってところがあるから……だから、宮侑君がリベロを狙うってことは絶対Aパスに繋げさせないとか、相当サーブに自信があってのことだと思うよ」
 西谷はリベロとしてかなりレベルが高い。大抵のボールはきっちりセッター位置に返すし、技術だって磨いている。だから、西谷が取れないサーブは取れないと思ってしまうんじゃないか。
「………良い性格してる」
 全ての技術が高い上に、攻撃の手は緩めることなく嫌な事をしてくる。相当だと思う。
 でも、セッターとしての実力が高いと私としてはどうしようもなく打ってみたい、同じコートに立ってみたいという気持ちが湧いてくる。
 彼がのびのびとプレーできるのは他のメンバーがいるからだとは思うけれど。双子で、生まれた時から一緒にいる宮治君は自分のやりたいことにすぐ合わせてくれる。尾白君と角名君はウィングスパイカーとしてレベルが高く、全く違う打ち方をしてくるから面白いだろうし。
 まぁ、良い性格してるのは烏野のセッターも同じだけどな。
 個人だったら負けるかもしれないけれど、バレーはいつだって一対六。全然負けてない。
 けれど、第二セットを取ったのは稲荷崎だった。キャプテンの北君が入った瞬間からどこか雰囲気が変わり、攻撃も決まる。少し空気が重くなっている気がする中で第三セットは始まった。
「今日は、影山君の調子がいいですね……!」
「本当にね。頼もしい」
 サーブもセットアップもブロックも、全てこなす影山。私は女子で、同じチームでスパイカーだから一緒にやりたいという思いが強いけれど、確かに有能な後輩が同じチームにいたら嫌かもしれないと徹の気持ちが少し分かった。
 そんな時、宮治君のセットアップを見て震えた。
「やっば…かっこいい………」
「エッ!?」
 私にとって特別なセッターは華、最高のセッターは徹だということに変わりはない。それでも、影山や宮侑くんの様なハイレベルなセットアップは、見ているだけで惹かれる。
「今の宮侑君のトス、レシーブ乱れてボール低かったのにアンダーじゃなくてオーバーで取った」
「!」
「スパイカーにとって打ちやすい以上に最高のトスは無い。
 だから、低い姿勢からでもオーバーできっちり上げてくれる方が嬉しいし……何より、スパイカーにそこまでしてくれるっていうのは、凄く嬉しいことだと思うんだよね」
「なるほど………」
 丁寧な、最高のトスはありがたいと思う。それに、セッターがハイレベルだからこそスパイカーは生きてくるものだ。
 これが、高校ナンバーワンセッターの実力かと拍手を送ると、仁花ちゃんがほっとした様に息を吐いた。
「櫻井先輩が宮さんに惚れたのかと」
「それは無いな」
 それから、離れていた点差はジワジワと詰められていき、宮治君によるセットのマイナステンポを決められた。
「……何これ」
 全てのプレーのレベルが高い事に加えて、新しい事をする。
 青城や音駒の様なプレースタイルに慣れて対応してくるチームが苦手だと、今までの試合の最中で思っていた。でも、稲荷崎はまるで烏野に似ている。できないをできるに変えて、失敗も恐れず勝ちに貪欲。
「まさしく【最強の挑戦者】か」
 でも、誰だって等しく挑戦者だ。技術は正直まだまだだけど誰よりもバレーが好きで、勝ちに貪欲な子が。
「……ナイスレシーブ」
 尾白君のスパイクを綺麗に返したのは日向だった。それでも、必死に繋いだ最後のボールはこちらのコートに落ちてたまらず繋心さんがタイムアウトをとる。
「大丈夫でしょうか……」
「大丈夫。絶対に」
「!」
 私たちが信じなくて誰が信じるの。
 勝ちたいとか、負けたくないとか。全部未来の話でしょう。自分を信じても誰かを信じても、結果は誰にもわからない。だから、せめて悔いのないよう。
「後悔は全部終わったら死ぬほどできるよ」
「……ハイッ」
 その後、離されそうになっていたところを喰らいつき、また返されの繰り返しで稲荷崎のマッチポイント。
 願う気持ちも、怖い気持ちもわからないわけではない。でも、勝敗がどうであれ最後まで見届けないといけない。ぽんっと背中を押した。

 私のトラウマが酷かった時は、それをすごく後悔したから。気分が悪くて、自己嫌悪して。みんなの試合も見れずに試合が終わり、かける言葉も見つからないなんて最悪じゃないか。
「最後まで、上向いていよう」
 そして始まったラリー、影山の綺麗なトスを最後に決めたのは田中だった。今まで影山は中学のことや夏に日向と衝突したことがあって、スパイカーのことを考えるあまり全て完璧に合わせ過ぎる傾向にあった。それが今、スパイカーの選択肢を増やすと同時に力を伸ばした。

 ねぇ徹。見てる?今の影山、凄いよ。
 あなたの下にはとても凄いセッターが沢山いて、あなたと同じ場所を目指しているの。
 それって、凄くワクワクしない?

 影山のサーブで同点になり、デュース。その後も均衡状態が続きスタミナも落ちてくる。どんどん攻撃のテンポが速くなる中で上がったのは、いつもより高めのボールだった。それを上げたのは日向で、本当にもう。と言葉にならない。
 そして、ギリギリのラリーの末に宮兄弟の速攻を止めたのは日向と影山のブロックだった。
 ああ、コレ。
「………成長したなぁ」
 稲荷崎との試合、フルセットの激闘の末勝利したのは、烏野だった。
 
 礼をする選手に拍手を送り、みんなを出迎えた。
「日向」
「?」
 クールダウン中でバテている日向に声をかけて、手に持っていた荷物を預かる。
「最後のブロック見て、夏予選の最後思い出した」
「!」
「………色々言いたいことがあってうまく言葉にできないけど、全部見てたよ。成長したね」
 日向は瞬きをした後嬉しそうに笑った。
「影山が『俺が止めた』って言ってきてこの野郎って思ったんですけど」
「思ったのか??」
 影山も話を聞いていたのか日向を睨んできたけれど、日向は笑っていた。
「でも、あの時の自分を超えたって思えたから全然いいです!
 ありがとうございます!!」
「!」
「私の方こそ」

 本当に、ありがとう。
 これで、次は三回戦。

「やっとだ………」

 春高三日目、第三試合。東京代表音駒高校との試合。
 『ゴミ捨て場の決戦』の舞台が整った。

 夜。宿に戻ってご飯を食べると、揃いも揃ってテレビの前に正座していた。みんなでワイワイ騒ぎながらテレビのスポーツニュースを見ているところをそっと抜け出して電話をかける。
『もしもし、律ちゃん?』
「……徹」
 数コールの後出た彼は普段通りの声で、それになんとなく落ち着いた。こっちにきてからはチームにつきっきりで、自分のことでいっぱいいっぱいだった気がしたから。
『どうしたの?突然』
「……私、春高中は徹に絶対連絡しないって思ってたんだけど。今日の試合見てたら、話したくなって」
『いつでもかけてくれていいのに!!』
 はは、相変わらずだなと笑うと、徹も電話越しに笑っていた。
「見た?試合」
『………見てない』
「ええ?見ていて欲しかったのに」
 そう言うとすぐに「見たよ!超見た!!いや、ランニングしてたから全部は見てないけど、録画あるしなんなら今見るよ!?」なんて早口に言われた。必死か。
「今日の影山も宮侑君のセットアップも凄くて、震えた。だからかな……徹に会いたいって。
 徹とバレーしたいなって思った」
『!!……そんなこと、今まで言ったことなかったのに』
「そうだっけ」
 会いたいとか、ずっと前から思ってたし伝えていたかと思ったんだけど。
 私は、貴方と練習している時一番バレーを楽しんでいたのよ。ずっと、徹が上げたトスを打ちたいって、同じコートに立ちたいって思っていた。
「……全員倒すって、簡単じゃない。私より凄い人も沢山いて、昨日と今日とで女子の方見てて思った。
 頑張らないとなぁ……」
 努力しないといけないとずっと思っていた。そうしないと、強くならないと特別にはなれないと。故障して、休んだからこそ見えた景色はそこでしかわからないものを沢山教えてくれた。
『律ちゃんが頑張らないとって言うと不安になる。
 怖いんだよね……また繰り返すんじゃないかって』
「じゃあ、ちゃんと見ててよ。私が無茶しないように、繰り返さないように。
 いつ、どこにいたって私をすぐに見つけられるように大きくなるから」
『………怖いなぁ』
「引いた?」
『ううん、そうじゃなくてね。彼女が凄いと、彼氏としてはこう……ピリッとするよなって話。
 その頃には、俺も今よりずっと大物になってるからね』
「うん、楽しみにしてる。
 あ、そういえば徹って今何してるの?」
『?勉強だけど』
「そうじゃなくて、学校とか。二月から仮卒期間になるけど、私は受験が半ばにあるから……」
『ああ、俺はとりあえず卒業後すぐにあっちに行くからそれまでは割と暇かな……
 そういえば岩ちゃんが律ちゃん英語得意だったからリスニングとか作文?見て欲しいって』
「え、岩泉はどこ行くの」
 そのまま徹と進路やバレーのことを話していると、澤村達三人が外に出てきたから電話を終わろうとした。
「明日も、見てて」
『?うん、まぁ…時間があった上で気が向いたら?律ちゃんがそう言うなら仕方なくね』
「うん、じゃあ。……またね」
 そう言って電話を切った。菅原に清水が呼んでたと伝言をもらい、お風呂かなと荷物を取りに部屋に戻る。
 明日は音駒と試合だから。鉄朗と初めて公式戦で会うから、落ち着かないのかもしれない。徹に電話したのだって、私は彼のものだからと認識したかったから。声を聞いて落ち着きたかったから。

『俺、櫻井の事本気で好きだ』

 あの時の熱を忘れたわけじゃない。
 友人でいたいと、そう願ってはいるもののどこか熱い視線を感じて、鉄朗と一緒にいる度に、話す度に思い出す。だから、もうこれで最後にしないといけない。

 私は、及川徹のことが好きだ。
 明日は対戦相手として、憧れとして貴方の短かった三年間を終わらせる。
 気持ちにケリをつけるかも、鉄朗が何を考えているのかもわからないけれど私の中でそれはもう絶対に揺らがないから。

「………ごめんね」



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