「はい、じゃあ自己紹介から始めよう!」
 東京遠征の初日も終わり、マネージャーが使っている教室では寝る準備も万端となった中でお菓子を広げていた。
 今まで梟谷学園グループとして合宿を行なってきた彼女たちはこれが初めてでは無いのだろうけれど、今回は私たち烏野の参加もあることに加えてこういった泊まりの遠征は初めてだ。
 梟谷のマネージャーをしているかおりを筆頭に学校、学年、名前を言う。
「へぇ、律は選手もしてるんだ。しかも、全日本ユース合宿に参加してきた、と」
「木兎より、上」
「すご、ヤバ」
「とはいえブランクもあるし大変だけど」
 はじめはぎこちなかったけれど、練習中から徐々に打ち解けていたこともあって、バレーや選手に関する話でそこそこ盛り上がっていた。
「でも、一目見たときからスタイルいいしめっちゃかっこいい子来た!って思ってた」
「あ、わかります!
 一年でも櫻井先輩って実は度々噂になってて……」
「え、」
「それは私も初耳なんだけど、仁花ちゃん」
 噂になるようなこともしていないというのに。中学のことがあったから、あまり他人に無関心すぎるのもどうかと思うからと少しずつ周囲にアンテナを張るようにしていたというのに。
「でも、それだけ高感度高いとやっぱモテるんじゃない?
 ぶっちゃけどう?この中で彼氏いるのって真子だけ?」
「烏野でダントツモテるのは潔子でしょ。彼氏はいないけど」
「え〜〜〜仲間。真子こっちのラインに入らないで」
「酷いな!?」
 彼氏がいるという森然高校のマネージャー大滝真子さんは怒りながらも困ったように笑っていたので、この弄られ方は初めてでは無いみたいだ。
「あ、でも律って謎に黒尾君と仲良いよね。…何かあるの?」
「それ私も思ってた!ちょいちょい二人で話してたから、付き合ってるとばかり…」
「宮城と東京だし、遠距離?」
「いや、黒尾とは別にそんなんじゃ……」
「ええ〜〜〜それはそれでつまらん!」
 黒尾との関係を聞かれても、友人としか思い浮かばないのだけど。でも、周りから見たら確かに不思議に思うかもしれない。
 実際に連絡は取り合っているとはいえ時々だし、今回の合宿で会うのは二度目。
「ゴールデンウィークの練習試合の時、連絡先教えてって言われてたよね。帰り際スマホ持って駆け寄ってきた」
「え!嘘!?黒尾君から!?
 それってもうフラグ立ちまくりじゃない!?」
「いや、でも普通にいいカップルになりそう」
「仲良いしね」
「高身長カップル……!」
「きゃ〜〜〜!ちょっともう、楽しみにしてるね?」
 どんな時でも女子は他人の恋バナで盛り上がれるものなんだよなぁと中学のことを思い出した。自分の色恋はともかく、人のことになると面白半分であることないこと話出したら止まらなくなるのだ。
「ま、そうだとしてもいい気分転換にはなるんじゃない?」
「………潔子、面白がってない?」
「ごめんごめん、なんか律が弄られてるのって新鮮で」
 及川に失恋したことを潔子は知っているからか、新しい恋を勧められてるような気がした。でも、私の中ではまだ消化不良を起こしているみたいで新しい恋とかは考えられないのだけど。

「明日もあるしそろそろ寝よっか〜。
 夏休み入ったら、一週間毎日話せるしね」
「だね、」
 それぞれ布団に入って、暗くなった室内に目を閉じる。

 いつか私がバレーを辞めた時、隣にいる誰かは知らない。
 だけど、私の全てを賭けてきたバレー人生の中で短くも濃い時間を過ごしてきた及川へのこの想いは、一生忘れること無く胸の内に秘めるんだろうななんて思った。

 彼の隣に立てずとも、どうか彼の幸せを願わせてください。



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