「うっはぁ〜………」
「何、どうしたの」
「ウッッワびっくりした!櫻井さん!?」
 初戦が終わりクールダウンにと適当に一人で歩いていたら、バッタリ及川と出会った。男子と女子の会場が同じと言うのは珍しくもないけれど、お互いフラッと歩いていたのに偶然出会うというのは珍しい。表情が硬いなと思って声をかけてみれば、緊張が抜けないのだと。
 今回の試合から正セッターに選ばれたのだと聞いていたけれど、昨日からこんな調子だったのか。
「でも、別に公式戦は初めてじゃないでしょ?
 ピンチサーバー任されるようになってたわけだし」
「それとこれとは別じゃん!俺はセッターだよ」
「昨日、明日試合だから自主練無しって帰ったもんね」
「それ!それだよ!!やっぱすれば良かったかな………
 櫻井さんは初の公式試合どうだった?」
「どうって言われても、あんまり覚えてない。
 去年の夏の県予選決勝で、いきなりピンチサーバーに出ろだったから……」
「それってひょっとして、ファイナルセット……だったり?」
「うん。対戦相手に流れが来てて、そのままデュースに入りそうだったから。流れ変えて来いって」
「ヒェッ……」
 そこでサービスエースを決めて、ラリーは続くものの点差を開いてそのまま全国出場を決めた。
 プレッシャーとかそこまで感じる方でもないけれど、及川は違うのだろうか。先ほどから落ち着きがない。
 
「でも、大丈夫。及川なら心配いらない」

 そう言うと、及川はポカンとして。でも少し安心したように笑って深呼吸をした。
「俺、櫻井さんに大丈夫って言ってもらえると安心する。
 基本プレー中は厳しいし口悪いこともあるけど、絶対に嘘はつかないじゃん?だから、櫻井さんにハッキリそう言ってもらえるだけで不思議と落ち着くんだよね」
「………そ」
「うん!大丈夫。ありがとう櫻井さん」
 そう言った及川の表情は柔らかく、いつもの自信に満ちた笑顔だった。私はそれに少し安心して、そろそろチームに戻ろうと走り出す及川を呼び止める。
「よっし、じゃあ俺もう行くね!」
「うん、あ、及川」
 うん?と振り向いた及川と目を合わせて言った。

「行ってらっしゃい。見てるからね」
「、行ってきます!楽しんでくるね!!」
 
 満面の笑みを向けて走り去っていった及川の背中を、私は見えなくなるまで見つめていた。
 
「楽しむ、か………」
 
 及川らしいな。
 バレーを楽しむことを捨てたから、私は今ここにいるのだと思っている。そして、それで自分の限界も悟った。だから私は、及川と岩泉に勝負を託して………。
 
「バカらしいな」
 
 私もそろそろ戻らないと、華や中野先輩が探しにきてしまう。そう思って、思考を切り替えるように一歩を踏み出した。



prev  next


Back
Top