「開けて」
「………何だ突然」
ジジイに律が怪我で入院したと聞いた俺は、空いてる時間を縫って久々に年の離れた少女に会いにきていた。
試合中の事故とかではなく、日々の積み重ねによる故障とのことで、手術を終えた彼女は入院生活とリハビリで完治に二年も費やすのだと。言わずもがな、選手としてバレーを続けることはもうないようだった。
「バレーはいいのか?お前選手だろ。こういうのはもっと大人になって「繋心さんが今してくれないのなら、自分でやる」
そう言った律は自分の耳にそのままピアッサーを当てた。俺はその様子にギョッとして、律の手をすぐに止める。
「ちょっ待て待て!せめて冷やしてからやれ!!」
「……してくれる?」
「はぁ………保冷剤貰ってくる」
なんだかんだでコイツが七歳の頃からの付き合いだ。当時は俺も高二。今や俺の祖父母と両親とも顔見知りとなった律には皆甘くて、いい加減身内扱いにも慣れてくる。
控えセッターとして試合に滅多に出なかった俺は、初めて律に出会った頃、バレーに一直線な律の事が少し苦手だった。でも、コイツもただの人間で、ここまでのし上がれたのは今までの積み重ねの成果だとわかっている。
天才では無いし才能もないかもしれないが、紛れもなく努力の天才だった。
だから、今まで積み上げてきたものが一気に崩れて、自暴自棄になってんのかもな。髪を染めたりピアスを開けたり、外見なんてどうとでも弄れる、それの一環なのか。
でも、俺が大学生になってピアスを開けたとき彼女は「確かにかっこいいけど、自分の体は大切にしないと」と言っていた。
だから、本当にもう………。
「貰ってきたぞ」
「ん、おかえり」
「……いいんだな?」
「うん」
短く切り揃えられた髪を耳にかけて保冷剤を当てる。ちっこくて、蹴れば吹き飛んでしまいそうな少女だったのにいつの間にかここまで成長した。
……まぁ、不器用さは全然かわんねぇけどな。
数分間そうして感覚のなくなっただろう耳に位置を合わせて、目を伏せた律を見た。
これから先、律がどんな道を進んでも俺はそれをすぐに知る事ができる距離に居る事はできない。いくら身内贔屓しているとは言っても、血も繋がらない他人だ。
それでも、妹同然の彼女が痛みを抱えながら生きていくことを辞めるときは、俺も見守ることができたらいいな、何て思いながらカシャンと音を立てて律を傷つけた。
「痛ぇか?」
「……痛く無いよ、これくらい」
あの時と比べれば、全然。
なんて考えているんだろうな、と思いながら開けたばかりのピアスに手を添える律の頭を撫でた。
いつだって辛い選択を選び、茨の道を歩み続ける彼女の隣に寄り添える人がいればいいのに。
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