「白鳥沢ってめちゃめちゃ広いね」
「だよね」
 幾ら選手として参加しているとは言えど、元々マネージャーだった事もあり隙を見て手伝いをしていた時だった。
 全国大会常連であることは勿論三本指に入る若利が居る事で白鳥沢という学校名は知られているが、来るのは初めてだったからと雪絵と真子はしみじみと言った。
「来た時、木兎がさ〜馬いるってうるさくて」
「うん、聞こえてたよ」
 体育館で練習していても木兎だとわかる声量で話していて、梟谷が到着したと気づいたことを思い出し笑う。
 スクイズボトルを洗い終えて体育館に戻ろうとしていると、天童君と若利が歩いていた。
「ん?あ!櫻井さん達!マネージャの仕事?お疲れ様!」
「どうも〜」
「お二人はこれから自主練ですか?」
「俺は見に行くだけ!若利君が誘われたって言ってたから!」
 若利は天堂君に一つ頷いて私の方を見た。
「櫻井と練習はしたことないからな」
「だね。学ばせていただきます」
 木兎が私に自主練しても良いかと聞いてきたので若利に聞くと、構わないと言った。そこで木兎が若利もと誘ったのだった。
 私は少し休憩ついでにマネージャーの仕事を手伝ってくると体育館を抜けてきたのだ。
「それより、ここ幽霊出るから気をつけてね〜」
「、え。幽霊?」
「ソウダヨ。この前合宿してたら色々出てきてサ」
「幽霊出てくるのをそんな虫感覚で言う人いる?」
 真子はそういった話が苦手なのか少し顔色を悪くしていたけれど、雪絵はそうでもないみたいだ。
「まぁ、ぬ〜……若利君の鬼の手があれば大丈夫!」
 あんまり気にしなくって良いよ!と天童君は笑った。
「……櫻井?」
「な、何?」
「いや……」
 若利に声を掛けられたけれど、会話が続くことはなかった。そんな私たちを見て天堂君は閃いたようにいつものテンションで話しかけてくる。
「アレ?あれれ??
 櫻井さんてひょっとして幽霊怖いとか??」
「怖いっていうか、苦手………」
「うっそ〜!!!意外!」
「そこまで雪絵のテンション上がることある?」
「櫻井さんってそういう風に見えないから……」
 でも、若利はそこまで気にすることでもないって言うし。
 そろそろ練習に向かおうと若利が言うので雪絵達と分かれて体育館へ向かった。既にメンバーは集まっていて、ミニゲームをしている途中だった。改めて見ても不思議なメンツというか、中々カオスだなぁと思いながらシューズを履く。
「そういえば、櫻井さん。さっき話してたのこの体育館ダヨ」
「、」
「むふふ、ほんと怖いんだね〜!」
「て、天童君って本当に性格悪くない……?」
 そう話していたからなのか、バツンッ!と大きな音を立てて体育館の照明が落ちた。
「ッ!」
 ザワザワと皆の騒ぐ声が聞こえるものの私はその場を動かず。というか動けず。
 パッと何事もなかったかのように照明が戻り、今の何だったんだろうな〜なんて話始める。
「…櫻井」
「…………何、」
 咄嗟に掴んだのは若利の手だったらしく、握ったままだったのを見て天童君が吹き出していた。
「ほ、ほんとにっ怖がりだったんだね……!」
「ちょっと!!?!
 なんで律ちゃんと牛若ちゃんが手ぇ繋いでるわけ!?」
 及川の前でやらかしてしまったな、という岩泉の視線を受けつつも手は握ったままで。
「工はうるさかったけど、櫻井さんは静かに怖がるタイプか」
「へぇ、律って暗闇とか怖がるタイプなんだ?」
 天童君と一緒になって鉄朗にもニヤニヤと笑われるものの、これはもう心理的に受け付けられないから仕方ないと思う。
「櫻井さん、闇の帝王推してたりデップー余裕なのにホラーはダメなの?」
「アレは、フィクションだし推しだし。世界観の問題でしょ。
 ……グロはいいけどホラーは無理」
「その心は?」
「物理攻撃が効かないじゃん」
「若利君は物理攻撃してたけど」
「エッ」
 何それ。若利が居ればもう怖いものなんか無いじゃん。
「何かあればまた若利君がやっつけてくれるヨ」
「……じゃあ若利頼んだ」
「?ああ、わかった」
「ウシワカちゃんじゃなくて俺に頼んでよ!?」
 そうしてぎゃあぎゃあ騒ぎ出した及川を宥めていると菅原がポツリと呟いた。
「あれ?でも二年の時、櫻井のクラスって文化祭でお化け屋敷してたよな」
「ああ、カフェね」
「お化け屋敷カフェって何だよ」
 遮光カーテンや暗幕の中で監視もなく歩き回るのは禁止だからとカフェになったのだ。ちなみに二年でも結と同じクラスで潔子とは離れてしまった。文化祭は毎年秋に開催されるので、その頃には既にバレー部に入部していた。だから菅原達がクラスに遊びに来てくれたのだ。
「お化けの格好して接客するんだよ」
「櫻井が返り血の付いた白い着物着て蒟蒻売ってた」
「何そのシュールな絵。写真ないの?」
 菅原はケータイを開いて少し操作をすると、はい。と木葉君に渡した。
「お、おお………シュールだ」
「しかもこの時の櫻井、全然怖く無かったのに旭めっちゃビビっててさ〜!」
「だって!お化け屋敷じゃなくてもお化けだぞ!?」
「ヒゲチョコめ……」
 写真は全然撮らないからなぁと思いつつボールを回していると、音声が聞こえてきた。
「待って。菅原録画してたの」
「うん。面白かったから。
 あの頃って俺、櫻井との距離縮め難かったし!大地は何故か最初から仲良かったけど」
「ふうん?
 ……そう言えば澤村君は櫻井さんの事名前呼びだよね?」
「別に何も無いぞ。同じ中学出身の女子から律のことは聞いてたし、名字より先に名前を知ったからってだけだ」
 菅原と及川と話していると、その動画を見た木葉君と小見君が爆笑したからワラワラと人が集まってきた。
「え、なになに?てかガラケー画面小さいな」
「確かに」
「律、実践して」
 写真だけは見たのか、鉄朗がそんなことを言い始めた。それを聞いた菅原がその場に座って、小芝居を始めた。
「俺、最初スガちゃんはただの爽やかな優男だと思ってた」「俺も」
 私もそう思うよ。なんて木兎と鷲尾君に心の中で同意する。
「櫻井さんのオススメって何?」
「………蒟蒻かな」
 視線が痛いからと仕方なしに一年前の文化祭を思い出しながら付き合うことにした。早く練習始めたいし、ここまでくれば菅原は是が非でもやりたいのだろう。
「じゃあそれで!」
「……三種類あるんだけど、どうする?」
「三種類?」
「………」
「さーくーらーいー??」
 この空気の中これ言うのか。言いたくない。そう思っていると菅原に笑顔で催促されたので、ため息を吐いて腹を括った。
「玉こんにする?糸こんにする?それとも…さ・し・み?」
「ブッッ!!!」
 それから数分間笑い声が止まなかった。これを流れるように言えていたあの時を思い出して、文化祭って謎のテンションが生まれるよねと思いつつ唯一笑っていなかった若利と練習を始めた。



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