食堂に向かっている時だった。今日はギリギリまで体育館に残ってしまい、一緒に練習をしていた人はお風呂に行った。
 男女で入浴時間を分けているとはいえ、練習が終わってすぐに入れないのは嫌だなぁなんて一人で歩いていた時、曲がり角の向こうから騒がしい声が聞こえる。
 木兎達か。なんて思いつつもぼうっとしていたからか疲れていたからか、思いっきりぶつかってしまった。
「硬ぇ………………」

 木兎の手が、思いっきり私の胸に当たった。………なんか、この言い方痴漢を訴えてるみたいだな。
 ふむ、と思っていると、木兎の背後にいた鉄朗が思いっきり木兎の頭を叩いた。それはもう、スパーンッと、いい音が鳴るくらいに。
「おまっ!木兎!!!
 律の胸触っといて何だその感想は!!!」
「だって!本当のことだし!」
「最低ですね」
「プッ」
 第三体育館組は相変わらずだなぁなんて思っていると、未だ一言も話さない私が気になったのか赤葦くんが話しかけてきた。
「あの、櫻井さん?………一応聞きますけど大丈夫ですか」
「え?ああ、うん。びっくりしただけ」
「イヤ律!!お前もっと危機感持てよ!!」
「なんで黒尾さんの方がキレてるんですか」
「律も気にしてないって言ってんじゃん!」
「うん、まぁ」
「それで済まされると思ってんのか!」
 歩きながらスパイクフォームを確認していたらしく、上から振り下ろす際曲がり角を曲がったところで、とのことらしい。廊下では騒がないようにと言ったものの、赤葦くんから「木兎さんなので」と無言で視線を向けられた。納得してしまった。
「何騒いでんの?」
 そんな時、ぬっと現れたのは人の良さそうな笑顔を浮かべた徹だった。いい笑顔を浮かべているように見えるけれど、その雰囲気はどこかは黒い。そして、会話が会話なだけにその場にいる全員が黙り込んでしまった。
「『律の胸触っといて』って声が聞こえたんだけど……」
 バッチリ聞かれていたようだ。
「曲がり角で偶然。でも、ラッキースケベとかではないんじゃない?硬いって言われたし」
「いや、触られたかどうかが問題であって硬いかどうかは問題じゃないよ」
 恋人同士だと公言しているものだから流石にまずいと思ったのか、木兎は先ほどまでの反論する姿勢を消していた。
「…………触った、てか。当たった……みたいな。
 でも、なんか、ごめん………」
 私に言ったように状況を説明すると徹はチラッと私を……嫌、私の胸を見た。おい。
「…………って……」
「ん?何?」
「だって、…………!平らなんだもん!!!
 ラッキーも何もなくね!?」
 その木兎の一言でまた鉄朗の怒りに火がついたものの、それは徹の一言で鎮火した。
「だって、バレーしてる時って律ちゃん胸潰してるでしょ」
「うん」
「つまりそういうことだよ」
 どうやら現状を聞きたかったらしく、徹は怒ってないらしい。ただ、正直言うと赤葦君と月島がなんとも言えない視線で私を見てくるのでその情報は黙って欲しかった。
「ラッキースケベって相手と状況でラッキーかどうか変わるし、彼氏持ちにした場合は完全にセクハラだと思うんだけど、反省してるみたいだしぼっ君がラッキーじゃなかったって思ってるんならいいや。クロちゃんだったらしばいてたけど」
 そう言うと徹はサラッと私の手を取って食堂に足を向けた。
「イヤ、不穏な発言やめてくんない!?」



prev  next


Back
Top