六月。来月半ばから九月上旬まで夏休みに入ることもあり、授業が少なくなる分練習時間が増える。だけど、課題と練習に明け暮れるわけでもなくせっかく自由時間が増えるのだからと、私は休みの日を利用して母方の親戚の家に来ていた。
「じゃあ、夏休みの間オフの日はウチでバイトする?」
今年の夏は帰省するのかとおばさんと話していたら交通費の話になり、合宿や遠征があるため微妙だと零したらそう提案があった。
おばさんは夫婦でカフェ&バーを営んでおり、現在中学二年の息子さんも暇なときは手伝っている。従業員はほぼ身内で、バイトは基本募集していないのだとか。
「でも、私のスケジュールって結構まちまちですよ」
「日雇いで、来れる時だけ来てもらえればいいから。
夏はやっぱり大変なのよね〜」
時給はこのくらいで、と差し出された電卓を見て二つ返事で了承した。九時から十六時と、十八時から二時の二回に分けて営業しているらしく、私はまだ未成年だから昼に来れる時だけ来てもらえればいいとのこと。少人数でこれは結構キツそうだと思ったけれど、聞けばそうでもないらしい。
お店自体普通の喫茶店のようなものではなく、壁一面にあるプロジェクターで流れている映画を見たり置いてある本を好きに読んでいいから、長時間の利用客が多く常連さんは時間帯を予約する。時間帯に関わらず食事に加えて固定のチャージ料はかかるけれど、こんな場所あったら私も多分通う。
そんなこんなでバイト始めたんだよね、と鉄朗に話せば興味があるとのことで住所と店の場所を教えると後日来てくれた。私は練習でいなかったけど。
「で、ポップ見て本読んでたら店員さんが話しかけてきて」
「今月の?何読んだ」
「今度映画公開されるやつと作者が同じファンタジーもの」
タイトルを教えて貰えばそのポップは私が書いたものだった。本当にこいつってこういうところあるよなと思った。
「律のシフトっていつ?」
「次だと明日。朝からいると思う」
「予約しよ」
スマホを取り出してお店の予約フォームから名前と利用時間、目的を入れる鉄朗は本当に気に入ってくれたらしい。
後日、朝から来店した彼と私が話しているのを見たおばさんが鉄朗の顔を覚え、鉄朗が今やってる居酒屋のバイトがキツいとこぼしたら「ここで働く?」なんて勧誘していた。初対面でも難なく話せるところとか、そこから滲み出る性格の良さで声をかけたのだと。鉄朗も乗り気なようで、何やかんやで面接をすることに決まっていた。
「………行動力よ」
「ははは」
同じ制服に身を包んで本の整理をしながら小声で話していた。今は私の好きなヒーロー映画が流れていて、世界的にも人気の作品だからそちらに視線を向けている人が多い。及川とのクリスマスデートを思い出すな。
来店時にQRコードと席番号が書かれてあるカードを渡して、それで各自注文するスタイルだから帰り際にまとめての支払いになる。私たちはアルバイトなので厨房にはほとんど入らず、レジの呼び出しがなければディスクや本の整理になる。
ただ、気になった本があれば誘惑に負けて開きそうになってしまうのが難点だ。
そう思いつつ手を動かしていると、来店があった。
「いらっしゃいま、せ……?」
「櫻井さん……?」
そこにいたのは私服姿の赤葦君で、突っ立ったままぽかんと口を開けていた。
「あっれ、赤葦じゃん」
「黒尾さんまで………」
手順通り店内の説明をしようとすると、初めてではないとのこと。説明を省略して注文を取ると、そのまま小声で話す。
「………何だか、見慣れませんね」
制服だからなのか、今までジャージしか見てこなかったからなのか。バレーで繋がったからこそこういったオフの姿を見るのは目新しく感じる。
「まぁいいじゃん。普通に友人だし」
「、だね」
鉄朗がそう言ったのに少し面食らいつつ返答する。
お互いに他校のマネージャーと選手として練習も一緒にしてきたし会場で会えば話す。そんな機会がなくなったって、関係は切れるわけではないのだ。
選手に戻った私と選手ではなくなった二人だけど一度バレーで繋がったからこそ友人と呼べる良好な関係でいたいと思う。
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