夏、岩泉から暇な時にでも会いたいと連絡があった。
元々お互いに用がなければ連絡も取らない性格の為、彼からそう言ってきたことは本当に珍しく私は二つ返事で承諾した。
岩泉は私が通っている学校とは違うけれど同じスポーツ学科で、授業の事で時々テスト前なんかに連絡を取ることはあった。
何の用だろうかと思っていると、今年の夏にアメリカに行くのでその辺の必需品を揃えたり向こうの話を聞きたいのだと。旅行については私の方が詳しいと徹に聞いたので連絡をしたと言った。
買い物がメインになるのならと、都内で物が揃う施設を調べて同部屋でくつろいでいる梓さんに声をかけた。
「何?どっか行くの?」
「はい。今度のオフに少し」
当日。待ち合わせ場所に行くと、以前会った時と然程変わりない岩泉がいた。
「久しぶり」
「おう。とりあえずどっか入ろうぜ」
梅雨入りしたばかりで雨が降っているので、室内で話したいと言われるけれど私はそれを断った。
「岩泉は今日電車だよね?」
「?おう」
「私、車近くに止めてあるから行こ」
「………は?」
買う物も纏めているし、向こうでの注意事項なんかも書いてきた。梓さんに「絶対に事故るな。帰りにプリン買ってきて」という条件のもとで車をお借りしたのだ。
「お前、いつ免許取ったんだよ」
「今年の春」
そう話しながら運転をする。フロントガラスには雨粒がつたっており、確かに買い物日和ではない。
「あ、買うものリストまとめておいたから見て」
はい。とメモを手渡すと、岩泉はそれに目を通しはじめた。聞く限り留学とかではなく、大学を卒業した後弟子入りしたい人に会いに行くのだと。
「数日の滞在ならそこまで沢山いらないと思うよ。何泊するかで変わるのは金額と洋服と……それくらい?」
「いや、そこまで長くは居ない。観光ってわけでもねぇし」
「へぇ。ちなみに、その弟子入りしたい人って誰?」
「ああ、空井崇っていう………ほら、前に参考書籍で進めた事あったろ。お前ももう読んでたが」
「……………空井さん?」
「?ああ」
「………マジか」
「ああ??」
いや、何でもないよ。と言いながら運転に集中する。いつか知ることになるなら、今言わなくてもいいや。
「まぁ、空井さんいい人だし大丈夫だよ」
「何だよ知り合いかよ!」
車を走らせること数十分。大型のショッピングモールに到着した私たちは、メモを見ながら店内を物色した。
「そういやお前は?最近どうだ」
「普通」
「普通て」
「去年の大学選手権大会で負けたから」
「ああ………でも春季はあったろ」
「そこも私は応援だったし。次の秋季大会では絶対出たいから、夏に何としてでもユニフォーム貰うよ」
「ふうん?」
岩泉はどこか含みのある声で相槌を打って続ける。
「お前は中学のイメージ強いからあれだけど、絶対って決めたことは何が何でも貫き通すからな。まぁ、楽しみにしてる」
バレーボールのシーズンは基本秋から春にかけてなので、夏は練習になる。でも、そこをいかに実りのあるものにするかで個人の力のつき方は変わるのだ。
「……若利が日本代表に一番乗りだったじゃん。同年代では」
「?おう」
「負けてらんない。徹もあっちで頑張ってるしね」
彼らと並びたいわけじゃない。ただ、いつだって勝ちたいと思い続けているのだ。必ず追いついてやる。
「お前も相変わらずだな」
そう笑った岩泉から、アメリカに行った先で若利と会ったとツーショットを送られてきた時は笑ったし、それから数日後に私はユニフォームをもらった。
ようやく選手として正式に復帰できたようだと何となく思えて、嬉しかった。
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