「飛雄くんの学校ってマネージャー三人おるってほんま?」
練習も終わり食堂で飯を食っている時、そう言って宮さんが話しかけてきた。俺は口を動かしながらもどうしてそんなことを、などと考えることもなく「そうっす」と返答した。
「三人て!羨ましい限りやわ〜俺らんとこは人数多いから部員で雑用も回すで。臣くんトコもそうやっけ?」
「………」
「そっすよー!」
佐久早さんは視線を向けただけで何も答えなかったけれど、佐久早さんの隣にいた古森さんが元気に返事をした。
「俺も中学の時はそうでしたよ」
「やっぱ女子マネージャーってロマンあるやん?
どうせならスポドリも籠から自分で取れやなくて手渡しで受け取りたいやん?女子から」
「キモッ…………」
「臣くん聞こえとるで」
休憩に入った時の話か。
清水先輩はお疲れと言ってサッと全員に渡して回るけれど、谷地さんはタオルも一緒に渡すことが多い。んでもって、櫻井さんは………
「まぁ、改善点とかアドバイスとか休憩中に話してもらえるのはありがたいっすね」
「なに?え、アドバイス??飛雄くんのマネージャーそんなことまでするん?」
「はい、一人は」
あの人は凄い選手だったし、これから先も活躍することは目に見えている。観察眼も鋭いし、教え方もうまいと思う。ただ、それは櫻井さんが得意なことであって谷地さんや清水先輩に同じことができるとは思えないし、してほしいともあんまり思わないが。
他校のマネージャーはそんな事をする人っていないんだろうと思っていると、正面に座っていた千鹿谷が思い浮かんだようにその名前を口にした。
「あ、櫻井さん?」
「ああ」
「夏合宿の時見たけど、何つーか………あの人すげぇよな。
木兎さんたちと毎日やり合ってたし」
「らしいな」
俺はその頃止まるトスの練習をしていたからその様子を全然見ていなかったが、毎日第三体育館でゲームを繰り返していたらしい。
で、何の話だっけ。なんて思いながら水を飲もうとすると、頭上から「オイ、」と声が降ってきた。
「今、櫻井さんって………櫻井律さんか?北川第一の……」
「、そうっすけど」
櫻井さんの口から佐久早さんのことは聞いたことがなかったけれど、知り合いだったのか。
そう思いながら佐久早さんを見ていると、宮さんが不思議そうに、意外そうに佐久早さんに話しかけた。
「なに?臣くんはその人のこと知っとんの?
てか、木兎って梟谷のやんな。何者なん?」
「………スパイカーで、絶対的なエースだった人」
「ほおん?」
「サーブはお前より確実にうまい」
「ああ???何やて?」
「あ〜…聖臣、櫻井さんのことめちゃくちゃ尊敬してるから」
「臣くんが!?!?」
「ウッザ………」
「ええ、ますます気になるんやけど」
宮さんはスマホを取り出して名前を検索しはじめた。
「感じどう書くん?」
「ええと、」
「教えんなよ………」
「ええやん名前くらい。減るもんやないしなぁ」
「減る。確実に何かが減る………
というか、大会で見なくなったと思えばマネージャーやってたんだな。やっぱあの時の怪我か?」
「はい。でも、完治して夏から選手に復帰しましたよ。
大学から戻るって」
「ふうん………なら、いい」
『影山君、今暇?トス上げてくれない?』
俺が知っている櫻井さんは二つ上の学年にいる一番身近な凄いスパイカーで、中学からの頼れる先輩だ。怪我でバレーを辞めた時はショックとか驚きとかはなかったけれど、高校で再開してマネージャーとして接している時は「この人がいてくれて良かった」と思っている。
ただ、及川さんや牛島さんはきっと俺が思う以上に櫻井さんのことを知っていて、俺以上に強く「良かった」と思っているんだろう。そして多分、佐久早さんも。
合宿中に佐久早さんの口から櫻井さんの名前が出たのはこの時だけだったけれど、この人と櫻井さんって何となく似ていると感じてしまった。
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