突然景色が切り替わったと気づき、思考が止まった。
 部活終わりの学校帰り、いつもの様に坂ノ下商店に寄って肉まんを奢り、それを食べながら話をしてそれぞれの帰路につく。そこは夕暮れともあり暗かったはずなのに、気がつくとあたり一面真っ白の部屋。そして、よく見知った奴らの顔があった。
「あれ、澤村?何でここに……」
「黒尾こそ。俺らは部活帰りだったんだが……」
「え、俺もなんだけど」
「何このメンツ。え、何で及川がいんの?」
「それ、俺が聞きたいんだけど?」
 それぞれ部活帰りだったらしく、黒尾と及川も幼馴染と帰っていたところだと話した。
 五人の共通点といえば、全員男。そして同学年で、バレーをしている。俺と黒尾と及川はバレー部の主将という共通点もあるが、それだとスガと旭が何故いるのかがわからない。
「でもほら。ドアはあるみたいだし、そこでれば良いんじゃないか?」
 旭が指差したのは俺の背後で、ああ、なんだよと思った。
 でもそのドアが開くことはなく張り紙がしてある。紙面には、この中の二人が出てきて十秒後に、元の場所に帰れるとのこと。そしてその最後にこう書かれてあった。

 『〇〇しないと出られない部屋に閉じ込めました。
  ⇨櫻井律・清水潔子』

 ………〇〇しないと出られない部屋。
「これって、あの、アレ……だよな」
「だよな」
 その瞬間、きっとこの5人の思考は完全に一致した。

(((((セックスしないと出られない部屋だ………!)))))

「エッ!?何で清水さんなの!?普通俺じゃない!?」
「いや、ここは俺だろ…!」
「は!?なんなの君!」
 途端に騒ぎ出した二人をおうおうやりおると達観して眺める。隣でスガが「あいつらさっきまで初対面だからって全然絡もうとしてなかったのになぁ」と呟いた。本当にな。そして旭は考えることを放棄したのか、逆にどこまで考えたのかは知らないが、灰になっている。
「と、とととりあえず落ち着こう?落ち着こう………」
「大地も落ち着こ?」
 促されて大きく深呼吸を繰り返す。いや、落ち着けるか!!
 数分そうしていると、ようやくスガは状況を飲み込むことができたのか、真顔になった。
「取り敢えず、中に二人が居るのか確かめてみるか」
「そうだな!」
 張り紙がしてあるドアに近づいてノックを数回する。
「清水ー!律ー!いるかー??」
 中からは大して物音はしないが、声が聞こえた。
『澤村?』
「あ、清水の声だ」
 旭も気づいたみたいで、でもその声はそこまで大きくもなくこのドア一枚とはいえかなり厚いのだと思う。
「そっち、どうなってる?大丈夫か?」
『大丈夫。なんか……色々あるし………
 取り敢えず今から寝るから、三時間くらい待ってて』
「ん゙ッ!?」

 今、なんて言った?
 寝るから、三時間待ってて??

 スガに視線を向けると、俺に絶対話を振るなという視線をもらった。いや、俺も何話せばいいのかわかんねぇよ……!
 微妙な空気になった中、ふう…と息を吐いたのは及川だった。
「……どっちが、上なんだろ」
「ブッフォ!」
 その呟きに吹き出したのは旭で、すぐさまフォローに入った。
「やめろ及川!それ以上この話題を出すな!!
 旭が死んでしまう!」
「だって!こんな話今しかできないじゃん!!
 むしろいつするの!?」
「そうだそうだ〜!個人的には律が上だと嬉しいです!」
「黒尾も乗るな!」
 西谷と田中が居なかっただけマシかと思ったが、そうでもなかった。
「てか!さっきから君はなんなの!?」
「俺?音駒高校バレーボール部主将の黒尾鉄朗デス」
「自己紹介ドーモ!じゃなくて、律ちゃんとの関係は!?」
「あ?律との?それは………」
 黒尾はそこから言葉を続けることなく、少し間を開けてからフッと意味深に笑った。
「ほんと何なの!?!?」
「お前こそ。律とどういう関係なんだよ」
「青城バレー部主将の及川徹、セッターです!
 律ちゃんとは中学の時からー……っ」
 と、及川もそこで言葉を切った。そこで俺は気づく。
 コイツら、自分の恋のライバルなんじゃないか?と考え出して面倒くさい心理戦を始めやがった。
「はあん。お前が、オイカワ君ねぇ……」
「な、なんだよ」
 黒尾の目が若干怪しく光った気がした。
 でも、そこでふと考える。コイツらがここで何を争ったって、実際清水と律が閉じ込められているのだから、つまり……うん。そういうことだ。
「はは、カオスだな」
「笑い事なのか?これ……」
「旭の言う通りだぞ、スガ」
「いやぁ、だって櫻井と清水だぞ?
 アイツら仲良いし、ぶっちゃけ……そう言う関係になったとしても驚かねぇわ」
 まぁ、そうなんだよなぁ。
 美人で男子人気のある清水と、その親友の律。律はその男子にも勝る長身と何事にも動じない芯の強さがあって、女子にも人気があると谷地さんが言っていたし。
 うん、そう考えると……
「アリだな」
「はあああ!?澤村、お前何言ってんの?」
「めっちゃキレるやん黒尾」
「でも、実際閉じ込められてるのはアイツらな訳だし、何もしようがないだろ」
 そう言うと、及川と黒尾ははあ……とため息を吐いた。
「クッソ……俺たちが何したって言うんだ」
「長年の想いは何処に…?」
「まぁ、好きな人が隣の部屋で自分以外の子、しかも同性とって考えると気が気じゃないわな」
「べっっつに!?好きな人って言ってねぇし?
 俺は律のこと友達としてだな……!」
「あ、そうなんだ。安心した。俺律ちゃんの事好きだからサ」
 おおっと、戦いは終わっていなかった。でもここで黒尾が見栄を張ったせいで及川が若干有利に!
 『君の想いはその程度なんだね。ふ〜ん。ま、俺は本気ですケド?』なんて顔で黒尾を見ている。悔しがる黒尾は必死に思考を回す!そして口を開いた。
「ん?待てよ。ってことはオイカワ君て童貞?」
 ああ〜〜〜!!!!及川に特大ダメージが!
 及川は膝から崩れ落ちたどこぞのボクサーのように真っ白になっていた。
「及川ってモテそうなのにな」
「でも、それだけ一途ってことだろ?な??」
「あっ……東峰君ありがとう…」
「あ、じゃあ童貞なんだな。ふうん」
 うっわ。うっっわ。そう言う黒尾はどうなんだよ。そう言わずにはいられないけれど、正直巻き込まれたくないから何も話したくない。
「ずっと……好きだったんだよ!
 だから、初めては律ちゃんがいいな、とか。律ちゃんもそうだったらいいな、とか!ついでに言うと律ちゃんの処女も童貞も俺が貰いたかった!」
 うっっっっわ。突っ込みどころ満載すぎて何も言えん。
 これであと数時間過ごすのか、と考えると嫌になってきた。

    *    *    *
    
 三時間、同じ布団で寝ないと出られない部屋。

 部屋に備え付けられたドアに貼られていた紙には、そう書かれてあった。
 突然パッと景色が変わったかと思えば落ち着きのあるホテルみたいな内装の部屋で、すぐ近くに学校で別れたはずの潔子が居た。
「なんか、合宿みたい」
「ユースの?」
「うん。なんとなく、部屋の内装が。まぁ、こんな大きいダブルベッドではなかったけれど」
 早く戻るためにも寝ようか、と動き出す。
 部活終わりでジャージで良かった、とも思ったけど潔子だし今更そこまで考えずともいいか。私は寝つきが良い方なので、部活終わりの疲れている今、横になれば速攻寝れる。どうやら潔子も同じみたいで、起きてからお風呂入ろうか、と話し顔だけ洗いに洗面台に向かった。
「うっわ、凄い」
「どうかした?」
「ガラス張りのドアだ」
 こんなのほんとにあるんだ。と思いながらスキンケア用品を手に取る。
「なんか、至れり尽せりって感じだよね」
「わかる。せっかくだし使っちゃおうか」
「だね。ベッドサイドにスチーマーとかもあったよ」
「何その美容に対しての力の入れよう」
 ケラケラ笑いながらも、普段使っているスキンケア用品より質の良いものを肌に乗せる。
 え、これ凄い良い……なんてメーカーを覚える程には余裕が生まれていた。
「律、起きたら入浴剤何か入れる?」
「そんな種類あるの?凄い。
 私はなんでも良いよ。潔子の好きなやつ入れな」
 スキンケアを終わらせて、ベッドルームに戻った。それからスチーマーを使ってみたりマッサージをしてみたりと普段ここまで美容に関して興味もないけれど、折角だしと手に取ってみる。足のマッサージ器具を巻いた潔子も、若干眠そうにしつつも楽しそうで、やっぱり女子はこういうの好きだよねと思った。
「潔子、肩揉んであげようか?」
「いいの?お願いします」
 いつもの教室のように雑談をしながら部屋について話していると、すぐに眠くなってきた。
 部屋の時計が三時間のタイマーになっているみたいで、それが鳴ったら部屋の鍵が貰えるみたいだ。私が先に寝てると潔子が寝た瞬間からスタート、と言う感じか。
 先寝てるね、と声をかけてベッドに横になるとすぐに私は寝落ちた。
 
 
 規則的なタイマーの音に目が覚めると、すぐ隣に潔子が居た。
 寝顔、めっっっちゃ美人だな。睫毛長い。と、覚醒し切っていない頭でボーッと潔子の寝顔を見る。
「おはよ」
「………はよ」
「…律って寝起き悪い?」
「まぁ…それなりに。でも目ぇ覚めた」
「そう?」
 起きると目の前に超絶美人な顔があれば、それはもう瞬時に目が覚めるのだと初めて知った。
 動き出した潔子に続いて、私ものそのそベッドから降りると、タイマーの下に部屋の鍵が置いてあることに気づいた。
 薔薇の香りのお風呂に潔子と交代で浸かって、スキンケアを行うと普段より良い顔色、良い肌質になったみたいでスチーマー使った?使った。ヤバイね。と話した。
 それからドアを開けて外に出ると、見慣れた顔が並んでいた。
「あれ、及川も…?」
「律ちゃん!!」
 すぐ様駆け寄ってきた五人にどうだった!?と聞かれ、私は潔子と視線を合わせる。
「どうって……気持ちよかったよ?」
「ん゙ん゙!!!」
 なんで奇声を上げて悶えているんだと思いながら潔子を見る。
「凄かったね」
「うん、色々。
 ベッド大きかったし、あと浴室がガラス張りとか」
「エッ!?」
「アメニティとか道具とか充実してたし、使いやすかった」
「律もうまかったよ」
「そう?じゃあ今度時間があればお泊まり会とかする?」
「いいの?じゃあ予定合わせようか」
「いや、待て待て待て…!」
 
 どことなくいつもより顔色が良さそうで、部活終わりとは思えないほどピンピンしている二人を見て「やっぱり……!」という思考になる思春期真っ盛りの男子高校生五人。の、ことはいざ知らず、私は潔子とこう言う機会滅多にないからと次の予定を組んでいた。
 そうしている間に、気づけば元の場所に立っていた。さっきのは何だったんだろうと考えながら、スキンケア用品を調べて家についてからそれを次から使うことに決めた。



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