着ることのない男物のシャツに腕を通す。シャツの肌触りやボタンは女子のものと違い若干硬く、そして鉄朗の匂いがした。それを感じて、少しだけ照れ臭くなる。
「音駒ってブレザーなんだね」
「まあな。烏野は?」
「男子は黒の学ランだよ」
「へぇ、いいな」
白いカーテン越しに時折話しながら音駒高校の制服を着る。
他校の制服って、側から見たら凄くカッコよく見えるんだよね、なんて思いながらスラックスに足を入れた。
彼は体格いいから裾も袖も勿論ぶかぶかで、少しだけ折り曲げる。ウエストもゆるいし、ベルトの穴も端っこだ。
ジャケットも大きいけど、そこまで気になるわけでもなく、強いて言うならピッタリで不思議に思った。
「………ああ、胸か」
「え、何て?」
「何でもない」
ネクタイを弄りながら鏡に映った自分の姿を確認する。
男子の、しかも他校の制服。少しだけテンションが上がる。
「着替え終わったよ」
「ん、俺もだけど………先に謝っとく」
「うん。察してるから出ようか」
カーテンをシャッと音を立てて開けると、私が普段着ている制服……烏野の女子制服を着た鉄朗。
「………ふっ」
「今吹いたろ」
「ごめん、ふふ……ちょっと、無理」
胸元はパッツパツで、リボンはちゃんと結んであるのにシャツのボタンが止まっていない。そして、スカートから覗く筋肉がついたたくましい生足とか。
帰るためには真面目だ。笑ってはいけない。でも、笑わずにはいられない。
そうしていると鍵が開く音がして外に出た。
「ブッッ!!!!」
「ちょ、黒尾さっ!」
「あはははっははは!!!!」
「ヒィ、ちょ、待って……!」
「ストップ!一旦もどれ黒尾!!」
「わははははは!ははっは、ゲホッ、ちょ、ま、咽っっ!」
そこに待ち構えていたのは音駒の面々で、みんな肩を震わせて隠すことなく笑っている。
夜久君と灰羽君、山本君はもう大爆笑だった。
海君と孤爪君も中々笑うことはないだろうに口元を押さえて震えている。
「ぶち殺すぞお前ら」
鉄朗はそんなチームメイトを見て青筋を浮かべている。
「ふふ、ちょ……クロ、ヤバイよ」
「研磨ァ」
「あっ待って。近寄らないで……ふっ!」
「おいおい黒尾あんまり動くなよ!ボタン飛ぶぞ!」
「やっくんも着てみるか?おう??」
「夜久さん、櫻井さんより身長低いからそれはそれでブカブカになるんじゃないっすか?」
「リエーフ!!!!!」
夜久君は自身の身長を気にしているのか、灰羽君に飛びかかっていた。
「は〜………笑った笑った。にしても、櫻井さん似合うなぁ」
「そう?」
「はい!良いと思いますよ!」
海君と犬岡君に褒められて今一度制服を着ている自身を見る。全身鏡がないからイマイチわからないけれど。
「律ってコスプレとか好きなん?」
「コスプレっていうか、制服が好きかな。楽だし。
なんか、音駒の生徒になったみたいで少しドキドキするね」
「っ………」
照れくさいけど、少し楽しくて緩む表情をそのままに言えば、鉄朗は真顔になった。………え、怖。
「研磨さん、あの黒尾さんはどういう表情なんですか?」
「アレは『好きな子が彼シャツした上でドキドキするなんて言われて悶えてるのを必死に隠そうとしてる顔』」
「自身の姿見ろよ黒尾」
てんめぇ!と夜久君に飛びかかった鉄朗の胸元の第三ボタンが飛んだのは、言うまでもない。
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