中一の頃から距離が縮まっていた場合の岩泉夢です。



 俺がアイツを初めて見たのは、心地良い日差しの中で校庭の桜が咲き乱れる春。中学の入学初日に自己紹介をしている最中だった。
 とりわけ美人という訳ではないが、それなりに整った顔立ちと綺麗に短く切り揃えられた濡羽の様な黒髪。何かスポーツをしているのか、スラッとした体躯は女子どころかその辺の男子よりも身長が高いのではないかと思うほどで。
 
 今までの人生で女子に興味を持つことなんて殆どなかった。クソみてぇにモテる幼馴染の及川絡みで話しかけられることはあれど、会話という会話は殆ど学校行事や雑務に関するもので人の容姿についてとやかく思う事も無かった。だからここまで目を引き付けたやつというのは初めてだったのかもしれない。

「櫻井律です。
 小学二年生の頃からバレーボールをしているので、部活動はバレー部に入部する予定です。よろしくお願いします」

 頭を軽く下げて席に着くアイツ──櫻井がバレーの経験者だと聞くと、だからあの身長かと納得した。俺はここ最近急激に身長が伸び始めた及川と違ってまだまだ伸び悩んでいるので、純粋に羨ましくはある。まぁ、俺もまだ伸びるけどな。
 それにしても、表情が全く変わらない。次々とクラスメイトが自己紹介をしていく中、櫻井は無表情に拍手をしているだけだった。

 第一印象は、独特な雰囲気の身長が高い女子。同じバレー部でも、女子と男子では練習も違うのだから話す機会なんて無いだろうと思っていた。

 櫻井がバレーをしている姿を見るまでは。


 体育の授業は二クラス合同で行うらしく、グラウンドで野球をするか体育館でバレーをするか選択性との事。俺は一も二もなくバレーを選び、列へと並んだ。男女混合で四チーム作り、一セット先取でローテーションしていくとの事。
 隣のクラスの男子バレー部員と若干本気になりながら試合を楽しんでいると、体育館の床を強く叩く音がした。
「もう!律ってば本気出さないでよ!」
「華がセッターだから、本気でしなきゃ勝てないじゃない」
「それでもだよ!
 授業なんだし、女バレの次期エースのスパイクなんて初心者がひろえるわけないでしょ!」
「……それもそうか。善処する」
「それはしない時の常套句!!」
 隣のクラスの女子とネットを挟んで話している櫻井は教室で見たこともないような顔で、イキイキとしていた。
 さっきの音は櫻井のスパイクの音だったらしく、周りからも「櫻井さん凄い」との声が上がる。
 『次期エースのスパイク』と聞いて、見ていなかったことを少しだけ後悔した。そんな時、相対していた男子がネット越しに話しかけてきた。
「山下と櫻井さんて同じ小学校出身だろ?
 ずっとコンビ組んでたんかな」
「山下?」
「岩泉と同じクラスの櫻井さんと話してる女子だよ。
 山下華。女子バレー部のセッターなんだと」
「セッター…」
 次期エースとセッター。同じ小学校出身。
 まるで自分たちのようだと及川の姿を山下に重ねた。
「けど、櫻井さんと山下って仲良かったんだな〜
 山下は誰とでも仲良いイメージあるけど、櫻井さんてこう…孤高ってオーラあんじゃん?」
「確かに、近寄りがたいとこあるよな、櫻井さん」
「美人は近寄り難い」
「ああ、何となくわかる。モデル体型だよな」
 その会話を聞いて、俺は入学初日無表情で淡々と拍手をしていた櫻井が頭を過ぎった。
 大して特別仲の良い友人などもおらず、給食を食べた後は本を読んでいるようなおとなしい女子。体力テストや持久走などで運動神経の良さはある程度知っていたが、俺はあの無表情が頭に焼き付いてしまっておりバレーをしている櫻井というのをうまく想像することができなかった。
 そう思っていたのに。

「私が打つ。」

 凛々しい声に意識を引き戻されそちらを向くと、高く上がったボールを捉え、綺麗なフォームで打つ櫻井が目に入った。
 バレーを初めて数年。今まで何十回、何百回と色んな選手のスパイクを打つ姿を見てきたが、ここまで引き込まれることはなかったと思う。
 その姿が圧倒的で、綺麗で、凛々しくて。
「………カッケェ」
 俺もああなりたいと純粋に思えた。
 その日から、櫻井律は俺にとって一番身近な憧れになった。

    *    *    *

「櫻井!」
 授業が終わり、シューズを持って更衣室に戻ろうとしていたところ名前を呼ばれた。何か用があるのかと後ろを振り返ると、思いのほか近くにいたのは同じクラスの岩泉一だった。
「……岩泉?」
 彼と接点なんてなかったはずなのだけど、どうしたのだろう。そう思って続く言葉を待っていたのだが、岩泉は唸るばかりで言葉らしい言葉を何も話さない。本当にどうしたのだろう。
「………さっきの!」
「は?」
「さっきの授業ん時のスパイク、スッゲーかっこよかった」
「え、ああ、ありがとう?」
「俺、男子バレー部なんだよ。櫻井はウィングスパイカー?」
「そうだよ」
「へぇ、俺も」
 それから、と言葉を続けた岩泉に私は少し笑って返事をした。
 突然話しかけていたかと思えばバレーの話ばかりで、岩泉はバレーが好きなんだなと純粋に思った。
 私と違う。バレーが好きで、楽しくて仕方ないって顔。それがとても眩しくて、何となく『いいなぁ』と思った。

    *    *    *

 あの日から櫻井を見かけては積極的に声を掛けるようになった俺は、少しだけ調子に乗っていたのかもしれない。
 特定の仲が良い友人がおらず、人間関係が希薄な櫻井の友人になれたのだと。それは自分の思い込みだったのだと、二年に進級してすぐの春に知ることになる。
「岩ちゃーん。俺、残って練習するから先帰ってて」
「は?俺も行く」
「あちゃー、やっぱり?」
 及川が部活の後も少し学校に残って練習をすると言うので、コイツがそうするなら俺もと乗ったら微妙な反応を返された。
 いつもはウゼェくらい絡んで来るのにそれが意外で。でも、それとは別の違和感が少し俺の胸を曇らせた。
「……んだよ。何かやましい事でもあんのか?」
「いや、違うけどさぁ………まあいっか。行こ」
 荷物を持って及川に連れられるがまま体育館に行くと、そこには一人コートに佇む櫻井がいた。
「本当に来た………」
「櫻井さんは俺のことなんだと思ってたの」
「気分が向いたから声を掛けた、一度限りの練習相手とか?」
「これからは毎日来るからね。櫻井さんは毎日いるんでしょ」
 テンポよく会話をする及川と櫻井になんとも言えない感情が心に広がっていく。
 いつの間に仲良くなっていたのか。接点なんてなかったはずなのに。どうして。グルグルと考えていると、櫻井は軽く及川をあしらって俺に視線を向けた。
「それより、岩泉も連れてきたの?」
「うん。いつも一緒に帰ってるから残るって声かけたら付いてきちゃった。ダメだった?」
「いや、セッターが及川だけだし練習どうしよっかなって。
 岩泉と練習してみたかったから嬉しいよ」
「岩ちゃんから櫻井さんの話とか聞いたことないんだけど!」
「へぇ。私は勝手に友人だと思ってるけど」
「そうなの?岩ちゃんにしては珍しい……って、どうかした?岩ちゃん」
 そうだ。いくら櫻井の対人関係が希薄に見えても俺は友人という枠組みの中の一人というだけ。
 櫻井に仲のいい男子、例えば及川とかが出来たとしても俺は。

「………憧れてるだけじゃだめか」

「え?何て?」
「何でもねぇよ……で?練習するんだろ」
「うん、とはいえ三人だしどうしよっか」
「じゃあサーブ教えて!昨日も思ってたけど、櫻井さんサーブ上手いし。ジャンプサーブって中々思ったとこに行かないんだよね」
「判った。岩泉もそれでいい?」
「おう」
 コートに戻る櫻井の背中を見送って、荷物を体育館の入り口付近に放る。
「櫻井さん、噂通り凄いバレーうまいね」
「知ってる。………お前よりもな」
 不思議そうな顔をする及川を一瞥して羽織っていたジャージを脱いだ。
「なんか、岩ちゃんがそんな顔するの珍しい………は、まさか俺の幼馴染にも遂に春が!?」
「………かもな」
「え」
 いつものウゼェハイテンションの及川を軽くあしらいながらサーブを打つ櫻井を見る。
 
 『今一番憧れてる選手は?』と聞かれたらどんな有名な選手よりも真っ先に櫻井の名前が出てくるほどに苛烈で、アイツは俺の中に残っている。
 多分初めて見た時から気になっていたんだろうが、それでもバレーをしている櫻井は特別だった。

「茶々入れんじゃねえぞ」
「入れないよ!?」




 普段は大人しい櫻井さん

 特定の仲がいい男子がいなかったから新鮮で楽しい。
 まだ惚れてはないけど、徐々に意識するようになってほしい。
 
 本編通り、及川を含め三人で練習してるところを見られて嫌な噂が立つけど、岩泉と付き合ってるからいじめ的なことは皆無。
 及川ガチ勢も岩泉は及川にとって特別だと認識してるだろうし、校内で岩泉と一緒に行動するところよく見るので放置。
 これ、続いたら律は新山女子に推薦で行くと思う。


 三年間同じクラスの岩泉

 女子の扱い方がよくわかってない。でも、男前度がカンストしてるからそれなりの雰囲気になったら自分から告ってる。
 修学旅行とかも絶対班同じになってるし、多分その頃には二人が付き合ってるって噂が流れたりする。流れてなくてもお似合いだとは思われそう。



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