夏に黒尾の告白を保留にしていたら、という夢です。



『……ああ、私。及川の事、好きだったんだ』

 口からこぼれ落ちたのは、とても冷え切った熱い想いだった。それは宙に溶けて胸にジンッと染み込んだ。
『櫻井、お前…』
『本当にいつもいつも……。っ私は、気づくのが遅いなぁ』
『………』
『うかいさんの、言う通りだ………』
 及川と女の子のキスシーンを見た私は、逃げるようにその場から離れた。
 決して、泣いたわけじゃない。それでも、今までずっと自分には何もできないと。頑張らないといけないと、アンテナを色んなところに張っていたはずなのに。
 本当に、ポンコツだ。私は。
 感情を捨ててから、信用を失ってから、怪我をしてからって。いつも遅い。
『……お前は、凄いやつだよ』
『、……岩泉?』
『何で、こうもうまくいかないんだろうな……お前らは』
『本当にね。でも………いいや』
『あん?』
 私にとって及川がそうであっても、彼にとって私はそうじゃないのなら。
『私は及川に迷惑かけてばっかりだし、これからもいい友人でいられるのなら……いい。
 及川徹が幸せなら、それでいい』

 蓋をしてしまえ。隠してしまえ。
 息を殺して、嵐が過ぎて行くのをジッと待つように。

「…………」
 きっと、私は初めて及川と話したあの日から、彼の事を特別だと思っていたのだろう。それこそ、華が言っていた通りに。だけど、及川にとって特別な女の子は私じゃない。
 強くなるためにお互いがお互いを利用していただけで、決してそこに恋愛なんて感情は入ってはいけないのだ。それをいつの間にか破ってしまっていたのは私。
 だから、もう変に期待させるようなことをしないでくれ。

「律ちゃんは、誰とでもこういう事できるの」

 烏養さんの家から帰る途中、公園でバッタリ及川と出会った。
 あの光景を目にした後だから気まずい気持ちも多少あったが、それでもバレーの話を振られると難なく話せるからそれが私を落ち着かせていたのに。
 頬に手を添えて、爪先が触れ合うほど近い距離で、こんな。まるで、
「────っ、何するの」
「………」
「貴方には、大切な女の子がいるんでしょう」
「そ、れは……」
「だったら、その子の事を考えて」
 頬に伸ばされた手を叩いて、いつも通りの顔で及川を見ると、彼は悲しそうに表情を歪めた。なにそれ。そんな顔しないでよ。まるで私が悪者になったような気分になる。
 変に期待させることをしないで。このまま、いい友人という関係で終わらせてほしいのに、もうそれすらできそうにないな。
「欲求不満なの?
 及川がそんな不誠実な人だとは思ってなかった」
「っ、俺は……!」
「誰とでもこういう事できるのって、及川がそうじゃない」
 私は、私にとってそういう相手は及川がいいと思っていた。及川にとっても私がそうだったらと思っていた。だけど、あの光景を見てしまったから。及川に躊躇いなく触れる女の子と、それを拒むことなく受け入れる及川を見たら。
「私を、私が知らない別の誰かに重ねないで……!」
 これ以上ここに居たら、もう戻れなくなりそうで。私は及川を置いて公園から逃げた。
 私にとって及川徹という男は最高のセッターで、友人。目的の為にお互いがお互いを利用し合うような、そんな関係でいいのだ。………そうでないと、駄目なのだ。


 そして一週間の夏合宿が始まった。
 元コーチとして選手のサポートをしたり、試合展開について繋心さんと話し合ってマネージャー業務をして。そして時にはペナルティを一緒にこなして、自主練習に付き合う。
 怪我の治療中もその後もブランクがあるから、夏の暑い熱気の中で動き回ることは大変ではあるけれど、中々こういう機会はないから有効活用させてもらおうとはりきっていた。
 
「ん、そろそろ終わりにしましょうか」
 時計を見た赤葦君がそう言えば、第三体育館で行われていた練習も終わりを迎えた。みんなで食堂に駆け込んで話しながら夕飯を食べると、それぞれ部屋に戻ろうとまた歩き出す。
 月島の手を引くようにまだまだ元気に歩く木兎と、それに付き添う赤葦君。灰羽君と日向はまたバレーの話をしているようで、私と黒尾は彼らの背中を見ながらジャンプサーブについて話していた。
 音駒は繋ぐことを徹底している反面、攻撃力が少しだけ弱い。確かに攻撃し続けることの方が拾い続けるよりキツくて苦しいかもしれないけれど、それでも決めるところはきっちり決めておかないと試合には勝てないのだ。
 サーブの強さはチームの強さに直結するので、黒尾にサーブのアドバイスを出し続けている。元々ゴールデンウィーク合宿の時に連絡先を交換して以来時々やりとりをするほど仲が良かったけれど、話す機会が前より増したと思う。
「あっついな」
「ん〜………そうね」
「……櫻井さ、何かあった?」
 突然どうしたのか、足を止めた黒尾は真っ直ぐに私を見て言った。何かあったって。あったと言えばあったけれど。
 木兎達が先行ってるぞと足を進めていくのに生返事をして、取り敢えず廊下の真ん中でっていうのもアレだしと窓際で話す。あたり一面真っ暗で、どれだけ練習に夢中になっていたのかがわかる。明日も朝が早いのだから、早く汗を流して寝ないといけないのだけど。
「私、どこか違ってた?」
「いや、何となく。
 いつもよりバレーに力入ってんなって思ってるけど………
 なんつーか……なんて言えば良いのかわかんねぇ」
「何それ」
 黒尾は少し考えるように宙を見て、静かに言った。
「サーブの時、何考えてる?」
「────」

『律ちゃん』

 ハッと頭に及川が浮かんで、それを振り払うかのように頭を横に振った。
「……試合の時とかは、どこに落とすか考えてるけど」
「じゃなくて、俺にサーブを教えてる時。なんとなく、心ここにあらずみたいな顔してたから気になって」
 黒尾にサーブを教えているふとした瞬間、及川にもこうして色々教えてたな、と考える事はあった。それを、見透かされていたなんて思ってもいなかったので驚く。
 やけに真剣な表女の彼を見て、バツが悪くなって視線を逸らした。
「……ご、めん」
「いや、別に謝って欲しいわけじゃ「他の男の事、考えてた」
 正直に言うと、黒尾は眉間に皺を寄せて短く「そうかよ」と言った。
 申し訳ないって思うよ。黒尾や木兎、赤葦君と練習する時間は烏野のみんなよりよっぽど少ない。だからこそ大切にしたいし、学びたいことも沢山ある。だけど、サーブは。
「サーブは……私が中学の頃そいつと一緒に練習してたから、少し思い出してたの。本当にそれだけ」
「中学の頃………そっか。ソイツ、今もバレーしてんの?」
「インハイ予選で戦って、負けた。セッターで、そこの主将してる」
「………それって、」
「前に電話した時言った、及川。喧嘩しちゃって………」
「仲良かったんだろ?」
 黒尾の言葉に、困ったように眉を下げて笑った。
 そうだと思っていた。いや………そう、思いたかったのかな。
 春に再開を喜んでいたのは、及川が罪悪感を感じていたからなのかもしれないとユース合宿で気づいてしまった。
 怪我でバレーを辞めて、華はそれをずっと気にかけていた。私が梓さんに言われて連絡を取らなければ、それこそ一生それを思い出しては罪悪感に苛まれていたのかもしれない。
 及川も華と同じ気持ちだったのかなと思った。
 だから、私に優しく接していたのにいつの間にか利用しあう関係を勘違いしていた。
「………アイツにとって一番大切な事はバレーで、若利をひたすら追いかけてるような一途な奴だった。どれだけ女子にモテても、そんな事は俺の目標に微塵も関係ないって答えるような。
 私はアイツとバレーで繋がって、きっと私以外の女の子の前ではこんな顔しないんだろうなっていうのを間近で見てきた。
 自惚れてたのかな。私が彼にとって一番近い異性だって」
「………」
「初めて会った時から、及川のことを特別だと思っていた。
 好きだった。
 ……そう気づいた時には、もう遅かったんだけどね」
 黒尾はただ何を言うでもなく私の話を聞いてくれる。話下手なのを知って私の言葉を待っていてくれる。電話した時もそう感じたけれど、黒尾の隣は心地がいい。
「他の女子とキスしてる姿見て、好きだったんだって気づいた。もう、笑っちゃうよね」
「………笑うなよ。

 そんな、寂しそうな顔で笑うな」

 口を開いたかと思えば眉間に皺を寄せて、怒気を含んだ声で黒尾は言った。何であなたがそんな顔してるの。
 でも、しょうがないじゃない。私はどうしても及川の隣には戻れない。………もう、二度と。
「…………俺は、お前にそんな顔絶対させない」
「……え、」
「東京と宮城だし、会う機会も無い。でも、何があってもお前を一番に考えてるし、絶対背中を押すって決めてる。
 言っただろ。次同じ失敗したら、その時は俺も一緒に堕ちてやるって。
 ………お前の中にまだ及川が残っているのかもしんないし、そんなことしてる場合じゃないって、それこそバレーが大切だからって言われるかもしれない。わかってるよ、ずっと追ってきたから。櫻井が隣にいてくれたらって、いつでも思ってる。

 ………俺はお前を初めて見た時から、お前のことが好きだ」

 呼吸が、止まるかと思った。
 
 だって、今までそんな素振り全然見せてこなかったから。
 仲がいいと、隣にいるのは居心地がいいと思った。それでも、そんな……
「黒尾、わたし……「いいんだ」
 真っ直ぐに私の目を見て、柔らかく微笑んだ彼はゆっくりと私の手に触れた。
 熱いな。まるで、アイスにでもなったみたい。溶けそうだ。
「櫻井の中にまだ及川が居てもいい。今は無理でも、待たせて欲しい。それで……いつか櫻井がその気になったら、その時は俺に落ちてくれ」
「………私は、黒尾のこと友達だとしか思ってなかった。
 それに、まだ完全に気持ちを捨てられたわけでもないし、貴方に他の誰かを重ねたりしたくない」
「それでも、待つよ。お前のことが好きだから。簡単に諦められない。………俺の片想い歴と執念深さ、舐めんなよ」
 そう笑った黒尾はとても眩しくて、私は顔に熱が集まるのを感じながらも「……ばか」と呟くことしかできなかった。


 その後は名前呼びを許して欲しいと言われ、断る理由もなく了承した。男子を名前で呼ぶ事は滅多にないけれど、別に呼ばれるのも呼ぶのも嫌ってわけではない。
 合宿中は毎日顔を合わせ練習をしていたが黒尾はそんな素振りを一切見せず、私にもなにも言わない。そんなところに彼の人の良さとか、気遣いを感じて安心していた。
「律。それ、代わりに運ぶ。重いだろ」
「重いから、選手には持たせらんない。鉄朗は自分の荷物とかゴミが残ってないかとか…」
「お前も選手だろ。それに、さっき白福に律の方手伝って来いって寄越されたんだよ」
 バーベキューの片付けをしていると声をかけられた。
 いいから、どこ運ぶ?と一番重かった荷物を引ったくられて、私は小さい袋を持ちながら駐車場と答えた。
 長かった合宿もなんだかんだ終わり、みんな良い方向に成長できたと思う。
「律」
「ん?」
「好き」
「な、」
「あはは、珍しい顔」
 突然言う奴があるか、と思いながら鉄朗に視線を向けると、とんでもない顔で私を見ているものだから立ち止まった。
「………その顔、やめてよ」
「え、何。俺の顔無理?」
「無理。………溶けそう」
「ハァーーー!?」
 愛おしさをドロドロに煮詰めたような甘い瞳で射抜かれて、平常心でいられる女なんていないと思う。
 全く、どいつもこいつも………そう思いながらまた一歩踏み出して駐車場に向かった。

    *    *    *

 荷物を車に積んで、体育館にゆっくりと戻る。
 溶けそうって、それどういう意味なんですかね、律さん。

 初めて見た時から積もりに積もった恋心は、三年の時を経て急激に成長している。
 困ったように眉を下げながらも真面目に話してしまうとか、真顔でいる時返事がおざなりなのは何かを深く考えているとか、バレーを教えるのが上手いとか。
 あの頃は知らなかった事を知って、その度にズブズブと深みに落ちていく感覚にクラクラしていた。
 告白した時は、今言わないと一生このまま動けないと思ったからサラッと言えた。全部本音だし、後悔もない。
 
 及川という顔も知らない男が律にとって一番だったと知っている。別に「忘れさせてやるよ」なんてありふれた言葉を吐けたかもしれないけれど、律はきっとそういうのを嫌っている。
 大切だからこそ隣にいて欲しいし、ちゃんと自分自身を見て欲しいと思っているはずだ。
 歩く度に揺れる薄い肩も、汗で頸に張り付いたミディアムの髪も、全てが愛おしい。サーブを教えてもらってる時も、休憩中ドリンクを渡される時も、誰かと話している時の横顔ですら、彼女の全部が。
「んっ、」
「っ!?」
 たまらないな、と思ったらそのまま横から覗き込むようにして彼女の唇を奪っていた。
 ハッとしてその場を飛び退くと、ポカンとしている律がいた。いや、下心があったわけでは………いや、ありまくりだけど、取り敢えず!
「わ、悪い!!!」
「…………っ、」
 律はそっと自身の唇に触れて、何も言わずに固まっていた。
 俺は「ああ、やっちまった」と思ってひたすら謝り、無言で律がクラウチングスタートを切るまで後悔に苛まれていた。

 俺って、とんでもなく我慢できない男だったのかもしれない。
 背中を冷や汗が伝ってゾッとする感覚に身を震わせた。
 ………完全に、やらかした。

    *    *    *

 春高の一次予選を突破した私達は、春高前の最後の合同合宿へと音駒高校に来ていた。二日間行われるそこで、まだ成長を続けようととことん貪欲に練習に取り組んでいる。
 
 そして私は、鉄朗と全く目を合わせることも会話をすることもなく合宿を終わろうとしていた。
 
「律〜……黒尾と何かあった?」
「……別に」
「変な間が空いたんですケド?」
 そう言う雪絵はケラケラ笑って、ビブスを洗濯機から取り出していた。私も隣で同じように作業をしつつグッと眉間に眉を寄せる。
「黒尾が、律と話したいんだけどって寂しそうにしてたよ。
 アイツ、図体でかいくせに可愛いこと言うね」
「困るよね」
「お、可愛いって思ってるんだ?」
「…………」
「あは。律は間違ってる時には喋るし、合ってるときには黙るって潔子ちゃんに聞いた」
 潔子め。あってるけど。
 
 合宿中、話しかけようとしてくる鉄朗を徹底的に避け続けたことに罪悪感を抱いた。でも、それは。鉄朗がキスなんてするからで。
 映画でよく見るし、何ならその先も知っている。知識として。自分もいつかそういうことをするのだろうかなんて思っていたけれど、想像以上に恥ずかしくて、熱くて。
 告白されるまではそういう目で見る事なんてなかった。でも、告白されてからは態度は変わらずとも視線で何となくわかる。だからさりげなく助けてくれたり話したりしていると、ふとした瞬間に「あ」と思うことがあった。一番困ったことは……
「ま、何でも良いけどさ。
 ひょっとしたら、会うの最後になるかもしれないんだから」
「………うん」
 このままじゃいけないとわかっている。でも、自分から動き出すには私の勇気はまだ足りないみたいだった。
 そのまま練習中も避け続けてしまい、罪悪感で押しつぶされそうになりながらも練習を終わってしまった。
 帰る準備をしていると、パシッと腕を掴まれて引かれる。
「あ、」
「来い」
「え、」
 そのまま周囲の視線を受けながらも体育館を連れ出されて、人気のないどこかも分からない場所に連れてこられた。ここは音駒だから、通っている鉄朗は理解しているのだろうけれど。
 立ち止まった彼は私の肩を掴んで、懇願するように頭を下げた。私より身長が高い鉄朗の頭が目線より下にあるのは新鮮で、謝罪そっちのけでぼうっとそれを見ていた。
「鉄ろ「ごめん」
 俯いた鉄朗の表情は見えずとも、赤く染まった耳だけは見えた。

 ああ、可愛いな。
 赤くなってる。私に、必死になってる。

「ごめんっ………この前のアレは、俺が悪かったから………!
 俺のこと、嫌いにならないで………」
「………困るよ」
 私のジャージの裾を少しだけ握るその手にそっと触れて名前を呼べば、彼はそっと顔を上げた。不安気に揺れていたその目は見開かれていて、ポカンとした。いつも飄々としている彼らしくない表情をしている。
 それもそのはず、きっと彼の耳より私の顔の方が赤い。
 顔が熱くて、真っ直ぐ鉄朗を見るものの目を逸らしたくなる。
「困るよ。
 ………鉄朗にキスされて、私、全然嫌じゃなかった」
「、」
「………どうしよう」
 時々連絡を取り合い、困ってたら背中を押してくれて。私のバレーが、私のことが好きだと言ってくれた。好印象に決まってる。でも、それは友人としてであって、及川に持つような感情とは違ったはずだ。

 可愛いな。良いな。そう思ってしまった。

「………じゃあ、エッ。その……」
「………」
「もういっかい………確かめてみても、いいですか」
「………っ、」
 両手を彼の頬に持っていけば、顔を赤くしながらも見つめ返してくる。私がゆっくりと目を閉じると、鉄朗の頬を包んでいた両手を上から握られて、その直後に柔らかい感触が唇に降ってきた。
 あ、キスされてる。
 一度目は一瞬だったけれど、確認だからなのかじっくりとしたそれに沸騰しそうだ。ふっと鼻にかかった吐息が溢れると、角度を変えて合わせ続けた。
「んっ、てつろ……」
「………っ」
 名前を呼べばチュッと最後にリップ音を立てて唇を離すと、数秒目を集めてからギュッと抱きしめられた。
「はぁ………好き」
「んぅ…………」
 返事も満足にしていないのにと思いながら鉄朗の背中に手を回した。
 私って案外ちょろい女かもな。
 キスするのが嫌じゃなくて、抱きしめられると安心して。
「私、鉄朗の匂い好き」
「………匂いだけ?」
「ん〜………はは、」
「律さん?」
 まだ曖昧にするわけにはいかない。でも、私に必死になってくれる鉄朗が可愛らしくて愛おしくて……だから、まだ曖昧でいたかった。でも、きっともうすぐ。
「………予選で勝ち進めば、必ず及川率いる青城と当たる。
 だから、もう曖昧にしない」
「!」
「私は、多分鉄朗のことが好きだよ。
 でも、及川とちゃんとケリつけてからにしたい。ので、まだもう少しだけ待ってて」
「………いくらでも待つけど、俺はそこまで気が長いわけではないんでね。遅かったら、無理やり奪っちまうからな」
「うん」
 無理やり奪っても良いよ。寧ろ、何でそうしてくれないんだろう。否、鉄朗はどこまでも私の意思を尊重有してくれるからこそなのだ。
 きっと私は及川に会うとまた揺れる。気持ちを全部伝えたら、及川は私に失望してくれるんだろうかなんて薄ら希望を抱いている。
 ………今答えを急かされたら私は鉄朗を選ぶ。でも、及川と話したらそうとは限らない。それが少しだけ怖いな。

「………もっかいキスして」
「なんつー口説き文句だ。喜んで」




 チョロい律さん

 及川と不仲になったところで黒尾に告られたら………優しくされたら、靡きそうだな。
 割とロマンチストなところもあるから、キスされたり視線で好きだってアピールされたらころっといっちゃいそう。


 やらかした鉄朗

 な〜んか、ふとした瞬間に遠い目をしてんなと思って聞いてみたら「他の男の事考えてた」って言われたもんだから、もう止まれなかった。俺は絶対律を傷つけないという自信がある。
 でも、吸い込まれるようにキスしちゃった……やらかした。
 謝りに行ったらめっちゃ顔赤くして確かめても良い?なんて言うから、死ぬかと思った。ヒェッ。

 黒尾は及川より過ごした時間は短いですが、及川より先に律を見つけて、惚れてるんですよね。片想い歴長い……私は一途な男が大好きです。




 春高青城戦後の会話

「ごめんね。私………及川の事好きだったよ」
「え、」
「多分初めて会った時から、あなたが特別だった。
 だけど、もういいんだ。今の私も過去の私も、ダメなところ全部ひっくるめて好きって言ってくれる人がいて……その人は、私のことを一番に考えてくれる」
「りっちゃん、待って……」

「………無理だよ。私は及川の隣には居られない」



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